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異世界転移の融合者  作者: ミジンコ
幼馴染を救出
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43話 そして決着がつきまして

 一瞬の油断も出来ない状況での戦いは融にとって初めての経験であった。

 スライムの体になって以降、融は正直なところ戦闘において命の危機を感じたことは無い。それは今まで出会った敵が全て物理攻撃が主体の魔物や人間であり、魔法を使ってくる敵がいなかったからである。

 実際融は目の前の触手巨人に対してはそこまで脅威を感じてはいない。

 殴られたところでスライムの体を持ち、【物理無効】のスキルを持つ融にはダメージを与える事ができないからだ。

 だが、ダメージを与えられないのと動きを制限できないのはまた違う。

 敵の攻撃が剣や人間サイズの拳等であれば融のスライムボディをすり抜けるだけで済むのだが、あれだけ大きな拳で殴られては融の体が形を保てずに崩れてしまう。

 すぐに元に戻れるのだが若干動けなくなっている時間は致命的である。何せ、今融が戦っているのは目の前の触手巨人だけではないからだ。

 離れた所から融と触手巨人の戦いを俯瞰している安倉が、無詠唱で発生させた火球を次々と放ってくるのは厄介としか言いようが無い。物理攻撃と違って魔法攻撃は融に強烈な痛みを与え、その体をいとも容易く削っていくのだ。

 現状融は触手巨人の攻撃と安倉の魔法の両方を避け続け、何とか隙を突いてどちらか片方を倒す手段を模索するしかないのであった。


(とは言っても安倉は今のままだと少し距離がある。近づこうにも撃ってくる魔法が多すぎて碌に近づけやしない。かと言って触手巨人は触手巨人で斬っても斬ってもすぐに再生しちまう……。やっぱり殴り潰すしか方法は無いんだろうけど、ただ殴っても触手巨人は殴られる瞬間に、その部分の触手の密度を上げるからまともに通らないんだよな……。さて、どうしたもんか……)


「死ね! 早く死ねよモブキャラがぁ!」


 安倉は罵声と共に融へと魔法を浴びせ掛ける。次々と生み出され撃ち出されて行く火球は、触手巨人をうまく避けて融へと迫った。

 しかし融はその悉くを紙一重(ギリギリとも言う)で避け続け、その度に安倉のフラストレーションは上がっていくのだった。


「くそっちょこまかと……! 【寄生感染する軍隊(パラサイトアーミー)】日嗣の奴を捕まえろ!」


 安倉の命令で触手巨人の動きが変わる。今までは拳を打ち付けてくるだけの単調な動きだったのだが、今度は全身から無数の触手を伸ばし、融を絡め捕るべく動き出した。


「ちっ! 一気に面倒くさくなった……!」


 全方位から迫る触手を両手が変化した剣で斬り飛ばし、蹴りだした足を一時的に剣へと変化させて触手を切り裂いていく。

 しかしいくら斬り落としても触手の数は一向に減らず、あまりの触手の多さについに斬り損ねた触手が融の足へと絡みついた。


「しまった!?」


 触手に持ち上げられ宙吊りにされた融へと更に触手が迫り、残りの四肢と首、胴体へと絡み付き締め付ける。このまま引きちぎる気か? と融が思ったのも束の間、触手巨人は触手を引き戻し捕らえた融の下半身を自身の胸部へと埋め込み、そのまま安倉のいる方へと向き直った。


「まさか!」


「そのまさかさ! 『紅蓮の悪魔よ! 汝は万象一切を焼き尽くす者! 汝が炎は我が前に! 汝が炎は我が敵に! 灼熱の力は我が道を遮る愚者を討て!』」


 安倉の口から紡がれる力強い詠唱が終わると同時に、その頭上に今までの火球とは比べ物にならない大きさと熱量を誇る業火が生み出される。

 その膨大な熱量は周囲の空気を歪め、離れた場所にいる融にまでその熱を感じさせる程であった。


(マズイマズイマズイ! いくらなんでもあんなデカい火球なんざ食らったら再生する間もなく蒸発しちまう!)


 安倉の頭上の業火の熱量に融の中でガンガンと警鐘が鳴り響く。即座に触手の拘束から抜け出そうと両手両足を剣に変化させて、自身を縛りつける触手を斬り付けるも、斬ったそばから触手は再生し続け融の脱出を阻む。

 それでもなお脱出する為に触手を斬り続けている融の耳へ安倉からの死刑宣告が届いた。


「これで……終わりだモブキャラー!!」


 安倉の叫びと共に業火がゆっくりと融の方へと進みだす。その大きさ故か火球と比べて速度は遅いが、その分身動きできない人間にとっては遅々と迫る業火()は恐怖心を飛躍的に増大させるだろう。

 融にとっても直撃すれば耐えることが出来ない業火は恐怖心を増大させる。しかし融にとって最優先すべきは愛梨の奪還であり、生きて再びウィオと再会するためである。その二つの事が融をパニックに陥らせることを防ぎ、生きるための行動をさせることが出来た。


「くそっ! 死んでたまるか!」


 融は体内に【アシッドトード】の強酸を作り出す臓器を【変幻自在】で作り出すと、ありったけの強酸を精製し弾状にして業火へと撃ち出した。

 次々と撃ち出される強酸弾が業火へと着弾するたびにジュウ! と言う音が謁見の間に響く。


「ははは! そんな水鉄砲が効くわけ無いだろ! 無駄な足掻きはさっさと止めて大人しく死ねよ!」


 融の行動を安倉は悪足掻きだと嘲笑う。しかし融はそんなことはお構いなしに強酸弾を撃ち続ける。それがどれだけ相手に無様だと嗤われても融は迫り来る死に抗い続けた。

 しかし巨大な業火は、融が撃ち出す強酸弾をいくら食らってもその火力が衰える様子は無い。


(くそっ! いくら撃ってもきりがねぇ。こうなったら一か八かだ!)


