23話 そして宿屋で怪物と
ギルドを出た俺達はいつも通り手を繋ぎアナスタシアさんに教えられた道を歩いて行く。周囲の建物にはナイフやフォークが書かれている看板やベッドが書かれている看板が多い。どうやらこの辺りは宿屋や酒場、食事処等が集まっているのだろう。
まだ食事時ではない為か通りから見える飲食店の中はあまり人が入っている様子は見受けられない。中には完全にクローズ(と書かれていると思われる)の看板を出している店もあった。
いろいろな店が立ち並ぶ中、俺達はようやく目的の【小鳥の止まり木】と言う宿屋兼食事処に到着した。なんで分かったのかって? そりゃあ看板にベッドと鳥が止まっている木が描かれてるし、何より【小鳥の止まり木】って書いてある。(ってウィオが言ってた)
「他のお店に比べて大きくてきれいですね」
「そうだな。扉も大きいし汚れもほとんど見つからない。どうやらギルドマスターもいい店紹介してくれたみたいだな」
実際他の店に比べて目の前に聳え立つ店はきれいだ。店を構えている人間はよっぽどの綺麗好きかお客様へのサービス精神が旺盛なのだろう。
そんな事を考えながら俺は宿屋兼食事処【小鳥の止まり木】へと入っていった。
「ふぇ~、中もピカピカですねー」
広い店内は壁から床、天井に立ち並ぶテーブルやイスに至るまで掃除が完璧に行き届いており、新品と見紛うほどだった。
てか結構使い込まれてる備品もあるのにすごいな……。魔法があればこんな事もできるのか?
俺が素直に感心していると店の奥の方、おそらく厨房だと思われるところから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。徐々に近づいてくる足音に違和感を覚えた俺だが、その時は特に気にも留めていなかった。
やがて姿を現したのは一人のヒューマン。黒いワンピースにふりっふりのフリルが付いた純白のエプロン、短いスカートから除く脚は丸太の様に太く逞しく、長い袖は逞しい腕の所為でぱっつんぱっつんだ。てか全身がぱっつんぱっつんだ。
どっかの配管工兄弟を彷彿とさせる髭を生やしたオーガもかくやのごっつい顔は小さな子供が見たら泣いてしまうだろう。
そして角刈りの頭の頭頂部にはこれまたふりっふりのフリルたっぷりのカチューシャがちょこんと乗っているのがまた何ともシュールな光景だ。
結論から言おう、勝てる気が全く起きない怪物がそこにいる。
「あらいらっしゃい。今日のお客様はとても可愛いわね」
「ひぃっ!」
バチン! という音が聞こえてきそうなウィンクに思わず俺は悲鳴を上げた。正直弾丸の様な速度で飛んでくるハートが幻視できたのだ。いや、実際に飛んできたのかもしれない。
「わぁー、すっごく可愛いお洋服です!」
ウィオさん!?
「あら嬉しい事言ってくれるわねぇ。これ私が手作りしたのよ~。やっぱり作った服を褒められるのは嬉しいわねぇ」
目の前の怪物はほんのり赤く染めた頬に両手を当ててくねくねと動いている。筋肉モリモリの体がどうやったらあんなくねくね動けるのか疑問だが怪物ならなんの問題もないのだろう。
「ところで可愛らしいお二人はお食事? それともお泊りかしら」
「泊まる所探してたらアナスタシアさんにここを紹介されたんだが……」
「あら、シアちゃんの紹介なのね~? それなら安くしとくわよ~? そうね、一泊二食で本来一人銀貨一枚なんだけど、シアちゃんの紹介だし、それに二人ともとぉーっても可愛いから半額の大銅貨五枚でいいわよ」
この世界のお金の価値がまだ良く分かっていないから安いのか高いのか良く分からんが、安宿止まってウィオに何かあったら困るからな。まあここでは俺に何かありそうで怖いんだが……。
「まだ空いてる部屋もあるから二部屋でいいかしら?」
「ああ、それでお願い――」
「一部屋でいいです」
せっかくなので二部屋取ろうとしたがウィオは一部屋でいいと主張する。怪物さんの話では一部屋にベッドは二つあるそうなのだが、正直ウィオみたいな可愛い子と一緒の部屋で落ち着いて寝れるとは到底思えない。なので二部屋取ろうとしたのだが……。
「いや、ウィオにもプライベートな時間は必要だろ? だからここは二部屋――」
「融お兄さんは……私と一緒の部屋じゃ嫌ですか……?」
ウィオが俺の手を握ったまま少し涙の浮かんだ瞳で上目遣いで見つめてくる。
ここで一部屋なんて死んでも言えんよなー。うるうるした目で上目遣いとか反則にも程がある。それに、一人ぼっちにしないって約束したしな。
「一部屋でお願いします」
「あら仲が良いわね、お姉さんやきもち妬いちゃうわ~。私が入り込む隙はなさそうね、残念」
いや、あなたの入り込む隙なんか最初から無いですよ? 有ってたまりますか、俺はノンケなんですよ!
それと、俺の精神衛生の為お姉さん発言は聞かなかったことにします。
「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。私の名前はプリティー、この宿屋兼食事処【小鳥の止まり木】の店主、プリティーよ。気軽にプリティーちゃんって呼んでくれると嬉しいわ」
「ハハハ……ユウです。こちらこそよろしくお願いします」
「ウィオです! よろしくお願いします!」
バチコン! と飛んでくるウィンクに乾いた笑いを浮かべながら自己紹介する俺と打って変ってウィオは元気一杯だ。実に可愛らしい事この上ないが……あれか? こういった類の相手を気にするのは男だけなのか? 女の子にとっては平気なんだろうか……。
てか名前がプリティーって……絶対偽名だろ。マ○オとかゴンザレスとかって名前の方がピッタリな見た目なのに……。
「はい、よろしくお願いね。はいこれ部屋の鍵、二○五号室ね。ご飯の時間は毎日朝は七の時、夜は十九の時になってるわ。それと、この宿には宿泊客なら自由に入れるお風呂もあるから期待してくれていいわよ!」
お風呂! 異世界に来てお風呂に入れるのか! 今までは濡れた布で体を拭く程度だったから少し気になってたんだよなー。体臭とか。香水とかで誤魔化すのはやっぱ嫌だし。
そういえば昔香水が流行った理由は自分の体臭を隠す為だったってどっかで聞いた事があったようななかったような……。
まあともかくやっぱり日本人はお風呂に入りたいよね。
店内にある地球のと似た形をした時計を見れば時刻はこの世界風に言えばすでに十八の時。一風呂浴びて丁度いい時間かな。
「それじゃあウィオ、部屋に荷物置いたらお風呂行こうか」
「はい、楽しみですね! 融お兄さんの背中は私が流してあげます!」
ん? 何かウィオが嬉しい事を言ってくれたような気が……、でもここは宿屋だし混浴なんて無いはずだ。無いよね?
ウィオみたいな可愛い女の子と一緒にお風呂とか……理性が保てる自信がない。
「ちゃんと混浴もあるわよ~」
俺の心を読んだかのように背後からプリティーさんの声が飛んでくる。その言葉にウィオは更にうきうきとしながら二階へと上がっていく。
俺は断れない感たっぷりのウィオを見ながら二階へと続く階段を上がっていった。
やっぱり登場したプリティーさん。前作の人とは見た目と喋り方が違いますがやっぱり出てきました。
なんとなく連載している作品に一人はこういったキャラクターに出てきてほしいですよね。




