40話 そして戦いが始まって 1
投稿が遅れて申し訳ありません。仕事が忙しかったんです。
途中視点が融視点から三人称視点へと切り替わります。
「どう考えても誘導されてるとしか思えないが……行くしかないか」
どうせ引き返してもわらわらと現れる首無し死体(触手付き)の群れとこの城の中でエンドレス鬼ごっこするハメになるし、それならいっそ敵の懐に飛び込んだ方が早いだろう。
本当なら先に愛梨を救出してから安倉の野郎に復讐したかったんだけどな。
謁見の間へと続く巨大な扉を開いて俺は中へと入る。
皇帝の権力を示すためか無駄に豪奢な謁見の間は前と違って明かりは灯されておらず、奥のほうに一つだけある仄かな光が空間を僅かに照らしていた。
「さて、鬼が出るか蛇がでるか……」
コツコツと靴音だけが響く静かな空間でポツリと呟いた瞬間、ボッボッボッ、と音を立て謁見の間に設置されている照明に火が灯され、空間全体が明るく照らされた。
明るくなった謁見の間、最初は奥の方にある仄かな光しか部屋を照らすものが無くよく見えなかったのだが、明かりの点いた今ははっきりと良く見える。
さっきまで空間を幽かに照らしていた光の正体、それは玉座に座り眠る俺の幼馴染、姫島 愛梨だった。
「愛梨!!」
淡い光に包まれている愛梨は俺の呼び掛けにも一切反応せずに眠り続けている。
思わず駆け寄ろうとした俺だが、すぐに玉座の裏から出てきた人物の姿に足を止めた。
「安倉ァ!!」
「うるさいなぁ、これだから野蛮な雑魚は嫌いなんだよ。案外お前がスキルを授からなかったのって野蛮な上に見込みがない雑魚だからなんじゃないのか?」
「うるせぇ! てめぇ愛梨になにをした!!」
「まだ何もしちゃいないよ。まだ……ね」
そう言って安倉が玉座で眠る愛梨に手を伸ばす。しかしその手が愛梨に触れようとした瞬間、愛梨を包む仄かな光がそれを拒むように弾いた。が、今の俺にはそれが精一杯の抵抗にしか見えなかった。
「こんな風にね、愛梨は照れ屋だから僕が触ろうとすると恥ずかしがって触らせてくれないんだよ。まあその抵抗もだいぶ弱くなってきたから愛梨が僕のものになるのも時間の問題だよ」
「このクソ野郎が! さっさとテメェをぶっ殺して愛梨は返してもらうぞ!」
「雑魚が強い言葉を使うなよ。より一層雑魚に見えるぞ? それに、僕を殺したいんだったらさっさと掛かってきなよ。まあ物理戦闘力Eのお前が大賢者である僕に傷を負わせることが出来るとは思えないけどね」
「だったら試してやるよ!」
俺はあらかじめ作っておいた【フライングブレイド】の形をした鉄の剣を腰から抜くと安倉目掛けて走り出した。
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鉄製の剣を片手に融は安倉目掛けて走る。
(足をバネに変化させて一気に詰め寄っても良かったんだが、腐ってもあいつは【大賢者】だ。あいつの手の内がまったく分からない状況でこっちの手札を晒す必要はない。それにこのままのほうがあいつも油断してくれるだろうしな)
そう、融は今も人間の姿を変えてはいない。それは融の考えている通り、安倉は自分の目の前にいる融がなんのスキルも持っていない役立たずの雑魚だという認識を持ったままだからだ。
それに引き換えこの世界へとやってきて強大な力を手にした安倉は驕りと慢心の塊である。
ならばそこに付け込むのは当然ともいえた。
「ははっ、地球じゃ確かにお前は早かったかもしれないけどさ、この世界じゃそんな走りは歩いてるのと変わらないんだよ! 『炎の礫よ! 我が眼前の敵を討て!』」
短い詠唱の終わりと共に安倉が融へと向けていた杖の先に展開されていた魔方陣から拳大の火の玉が融目掛けて放たれる。
融は自分へと迫る火の玉を叩き落すべく手に持った剣で斬りつけた。
(っ!?)
