39話 そして通路を駆け抜けて
皆さんこんにちわ融です。俺は現在ケルドミナンド帝国の地下に張り巡らされている地下水路を歩いています。
地下水路なので足場の悪い真っ暗闇の中を城へと向かって進んでいくのを覚悟していたのですがなんとこの水路、きちんと人が歩くためのスペースがあり照明も設置されていたのだ。
なぜ歩くスペースだけならともかく照明が設置されているのかというと、流れる水を見ればその答えが分かる。
等間隔で設置されている魔方陣が設置されており、その中心部には魔石が煌いているのが良く分かる。
恐らくだがこの魔方陣は水の浄化を行っているんだと思う。だからこそ帝都の人々は安心してこの水路の水を飲料や料理などに使用しているんだろう。余談だがこの国でトイレは便器の中に品種改良されたスライムがいるのでこの水路には流れ込んできていない。
とまあそんな事で、魔方陣の中心部にある魔力供給用魔石の魔力は無限ではないので定期的に変える必要がある。だからその定期点検の為にこの水路には照明が設置されているのだ。
おかげで地下水路の足元をあまり気にする必要が無いのはとてもありがたい。地上にいる首無し死体(触手付き)もこの地下水路にはいないようでさくさくと城を目指して歩く事が出来た。
しばらく城を目指して地下水路を歩いていると、俺の前に立ち塞がったのは壁。やはり国の要たる城には沿う簡単に進入できないらしい。
下を見れば水は壁の向こうから流れている。
「やっぱり潜らないとダメか……」
俺はため息を吐くと大きく息を吸い水の中へと飛び込んだ。
水路を流れる水は思いのほか冷たく、水の流れは俺を押し流そうと絶え間なく押し寄せる。
流石にこのままじゃ進めないか……。
俺は両足を【アシッドトード】のものへと変化させる。人間のものとは違いカエルの足についている水掻きは力強く水を掻き、俺の体を水の流れに逆らって進ませる。
さっきまでの地下水路とは違い壁の向こう側の水路には照明が無く、俺は漆黒の闇の中を必死に進んでいく。
ゴン、と音がして俺の頭に何かがぶつかる。暗闇によって見ることはできないが、触った感じどうやら金属の格子が嵌められているようだ。
格子の隙間は狭く、とても普通の人間が通る事は出来そうにない。普通の人間には。
まあ体がスライムで出来てる俺の前には無意味なんだけどな。
俺は格子の隙間を体の形を変化させる事で通り抜ける。通り抜けた先も水路は続き、そろそろ俺の息も苦しくなってきた。
それでも前に進むことを止めずにいると、前方に淡く小さな光が見えた気がした。
息が限界まで来ていたがそれを無視して無理矢理突き進むと光は徐々に大きくなっていき、やがて光が差す水面がそこにあるのがわかる。
酸欠により途切れそうになる意識を何とか繋ぎ留め、俺はようやく酸素のある空間へと飛び出した。
「ぶはぁ! はぁ、はぁ、はぁ……あー苦しかった! こんな事なら水中活動できる魔物とも戦っとくんだった!」
久しぶりにも感じる空気を目一杯吸い込み、呼吸できることのありがたさを噛み締める。
「とりあえず城ん中に入る事はできたみたいだな。てか以前迷子になって来た事ある場所だし」
周囲を見渡せば確かに以前迷子になって辿り着いた城の水場。まだ水路自体は続いているので城の中はまだいくつか同じような場所があるのだろう。
他の水場の場所が気にならないわけではないがそんな事をしている場合でもないので、俺は水から上がると全身を余す事無く濡らしている水分を捕食する。
完全とはいかないものの動く分にはまったく支障がない程度には乾いたので早速行動に移すとするか。
「さて、まずは何処を目指すべきだ?」
第一目標は愛梨の救出なのだが安倉の野郎がいる以上なんかしらの妨害をしてくるだろう。それを考えると最初にあのクソ野郎をブチ殺した方が安全安心だとは思うんだよなー。さてどうするか……ん?
不意にこちらに近づいてくる足音に気がつく。すでに聞こえる距離まで近付いているという事はもうここに来るのは間違いないだろう。自分以外の影が無い以上逃げる場所は水中以外無い、が水中に逃げ込んだ所でもし迫ってるのが首無し死体(触手付き)だった場合水中であの触手を避けきる自信はまったく無い。
つまり殺らなきゃ殺られる!
俺は右腕を【アイアンゴーレム】のものへ、下半身を【オーガスパイダー】へと作り変え天井に張り付き様子を窺う。
待つことしばし、案の定部屋に入ってきたのは表情の抜け落ちた兵士。違う点があるとすれば門を守っていた下級兵とは違う、城を守る上級兵であるところだろう。平兵士と上級兵では触手の性能に違いがあるかは分からないが、ある前提で考えておいた方が無難なのは間違いないはずだ。今ならこっちに気づいてないし殺るなら今のうち……。
そんな事を考えているときょろきょろと周囲を見回していた上級兵と目が合った――と思った瞬間上級兵の頭が爆ぜ、生えるのは見紛う事なき触手。帝都の民や下級兵よりも多くの触手が首の付け根から飛び出し襲い掛かってきた。
「やっぱりかー!!」
天井からの落下の勢いを使い襲い掛かってくる触手ごとゴーレムの拳で首無し死体(触手付き)を叩き潰す。肉をすり潰す感触が拳に伝わり、部屋の床一面に人間を形成していたはずの肉片と血液が飛び散った。
「くそっまだ来るか!」
この部屋へと向かってくる複数の足音が通路の向こうから聞こえてくる。
このままここにいても数に潰されるだけか……。
俺は迫り来る足音の群れへと向かって一気に駆け出す。位の高い者が来ないためかあまり広くは無い通路を駆け抜けていると、反対側からは何人もの表情の抜け落ちた上級兵がこちらへ駆けて来るのが分かる。
彼等は俺の姿を目視した瞬間例外なく頭部を爆ぜさせ、生やした触手で襲い掛かってきた。
「強行突破じゃー!」
通路の大きさギリギリまで大きくしたゴーレムの拳で無理矢理首無し死体(触手付き)を押しながら突き進み、やがて通路は曲がり角に差し掛かると俺はそのまま首無し死体(触手付き)の群れを壁へと叩きつけた。
大きな衝撃音と共に手に伝わる嫌な感触に俺は一瞬顔を顰めるがそれだけだ。頭が無いから悲鳴や団地妻……じゃなかった断末魔の叫び声とかが聞こえてこないのがまだ救いだ。
とはいえいちいち戦ってたら神経が持たない。俺は腕を元に戻すと壁にこびり付いた血と肉片と金属鎧の破片を一瞥し走り出す。
あれだけ大きな音を立てても騒ぎにならないということはもうこの城の中にまともな人間は一人も残ってないのだろう。
静まり返った城の通路には俺の呼吸音と駆ける足音、そして離れた所からこちらへと駆けてくる兵士達の足音だけが響いている。
不気味としか言いようの無い城内を駆けていると十字路に差しかかり、前と右から兵士達の駆けて来る足音が聞こえてきた。
「なるべく戦闘は避けたいし、とりあえずあいつ等がいない方向に行くか」
俺は十字路を左へと曲がりそのまま駆け続ける。その後も何度か同じ様に戦闘を避け続けていた結果、辿り着いた場所はこの世界に召喚されて最初に案内された場所、謁見の間へと続く巨大な扉の前だった。




