27話 そしてスキルの習得を
絶対に怒らせていはいけない人リストにプリティーさんを書き記した翌日、俺達は冒険者ギルドにやってきていたのだが……正直言って眠い……。
あの後食事を済ませ部屋へと戻った俺とウィオ。腹も落ち着いてそろそろ寝ようとなった時問題は起こった。部屋にはベッドが一つしかなかったのだ。
【ここが私の部屋】で空間を上書きする前はベッドがちゃんと二つあったのだが、上書きした現在ベッドは天蓋付きのキングサイズのベッドが一つきりだ。
ウィオは一緒に寝ようと言って来たのだがウィオみたいな天使のように可愛い……いや天使以上に可愛いウィオと一緒に寝るなんて俺の理性崩壊一直線なのは間違いない。俺の理性は脆いのだ。
俺はソファーで寝ると言って辞退しようとしたのだが……はい、上目遣いで俺の服の裾を掴むウィオの懇願には勝てませんでした。
一緒にベッドに寝転がり他愛ない会話をしていると、やがて隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやら夕飯の時のプリティーさんの強烈な殺気は気絶していてもある程度精神に負担がかかったんだろうか……。
俺は可愛らしいウィオの寝顔をしばらく見つめていると段々と心臓がドキドキと早鐘を打っているのを自覚する。何かに誘われる様にウィオの寝顔へと自分の顔を近づけていき、あとちょっとで唇と唇が触れ合いそうになったところで俺はハッと我に返った。
俺は今何をしようとしていた? こんなにも俺を信用しているウィオを裏切ろうとしたのか……?
自分のしようとした事の愚かさに俺は愕然とする。そして視線をウィオから天蓋へと移すときつく目を閉じた。
心頭滅却心頭滅却! 煩悩退散煩悩退散! 俺の理性よ堅牢さを取り戻せ!
頭の中で何度も唱え続ける事しばらく、ようやく落ち着きを取り戻してきた俺の理性を更なる攻撃が襲った。
うぉっほぅ!? 何!? 何このやーらかいものは!?
左腕を包むように感じる暖かな柔らかさに俺は驚く。柔らかさの正体はやっぱりウィオだった。
コアラのように俺の左腕にしがみつき穏やかな寝息を立てている。
薄い寝巻き越しに感じるウィオの感触が俺に幸福と欲望を同時に掻き立てさせた。
よーし、ウェイト待て。頑張れ耐えろ俺の理性! 俺はやれば出来る子だ!
「んん……融お兄さん……」
ウィオの寝言が更に俺の脳髄を蕩かせようとする。すでに俺の理性壁は度重なる攻撃により崩壊寸前に陥っていた。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経!! 耐えろ俺ー! ウィオを裏切るわけにはいかんのじゃーー!!
今まで生きてきた中で最大限の誘惑に俺は必死に耐える。耐えねばならない!
抗いがたい誘惑に俺が耐え続けているといつの間にか窓の外は白み始めてきた。どうやら誘惑に耐えている内に明け方になってしまったらしい。
やった……俺は誘惑に打ち勝ったんだ……。
体を包む達成感と同時に俺は意識が遠くなっていくのを感じた。ウィオへの抗いがたい誘惑とは違った睡眠への誘惑に抗う事なく俺は意識を手放た。
という事があって俺は今非常に眠かった。ウィオに起こされようやく起きた時には太陽は天高くまで上りきっていた。
まだ眠いのを我慢しながら着替え食堂へと降りていき、プリティーさんが特別に用意してくれた朝食(時間的に昼食)を食べ冒険者ギルドへとやってのだ。
「おはようございますユウさん、ウィオちゃん。ユウさんはなんだか眠そうですね」
「おはようございますリコレットさん。いや、いろいろありまして……」
横で寝ているウィオに対する欲望と一晩中戦ってたとか言える訳が無い。
「おはようございます!」
「それで今日はクエストですか?」
「ああ、それもあるんですがその前にこれの鑑定をお願いします」
そう言ってポケットから出した風に装って【無限胃袋】から取り出したのは以前アイアンゴーレムとの戦いで手に入れたスキル石。朝食を食べている時にウィオが思い出し鑑定してもらうことにしたのだ。
「かしこまりました。それでは結果が出るまで少々お待ちください」
「わかりました。適当にクエストでも見てます」
ウィオと一緒にクエストが張られている掲示板まで移動する。昼も過ぎた時間なのでほとんどクエストが残ってない。どうやら割りのいいクエストは争奪戦によって粗方取られてしまっているらしい。
残っているのは常設討伐クエストの【ゴブリン討伐(F)】と【コボルド討伐(E)】。それと通常討伐クエストの【オーク五体討伐(D)】と【パラライズクロウラー五体討伐(D)】だけだ。