鉄製の剣が火の玉に触れた瞬間、ジュッという音を立てて火の玉が触れた部分が蒸発した。
それを見た融は慌てて剣を手放すと同時に横へと跳び、転がりながら大きく火の玉を回避するが、顔を上げた融の眼前には次なる火の玉が迫っていた。
「はははっ! ほらほら早く逃げないと焼け焦げちゃうよ? それとも蒸発しちゃうかな~?」
「くそっ!」
(こりゃあ手の内を隠しておくなんて言ってる場合じゃないな。油断してるうちに即刻方を付けないとこっちが殺される)
高いテンションで呪文を詠唱し魔法を連発してくる安倉に対し、融は当初の考えを即座に改める。目の前からは先ほどまでよりも一回りも二回りも大きな火の玉が融へと迫り、融は足をバネ状へと変化させるとギリギリまで火の玉を引き付け、着弾寸前に天井へと飛び上がった。
大きな爆発音が謁見の間全体に響き粉塵が立ち込める。濛々と舞い上がる粉塵は安倉の発生させた魔法の風によって吹き流されやがては消えていく。
そして粉塵が消え去った後、火の玉が命中したであろう床には大きなクレーターのようなものが出来上がり、よく見てみると一部が赤熱と化しており、その火の玉がどれだけ高温だったのかを知らしめていた。
「ふひ、ふひひ、ふひはははははは! 日嗣の奴跡形も無く消滅しやがった! 所詮雑魚は雑魚、この大賢者たる僕に敵うわけもないよね! ははははは! これで愛梨は完全に僕のもの! 照れ隠しで展開した結界も後僅かで消えるし、これで……いや、これから始まるんだ! 僕の異世界ハーレムストーリーが!」
「いや、始まらねぇよ。永遠にな」
「なに――がっ!?」
両手を広げ歓喜の笑い声を上げていた安倉が上から降ってきた声に反応して顔を上げた瞬間、安倉の右肩に一振りの鉄剣が食い込んだ。
しかし鉄剣は纏っていたローブによって阻まれ安倉の体を切り裂くことは適わず、打撃による鈍痛を与えるに留まった。
「ちっ」
(くそっ肝心な時に攻撃外すとか……。しかもあのローブ全然刃が通りやしねぇ)
必殺の一撃を外した事に歯噛みしながら融は更に攻撃を加えようとするも、安倉の詠唱無しで放たれた火の玉に距離を取らざるを得なかった。
「日嗣ぃ……痛いじゃないか。なんで死んでないんだよ、雑魚は雑魚らしくさっさと死んどけよ……。それになんだよその腕、なんで右腕が剣になってるんだよ……」
自分よりも圧倒的に隠しただと思っていた相手に一撃入れられた事がよほどショックだったのか安倉は瞳に暗い光を湛えながらブツブツと怨み言を呟く。
「腕が武器に変化するとか凄い主人公っぽいじゃないか……。雑魚の癖に……雑魚の癖に雑魚の癖にさぁ! この世界の主人公は僕なんだ! 引き立て役はさっさと退場しろよぉ!」
急にスイッチの入った安倉の魔力が急激に高まっていく。魔力が一切無く、感知する能力の無い融ですら分かる圧力が安倉から放たれていた。
「奈落から生還した上に腕が刃に変化するなんて主人公っぽい能力手に入れるなんて絶対に許さない!」
「うるせぇ! さっきから主人公主人公ってよぉ、この世界の主人公はこの世界の住人達だ! 間違っても頭ん中厨二病まっしぐらのお前じゃねぇ!」
「うるさい! もう油断なんてしない! 本気で全力で物量で質量で火力で水圧で圧力で、使えるもの何でも全部使ってお前を殺す! 塵一つ残さずに殺しつくしてやる!!」
安倉の瞳に先ほどまでの余裕の色はもう一切無い。ただ目の前の障害を徹底的に排除するために全力を注ぐことしか考えていなかった。
「来い! あいつを蹂躙しろ!」
高らかに放たれた安倉の声が謁見の間に響き渡った。
安倉の声によって呼ばれた者とはいったいー(棒読み)




