45話 そして目覚めはお約束
新年一発目の投稿です。
愛梨を安倉の魔の手から救出し【ケルドミナンド】を後にした俺は昼夜を問わず空を飛び続けた。
おかげで往路で五日かかった道程が三日に短縮され、あっと言う間に【トレイズ】の街が見える所まで戻ってくることができたのだ。
念願の愛梨救出が叶い、テンション高かったからこそできた芸当だと思う。二度とやりたくないが。
さて、【トレイズ】に戻ってきたのはいい。だが、戻ってきたからこそ一つ大事な事を思い出した。いや、忘れてたわけじゃないんだよ?ただ愛梨を救出できたのがあまりに嬉しくてさ。ね?
そう、ウィオのことだ。
アナスタシアさんに眠りの魔法で強制的に眠らせている間に俺は【ケルドミナンド】へと出発した。
俺が出発してから九日? は経っている。間違いなく魔法も解け起きているはずだろう。一体どんな顔して会えばいいのやら……。
とりあえずごめんなさいするのは確定として、今はギルドに急ぐか。
俺は街の近くに降り立つと、街の門目指して歩き出す。もちろん愛梨はお姫様抱っこのままだ!
開いたばかりの門に辿り着いたときなにやらジークがニヤニヤしていたが今は気にしないでおこう。もちろん後で小さな仕返しはさせてもらうが。
門を抜け俺は冒険者ギルドへまっすぐ向かう。門が開いたばかりの早い時間だからか通りの人通りは少ない。それゆえに愛梨を抱えている俺の姿は嫌でも目立った。
好奇の視線に晒されながらもギルドに辿り着いた俺は、一直線にリコレットさんのいる受付へと向かう。他の冒険者の対応をしていたリコレットさんは俺の姿を見つけると、対応していた冒険者を他の受付嬢に任せて急いで俺の元までやってきた。
「おかえりなさいユウさん! ユウさんが戻ったらすぐに執務室に通すようにギルドマスターから通達が出ています。どうぞこちらへ」
リコレットさんに案内されて俺はアナスタシアさんの待つ執務室へと通される。中には部屋の主であるアナスタシアさんと、俺の天使であるウィオの姿があった。
「融お兄さん!!」
扉から現れた俺の姿に最初は目を見開いて驚いていたウィオだが、すぐに目に一杯の涙を浮かべて俺の元まで駆け寄ると、一も二もなく抱きついてきた。
「融お兄さん! 融お兄さん! 融お兄さん!」
何度も俺の名前を呼びながら顔を俺の体にこすり付けるウィオ。俺とウィオの身長差で、ウィオが顔をこすり付けている部分が若干ひわ……ゲフンゴフン! 俺のズボンに顔を擦り付けているのだが、ウィオの流す涙と鼻水でちょっと大変な事になっているが仕方ない。それだけウィオが寂しい思いをしていたってことだろうし。
「ただいまウィオ。ごめんな寂しい思いさせちまって。アナスタシアさんもただいま。悪いがベッドを貸してもらえないか?」
「おかえり少年。それにしても少年も隅に置けないね。帰って早々女である私のベッドに他の女を寝かせるために貸せだなんて」
「いや、別にそんなつもりじゃ……」
「フフフ、分かっているよ。彼女が少年の助けたかった少女なんだろう? 見たところまだ魔法で眠っている状態みたいだし、遠慮なく使うといい」
「助かる」
そう言って俺が執務室の隣の部屋へ行こうとするも、俺のかは……ゲフンゴフン!! ズボンにはいまだべそを掻きながら顔を擦り付けているウィオがいるため動くに動けない。
「あーそのなんだ。ウィオ、置いてったりして悪かった。だけどな? それはウィオの身を案じて……」
「ぐすっ……。私、私だって融お兄さんの事心配してたんですよ……。パパやママみたいに二度と会えないんじゃないかって……」
「ぐっ……」
確かに……確かにウィオには寂しい思いをさせてしまったという自覚はある。ありすぎる。
トラウマスイッチを盛大に踏み抜いてしまっていたかもしれないけれども……! それでもウィオを安倉のクソ野郎の目に晒す訳にはいかなかったんだ!
「けど……」
「?」
「けど、融お兄さんはちゃんと帰ってきてくれました。だから寂しがるのはもうおしまいです。おかえりなさい、融おにいさん」
「ああ、ただいま、ウィオ」
目の周りに涙の後を残しながら微笑むウィオ。
天使や。やっぱりこの子は天使やったんや! この世界の天使はここにおったんや!
