38話 そして夜の帝都で化け物と
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
俺の悲鳴が夜の帝都に木霊する。
だってそうだろう? さっきまで痙攣してた死体が急に止まったと思ったら頭が爆発したみたいに弾けとぶんだもんさ。つい悲鳴の一つも上げたくなるわ!
しかも弾けとんだ頭の一部、主に眼球が俺の目の前の地面に落下してこっち見てるし……。うわ目が合った。
二つの死体の周囲に頭部だった肉片やら血液や脳みそ脳漿等が飛び散り凄惨極まる光景を作り出している中、まだ死体の変化は止まらなかった。
頭部を無くした死体の首から……生えたのだ。触手が。
一つの断面から複数の触手が一斉に生え、俺は再び悲鳴を上げた。
うねうねと生理的嫌悪感を覚える触手はご丁寧に先端が鋭利な刃物になっており、人間程度なら頭の天辺から股間まで一直線に両断できそうだ。
そして二つの首無し死体(触手付き)はさっきまでのゆっくりとした動きが嘘のように物凄い勢いで俺へと向かって走り始めた。
それに対して俺の行動はもちろん……逃げるに決まってる!
「いや勝てるよ? どう見ても相手の攻撃は切れ味が良いだけの物理攻撃だし? スライムボディの俺にそんな物理攻撃が通用するわけないんだけど! やっぱりさ、気持ち悪いじゃん!!」
触手を振り乱しながら追いかけてくる首無し死体(触手付き)から俺は全速力で逃げながら言い訳じみた独り言を叫ぶ。
時折掠める刃の風切り音に背筋を寒くなるのを感じつつ走っていると、路地裏から小汚い格好の老人が出てきた。恐らく浮浪者なのだろう男はゆっくりとした動きで俺に顔を向けた瞬間……その頭部を炸裂させ、無くなった頭部の変わりに絶賛見覚えのある触手を生やした。
「お前もかーーーーーーーーーー!!」
悲鳴にも似た叫び声を上げながら様々な角度から繰り出される触手の斬撃を必死の思いで回避する。しかしあまりの手数の多さに避けきれず左腕の肘から先が落とされたが拾っている余裕なんかあるはずもない。
仕方なく新たに左腕を生やし、再び俺は帝都を疾走する。
背後から追って来る首無し死体(触手付き)は疲れることを知らないのか走る速度が落ちる様子は一向に無く、むしろ徐々に追いつかれている感じすらある。
それに加え、帝都を駆け抜ける途中の家々や路地から次々と人々が現れては例外なく頭を破裂させて触手を生やし襲い掛かってくる。
「くそっ、このままじゃ追いつかれるのも時間の問題どころか下手したらすぐに囲まれちまう……。どうするか……そうだ!」
俺は街灯の光によって出来ているとある民家の影へと向かって跳躍し、体を【シャドウバイパー】へと変化させ影の中へと飛び込んだ。
左右何処を見ても漆黒の影の中の世界。唯一頭上の地面だけが水面のように半透明に地上の風景を映している。水面と違う点があるとすれば揺らめいているかいないかぐらいだろう。
半透明の境界から見える地上では何人もの首無し死体(触手付き)が周囲の建物に半ば八つ当たりでもしているかのように刃を叩きつけながら徘徊している。やはり影の中にいる俺の姿を捉えることが出来ないようだ。試しに影の中からほんの少し顔を覗かせてみた瞬間、一斉に触手の刃が俺へと襲い掛かってきた。どうやら奴らの感知能力は地上にいる相手ならば想像以上に高いらしい。
そして地上の移動は無理だと判断した俺は影の中で移動を開始する。ただ、【シャドウバイパー】はやはり影の中しか移動できないらしく、街頭の光の下へ行こうとすると見えない壁のようなものが立ちはだかり行く手を遮る。逆に闇は影と同じ扱いらしく普通に移動できるようだ。
「まあ影と闇のある地面を進めるだけでもかなり便利だしな。そんな事よりさっさと城まで行くか」
