4話 そして蜘蛛は突然に
『【融合】が完了しました。スキル【変幻自在】のリストに【ブレイドモンキー】が追加されました』
「よしウェイト待て落ち着け俺。ええと? さっきは聞き逃したけど今回はバッチリ聞こえたぞ? 何だって? スキル【変幻自在】? リストに【ブレイドモンキー】(おそらくさっきのサル)が追加された? どういうこっちゃ。俺はこっちの世界に来て何のスキルも持ってなかったはずなんだけど、もしかしてさっき聞き逃したアナウンスの中にスキル習得の情報もあったって事!? そんな大事な事なんで聞き逃すんだよ俺!」
傍から見れば俺は独り言を呟く怪しい(ヤバい)人にしか見えないだろう。だけど仕方ない。それだけ俺は混乱してるんだから。てかこの状況で落ち着いてたらそっちの方が俺は神経疑うわ!
「ええと、【変幻自在】って事は、何か別のものになれるって事だよな。そんでもってその【変幻自在】のリストに追加されたのがさっきのサル……ブレイドモンキーだったか? それが追加されたって事は、俺はそれに変身出来る様になったって事なのか?」
正直自分でも何を言ってるのかよく分かってないが、今はそんな事言ってる余裕は無い。使えそうなものは何でも使って生き延びないと!
「そんでもって安倉の野郎ぶっ殺して愛梨にまた会うんだ! 【変幻自在】!!」
俺は頭の中でさっき戦ったサルを強くイメージしながらスキル名を叫ぶ。ついでに子供の頃よく見ていたバッタがモチーフの変身ヒーローっぽいポーズも一緒に。
そしてすぐに俺の体に変化が表れる。視界に移る俺の腕が一瞬スライムみたいな質感に変わったかと思うと、すぐに毛深いサルの腕に変化し、手も指の部分が鋭利な刃物へと変わっている。どうやら服や靴はそのままみたいだが靴の中の足も変わっているのが何となくだが分かる。鏡が無いからはっきりとは分からないが恐らく俺の顔もさっきのサルと似たようなものに変わっているのだろう。
体を見回し腕や脚等を動かして感覚を確かめるが、何処にも違和感は見当たらない。サルの体なんか初めてだが、特に問題なく動かせるようだ。
「キキー、キキ!? キキキキー!?(さて、ってあれ!? 俺人間の言葉が喋れない!?)」
俺の口から発せられるのは長年苦楽を共にしてきた俺の声ではなく、俺の声質をベースにしていると思しき……サルの鳴き声だった。
うーん……どう足掻いても言葉が喋れないなー。やっぱり声帯が違うからか? ま、いっか。どうせここには会話する相手なんかいないしな。そうだ、そんな事よりもこれの切れ味を確かめておかないとな。いざ戦闘になった時に斬れませんでしたじゃ笑えないし。
俺は適当な岩目掛けて刃の指を振り下ろす。さっきのサルがやったのと同じように刃の指は岩をバターの様に切り裂く。あまりの抵抗の無さに俺自身がビックリしたほどだ。
「キキーキーッキキーキッキキキ?(これならここでも戦えるんじゃないか?)」
体の性能もこのサルの方が圧倒的に上であり、おまけに指には岩をも切り裂く鋭利な刃がある。言葉を喋れないデメリットはあるがここではそんなデメリットも無いに等しい。
さて、それじゃあ今度こそ移動しますか。ここに居ても何も変わらないしな。
俺は一人寂しく気合を入れると墜落地点を後にした。
「キキーキキキキーキッキキッキーキキキッキッキー(いやーそれにしても真っ暗闇じゃないのはありがたいなー)」
キョロキョロと辺りを見回しながら通路を歩いていく。今のところ魔物との遭遇も無く平和な状態ではあるのだが……。
退屈だ……。いや、平和なのは良い事なんだがいかんせんもう三十分も代わり映えのしない通路をずっと歩くだけってのも何気に辛い物があると言うかなんと言うか……。それに腹も減って来たし……。もう生き物(哺乳類っぽいもの限定)なら何でもいい気がしてきた……。魔石喰って平気なぐらいだから魔物ぐらいいけるだろ。
カサ……
空腹を訴える腹をさすりながらトボトボと通路を歩いていると、不意に俺の耳が何かの音を捉えた。
注意深く通路の奥を凝視していると、やがて姿を現したのは一匹の蜘蛛。それも明らかに地球の蜘蛛とは違い、秋田犬程の大きさを持っているというオマケつきだ。
その頭おかしいんじゃないのと言いたくなる大きさを除けば外見は地球に生息しているタランチュラに近いだろう。正直至近距離で見たい容姿ではない。
てか今俺が欲してるのは食べれそうな魔物! 確かにタランチュラを食べる国も地球にはあったけど! 純日本人(今は既に人間ですらないが)である俺にはハードルが高すぎるわ!
ヒュッ、ベチョ
ん? なんだ?
何かが当たった気がして左手を見てみると、そこには白い物体が。良く見れば糸である事がわかった。粘着性のある糸が俺の左手に絡みつき、刃が使い物にならなくなってしまっている。
ちょっと待って! え? 蜘蛛って口から糸吐けるの!? ってそんな事言ってる場合じゃない、応戦しないと!
再び糸を吐き飛ばしてくる蜘蛛の射線上から壁へと飛び退く。壁を足場代わりにして縦横無尽に飛び回っているが、どこに飛んでも蜘蛛の複数ある目は俺を捉えて離さない。壁を足場代わりにするたびに蜘蛛からは糸が俺目掛けて飛んで来て、もう通路のほとんどが蜘蛛の糸に覆われ無事な足場はほとんど残っていなかった。
あかん、これはあかん。このままじゃ糸に足取られて身動きできなくなる。そうなったら俺を待ってるのは蜘蛛糸でグルグル巻きにされた挙句牙突き立てられて消化液を体内に――ってそんな末路は嫌過ぎる! こうなったら一か八かだ!
俺は跳躍すると人間形態へ戻り、辛うじて纏っているだけの襤褸切れを剥ぎ取ると丸めて蜘蛛へと投げつける。蜘蛛も己へと向かってくる襤褸切れに向かって糸を吐き出すが、丸めた布は糸を物ともせずに突き進むと蜘蛛の顔面へと貼り付いた。視界を完全に覆われ暴れる蜘蛛だが、粘着性のある糸によって貼り付いた襤褸切れは蜘蛛の顔から離れない。
前足を振り回しただ闇雲に暴れるだけの蜘蛛。好機とばかりに俺は姿をサルのものへと変えると、天井を足場にして蜘蛛目掛けて一気に急降下した。
「キキキキー!(喰らえやー!)」
刃の指が蜘蛛の頭部を貫く。念の為貫いた手を振り抜き傷口を拡大してやると蜘蛛は一瞬ビクンと痙攣するとそのまま倒れ、動かなくなった。
ふぃー、勝利!
誰も見ていないのを良い事に俺は右手を掲げてポーズを決める。蜘蛛に右足を乗せ普通にVサインをしているだけだが妙に達成感があった。
さて、勝利のポーズも決めた事だし、こいつの魔石でもいただきますかね。あ、肉はNGで。流石に蜘蛛は食べたくない。
俺は蜘蛛の頭胸部の傷口に手を突っ込んで真紅の魔石を取り出し、迷う事無く口の中に放り込んだ。
『魔石の摂取を確認。【融合】を実行します』
オッケー!




