47話 そしてウィオの初ソロ戦闘
さあやってまいりました東の草原。なんと【トレイズ】の街から徒歩三時間の距離にあり、だだっ広い草原の中、街道が一本通っているだけのこの場所は比較的出没する魔物が弱いことから初心者冒険者の狩場になっていたりもします。
ちなみに出てくるのは【ゴブリン】や【オーク】等の人型の魔物から、【チャージラビット】に【チャージボア】、【チャージビートル】等の動物が魔物化したものも確認されている。稀にではあるがそれらの上位種も。
そして現在クエストを受け東の草原へとやってきた俺達三人の前には汚い襤褸切れを腰に巻いた四体のゴブリン。結構距離が離れていたのだが、あいつ等俺達を見つけた途端に一気にこちらへと走ってきやがった。
ゴブリンは一体だけが錆びたショートソードを装備しており、残りの二体はテンプレ的に棍棒を装備している。ショートソードを装備しているのはリーダー格なのだろうか。
童顔に見られがちな日本人よろしく俺達はどうやら格好の獲物だとゴブリン達から思われているらしい。そのその証拠にゴブリン達はイヤラシイ視線を愛梨やウィオに向けながらゴブゴブ喋っている。
最近気がついたのだが、【変幻自在】のスキルで耳を魔物の物へと変化させていると、ゴブリンの耳ならゴブリンの、オークの耳ならオークの言葉が分かると言うことが判明した。
なんとなく気まぐれでオークの耳へと変化させて奴等の会話を聞いたのだが……思い出すのはやめよう。
てなわけで俺は早速両耳をゴブリンの耳へと変化させた。
『グヘヘ、かなり上玉な人間のメスじゃねぇか。早く襲いたくて俺様の股間がビンビンだぜ!』
『アニキ! 俺が先でいいですかい?』
『バカ野郎! 俺が先に決まってんだろうが!』
『アニキが最初だとメスが壊れちまうんでさあ』
『うるせぇ! お前はあのチビでも先にやってろ!』
『えー、まあ確かに上玉ではありやすが流石にちぃさすぎやしやせんか? なぁ』
『それよりも俺はあの男の子が欲しいですぜ。あのケツがたまらねぇ』
『オスがいいなんて本当におめぇは物好きだな。いいぜ、オスに興味はねぇから好きにしな』
『流石アニキは話が分かる! そんならさっさとやっちゃいましょうぜ! あのケツ見てたら興奮が収まらデベ!?』
やる気満々だったガチホモゴブリンが真下から突き出た剣に股間から脳天までを一気に串刺しにされ絶命する。
「融ちゃん、ウィオちゃんの攻撃魔法の練習台にするんじゃなかったの?」
「いや、なんか俺の本能があのゴブリンを殺せって警鐘を鳴らしてたんだ」
「ふーん、そんなに強いゴブリンなの? 上位種には見えなかったけど……」
「いや、まあそのなんだ……ハハハ……(あのゴブリンが俺の尻狙ってたからだなんて言えるか)」
なんかこっちの世界にやってきてから俺の貞操が危ない目に遭いそうな事が多い気がする。目の前で今殺したゴブリンは珍しい部類なんだろうが、こっちの世界のオークは地球にいた頃呼んだことがあるマンガやネット小説みたいに女性を犯して繁殖するわけではない。男を掘って繁殖するのだ。それだけでも十分に貞操の危機な訳なのだが、もっとヤバイ生物がこの世界に入る。
何を隠そう俺達が寝泊りしている【小鳥の止まり木】と言う名の宿屋兼食事処の主であるプリティーさんだ。最近気がついたのだが、時折プリティーさんの視線が俺の尻にロックオンされていることがある。
聞いた話ではプリティーさんは以前はSランクの超凄腕の冒険者だったらしい。そんなプリティーさんの視線に俺が気づいたんだから本人は隠す気が無いんだろう。
後は量産型プリティーさんで構成された冒険者パーティー【永遠の薔薇】の連中だ。聞いた話では彼等は元々全員がうだつの上がらない冒険者達で、街で問題を起こしていたところをプリティーさんによって成敗され、その後教えを受けた人たちとのことだ。
その結果、一般的な体型だった全員がムキムキマッチョになった挙句、お揃いのフリフリな服を身に着けている上に、冒険者ランクが最高でもEだった彼等は今では全員がBランクとベテランの仲間入りを果たしている。
