44話 そして帰路につきまして
大変お待たせしました。年末はやっぱり忙しいですね。待っていただいた方には大変申し訳なく思っています。
途中から愛梨の視点に切り替わります。
瞳から力の消え去った安倉の体がぐらりと揺れ、前のめりに倒れ始める。
俺は巻き込まれては堪らんと、安倉に突き刺していた剣の腕を引き抜き離脱した。
「あだっ!」
下半身が無くなっているのを忘れていた俺は空中で体勢を立て直せるはずも無く、そのまま背中から床へと落下し後頭部を強打した。
【物理無効】のおかげで痛みは無いが、つい反射的に声が出てしまったのはしょうがないだろう。ついこの間まで普通の人間だったわけだし……。
それにしてもさっき、俺が安倉に剣となった右腕を突き刺すよりも早くに安倉の魔法は完成していた……。
それが突然床に発生した魔法陣から伸びた光の鎖があれを縛りつけたおかげで魔法が俺に向かって撃たれることなくあれを倒せた……。あの魔方陣はいったい……。
ん? 光? 確か愛梨は光系統の魔法が使えたはず……。てことは!
ばっと勢いよく振り向いた先、玉座に座り眠る愛梨の体を覆っていた光が完全に消えている。あの光は安倉に対して愛梨のできた唯一の抵抗だ。
「そっか……。お前は眠らされていても、俺を助けてくれたんだな……」
感激のあまり抱きつきたいのは山々なのだが如何せん今の俺は下半身が無い。まあ愛梨の元まで移動するのは容易いんだが上半身だけで抱き作ってのはなんかこうちょっとうん、やめとこう。
とりあえずまずは食料を喰って体を修復しないとな。城の食料庫なら食材くらいあるだろ。
俺は食料庫目掛けて、残った体を極限まで薄くし伸ばしていく。
やがて薄く伸ばした体が食料庫まで辿り着くと、俺は辿り着いた体に新しく目を作り中の様子を窺う。
そこには俺の予想通り、いや、結果としては予想以上の食材が並べられていた。
天井から吊るされている肉に始まり、様々な野菜や果物、果ては魚介類までが保存されている。しかも若干痛んでいるのを覚悟していたのだが、どうやら鮮度はまるで落ちていない。よく見てみれば部屋の天井の四方に設置されている魔方陣のおかげなのだろう。
まあ今の俺なら多少腐っていても問題は無いのだがそこは元人間として腐っていないものを食べたい。
とりあえず食料庫にある食材を片っ端から【無限胃袋】の中へと放り込む。
『魔石の摂取を確認。【融合】を実行します』
ん? 魔石? 俺いつ魔石なんか喰ったんだ? てか天井に設置されてる魔方陣には確かに魔石はあるけど体はそこまで伸ばしてないしなー。ま、いっか。
『【融合】が完了しました。スキル【変幻自在】のリストに【ピーピングアイ】が追加されました』
【ピーピングアイ】ねー。どんな魔物かは帰ってからアナスタシアさんにでも聞いてみればいいか。
食料庫の食材を粗方【無限胃袋】へと詰め込み終わると、その中から適当に食材を選び消化吸収していく。
皇帝など位が高い人間が食べるため品質が高い食材ばかりなのだが、口から喰ってるわけではないので味が分からないのが勿体無い。まあ調理されてないから劇的に美味しいってわけでもないんだろうけど……。
消化吸収も終わり俺は引き伸ばしていた体を元に戻すとすぐに【無限増殖】を使って体を再構築していく。
十秒も掛からないうちに俺の体は元の姿に戻り、復活した下半身の感覚を確かめると改めて玉座で眠る愛梨の元へと歩いていった。
眠り姫の如く眠り続けている愛梨の姿は最後に見た時とまったく変わっていない。どうやら眠っている間に体が衰弱していると言うことは無かったようだ。
「こんなところで待たせてごめんな愛梨。さあ、帰ろうか」
俺は愛梨を所謂お姫様抱っこの形で抱き上げると玉座の間を出るため歩き出す。途中安倉の死体に目をやるが動き出す気配は無い。まあ心臓どころか体内の臓器を全部ズタズタにしてやったんだから生きてるはずも無いか。てか生きてたら怖い。
