48話 そして装備を買いに行こう
前回の投稿から大分間が空いてしまって申し訳ありません。
「今日は装備を買いに行こうと思います」
ある日の朝、宿屋兼食事処【小鳥の止まり木】の一室で俺は愛梨とウィオに宣言した。
「どうしたのいきなり」
ウィオの髪をセットしていた愛梨が手を止め、顔をこちらに向けて首を傾げる。それに同意するようにウィオも小さく頷いた。その仕草はまるで可愛らしい小動物を彷彿とさせるが今は置いておこう。
「どうしたもこうしたもお金もある程度貯まったし、愛梨の装備を揃えたいと思います」
「私の? まあ確かに今の装備は【ケルドミナンド】で装備してた鎧とか剣に比べたら性能もかなり低いけどね」
愛梨の言うとおり、現在愛梨の装備はこう言ってはなんだがウィオと比べると随分と貧相である。ウィオの装備はローブから靴、髪飾りから杖、その他バッグなどを含め全て両親がダンジョンで手に入れてきたマジックアイテムで構成されている。
それに引き換え愛梨の装備は機動力を重視したため、軽い皮の胸当てに普通の鉄製の剣だ。俺の装備? 怪しまれない程度の貧相な皮の胸当てだけですが何か?
「俺達もクエストをこなして冒険者ランクが上がればおのずと強力な魔物や盗賊なんかと戦う事もあるだろうし、愛梨に万が一があってほしくはないからな。この街で手に出来る最高の装備を探しに行こう」
「そうね、装備が強力なことに越した事は無いものね。よし、完成! どう? ウィオちゃん」
目の前に差し出された手鏡に映る自分の頭を見つめるウィオ。伸ばしたままであっても美しさを一切損なわなかった髪は、愛梨の手によって見事なツーテールへと変わっていた。
両耳の後ろ辺りで括られた髪は緩いウェーブを保ったまま肩から前に垂らされ、目元を隠しがちだった前髪は一本のヘアピンでまとめらてその愛らしい瞳を露にしている。正直ウィオの可愛らしさが留まるところを知らない。
「わぁーとっても可愛いです! 愛梨お姉ちゃんありがとうございます!」
ウィオも愛梨にセットしてもらった髪形がよほど気に入ったのか、手鏡を手に満面の笑顔を浮かべながら様々な角度から自分の髪を見てはしゃいでいる。
「うんうん、やっぱり可愛い子には可愛い髪形がよく似合うわね。明日はまた違う髪形にするから、楽しみにしててね」
「はい!」
ウィオの元気の良い返事の後俺達は仕度を整えて部屋を出る。廊下を通って階段を下りると丁度プリティーさんと出くわした。
「おはようございますプリティーさん」
「「おはようございます」」
「あ~らおはよう三人とも。今日も仲良しさんねぇ、羨ましいわ~」
頬に手を当てぱっつんぱっつんのメイド服でガチムチな体をしならせる巨漢の姿はある意味ホラーだ。
「三人はこれからお出かけなの?」
「はい、今日は愛梨の装備を整えようと思いまして」
「確かに。可愛いアイリちゃんにはちょっと似合わないものねぇ。装備を整えるのなら街の西側がオススメよ♪ この街の東側は宿や飲食店が集中してるんだけど、西側は街に住んでる職人の工房が集まってるのよ」
なるほど西側か。この街に来て利用するのはギルドのある中央近辺と【小鳥の止まり木】がある東側だけだったしな。外に出るのも東門ばっかり使ってたし。
「ありがとう行ってみるよ」
プリティーさんに礼を言って俺達三人は【小鳥の止まり木】を出る。宿を出ると暖かな日差しが俺達をやさしく出迎えてくれる。
この世界の住人達の朝は基本的に早い。宿や飲食店が立ち並ぶこの通りも例外ではなく、飲食店の従業員と思しき人達が忙しなく働き、宿からは食事の香りや冒険者達が依頼を受けるためにギルドへと向かって歩いている。
俺達もそれに混ざって通りを歩く。俺を中心に右側にウィオ、左側に愛梨を連れて歩く姿はまさに両手に花と言っても過言ではない。現に通りを歩く幾人かの人達がウィオや愛梨をチラチラ見てるし、その二人と一緒に歩く俺の事に嫉妬の視線をぶつけてくる。フハハ羨ましいだろう?