といけないいけない、歓喜のあまりつい思考が関西弁になってしまった。
俺は愛梨を隣の部屋のベッドへと優しく寝かせると改めてウィオへと向き直り大きく両腕を広げる。
「ウィオ!」
「融お兄さん!」
「ウィ~オ~!」
「融おに~さ~ん!」
両腕を広げた俺へとウィオが目一杯の跳躍でもって飛びついてくる。ヒシッ! と擬音が聞こえてきそうなほどに強く互いを抱きしめあう俺達は、改めて再会を喜ぶのだった。
「あ~その、なんだ。感動の再開で喜んでいるのは分かるんだが、彼女、起こさなくていいのかい?」
抱きしめあっている俺とウィオの横からアナスタシアさんが苦笑しながら声を掛けてくる。
そうだった! 愛梨を起こして愛らしいウィオに愛梨を紹介しなくては!
「今寝ている綺麗な女の人が融お兄さんが助けたがっていた人なんですか?」
「ああ、俺の大事な幼馴染だ。悪い奴に捕まっていてな。今回の救出にウィオを連れて行けなかったのは悪い奴にウィオを見られたくなかったんだよ」
「そうだったんですね。でも、どうやって起こすんですか?」
そうなんだよなー。魔法に関しては俺はさっぱりにも程がある。なにせこの世界の生物なら大なり小なり持っている魔力を欠片も持っていないからなー。
チラリと目線をアナスタシアさんへと向けると、彼女はなにやら思わせぶりな笑みを浮かべて爆弾な発言をした。
「少年。眠っているお姫様を起こす手段は古今東西一つだけだよ」
「そ、それはもしかして……」
あの恋人同士なら当たり前の如く行っている唇と唇の接触行為なのでは……。
「ああ、キスだ!」
「やっぱりか!」
ベッドに眠る愛梨へと視線を向ける。
意識が無い人間に、それも長年一緒にいた愛梨に……。いや、嫌な訳じゃないんだよ? ただね? 俺もキスはしたことが無いわけで。出来ればいい感じのムード的なシチュエーションの中で愛梨と互いにファーストなキスをしてみたいなーなんて幻想を抱いたりもしていたわけで、それがこんな人数が少ないとはいえ観客がいる中でなんて……。
アナスタシアさんとリコレットさんはなんかとてもいい笑顔を浮かべていらっしゃるし、ウィオは両手で目を隠してるんだけど……、隙間から覗いてるのが丸見えですよ! まったく興味心身って顔しちゃってまぁ!
「ほら、きっと彼女も待ってる。早くしてあげたまえよ」
「ぐっ、分かってるよ」
よし、俺も男だ! こうなったら覚悟を決めて逝ってみますか! なに、怒られたら全力でDOGEZA決めてやるぜ!
俺は目を瞑り眠り姫のように眠り続ける愛梨へと顔を近づけていく。視界の隅に野次馬根性丸出しの人達+天使がいるが気にしない。
やがて緊張に震える俺の唇が愛梨の唇へと接触する。
や、やわらかい……。
現在進行形で心臓がバクバク脈打っている俺では愛梨の唇の柔らかさを表現するだけの言葉が無い。
「ん!?」
ただただ柔らかい唇から来る幸福感に打ち震えていると、不意に伸びた腕が俺の背後へと回され更に強く愛梨へと唇を押し付けさせる。
不意の出来事に俺が目を白黒させていると、俺の唇をこじ開け進入してくる熱い何か。俺はそれが愛梨の舌であると認識できるまでしばらくの時間が掛かった。
俺の口の中で互いの舌が絡み合い、その相手が愛梨であると思うと俺の頭の中は幸福感で一杯になってしまう。
どれくらい互いを求め合っていたのか。永遠にも思えた時間は、俺の背後に回されていた腕から力が抜けると共に終わりを迎えた。
少しの名残惜しさを覚えながら、ゆっくりと俺が愛梨の唇から離れる。そしてそれに続くようにして、ゆっくりと閉じられていた愛梨の瞳が開きだした。
「…………融……ちゃん……?」
「ああ、おはよう愛梨」
まだまどろみの中にいるのか、愛梨は眠たげな瞳のまま視線の先にいる俺の名前を呟く。そんな愛梨に俺は微笑みかけながら返事をすると、眠たげだった愛梨の瞳が徐々にいつもの調子を取り戻してきた。
「融ちゃん……」
「ああ」
「融ちゃん融ちゃん融ちゃん!!」
綺麗な瞳に大粒の涙を浮かべた愛梨はベッドから勢い良く起き上がると、そのままの勢いで俺に飛びついてくる。
「夢じゃ、夢じゃなかったんだね! 会いたかったよ融ちゃん!!」
「俺もだ。もう絶対に離さないからな」
二度と離れまいと俺を力一杯抱きしめながら大泣きする愛梨を、俺も力強く抱きしめる。
何が起こるかわからない異世界。願わくばこの腕の中の温もりが二度と離れませんように。
これにてこの章は終了です。
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