34話 そして空でため息を
「はぁ~~~~~」
俺の口から盛大にため息が漏れる。
現在俺は一人軍事国家【ケルドミナンド帝国】の帝都を目指し、背中から生やした【スラッシャーホーク】の翼で大空を飛行している。
本当なら他の冒険者に魔物と間違われて襲われる可能性があるため陸路を歩いていった方がいいのだが今の俺には時間が無い。街を出る際にジークから帝都まで徒歩で約二週間も掛かると言っていた。
街を出る前プリティーさんに頼んでたらふく食事を【無限胃袋】の中に収納してきたので食料的にはまったく問題ないのだが、【ケルドミナンド】で問題が発生していると言う事は俺の予測でしかないが安倉の野郎が関わっている可能性がかなり高いはずだ。そんな場所にいつまでも愛梨をおいておくなんて選択肢は俺の中には最初から存在していない。
多少のリスクを負ってでも早く愛梨の元までたどり着きたいのだ。
そしてもう一つ重要なことがある。それは……。
「隣にウィオがいないのがツライ……」
と言うことである。
この世界の全ての愛らしさを凝縮していると言っても過言ではないウィオが隣にいない苦痛に俺は苛まれていた。
確かにこれから行く場所はかなり危険である。安倉の野郎がいるであろう場所に天使と見紛うごとき可愛さのウィオを連れて行くなんて猛獣の檻に餌を投げ込むようなものだ。
その危険を避けるためにアナスタシアさんに頼んでウィオを【トレイズ】の街においてきたのだが……、ウィオが俺に依存しきっているように俺もかなりウィオという存在に依存していたようだ。
一人になるのがここまで辛いとは思っても見なかった。
思い返せば日本にいた頃は俺の隣にはいつも愛梨がいたし、こっちに来てからはウィオがいた。いつも隣に大事な人がいるのが当たり前だった俺が安倉の野郎に奈落へと突き落とされ、ウィオと出会うまでの間は一人だったが生きるのに必死だった俺は寂しさを感じているだけの余裕は無かった。
しかしウィオと出会い、共に奈落から脱出し一緒の時間をすごしている内にウィオが愛梨と同じぐらい大事な存在になっていた。
そんなウィオと仕方ないとはいえ離れているのだ、寂しくないわけが無い。
「はぁ~~……ん?」
空を飛びながら盛大に深いため息を吐く俺の眼下に小さな村らしきものが映る、がなにやら様子がおかしい。高度が高すぎてよく見えないが村の入り口らしきところになにやら人が集まっているようだ。
急いではいるが気になってしまったものは仕方ない。俺は高度を下げ徐々に村へと近づいていく。
高度が下がるにつれてはっきりと村の様子が見えてくる。粗末な柵で囲まれた村の入り口には約十人ほどの村の男と思われる者達がそれぞれ粗末な剣や鍬などの農具を持って自分達の三倍以上のゴブリンと戦っていた。
すでに息絶えたゴブリンも何体かいるがそれでもゴブリンの数は依然村の男達よりも多い。それどころか人海戦術ならぬゴブ海戦術で押し寄せてくるゴブリン達によって村の男達も怪我を負っているものが多数いる。いくら村の入り口で戦える人数を限定しているといっても未だ死者が出ていないのが不思議なくらいだ。
それでも村の男達が逃げ出さないのは背後にいる者たちのためだろう。
村の中心近くにある周囲の家々よりも大きな建物、その窓から不安そうに顔を覗かせているのは村の非戦闘員、つまりは女子供&老人達だ。
もし村の入り口で戦っている男達が逃げ出せば間違いなく老人は殺され女は子供でも犯され孕まされるだろう。オークがガチホモだったのとは違いこの世界のゴブリンはファンタジーのテンプレの通りに多種族、主に人型の女性を襲い繁殖するのだ。
だから男達は逃げ出さない。何よりも大切な家族を守るために。
「流石に見捨てるのは後味が悪いか……。まあ情報収集だと思えばいいか」
俺は高度を更に落としゴブリンの群れへと一気に急降下していく。
「さあゴブリンども、ウィオがいない寂しさを紛らわす糧になってもらうぞ!」
軍事帝国【ケルトミナンド】の端に位置する小さな村、その名をクラカ村という。何の変哲も無い小さな村故に村の若い男達のほとんどは冒険者など一攫千金を夢見て帝国の首都へと行ってしまい、村には十代後半から二十台後半の世代の男がほとんどいなかった。
そんな過疎化している村へと今ゴブリンの群れが襲いかかっていた。
「クソっ! このままじゃ押し切られるぞ!」
「んなこたぁ分かってる! だけどあっちのが数が多いんだ、しょうがないだろ!」
「うるせぇぞお前ら! くっちゃべってねぇで一匹でも多くゴブリンを殺せ!」
「言われなくても――ぐぁっ!」
「「ボルス!!」」
手に持った鉈をゴブリンの頭へとたたきつけようとしたボルスの右肩に矢が突き刺さる。思わず呻き声を上げて蹲るボルスの穴を埋めようと更に奮戦する男達だがその顔には疲労の色が濃く表れていた。
そもそもゴブリン自体は脅威度Fの魔物である。冒険者ではない武器を持った成人男性がなんとか倒せるレベルの魔物ではあるのだがいかんせん今回のゴブリンは数が多い。それに加えゴブリンの群れの中に一体だけ粗末だが弓を装備しているゴブリンアーチャーがいる。脅威度F+の魔物の遠距離攻撃に遠距離攻撃の出来ない村の男達は苦戦を強いられていた。
しかも村人達の中でまともな武器を持っておらず、一番上等なもので錆びた剣である。他の者は鉈や鋤、鍬を手に戦っており、怪我人はいれども死者を出さずに持ち堪えていられるのが奇跡に近かった。
しかしそれももう長くは続かない。村の男達は慣れない戦いに疲労が色濃く、逆にゴブリン達は魔物故か疲労があまり見えない。
村の守りが突破され女達がゴブリン達に陵辱され繁殖用の苗床にされるのは時間の問題であった。
……今この瞬間までは。
「お前ら退けぇーー!!」
突如修羅場に村の誰のものでもない大声が響き渡る。
「誰だ! 何処から聞こえてくる!?」
「知るかよ! んなことよりもゴブリンを殺せ!」
「おい見ろ上だ! 上から誰か降ってくるぞ!!」
「どうするんだよ!」
「何処の誰だか知らんが戦力にはなるだろう。村にゴブリン共を入れない程度に一旦下がるぞ!」
「「「「おう!!」」」」
一人冷静さを保っていた男の指示で混戦状態になりつつあった常態から村の男達は村の入り口を固めるように下がった。ゴブリン達は下がった男達を見てこれ幸いと更に攻勢に出ようとする。上から降ってくる一人の男の存在に気づかないまま。
融もどっぷりとウィオの可愛さにやられていますね。まあ、出会った時からですが……。