羨望の眼差しを一身に受けながら俺は冒険者ギルドのある中央を通り過ぎ、西側へとやってきた。
俺達が普段使いしている東側とは建物の感じが異なり、落ち着いた感じのする東側とは違い西側は無骨というか飾り気が一切無い。
落ち着いていると言っても宿や飲食店らしい装飾の施された東側だが、西側の建物は頑丈さを重視しているだけで装飾がほぼほぼ無い。精々鍛冶屋とか武器屋なんかの看板があるぐらいだ。それも十分シンプルだが。
「そういえば融ちゃん、今回の予算はどれぐらいあるの?」
初めて訪れる西側に三人してきょろきょろしていると不意に愛梨の疑問が飛んできた。
「そういえば言ってなかったな。えーと今の手持ちは……金貨六枚大銀貨四枚銀貨一枚大銅貨六枚と銅貨三枚だな」
「それってどれぐらいなの?」
「わからん。ウィオは?」
「すいません私もわからないです……」
まあ分からないのはしょうがない。そんな事でウィオを責める人間はここには一人としていないし。まあいたらいたで叩きのめすが。
「まあ適当に店に入ってみればわかるだろ。ちょうどちらほら武器屋とか防具屋らしき店があるし」
俺が指差した方向には、二本の剣が交差した看板や鎧の描かれた看板が下がった店がいくつかある。相場を知るためにも俺達は手近な店に入ってみることにした。
「らっしゃい」
店に入ると、奥のカウンターに座る店員の男から気の無い声が飛んでくる。
お世辞にも愛想が良いとはいえない店員の挨拶だがこれでいいのだろうか。まあ『お客様は神様』が行き過ぎた日本と違ってここは異世界だからこれが普通なのかもしれない。
カウンターでのんびりと剣を拭いている店員を他所に、俺達は店内に飾られている商品を見て回る。
剣や槍、短剣に斧と様々な武器が所狭しと並べられており、安いものでも銀貨で二枚はするようだ。
ほんとは店の隅にある樽に詰め込まれてる銅貨五枚で買える剣などもあるのだが、試しに樽から出して見てみると安い理由がよく分かる。
ボロボロだったり錆びだらけだったり、間違いなく命を預ける武器としてはノーサンキューな面々ばかりなのだ。
「ん?」
ボロい剣を樽に戻してから再び店内を見回っていると、カウンターに座る男の後ろに一振りだけ他の武器とは違う扱いの長剣が目に留まった。
「ウィオ、なんであの武器だけ特別扱いなのか分かるか?」
「ん~多分あの剣には魔法が込められてるんだと思います。微量ですけどあの剣から魔力を感じます」
「ほんとだ。確かにちょこっとだけだけど魔力があるねあの剣」
どうやらウィオだけではなく愛梨にもあの剣に魔力があるのを感知できるようだ。俺? 俺は出来ないよ。魔力一切ないし。
「すみませーん」
「ん? なんだいあんちゃん」
「あの剣ってどんな魔法が掛かってるんだ?」
「あー、あれは装備した人間の剣速を僅かに引き上げてくれる魔法が付与されてる」
俺の質問に若干ダルそうにしながら店員が答える。
「それだけなのか?」
「まぁ確かに魔剣としては最低ランクだが、僅かな剣速の差が生死を分ける場合もあるからな。それなりに需要はあるんだよ」
「なるほどな。他には魔剣は無いのか?」
「あんちゃんも見ての通りこの店は小規模も小規模。そんな小さいな店が強力な魔剣なんざ扱えるわけねぇだろ。入荷したら即座に盗まれてお終いだ」
確かに儲けが少ない店じゃ用心棒や防犯系のマジックアイテムも手に入らないだろうし。危険を冒してまで高額な商品を扱うよりも儲けは少ないけど危険も少ない商品の方が断然いいって訳か。
「なるほどな。ところで今日は彼女の装備を探してこっちに来たんだけど、どっか良い店か鍛冶屋を知らないか?」
「あー、そうだな。見たところ早さを活かした剣士って感じか。それなら通りをもっと進んだところにある【アルバレスト商会】が品揃えが豊富だしそれなりに値は張るが強力な魔剣も扱ってる。鍛冶屋だったら二つ先の角を右に曲がった先にあるドボルザクってドワーフがやってる工房がある。あいつ気難しくて気に入った奴にしか装備を作ってくれないんだ。その分腕はこの街で一番なんだけどな」
ドワーフか。ファンタジーで定番の鍛冶が得意な種族だよな。店で装備探すよりもこっちの方が良い装備が手に入りそうだ。
「それなら試しにそのドボルザクってドワーフのところに行ってみるか。ありがとなおっちゃん。なんも買ってかないのも悪いし、その樽に刺さってる武器全部くれ」
樽を指差す俺におっちゃんが驚いたのかぎょっと目を剥く。
「は? ああ、まあいいけどよ。なんに使うんだ? 売ってる俺が言うのもなんだが欠陥品だらけだぞ?」
まあ質はよくないよな。
「ボロいからいいんだよ。投擲武器の変わりにブン投げても心も懐も傷まないしな」
「それならいいんだが。全部で二十一本か。全部で大銅貨五枚なんだが三枚でいい」
「いいのか?」
「いいんだよ。どうせいつまで経っても売れやしなかったんだ。空いたスペースに別の商品置けるって考えりゃあそれで十分だ」
おっちゃんに大銅貨を三枚手渡すと俺は樽へと向かい、樽に無造作に入れられている武器達を手持ちの袋に入れるフリをしながら【無限胃袋】へと放り込んでいく。
次々と武器が消えていくさまを目にして再び驚くおっちゃんだが、流石に驚き二回目だからかすぐに復帰した。
「驚いた、収納袋持ちか。あの量をどうやって持って帰るのか不安だったんだがそれなら納得だな」
最初の気だるげな雰囲気はどこへやら。うんうんと頷くおっちゃんにお礼を言うと俺は広くない店内を仲良く見て回っている愛梨とウィオを呼んで店を後にした。
「融ちゃん、次はどの店に行くの?」
「おっちゃんにオススメを聞いてな。次はドボルザクってドワーフがやってる鍛冶屋だ」
「ドボルザク? ドボルザク、ドボルザク……んーどこかで聞いたことがあるような……」
なにやら鍛冶屋の主の名前に聞き覚えでもあるのかウィオが首を傾げる。
「とりあえず行ってみよう。ウィオもそこで首を傾げていないで。会ってみれば思い出すかもだろ?」
「そうですね。ユウお兄さんの言うとおりです」
俺達はおっちゃんに教えられた道を歩いていく。二つ目の角を右に曲がり、路地に入って五分と経たない時それは起こった。
「出て行きやがれ! 手前みてぇなバカに作ってやる武器は一振りとてねぇよ!!」
周囲に響き渡る大音量の怒声と何かを殴り飛ばすような音。次の瞬間、目の前の店から何かが飛び出してきた。
ズザザザー! と地面を滑り対面の壁に叩きつけられた物体。よく見たら人間だった。それも汚れてはいるが質の良さそうな服を着た。
あかん、揉め事の臭いしかしない。




