41話 そして戦いが始まって 2
若干人によっては不愉快になる表現が使われております。お気をつけください。
「来い! あいつを蹂躙しろ!」
謁見の間に響き渡る安倉の声。そしてそれに呼応するように謁見の間の扉が勢いよく開かれ、顔から一切の表情を失った兵士がわらわらと入り込んでくる。
融は謁見の間の半分ほどを埋め尽くすほどの兵士に囲まれながら、ふとあることに気がついた。
「この国の……皇帝?」
そう、表情を失った多くの兵士達にまぎれるようにしてこのケルドミナンド帝国の皇帝が、同じ様に表情を失った状態で融を取り囲む者達に混ざっている。
「安倉、お前この国の人達に一体なにをしたんだ!」
「ああ? 何をしたかって? そんなの決まってるじゃないか。こいつ等は全員僕を、【大賢者】であるこの僕を騙したんだ。本来なら殺されても当然のところを僕の慈悲で兵隊として生かしてやってるんだ、ありがたいと思ってもらわないとね」
兵士達が融を取り囲んでいる隙に安倉は融から受けた痛みを回復させ幾らか余裕を取り戻すと、両手を広げて自慢気に話し出した。
「日嗣、お前も覚えてるだろ? 僕達がこの世界に召喚されてからどんな要求をしてきたかさ」
「ああ、魔王を討伐してくれって話だったな」
「そう、僕はてっきりゲームなんかに出てくる悪の権化的なものを想像してたんだよ。だけど実際はどうだ? この世界の魔王ってのは人間以外の種族それぞれの長みたいなものだろ? それに、魔王の中には綺麗な女の人もいるみたいじゃないか。そんな俺のハーレムメンバーになりえるキャラを殺せとかふざけてるとしか思えないじゃないか」
「だからこの城の、帝都の人達をあんな化け物に変えたってのか」
「ああそうだよ。僕がこの城の書庫の最奥で見つけた禁術、【寄生感染する軍隊】で僕に絶対に逆らわない、死をも恐れない兵隊にしてあげたのさ」
【寄生感染する軍隊】、その効果は非常に恐ろしい。魔法によって作り出された魔法生物を対象の脳へと寄生させる。宿主となった人間は思考など人間らしい一切合切を奪われ、魔法発動者の言いなりになってしまう。
更には宿主の頭部や心臓等生命にとっての重要器官が破壊された場合、魔法生物は一気に戦闘モードへと移行し、鋭利な刃のついた触手を伸ばして敵対者へと襲い掛かる。
これだけでも相当厄介な魔法ではあるのだがこの魔法の最も恐ろしい、禁術指定されるまでになった原因は他にある。
この魔法、【寄生感染する軍隊】に寄生された人間は、魔法生物によって体内の魔力を永続的に吸われ続ける。魔力を吸収していないと体を維持できないというのもあるが、一定量魔力を吸った魔法生物は吸い取った魔力を利用して増殖し、簡単な接触によって他者へと感染するのだ。
感染された人間は同じ様に魔法発動者の言いなりとなり、再び数を増やすべく宿主の魔力を吸い続ける。
そして融が帝都で経験したように、戦闘モードの個体が近くにいた場合他の個体も同様に戦闘モードへと移行し敵対者に襲い掛かるのだ。
この魔法に寄生された者を倒す方法はただ一つ。宿主の肉体を触手ごと完膚なきまでに破壊し尽くすことである。
「てことはだ、今この国で無事なのは俺とお前、そして愛梨と腹黒そうな姫さんだけってことか」
「そうだね。あのビッチは直接的には【寄生感染する軍隊】の影響下にはないよ。直接的にはね」
「なんだと?」
「あのビッチはね、大賢者である僕に気があるように見せかけてその実、側近の兵士とデキてたのさ。それである日そのビッチと兵士の会話を聞いちゃってね。なんて言ってたと思う? あいつ等僕が魔王達を倒したら、僕を殺して魔王殺しの名声を奪おうとしてたのさ。まあ僕は器が大きい英雄になる男だからね。今頃二人は部屋でよろしくやってるよ。死ぬまで永遠に、ね」
「クズのテメェのことだ、何をしたのか大体予想はつくがとりあえず聞いてやる。何をした?」
「簡単だよ。特別に調整した【寄生感染する軍隊】を兵士に感染させたのさ。感染した兵士はすぐに触手の塊に変異して、薄い本よろしくビッチの穴という穴を触手で犯してるんだよ。ついでにビッチには魔法で精神をロックしてあるから狂いたくても絶対に狂えないし、舌を噛み切ろうとしても触手が邪魔をしてる。触手の分泌物には生きるための栄養もあるから栄養失調等で死ぬこともない。いやー僕って本当に優しいね。愛し合う者達を永遠に結びつけるキューピッドみたいじゃない?」
にやけた笑みを浮かべながら自慢げに言う安倉に融は舌打ちと共にあからさまな嫌悪感を顔に浮かべる。確かに付き合いのほぼ無い、それどころか会話すらしたことの無い融から見てもあの姫は性格が悪そうなのが透けて見えていた。それに利用するだけ利用して殺すなんて非道な事を平然としようとする人間だからある意味自業自得とも言える。
しかしそれでも安倉がした事は融にとって吐き気がするもの以外のなにものでもなかった。
「さて、お喋りが過ぎたね。本当はお前にも特別に調整した【寄生感染する軍隊】を感染させて、意識はあるのに動けないお前の前で愛梨の純潔を散らしてやりたかったのに何故か感染しないんだよね」
本当に残念そうにため息を吐く安倉。
実際安倉は融に対して何回か無詠唱で【寄生感染する軍隊】の魔法を使っている。が、融には一向に効果が出ていないのだ。
それもそのはず。融には【状態異常無効】のスキルが備わっているし、尚且つ融の体には一切の魔力が存在していない。
この世界の人間ならば誰しも多い少ないの違いはあれど魔力を保有している。【寄生感染する軍隊】は感染した人間の魔力を糧に感染者を支配、並びに増殖、他者への感染をしているのだが、一切魔力を保持していない融には感染した瞬間、体を支配する前に魔力不足で消滅してしまうのだ。
「はぁ~、本当に残念だけどお前にはさっさと死んでもらうとするよ。精々必死に無様に抵抗して自分の無力さを嘆いて死んでってくれ。――殺れっ!!」
号令と共に安倉の手が振り下ろされ、それを合図に融の周囲に展開していた無表情の兵士達が一斉に融へと襲い掛かった。
皇帝を除く全員が完全武装で融へと踊りかかり、それぞれが剣や槍、果ては鎚を振り下ろす。
融も何とか両手に握る鉄剣で攻撃を防いではいるものの、如何せん数が多い。徐々に全身に傷が増えていき、融の表情も徐々に焦りが見えてきた。
その光景を少し離れた玉座から観戦していた安倉は実に楽しそうである。交流が無かったとはいえ仮にも元の世界のクラスメイトが武装した兵士に襲われているのを目の当たりにして笑っていられるのは、生来の性格故か……。
一方的に優位な状況に立っている事からの慢心故に安倉は気がつかない。身体中に傷を負った融が一滴の血も流していない事に……。
お姫様……触手……ウッ頭が……!




