5話 そして出会いは突然に
『【融合】が完了しました。スキル【変幻自在】のリストに【オーガスパイダー】が追加されました』
オーガスパイダーって……、見た目タランチュラなのに名前は鬼蜘蛛か。っとそんな事よりも早速変身して見ますか。
「キキ!(変身!)」
ポーズを決めて力強く叫んだ俺の体は、最初にサルへと変身した時と同じように一瞬だけ質感がスライムのものへと変わり、すぐに蜘蛛へと変わり始めた。
今度はサルの様な人型に近い物ではなく、節足動物に変身する為一抹の不安は残るが多分きっと恐らく大丈夫だろう。徐々に視線が低くなっていき、やがて固定されると俺の体はさっき倒した蜘蛛のものへと変わっていた。
おー、ちゃんと変身できてる。蜘蛛だけど……。んーやっぱり初めての節足動物だからうまく動かせないな。なんと言うか足が多すぎて意識がそこまで回らないと言うかなんと言うか……。幸い近くに敵はいないみたいだししばらく歩く練習でもするか。生き残るのにこの姿が必要な時もあるかもしれないしな。ついでに糸吐く練習もしておくか。
そんなこんなで一時間ほど使って歩く練習と糸を使う練習をしてみる事にした。歩くのはそこまで難しくなかったのか適応力が高かったかめか分からないが20分程カサカサ歩いていたら自然と歩けるようになった。ついでに壁や天井も。
問題は糸だった。そもそも人間は糸を吐かない。せいぜい唾を吐いた時に糸を引くかという程度で糸を吐くことはない。泡は吐くことがあるけどな。そのせいでかなり苦労した。歩くのに要した時間の優に三倍もの時間を掛けようやく糸を吐きだす事に成功した。お陰で当初の予定の一時間を軽く過ぎ、こうなればとことんやってやるとばかりに更に一時間程糸を吐く練習を続けた。そして分かったことが一つ、吐き出せる糸の種類は一種類ではないという事だ。
その① 細い一本の糸 :普通の糸。蜘蛛らしくかなりの強度を誇る糸。
その② 複数本束ねた糸:文字通り複数の糸を束ねた物。一本の糸と違い風に流される可能性が減った。
その③ 丸めた糸 :糸を玉状にして吐き出した物。攻撃力は余りないが、束ねた糸と組み合わせて牽制位には使える。
その④ ネット状の糸 :ネット状に広がり相手を絡め取る。何で吐き出した時からネットの形をしているのかは謎。
とまあこんな感じだ。四種類とも粘着力の有る無しを選択できるので今後の戦闘で大いに役に立ってくれるだろう。というか役に立った。
歩行や糸吐きの練習をしている時も何も襲って来なかったわけではない。魔物が何回か襲撃に来ており見た事の無い魔物やブレイドモンキーにオーガスパイダーなんかもいた。ブレイドモンキーの姿になって戦おうとも思ったのだがせっかくオーガスパイダーに変身しているのでこっちで戦ってみようと思ったわけだ。因みに結果は快勝。糸を使って相手の動きを制限できるのがこんなにも戦意を有利に運べるとは思ってもみなかった。
そして倒して魔物の魔石を喰らって【変幻自在】のリストに新たな魔物が追加された。
漆黒の鱗を持つ蛇【シャドウバイパー】。影の中に潜り獲物に奇襲をかけるという習性がある。蛇らしく当然牙に毒を持っている。正直この体じゃなきゃ噛みつかれた挙句に毒で死んでただろう。
大きな耳と翼をもつ巨大な蝙蝠【ジャイアントバット】。大きな体にも拘らず空中での軌道も小回りが利いている。目が退化しているが蝙蝠らしく口から発する超音波で相手との距離を正確に測り、ついでに超音波で相手の行動を阻害してくる。武器は鋭い牙と足の爪だ。
空飛ぶ剣【フライングブレイド】。空中を飛び回る剣。空中を物理法則ガン無視して自由自在に飛び回り獲物に襲い掛かる。蝙蝠と違って空を飛ぶのに音が無いから接近に気付くのが遅れて脚を三本程斬り飛ばされた。因みにこいつ、見た目ただのロングソードだから魔石は無いのかと思ったのだが、柄尻についていた丸い飾りが魔石だったらしい。倒したら青いのが真紅に変わった。
そして気が付いたことが一つ。どうやら俺は同じ魔物の魔石を喰っても意味が無いらしい。初めて食べた魔石の時は融合開始のアナウンスが流れるが、すでに食べた事のある魔石だとアナウンスが流れなかった。どうやら魔石と融合できるのは魔物一種類につき一回だけらしい。
とりあえずダブった魔石は脱出した後を考えて取っておくか。きっと売れば路銀になるだろうしな。
魔石をズボンのポケットに入れ人間の姿で通路を歩く。すでに俺が身に纏っているのはズボンだけだ。そのズボンも蜘蛛に変身した時に破れ、トランクスと変わらない姿になっている。どうにかならんものか……。
幸いダンジョン内は今の所寒い暑いという事はなく快適な温度を保ってくれているが、いつ変わるかも分からない。てか上半身はマッパなので何とか着る物を調達しないと生きてここを出た時変態扱いで通報されてしまうかもしれない。
まあダンジョン出た後の事考えるよりも先にここから生きて脱出する事考えないとなー。今のとこ蜘蛛の糸万能説によって生きてはいるけどいつ効果が無い魔物が出てくるとも限らんしなー。現状比較的明るいダンジョン内だと蛇はあんまり隠密性能期待できないし、蝙蝠は空飛ぶ練習してないし、てかこんな天井とかある通路で飛ぶとか怖くてできないし、剣に至ってはどうやって飛んでいるのか皆目見当もつかん。
消去法で現在俺が取れる姿は自然と元の人間かサルor蜘蛛だけとなっていた。
そしてのんびりと襲い来る魔物を駆逐しながら歩く事二時間。よくこんな長く歩けたなと自分で自分を褒めてやりたい。お陰でスキル【変幻自在】のリストには新たに二つ程魔物の名前が加わった。加わったのだが……。
腹が減った。
そう腹が減ったのである。現代日本で生まれ育った俺にとってトカゲや蝙蝠を生のまま食べるのはかなりの忌避感があった。魔石喰ってるんだから今更だろって思う奴もいるかもしれんけどそれはそれ、これはこれだ。なので俺は今猛烈に腹が減っている。あと喉も乾いてる。
飢え死にするのかなと考えてながら通路を歩いていると俺の目の前に空間が広がった。通路から一変俺の目の前には広い空間が広がっている。天井は高く奥には扉らしきものも見える。
てかこれボス部屋? え? 空腹で死ぬ前に俺が魔物のご飯になっちゃうの?
戻る訳にもいかず俺はビクビクしながら空間へと入っていく。部屋の中心部分に行っても魔物が出現する様子もなく、俺は扉の前に辿り着いた。
「この扉出れば外に出られるのかね」
俺はゆっくりと目の前の大きな扉を押し開ける。徐々に開かれていく扉の隙間から顔を覗かせ中を窺うと、俺はその光景に絶句した。
へ、部屋? なんでダンジョンの中に部屋があるんだ?
「どちら様ですか?」
中の様子に俺が困惑していると、部屋の中から声が聞こえてきた。聞こえてきた声を辿って鈴を転がすような可愛らしい声の主を探してみると、そこには声の通りとても可愛らしい……獣耳を持った幼女がソファーに座っていた。
次回ヒロインの一人が登場します。