とりあえず念の為にうつ伏せで倒れてる安倉の顔面へ地面を通して突き出した剣を突き刺し、更に無数の棘を生み出して脳を完膚なきまでに破壊する。ここまでやれば異世界お約束のアンデッド化もしないだろ。
事後処理を終えた俺は今度こそ玉座の間を後にする。外へ出るまでの間、魔法を使った安倉が死んだにもかかわらず【寄生感染する軍隊】に感染した兵士達が襲ってきたが、全快している上にコソコソする必要がなくなった俺の敵ではない。
宿主の魔力がなくならない限り魔法の使用者が死んでも動き続けるのか……。てことはあの腹黒姫はいまだ犯され続けているわけで……まあ助けてやる義理は無いか。
中庭に出ると空には満天の星空が浮かんでいる。俺は【変幻自在】で背中に【スラッシャーホーク】の翼を作り出すと、星空目掛けて飛び立った。
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目を開けば目の前に広がるのはいつもの教室、そしていつも私の隣にいてくれる融ちゃん。
どうやら私は居眠りをしてしまっていたらしい。
「どうしたんだ愛梨。なんだかうなされてたみたいだけど」
「ううん、なんでもないよ」
「そか。それならいいんだが……。とりあえず次の授業がそろそろ始まるぞ」
「うん、ありがと」
これが私のいつもの日常。あの異世界に召喚されるまで繰り返されていた日常。
最初この夢を見た時は、異世界に召喚されたのは夢だったんだとどれだけ安堵したことか。
もう何回も繰り返し繰り返し見ているこの光景は糠喜びを通り越して、私を絶望へと叩き落すための準備運動にしか見えなくなった。
そして場面はお城の中へと切り替わり、すぐに私にとって最悪のシーンへと変わって行く。
私にとっての最悪のシーン、それは言うまでもない。いつも私の隣にいてくれた融ちゃんが奈落の底へと落下していくところ。
安倉君によって縛られた私は融ちゃんが奈落の底へと吸い込まれていくのを見ていることしか出来ない。
そして融ちゃんが見えなくなった後、安倉君に昏睡の魔法を掛けられて私の夢は最初の教室の場面へと戻っていく。
もう何回同じ夢を見たんだろう。今回もまた同じ夢の結末、そう思っていた。
けれど今回は違った。
初めて見る場面、初めて見る部屋……かと思ったけどどうやら違うみたい。
お城の人が謁見の間と言っていた、私達が召喚された場所だ。違う場所に見えたのは薄暗かったのと視点が違ったからだろう。
そして謁見の間にいるのは私だけではないみたいだ。
私の隣には融ちゃんではなく、融ちゃんを奈落に突き落とした張本人である安倉君。そして部屋の中央付近には、手に剣を持っている……融ちゃん!!
融ちゃん! 融ちゃん! これが私の見ている夢だったとしても何でもいい!
融ちゃんは剣を手に一気に安倉君へと詰め寄る。対する安倉君も魔法で火の礫を生み出すと次々と撃ち出し、融ちゃんはそれを斬りつけるけれど剣が魔法の火に耐え切れなかったみたい。
剣身が蒸発した剣を捨てた融ちゃんは魔法を避けているけど今までよりも大きな火の玉が融ちゃんを襲った。
爆発によって舞い上がった粉塵が消えていくと残っているのはクレーターだけ……。まさか今の爆発で……!?
目の前の光景に夢であることも忘れて愕然としていた私だったけど、融ちゃんは颯爽と現れて安倉君を斬りつけた。なんだか融ちゃんの右腕が剣に変わっていたような気が……まあ夢だからね。ヒーローみたいでカッコいいよ!
場面は切り替わって今度は融ちゃんがたくさんの兵士に取り囲まれていた。なんだかこの国の皇帝も混ざっている気がするけどなんでだろう……?
あの人私のことをちょっとイヤラシイ目で見てくるから苦手なんだよね……。融ちゃんに見られるんだったらなんの問題もないんだけど!
