21話 そしてギルマスと面談を その2
「さて、とりあえず少年の件はこれでお終いだ。冒険者となる少年を私は心から歓迎するよ」
そう言って差し出された一枚のカード。そこには恐らく俺の名前と職業、冒険者としてのランクが記載されているんだろう。読めないから予想でしかないが。
「ギルドカードの説明はリコレットから受けていると思うから省かせてもらう」
「ああ、それはいいんだが……ウィオの分は?」
俺だけもらっても困るのだ。俺達は二人で冒険者登録に来たのに何で渡されるのが俺だけなんだ? まさかウィオは登録できないとかじゃないだろうな……。
「この話が終わったらちゃんと渡すから安心するといい。さてウィオ君、いやウィオラ・フェンリル嬢久方ぶりだね」
「え? あの、私あなたとは初対面の筈なのですが……」
「ああ、君が覚えていないのも無理はない。私が君と会ったのは一度だけ、それもまだ君が乳飲み子の時だからね。さて、少年も含めて改めて自己紹介をしようか。私はアナスタシア・ケツァルコアトル、【竜】の魔王だ」
へぇ~、アナスタシアさんって魔王だったのか~。それも【竜】なんていうファンタジー御用達種族の~……。うん現実逃避はこのくらいにしておこう。はいそれではみなさんご一緒に? せぇ~の~!
「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!」」」
ギルドマスターの執務室内に驚愕の叫びが木霊した。俺とウィオはともかく何故かリコレットさんまで。知らされてなかったのかな?
「ちょ、ちょっと待ってくださいギルドマスター! え? あなた魔王様だったんですか!? それも【竜】の! え? 理解が追い付いてないんですけど! え? ええええええーーー!?」
どうやら知らされてなかったみたいです。もはや自分の処理できる許容限界をあっさりと超えてしまったようだ。見てて可哀想なぐらいテンパってる。
かくいう俺も驚きの声以外が出てこない。強いとは思ってけどまさか魔王様だったなんてねぇー。てか世界中の冒険者の総元締めが【竜】の魔王様で? もし俺達を召喚したあのクソ共の所にいたら俺はこの人とも戦わないといけなかったって事? 正直勘弁願いたいんですけど……。
「はぁ、リコレット、だから私は聞かれたくないと言ったのだ。それを興味本位で首を突っ込むからこうなるんだ」
「ユウさんの事だけだと思ってたんですよー。まさかギルドマスターの正体まで話すとは思わないじゃないですか~。しかも【竜】の魔王様だなんて思いもしませんよ~」
そりゃそうだ。この世界で魔王という存在がそれぞれの種族を束ねる長という立ち位置で広く知れ渡っているとはいえ自分のとこの上司がそれだとは夢にも思わないよなー。
「まあそんな事はどうでもいい。ウィオラ嬢」
「ウィオでいいですよ。融お兄さんもそう呼んでくれますし」
「そうか? ならウィオ君、君の御父君と御母君は元気にしているかね?」
アナスタシアさんの言葉にウィオの表情が驚愕から深い悲しみへと変わっていく。どうやらこの人はウィオの両親がすでにこの世を去っている事を知らなかったらしい。
そしてアナスタシアさんはウィオの表情から何かを察したようだ。彼女自身も普段の飄々とした態度から打って変わり悲哀の色を滲ませている。
「すまない、無神経な事を聞いたようだ」
「いえ、もう両親が亡くなってから時間も経って心の整理はついています。それに今の私には融お兄さんという新しい家族がいますから」
悲しみの色を滲ませながらも俺の手を握り、俺へと微笑みを向けてくるウィオが堪らなく愛おしかった。十歳の女の子が両親と死に別れて一人ぼっちで生活してきたんだ、確かに心を整理する時間は大量にあったのだろう。でも心が整理出来たからと言って悲しみが無くなるわけじゃない、前を向いて歩けるようになるだけだ。
俺はウィオの手を握り返す。俺の手を握る小さな手をしっかりと離さない様に。
「ところでアナスタシアさんは父と母とどの様な関係だったのですか?」
「ああ、私は君の御両親と長い付き合いでね、端的に言えば友人だったのだよ。【獣】の魔王であるブラッドアクスと獣人族最強の女性であるウィスタリアは私にとって最も親しい者達だった」
「そうだったのですか。アナスタシアさん、私の両親との思い出を聞かせてくれませんか?」
「ああ、かまわないよ。あの二人の娘だ、私にとっても娘みたいなものだからね」