ゴブリンはこの街に来る途中に一匹倒しているがコボルドとオーク、パラライズクロウラーはまだ見た事がない。まあコボルドもオークもファンタジー系のゲームにはほぼ確実に登場するので想像に難くないがアシッドクロウラーはよく分からない。パラライズ=麻痺だから恐らく麻痺毒を吐く芋虫なんだろう。
さて、どれにするべきか……個人的にはオークなんか倒してみたいけど……ファンタジー物のお約束通り女の敵って立ち位置だったらウィオの教育に悪いしなー。ちらりとウィオを見ると高い位置にある掲示板を見ようと必死に背伸びをしていた。可愛い。
「ユウさーん! 鑑定終わりましたよー!」
背後からリコレットさんの呼ぶ声が聞こえてくる。俺は適当にクエストの紙を剥がすと結局掲示板が見れなくて残念がっていたウィオを連れてリコレットさんの下へと向かった。
「お待たせしましたユウさん、スキル石の鑑定が終わりました」
「ありがとうございます。それで結果はどうなんですか?」
「あまり大きな声で言えないのですが、このスキル石に入っていたスキルは【堅牢】です。スキル保持者の防御能力を常時上げてくれるスキルの中では最高のものになりますね。その希少性と命に関わる防御能力を引き上げてくれるスキルという事で価格で言えば最低でも大金貨一枚にはなるかと」
なるほど、防御力が上がるのはよく分かった。けどまだ俺はこの世界の貨幣の価値がわからんのだよなー。これがどれだけの値段なのかさっぱり分からん。
「ところで」
「なんでしょう」
「俺はちょっと金に疎くてな。どれだけの大金貨にどれだけの価値があるのか分からないんだが……」
「そういえばそうでしたね。では説明させてもらいます」
リコレットさんの説明によると、貨幣には種類があり、価値が低いものから銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、星金貨となっているそうだ。それぞれ上の貨幣になるためには同じ貨幣が十枚必要だとの事。つまり――
銅貨が十枚で大銅貨、大銅貨が十枚で銀貨と順繰りに上がっていく。
銅貨一枚で保存用の焼締めた硬いパンが一つ買える。日本円にしたら銅貨一枚で百円位だろう。
てことは、【堅牢】のスキル石が大金貨一枚、つまり日本円にして一千万円といったところだろう。日本にいた頃からは考えられない金額だ。
「それでこのスキル石はどうします? 売却しますか?」
どうするべきか……売ってしまえば一気に大金が手に入る。それでいろいろと揉め事が起きるかもしれないが俺には【無限胃袋】がある。そこに入れておけば盗まれる事もないだろう。
逆に売らずに使ってしまうという事もできる。まあウィオに使ってもらう事になるんだが……。
よし決めた!
「いや、ここで使っちゃいます。ウィオ」
「何ですか融お兄さん」
「このスキル石の中のスキルはウィオが覚えてくれ」
「いいんですか? これ一つで大金貨一枚になるんですよね。売ってしまった方がいいと思いますけど……」
確かに路銀がかなりの量手に入るというのは愛梨奪還に向けて大きな一歩になる。だけどそのためにウィオが怪我をするなんて事になったら俺は一生自分を許せないだろう。
「いいんだよ。ウィオが怪我する方が俺は嫌だからね」
「わかりました。ありがたく使わせてもらいますね」
俺はウィオの小さな手に青空色の球体、【堅牢】のスキル石を乗せる。そしてウィオが目を閉じその手の中のスキル石に魔力を通わせていくと徐々にスキル石の青空色が無色透明なものへと変わっていく。
やがて完全にスキル石が無色透明なものへとかわるとウィオがそっと目を開いた。
「完了です。この中に収まっていたスキルを習得する事ができました」
うん、ウィオの可愛らしい笑顔は大金貨一枚以上の価値がある。それだけでスキル石をウィオに使ってもらって良かったと思えるな。
ウィオに新たなスキルが加わりました。その名も【堅牢】、本文中の説明通り防御力が上がるスキルで最上位のスキルです。ドロ率は他のスキル石に比べて極端に低いです。
別に防御力が上がるからといってウィオのやーらかい肌が硬くなるわけではありません。そこだけは言っておきます。
私事で大変申し訳ないのですが私はこの度転職いたしました。
慣れない仕事のためしばらくの間更新速度が落ちる事が予想されますというより確実に遅れます。
出来る限り早くにあげるつもりではありますので長い目で見ていただければと思います。




