20話 そしてギルマスと面談を その1
訓練場を出た俺達はアナスタシアさんに連れられ冒険者ギルド四階にあるギルドマスターの執務室へとやってきた。なぜかリコレットさんも。
部屋は四階をほぼ全て使っているらしくかなり広い。ギルドマスターが執務をするための重厚な机と黒い革張りの椅子、応接用のテーブルとソファーに何やら長方形の扉っぽいものが二つついている箱。
四階故に遮る建物が無いため太陽光のよく入ってくる窓には黒いカーテンが下げられている。
全体的に華美な感じは無く実用一辺倒というのが正直な感想だ。
「さて、ようこそ私の執務室へ。早速少年とウィオ君に聞きたい事があるのだが……リコレット、なぜ君がここにいるのだ?」
さも当然とばかりに俺やウィオの横に並んでいるリコレットさんにアナスタシアさんがとうとう疑問を投げかけた。
「興味本位です!」
「…………」
胸を張ったリコレットさんの口から出た理由にアナスタシアさんが言葉を失っている。かく言う俺とウィオもポカンとした表情でリコレットさんを見つめた。
だってそうだろ? どう見てもこれから他言無用的な話をするのについて来た挙句理由が興味本位て……。
「これからする話は他の者には聞かれたくないのだけどね」
「大丈夫です! 誰にも言いませんから!」
「と、本人は言っているが……どうする?」
どうするって言われてもなー……、リコレットさんのこの調子だと部屋から追い出してもあの手この手で盗み聞きしそうだし……。隠すよりも聞かせて味方になってもらった方がいいか。
「俺は構いませんよ。ギルド職員のリコレットさんが嘘吐くとは思えませんし。ウィオは?」
「私も構いません。融お兄さんが信じるのでしたら私も信じます」
「はぁ~、分かった。リコレット、ここでの事は他言無用だ。いいね?」
「もちろんですよ!」
「もし言い触らしたりした場合は……わかってるね?」
「も、もちろんじゃないですかー。嫌だなー」
アナスタシアさんから滲み出る圧力にリコレットさんの声が震えてる。言い触らすつもりは元より無かったんだろうけど、あれだけの威圧を受けたら俺もビビルな。
まあこれでアナスタシアさん以外にも味方になりうる人ができた。忙しくて滅多にあえないであろうギルドマスターよりもギルドの受付であるリコレットさんという味方ができるのはかなり利点が大きい。
まあ触らぬ神になんとやらって立場になられる可能性もあるっちゃーあるのだが……。
「リコレット、すまないが鍵を閉めてくれ」
「了解です」
アナスタシアさんの指示にリコレットさんが素早く応じる。まあ部屋の鍵を閉めるだけなんだけど。
「オッケーですー」
「うむ」
パチン、とアナスタシアさんが指を鳴らす。俺にはアナスタシアさんが指を鳴らした以外分からなかったのだが、どうやらウィオは分かったようだ。恐らく魔法で部屋を覆って音が漏れないようにでもしたんだろう。
「さて、これでこの部屋での会話は外には漏れん。では早速聞かせてもらいたいのだが少年、君は魔物か? それともヒューマンか?」
いきなり核心突いてきたー! ちゃんと物事は順序良く話そうよ! 見てみろよ、リコレットさんなんか落ち着きなくして視線が俺とアナスタシアさんを行ったり来たりしてるじゃんか!
「い、言ってる意味が良く分からないんだが……?」
いかん……動揺し過ぎてついどもってしまった。てか何でバレたんだろう……。俺達このギルドに来てから鑑定紙なんか使ってないはずなんだけど……。
「そう警戒するな。別に魔物だったから倒そうとかそんな事は考えていない。今までの行動を見るに積極的に他人に危害を加えようとか考えている様には見えないからね。それと、もう少し感情を誤魔化す術を身に着けた方がいいな。なんでバレたんだって顔に書いてあるぞ?」
からかうような笑みを浮かべるアナスタシアさんの言葉に俺はつい自分の顔をぺたぺたと触ってみるがどうにも分からない。俺ってそんなに表情に出やすいタイプだったのか?