そしてプリティーさんの影響なのか、全員が……ゲイへと変貌してしまっていた。
時折街ですれ違う時、俺の尻に向けて熱い視線を向けてくるのは正直勘弁願いたい。だって怖いし。
「まあ、初めてソロで戦うんだからなるべく数は少ないほうがいいだろ? ウィオは油断なんかしないだろうけど万が一って事もあるからさ」
「確かにそうだけどね」
「そんな訳でウィオ。俺達はここで見てるから、あの二体のゴブリンをウィオの魔法で倒してみて。やり方はウィオに任せるから」
「はい、頑張りますね! 見ててください融お兄さん愛梨お姉ちゃん!」
「がんばれウィオちゃーん!」
愛梨の声援を背に受けウィオは怒りに任せて掛けて来るゴブリンへと向かって歩いていく。
その差が徐々に縮まっていくと、不意にウィオが駆け出した。
「『風よ! 刃と化して敵を裂け! 風刃!』」
草原を駆け抜けながら詠唱された魔法がウィオの持つ杖の先から放たれる。風を圧縮して作り出された刃は一直線に片方のゴブリンへと進み、その首を刎ね飛ばす。
流石魔法戦闘力S+。最下級の魔法の一つだがその威力は相当高い。
更に仲間を殺され怒り狂ったリーダー格のゴブリンは、走る速度を更に上げウィオへと迫る。互いに走りよっていたため彼我の距離はすぐになくなり、剣の攻撃範囲に入った瞬間ゴブリンが振り上げていた剣を振り下ろした。
上位に近いレベルのゴブリンなのか以外にも振り下ろした剣の速度は速かったが、彼の剣は宙を切る結果しか残せなかった。
斬った手応えが無いことに困惑するゴブリンだが、その間にウィオはゴブリンの背後へと移動している。本来物理戦闘力が低いこともあって後衛型のウィオは走るのが遅いという先入観が戦闘開始前はあったが、今ではそんな先入観はぶち壊されている。
戦闘中の愛梨に匹敵する速度で草原を掛けるウィオの菫色の長い髪が陽光を受けて舞い輝く姿は神々しさすら感じさせる。
「『風よ! 弾丸と化して敵を討て! 風弾!』」
ゴブリンの背後へと移動したウィオの詠唱によって生み出された風の弾丸がゴブリン目掛けて放たれ、当のゴブリンは背後から聞こえたウィオの声に反応したまでは良かったが、振り向いた瞬間に顔面を弾丸によって穿たれ絶命した。
「はぁっはぁっ、やりました……。私やりましたよ融お兄さん愛梨お姉ちゃん!」
敗北し顔面に穴が開いたゴブリンが地面に倒れ伏す。一方で勝利したウィオは初のソロ討伐に喜び無邪気にはしゃいでいる。この差はやはり……可愛いか可愛くないかの差なのだろうか。
「流石はウィオだ! 走りながら詠唱なんて凄いな!」
「ほんとに可愛い上に強いとかもう最強よね!」
無邪気に喜ぶウィオに駆け寄り脇の下に両手を入れると一気に持ち上げ、所謂高い高いをしながらはしゃぐ俺と愛梨。もう完全にウィオの兄と姉が板についてきた俺達は次のステージである、兄バカ姉バカの境地に至りつつあるのかもしれない。
「よし、この調子でさっさとクエストをクリアしますか!」
「そうね、早いとこ終わらせてピクニックでもしましょうよ」
「融お兄さん、愛梨お姉ちゃん、私頑張りますね!」
一頻りはしゃぎ終えた俺達は次の獲物を探すべく草原を歩き始めた。
その後見つけたゴブリン達は、全てウィオがその持ち前の素早さを生かして撹乱しつつ魔法で一体づつ始末するというパターンを確立させ、何の事故も無くクエストクリアの条件を満たした。まあ調子に乗りすぎて(主に俺と愛梨が)必要数の倍以上のゴブリンを始末したのだが……。
その後、燦々と降り注ぐ太陽の光の下、作ってきた弁当を食べて疲れるまで遊びまわり、夕方になるまで三人で昼寝をして過ごした。
やはり何体かのゴブリンやコボルドが近づいてきたが、全て【領域】に入った瞬間その命を散らせる羽目になる。ウィオの安眠を妨害しようとするのがいけないのだ。
帰りは【スラッシャーホーク】へと変身した俺にウィオと愛梨を乗せ【トレイズ】の街へと帰還した。