俺は影の中の世界から見る地上の世界の城を目印に進んで行く。といっても大きな通りは街灯が道を照らしているため基本的には暗く狭い路地を進み、どうしても進めなくなった時だけ地上へと上がり再び影の中に潜り城を目指す。
それを繰り返し、俺はようやく城の前まで辿り着いた。
城の周囲は街の壁ほどではないが高い壁がぐるりと囲み、進入者対策か一定の間隔で街灯が立ち兵士が巡回している。
「さてほんとにどうしたもんか……。あれだけ煌々と明かりで照らされてたら潜り込む影なんか無いぞ……。かと言って地上に上がって見つかる訳にもいかないし……。ほんとにどうするか」
影の中から周囲を観察する。どう見ても壁には街灯の明かりによって影一つ無く、一定間隔で巡回する兵士はどうみても俺を追い掛け回してくれた帝都の民と同じ表情をしている。
「こういった潜入ものの定番はどうするんだったか……。気づかれないように巡回してる兵士に接近して倒す? だめだ、あいつらの感知能力ははっきり言って異常だ、すぐに見つかっちまう。それなら空から行くか? それもダメだ、飛び立つ前に見つかる。仮に飛びたてたとしても見つかってるのに変わりは無いからな。後は……地下水路か。確か一度城で迷子になった時にそんな場所があったな。てことはこの近くにも地下水路に潜る場所があるのか?」
とはいえ影の中は別に地下という訳ではなく、一種の亜空間のようなものなので地下水路の入り口を探すためには一度地上に出なくてはならない。
かと言って地上に出たら出たでまた首無し死体(触手付き)と壮絶な追いかけっこをしなくてはならない。
あの生理的嫌悪感と恐怖をいっぺんに与えてくれる奴らと追いかけっこなんぞまっぴらごめんだがこれも必要な事なのだと自分に必死に言い聞かせる。
そして覚悟を決めた俺は周囲に首無し死体(触手付き)がいないのを確認した後地上へと飛び出した。……のだが……。
「お前らさっきまでいなかっただろーがぁぁぁぁぁぁーーー!!」
地上に出た途端何処からとも無く現れた首無し死体(触手付き)による触手の斬撃が四方八方から俺に襲い掛かる。
必死になって避けるが下以外の全方位から繰り出される斬撃を完全に避けきれるわけも無く、俺の体には無数の斬痕が刻まれる……事はスライムボディのおかげで無い。
あいつらからすれば水を斬っているようなものなのだ。腕なんかを斬られた時はたまに落とされたりもするがすぐに修復してしまえば何の問題も無い。融合した【インフィニティスライム】には感謝してもし足りないな。
しかしいくら効かないとはいえ斬られ続けるのはあまり気分のいいものではない。頭が吹き飛んで変わりに触手を生やしてる時点でもう死んでいるか人間をやめているのだろう。逃げながら地下水路の入り口を探すのも骨だしな。
「悪く思うなよ!」
俺は両肩から先をアイアンゴーレムの腕へと変化させると進行方向を塞いでいる首無し死体(触手付き)へとその巨大な拳を叩き付ける。
触手を生やしていても体の強度は人間だった頃と変わりないらしく、俺の一撃を受けただけで簡単に粉々になって壁や通り、進行方向にいる他の奴らにその血や肉片を貼り付ける。
「いくら脆い人間の体のままだからっていってもこうも数が多いと捌くのは大変だ……な!」
俺は地下水路への入り口を探しつつ通りを駆け抜け、進行方向を塞ぐ首無し死体(触手付き)だけを両の拳で砕いていく。
走り砕き走り砕き、それを繰り返していると俺の両手は血で真っ赤に染まり、一瞬振り返った背後には夥しい量の血肉がそこら中に飛び散りまさに地獄絵図と化していた。
それでも俺は地下水路への入り口を求めて帝都を駆けずり回り、敵を打ち砕いているとようやく前方に一つの井戸を見つけた。
「ようやくか! あそこからなら!」
俺は敵を砕きながら一直線に井戸へと走り、その中へと飛び込んだ。
次回はやっと城の中に潜入します。はたして城の中で融を待ち受けるものとは一体……。