 轟々と燃え盛る業火が目前まで差し迫った時、融は強酸弾を撃ち出すのを止め【変幻自在】で変化させていた右腕で躊躇い無く上半身と触手巨人に囚われている下半身を斬り離した。


(間に合えーー!!)


 上半身が開放された融はすぐに右手を剣から【オーガスパイダー】の出糸突起へと変化させると、すばやく粘着性の糸を天井へと射出し、天井に張り付いた瞬間素早く巻き取った。

 その直後、巨大な業火は触手巨人へと直撃し、爆発と共に巨大な火柱を上げながらその火力を遺憾なく発揮させ周囲を焼き尽くす。

 直撃を免れた融ではあるが、余波だけで上半身の半分以上が蒸発してしまい、左肩や腹部が綺麗さっぱり消えていた。


(危なかった……。撒き散らされた熱だけでこれじゃあ直撃してたらほんとに蒸発してたな。このままじゃ何も出来ないし早いとこ体を修復しないと――ん?)


 すぐに失った体を【無限増殖】で修復し始めた融だが、腹部までを修復した辺りで増殖が止まってしまった事に気がつく。


(やばい! もう【無限胃袋】の中に食料どころか魔物の肉すらない! くそっこれじゃ修復できないぞ!)


 スキル【無限増殖】は説明では無限に体の細胞を増殖できるとあるが実際は少しだけ違う。正確には、食料が続く限り無限に増殖できるのである。

 通常のスライム等が持つ【増殖】のスキルは増殖できる量に限りがあるが、【インフィニティスライム】の【無限増殖】にはその制限が無い。そういった意味で【無限増殖】なのである。

 融は体の修復を諦めると両の手を蜘蛛のそれへと作り変え、謁見の間の天井を爆発によって起こった粉塵に紛れて安倉のいる方へと進む。

 謁見の間全体に粉塵が舞っている為視界は良くないが、それでも愛梨が放っている仄かな光が融を安倉のいる方へと導いていた。

 やがて開いていた扉から空気が流れ出て粉塵が徐々に薄くなっていく。それと時を同じくして融は安倉のほぼ直上へと辿り着いていた。


(まだあいつは警戒してるはず。俺が死んだと思って油断した瞬間を狙うんだ……)


 やがて粉塵が完全に晴れ、業火が直撃した場所は爆発によって出来たクレーターしか残っていなかった。

 そのクレーターの内側は粉塵が晴れた今も赤くドロドロに融解しており、業火の強力すぎる火力をあらわしている。


「ハハハ! やっと骨も残らず蒸発したか! これで僕の勝ちだ!」


(いまだ!)


 勝利を確信した安倉の声を聞いた融は両腕を剣へと変化させ、天井から離れると安倉へと向かって落下を始めた。


「――なんて言うと思ったか?」


(っ!?)


 嗜虐的な笑みを浮かべている安倉にまんまと誘われていることに気がついた融だが、すでに落下を始めた融はそれ以外他に取れる手段がない。

 すでに安倉の隣には二つの火球が生み出されており、落下している融へと撃ち出されるのを心待ちにしているようであった。


「ゴキブリ並みの生命力だと褒めてあげるけど、もう満足に体を再生する力も残ってないみたいだね」


 嗤いながら喋る安倉から一つ火球が撃ち出され融の右腕を吹き飛ばす。


「ほらほら、右腕がなくなっちゃったよー? 次は左行くよー」


 次いで撃ち出された火球が安倉の宣言通り融の残った左腕を吹き飛ばした。


「ハハハ! ほらほらどうするー? 両腕がなきゃもう攻撃なんてできないよねー。じゃあ最後は残った体全部吹き飛ばしてあげるよー!」


 両腕という攻撃手段を失い落下している融を嘲笑いながら安倉は水平に伸ばした右腕の先に、先程よりも二回りほど大きな火球を生み出す。


「これで……トドメだー――な!? がふぁ!!?」


 融へと火球を撃ち出そうとした安倉の動きが地面に突如発生した魔法陣から現れた光り輝く鎖に囚われ急激に止まる。その一瞬の隙が致命的だった。

 安倉の肩口には融の右腕が変化した剣が深々と突き刺さり、肺や心臓まで貫いている。


「な……なんで……右腕……は消し飛ばした……はず……。再……生なん……て……できなかった……だろ……」


「ああ、確かに俺はもう体を修復するだけの力は残ってない」


「なら……なんで……そんな……まさ……か……」


 血反吐を吐きながら視線を動かした安倉の目に映った融の姿は胸から上しか残っていない。そう、落下の時はあった腹部が無くなっていたのだ。


「体を修復できないんなら他のところから持ってくればいい。俺の体はスライムだからな、それが可能なんだよ」


「くそ……主人……公の俺が……モブキャラ……なんか……に……」


「うるせぇよ。確かにお前は主人公だろうさ。お前の物語ではな。だけどな、俺の物語の主人公はお前じゃない、この俺自身なんだよ!」


 融は残った胸部の左部分を使い、安倉に突き刺した剣を変化させ大量の棘を作り出す。棘は安倉の臓器をズタズタに引き裂き、僅かに残っていた安倉の生命の灯火を完全に掻き消した。

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