「わかった、話すよ。俺とウィオの身の安全は保障してくれるんだろうな」
「ああ、冒険者ギルドのギルドマスターである私の名において保障しよう」
強く頷くアナスタシアさんを見て俺は隠している事を話す事に決めた。まあ話さないとここから出してもらえそうになかったんだけど……。
「とりあえず最初の質問だけど、俺はヒューマンでもあるし魔物でもある。正確には両方が混ざった存在だ」
「それは君の持つ称号とスキルが関係しているね?」
「その通りだ。加えて言うなら俺はこの世界の住人じゃない。召喚されてこの世界にやって来た。こっちに来た当初俺は称号もスキルも持ってなくてな、色々あって奈落に落とされそこで称号とスキルが発現したんだ。俺の持つ称号は知っるだろうが【融合者】、持ってるスキルは【融合】だ。俺は奈落の底でインフィニティスライムとかって言うスライムと融合して今の存在になったんだ」
とりあえず聞かれた部分までは答えた。後は向こうがどう捉えるかだが……なんか考え込んでるな。
「少年が異世界の住人だというのはその黒髪黒目から察しがついていたがよりによってインフィニティスライムか……。少年、少年の意識は以前の君のままなんだよな?」
「ん? ああ、融合する前と同じはずだ。特に変わったって感じはないな」
「それを聞いて安心した。もし君と融合したインフィニティスライムが暴れ出すような事になったら一大事だからな」
アナスタシアさんが安堵したように溜息を吐く。恐ろしく強そうなアナスタシアさんが一大事とか言うレベルってどんだけヤバいんだろ。俺にとってはいきなり口ん中飛び込んで来て呑み込んじまったよく分からん奴ってイメージしかないんだけどなー。まあ俺が奈落で生き残れたのはあのスライムのおかげってとこもあるから感謝はしてるが……。
「なあ、どんだけヤバいんだ?」
「記録では大昔に一度だけだが、途方もなく増殖したスライムに小国が呑み込まれ消滅したとある。後に残ったのは更地になった小国の跡地だけだったそうだ」
その言葉に俺とウィオは戦慄する。だってそうだろう? 俺の中にいるのがそんな国を丸ごと呑み込んじまうような化け物だなんて言われて何も感じない方がどうかしてる。マジで意識とか持ってかれない様に気を付けないとな……。
「そんな事もありインフィニティスライムの脅威度は堂々のSランクだ」
「何なんだその脅威度って。以前ウィオがゴブリンの脅威度がFとか言ってたが良く分からないんだよな」
恐らく脅威度って言葉通りその魔物の強さを表してるんだろうけど強さの目安が良く分からないんだよな。
「魔物の脅威度はギルドの定める魔物の強さといったところだ。下はFから上はAまである。今回話題に上がっているインフィニティスライムの脅威度Sというのは規格外という事だな。因みに強さの基準だが――」
アナスタシアさんが説明してくれた脅威度の基準は結構分かり易かった。まあ俺みたいな初心者にも分かりやすいように説明してくれたんだろうけどこんな感じだ。
Fランク:冒険者ではない武器を持った成人男性一人でなんとか倒せるレベル。
Eランク:冒険者ではない武器を持った成人男性十人で少ない怪我人を出してなんとか倒せるレベル。
Dランク:冒険者ではない武器を持った成人男性五十人で多くの怪我人を出してなんとか倒せるレベル。
Cランク:冒険者ではない武器を持った成人男性百人と同等。数多くの死傷者を出してなんとか倒せるレベル。
Bランク:冒険者ではない武器を持った成人男性千人と同等。九割の死者を出してなんとか追い払えるレベル。
Aランク:冒険者ではない武器を持った成人男性百万人と同等。もはや一般人ではただの餌。
といった具合だ。特定の装備や魔法が無いと倒せない類の魔物もいるがこれはあくまでも基準だから問題はないとの事だ。若干Aランクの説明が酷いと思えなくもないがまあ戦う力を持たない一般人ではしょうがないだろう。
基本的にAランクの魔物は災害級とも呼ばれ、滅多に人里に姿を現す事はないがもし出現が確認された場合特定ランク以上の冒険者の緊急招集が掛けられるらしい。
AランクでこれなのだからSランクは推して知るべしだろう。国中のあらゆる冒険者を集め対処に当たるそうだ。そしてAランクの魔物はドラゴン等のファンタジーでは定番の最強生物が該当するらしいのだが、Sランクはその最強生物の中でもネームドと呼ばれる二つ名を持つ特に危険な個体をさす時に使うらしい。そういう意味では個体ではなく種族自体が脅威度Sランクのインフィニティスライムはまさしく規格外なのだろう。
「そんなわけで、少年が魔物でなくて本当に良かった。下手をすれば国中の冒険者の総力をもって少年を討伐しなければいけなかったからね」
「ハハハ……」
にっこりと笑うアナスタシアさんの笑顔に俺は乾いた笑いを上げるしかなかった。
いつも思います。会話回は難しいと。
そしてそろそろストックが尽きてきました……。