融ちゃんは襲い来る兵士達+αと戦っているけど、ほとんど防戦一方になってる。徐々に兵士の武器が融ちゃんの体を傷付け、しまいには融ちゃんの左腕が肩から斬り落とされてしまった。
それでもなお残った右腕だけで戦い続けるけど融ちゃんの体の傷は加速度的に増えていく。それにしても融ちゃん……あれだけ怪我してるのに血が出てないような……。夢だから都合良くスプラッタ的なのには修正が掛かってるのかな?
それに兵士の人達もそれなりに怪我してる人増えてるのに怯む様子がまったく無いような……。
そんな事を考えていたら融ちゃんの喉に兵士の剣が突き刺さった! それを皮切りに融ちゃんの心臓や顔に剣が……。
やめて! 融ちゃんが死んじゃう!
力なく床に倒れ付した融ちゃんに兵士達は無情にも剣を振り下ろしてバラバラにしていく。
やめてやめてやめて! 融ちゃんが! 融ちゃんが!
夢だからか音は聞こえないけど隣の安倉君は高笑いを浮かべているんだろう。仮にもクラスメイトが惨殺されてるのに笑ってられるなんて……。こんなに他人を憎いと思ったのは生まれて初めてだよ!
憎しみで人が殺せたら! 嗤っている安倉君……いえ、安倉を睨みつけていると不意に彼の嗤いが引き攣った。
視線の先には未だに融ちゃんだったものを斬りつけている兵士達。しかし次の瞬間兵士達全員が床から突き出てきた剣に串刺しにされてしまった。
そうしたらすぐに床に散らばった融ちゃんだったものが寄り集まって融ちゃんを形作っていく。
何事も無かったかのように立つ融ちゃん。もうあれだね! 人間やめちゃってるね! でも融ちゃんなら全てを許せるよ!
そしてまた場面は切り替わって融ちゃんが気持ち悪い触手で出来た巨人に捕まっている。捕まっているというか埋め込まれてる?
そして隣の安倉は今までにない大きさの火の玉を作り出してそれを囚われの融ちゃんに放った。
融ちゃんは何かしらの抵抗をしているけど火の勢いはまったく弱まっていないみたい。斬り殺されても生きていた融ちゃんだけど流石にあの火力じゃ蒸発しちゃう!
そして巨大な火球が着弾する寸前、融ちゃんは何とか脱出できたみたい。隣の安倉は気がついていないみたいだけど、一瞬で囚われている部分を切断した融ちゃんは天井へとなんか糸みたいなものを出して逃げおおせていた。よかった。
けどさっきはバラバラからでも再生した融ちゃんの下半身が再生してない。上半身だけで天井を這って進む融ちゃんが安倉の頭上まで辿り着くとタイミングを見計らって一気に急降下を始めた。
これで決まるかと思ったけど流石に安倉も学習するらしい。しなくてもいいのに。
魔法で作り出した二つの火球が融ちゃんの剣と化した両腕を吹き飛ばした。
そして安倉が水平に伸ばした腕の先にはさっきよりも大きな火の玉が……!
ダメ! それは絶対にダメ! ダメ! ダメ! やめてぇーーーーーー!!
私の必死の叫び(声は出ていないけど)が通じたのか安倉の足元に発生した魔法陣から現れた光の鎖が彼を束縛する。
不意を突かれた安倉はその一瞬の隙を見逃さなかった融ちゃんによって肩口から突き刺さって、あの剣身の長さだと心臓まで突き刺さってるんだろう。
夢とはいえ、仕方ないとはいえ融ちゃんが人を、それも復讐とはいえクラスメイトを殺すところを見るのはちょっと複雑だけど、それでも仕方ないと割り切れる私も十分変わったんだと思う。
そしてまた場面が切り替わって、体の再生が終わった融ちゃんが私をお、お姫様抱っこで抱き上げるとゆっくりと謁見の間から出る為に歩き出した。途中安倉の死体に何かしていたみたいだけどそれはどうでもいっか。
そして中庭に出た融ちゃんはその背中に大きな翼を作り出すと満天の星空へと舞い上がった。
夢。これは夢。だけど満天の星空を融ちゃんにお姫様抱っこしてもらいながら飛んでるとか夢だったとしても嬉しすぎる。ロマンチックが止まらないよ。
融ちゃん、大好きだよ。
てか愛梨は融にベタ惚れしすぎですね。
俺もそんな幼馴染が欲しい(願望)!