その後しばらくの間アナスタシアとウィオの二人が今は亡きウィオの両親の思い出話に花を咲かせていた。悲しそうだったウィオも自分の知らなかった両親の話に顔を輝かせながら聞き入っている。
アナスタシアさんもアナスタシアさんでウィオの両親の事を語る時はとても幸せそうだった。
「ねぇユウさん」
「なんですかリコレットさん」
二人が思い出話をしていると不意にリコレットさんが話しかけてきた。
「ウィオちゃんのお父様って【獣】の魔王様なんですよね?」
「そうですね」
「それで御両親は今はもう亡くなってるんですよね?」
「あんまりウィオの前で言わないで下さいよ?」
ウィオが悲しそうな顔するから。
「それはもちろんです。それでですね、御両親が亡くなってるって事は今の【獣】の魔王はもしかして……」
「もしかしなくてもウィオですね」
「ハハハ、そうですよね。ウィオちゃんが【獣】の魔王様ですよね。ハハハ……きゅう」
ぱたり
とうとうテンパるのすら超えてしまったリコレットさんが可愛い小動物みたいな鳴き声的なものを発して気を失ってしまった。もういっぱいいっぱいだったんだろうなー……。南無。
それからもウィオとアナスタシアさんは会話を続けていた。話にのめり込んだウィオはいつの間にか俺の手を離して執務机に身を乗り出している。何となく手持無沙汰になった左手を握ったり開いたりしていると不意にアナスタシアさんの笑い声が聞こえてきた。
「ウィオ君、君の騎士様がご機嫌ナナメのご様子だ。今日はもう遅いしこの辺にしておこう」
「はい! また父と母のお話し聞かせて下さいね!」
「ああ、いつでも来るといい、歓迎しよう。それとウィオ君にも渡しておかないとな」
そう言ってアナスタシアさんがウィオにもギルドカードを手渡す。受け取ったギルドカードを見てウィオが驚き小さな声をあげた。
「あの、冒険者ランクがGではなくEになっているんですが……」
あれ? 冒険者ランクはGからのスタートじゃなかったっけか? なんでまたいきなりEに……。
「それは君達の実力が冒険者ランクGなんかではもったいないと私が判断したからさ。そもそも冒険者ランクのGは街の外で魔物と戦えない子供が街中の仕事をする為のものだからね。魔物と戦うだけの力があるならFランクスタートだ。もっとも君達の実力は到底Fに収まる物じゃないからね、本当はもっと上のランクにしても良かったんだけど、やり過ぎると目立ってしまうから。それは君達も望むところではないだろう?」
「ありがとうございます、助かります」
「うん、それはよかった。そう言えば君達は宿はどうしているんだい?」
宿か……街に来てから警察に捕まってそれからすぐにギルドに来たからまだ宿屋決めてないんだよなー。
「その様子だとまだ決まっていないみたいだね。それならギルドを出て東にまっすぐ歩いていくといい。少し歩けば【小鳥の止まり木】という名の宿屋兼食事処がある。食事も美味いしサービスも行き届いててリーズナブルだ」
「ありがとうございます。行って見ますね」
「うん、私の紹介だと言ってくれれば多少は安くなるだろう。それと――」
そう言ってアナスタシアさんが冒険者達から巻き上げたお金の入った袋を投げて寄越す。キャッチしてみるとズシリとした重みが伝わってきてかなりの金額があるであろう事が窺える。
「ノポン達に勝った君達に何もないのでは悪いからね。受け取ってくれ、君達が稼いだお金だ」
別に俺が稼いだってわけでもないんだけど……まあ先立つものは必要だしありがたく受け取っておくか。
「ありがとうございます。それじゃ俺達は宿屋に行ってみます」
「また来ますね」
「ああ、いつでも大歓迎さ。気を付けていくんだよ」
手をひらひらさせるアナスタシアさんに俺とウィオは軽く頭を下げて執務室から出ていく。冒険者ギルドから出た頃にはすでに日も傾いており、随分と長い事執務室にいたらしかった。
「さて、それじゃあ今日の寝床に行きますか」
「はい、融お兄さん」
俺達は仲良く手を繋いでトレイズの街並みを歩いていく。周囲の家々から漂ってくる夕食の匂いに小腹を空かせつつ俺達は【小鳥の止まり木】という名の宿屋へと向けて歩き出した。
あ、気絶してるリコレットさんそのままにしてきたけど……大丈夫か。アナスタシアさんもいるし。
なんだかリコレットさんがだんだんダメな方向へと変わっていってる気がします……。
次回は宿屋に到着します。そこに現れたのは!?




