32話 そしてギルドで聞き耳を
昨晩アナスタシアさんと別れた(一方的にアナスタシアさんが要件告げて去ったとも言う)俺達は【小鳥の止まり木】へと帰り、入浴を済ませた後プリティーさんの作った晩御飯に舌鼓を打ちその後いろいろあって疲れていた俺達は早々に就寝した。
そして朝になり目を覚ました俺とウィオは朝食を済ませると二人でギルドの前までやってきたのだ。正直気は進まないが手を貸してくれてたわけではあるわけだし無視するのも気が引ける。
「よし、それじゃあ行くか」
神妙な面持ちで頷くウィオ。どうやらまだアナスタシアさんへの警戒心が取れていないらしい。まああんな威力の魔法をいきなりブッぱしてくればそりゃあ警戒もするか。
ギルドの扉を開き中へと入っていく。早朝ってわけでもないが掲示板の前には多くの冒険者達で溢れかえっている。自分達の力量に合わせて報酬の良いクエストを選ぶ者、修行のためとやや難易度の高いクエストを選ぶ者など様々だ。
そんなクエスト争奪戦をしていた彼等彼女等だが、俺とウィオがギルドに入った途端ほとんどの視線が俺達へと向いた。
「おい、あれが噂のルーキーか? あんまり強そうには見えないな」
「いや、確かに一見するとあまり強そうには見えないがDランクのノポンを一撃で沈めるだけの力はある。あいつは素行は悪いがこの街のDランクの中でも上位の実力者だ」
「マジかよ!?」
「ああ、それも武器もなしに拳だけだ。それだけでノポンの軽鎧の金属板を砕いたんだ」
「金属板を素手で!? あいつの拳は金属か何かでできてんのか?」
「恐らく何らかのスキルを持っているんだろう。【硬化】、もしくは【鉄拳】あたりか……。【硬化】は文字通り体を硬くするスキルだが金属を砕けるのかどうかは微妙だ。【鉄拳】は拳に鉄の強度を与えるスキルだ。だけど鉄と化した拳で殴るよりも剣で斬った方が相手に致命傷を与えやすいから使ってる奴はほとんど見た事が無いな」
そりゃそうだ。拳に鉄の強度を与えるメリットなんか精々武器がなくなっても戦闘を継続できるとか手数の多さぐらいなものだろう。それに引き換えリーチが短くなるとか攻撃力が剣等に比べて落ちると言うデメリットがある。だから拳を主体にして戦うなんざよっぽどのアホかクロスレンジで戦えるスキルに恵まれた奴だけだろう。
「それでルーキーが強いのは分かったんだが……隣の小さい女の子は?」
「あの子はウィオちゃんだ。まだ小さく幼いが天使の様な愛らしさを持っている事と貴重な治癒師で有名になりつつある」
「まああと十年もすればかなりいい女になりそうだが……」
「ああ、間違っても手を出そうとするなよ?」
「なんでさ」
「ウィオちゃんには現在ファンクラブが結成されている。しかもファンクラブのメンバーはそのほとんどが女性冒険者で占められているんだ」
「それで?」
「周りをよく見てみろ。何人かいる女性冒険者がウィオちゃんを見ているだろう? あいつらは全員ファンクラブのメンバーだ」
「ほんとだ……全員が慈しむ様な目で――ってげぇ!? あいつAランクの“鉄血聖母”アイリスじゃねぇか! それにあそこには同じくAランクの“魔弾”リリアーナ、あっちにゃBランクパーティー“紅蓮の翼”が全員……!?」
確かに周りを見ると男性冒険者に混じってちらほら見かける女性冒険者が全員こっちを――いや、ウィオを見ている。てかアイリスさんAランクの冒険者だったのか……。しかも二つ名が“鉄血聖母”て……一体何したらそんな名前がつくんだか……。あ、こっちに手ぇ振ってる。それにあっちにいる“魔弾”って呼ばれてるらしいリリアーナさんって人はどうやらエルフみたいだ。全体的にスレンダーな体つきに加えて耳がヒューマンのそれと違って少し長く尖ってる。そんであっちにいる“紅蓮の翼”は全員が女性冒険者で構成されている六人パーティーみたいだ。それぞれ種族、職業が違うらしいが全員装備の一つに赤い翼のシンボルがつけられている。
それ以外にも大勢の女性冒険者(一部男性冒険者)で結成されたファンクラブか……、まだこの街に来て一週間と経っていないのにこんなにも多くのファンを集めるとは……、ウィオの可愛さ恐るべしってとこだな。
「わかったか? もしウィオちゃんに手を出そうとしようもんならルーキーもそうだがその前にあいつらが黙っちゃいない。死にたくなかったらやめとけ。実際に企てた奴が一人ボロ雑巾みたいにされた挙句街の外に全裸で放り出されてたから」
「ああ、そうする……」
「そうしろそうしろ。企てただけでボロ雑巾だ、ほんとに手を出したら待っているのはよくて社会的な死で最悪物理的な死だからな」
なにそれ怖い。まあウィオに手を出す不埒者には死あるのみ。
「? どうしたんですか融お兄さん」
「ん? ああいやなんでもないよ。早いとこアナスタシアさんの所に行くとするか」
「はい!」
まぶしい笑顔を向けてくるウィオと手を繋ぎ俺達はリコレットさんのいる受付カウンターへと向かう。道中女性冒険者達からは生暖かい目で見守るように、男性冒険者達からは嫉妬の視線を向けられていたことは語るまでも無いだろう。
「おはようございますリコレットさん。アナスタシアさんいますか?」
「あ、おはようございますユウさん。話はギルドマスターから聞いています。こちらへどうぞ」
受付業務を他の受付嬢と交代し受付カウンターから出てきたリコレットさんと一緒に俺達は冒険者ギルドの四階にあるギルドマスターの執務室へと向かう。
「そういえばリコレットさんはアナスタシアさんが俺達にやらせたいクエストの事って何か聞いてます?」
「すいません、私もユウさんに受けてもらいたいクエストがあるからギルドに来次第執務室へ通すようにとしか聞いていないんですよ。ただ……」
「ただ?」
「いえ、これは冒険者ギルドの職員としての情報であまり話すのは褒められた行為じゃないのですが……多分係わりがあると思うんですよね」
「というと?」
言いよどむリコレットさんの表情に正直嫌な予感しかしないのは俺だけじゃないはず。現にウィオも固唾を呑んでリコレットさんの言葉を待っている。
「この世界にはヒューマンが治める国が四つ、何人かの魔王が治める国が複数存在してその全てに冒険者ギルドの支部があるんです。ただ……最近ヒューマンが治める四つの国の内【ケルドミナンド】の冒険者ギルドとの連絡が途絶えたんです」
リコレットさんの表情からもよく分かる。予想以上に逼迫した事態になっているらしい。
そんなシリアス全開の重い空気の中俺達はアナスタシアさんの執務室の前へとたどり着いた。
ウィオの天元突破した可愛さにトレイズの街ではすでにファンクラブが結成されているようです。ウィオ恐ろしい子!




