24 ◆ 台風の 爪痕抉る お中元 ◆
(うぅぇえぇぇぇ……)
歪むアレクの顔。込み上げる吐き気。流れ落ちる冷や汗。重くなる頭。痙攣を起こす消化器。不快な感覚が体中を駆け巡る。
壮絶な不味さだ。しかし、『不味い』と言うわけにはいかない。
黒く不味い液体を、アレクは死に物狂いで256本飲み干す。
この黒い液体は様々な悪臭をありったけ詰め込んだのか、刻々と臭いが変化する。それも異臭が強化される方向へと。そして味も大失敗した料理こと相性の悪い素材を組み合わせてしまったような、そんな酷い味が次々に襲来するのだった。青臭い味、生臭い味、腐敗した味、カビた味、泥臭い味、エグ味、強烈な苦味……。
何も言わずにどうにか平らげ、息を切らしながら目を閉じるアレク。近くではナマケモノーが赤い箱を持ち上げで飛び跳ねている。
「アレクー♪ 見て見てー! ボクに贈り物キター♪ 早くあけよー♪」
「アレク、ぼくにも何か送られて来たよ。ねえ……アレク、大丈夫?」
アレクは椅子の背もたれに寄り掛かり、天井を仰ぎ見ている。その様子を見るや心配するアルマロン。食卓の上から声を掛ける。
「あ、ああ……どうにか……」
この光景はどういうことか。
それは狂乱の“ラ・ピミエンティーナ”から6日後、今から2日前に送られて来ていた運営からの手紙に端を発する。
『皆さん、ブエナス・タルデス♪ どきどき設定推し、どきどき教宣教師はお知らせ担当の製作者です。素晴らしいですよ、どきどき設定♪ 『胸がどきドキっ! もう、ぁあんっ!』毎日こんな具合です。
ではでは膨大な集計が終わりましたので、“ラ・ピミエンティーナ・頑張ったで賞”を発表しちゃいましょう。そうしましょう。
まずはナスー家の者を多く殺した人の順位でーす。ナスー家の自爆は含みませんよ。
第1位:【マハーラ】にお住まいのK・Iさん 3,807,945個!
第2位:【ユサベ温泉郷】にお住まいのN・Kさん 3,066,124個!
第3位:【チェスター】にお住まいのM・Rさん 2,400,897個!
皆さん、素晴らしいですね。よくぞここまで虐殺をして下さいました。いっぱい爆発させられて、ナスー家も本望でしょう。それが彼等の存在価値でしたから。
そんな皆さんには、“野菜の恨み汁”を10本差し上げまーす♪ ちゃんと『オイシイっ!』と言って飲んで下さいね。早く飲み干さないと、道具欄で自己増殖しまーす♪ 『不味い』という言葉を発すると、増える上に不味さが増強されまーす♪ 飲むと良いことがあるかもしれませんよ!?
お次は、臭いで賞! ピーマン汁を被った量順位ー♪
第1位:【ナシナ】にお住まいのK・Tさん 96,861個分
第2位:【ナシナ】にお住まいのN・Kさん 91,918個分
第3位:【ナシナ】にお住まいのS・Tさん 79,767個分
【ナシナ】は世界随一の臭い都市だったんですね。ビックリです! そんなに悪臭漂う街に育てた覚えはないんですけどね。さあ、そんな目に沁みる体臭の皆さんには……“ドゥリアーン香水”を進呈しちゃいます。これで激臭悪臭体臭もバッチリですね♪ 今後入手不可能な貴重品ですよ。せっかくなので、1000個お贈りします。
更にー、ぶつぶつが気持ち悪いで賞! 蕁麻疹だらけとなった悲惨な方々ですね。
第1位:【ミハーミ】にお住まいのR・Rさん 45,338,090ぶつぶつ
第2位:【ネルフェ】にお住まいのJ・Kさん 39,222,201ぶつぶつ
第3位:【トラッツェ】にお住まいのB・Kさん 33,556,432ぶつぶつ
ヒリヒリ痛くて痒くて熱くて、さぞや大変だったことでしょう。お見舞いとして、“万能薬”を100個もお贈りします。お大事に。
続いては、やらしいで賞。馬鈴薯の白いべとべとをぶっかけられた人だよ、ムフフ。そんな淫らなことばかりに耽って……オジさんがもっともっと掛けてあげるからね♪
第1位:【ミハーミ】住まいのI・Bさん 49,123ぬちゃぬちゃ
第2位:【ミハーミ】住まいのS・Yさん 30,879ぬちゃぬちゃ
第3位:【ミハーミ】住まいのB・Bさん 23,100ぬちゃぬちゃ
そんな君達に良い物をあげよう。さあ、“乳白色のぬるぬるとした液体”だよ。効果は使ってみてからのお楽しみだ。大事に使うんだよ。
そしてそしてー、パパエン・ノエール達に殺された回数の順位ー! パチパチ!
第1位:【バランカ】にお住まいのJ・Lさん 34回
第2位:【ネルフェ】にお住まいのG・Gさん 33回
第3位:【ロクワ】にお住まいのN・Mさん 32回
こちらは接戦ですねー。パパエン・ノエール達は1日しか出現しなかったんですが、いっぱい彼等の餌食になれて、さぞ楽しかったことでしょう♪ そんな皆さんには、“南無南無草”を差し上げます。生首の数だけ、あげちゃいますよ。これで生き返って下さい!
次、行きましょう。それは~パパエン・ノエール達に盗まれた物の数順位ー!
第1位:【ヤドゥーア】にお住まいのK・Nさん 20,050,332個!
第2位:【トラッツェ】にお住まいのO・Nさん 20,000,247個!
第3位:【ヤドゥーア】にお住まいのD・Nさん 18,553,401個!
物凄い数ですねー。私が欲しいですねー。パパエン・ノエール達を倒さなければ皆に分……戻って来て良かったですねー。そんな強欲な皆さんには、“ゴロゴロ野菜汁”を差し上げまーす♪ おいしいので是非ご賞味あれー♪ 30日間(実接続時間で)腹痛が続きまーす。飲み切らないと、これも自己増殖しまーす♪
さてさて、次は野菜達をほとんど殺さないという、今回のフィエスタの趣旨を履き違えてしまった人達でーす♪
第1位:【トラッツェ】にお住まいのA・Bさん 0個!
第2位:【ユサベ温泉郷】にお住まいのG・Nさん 0個!
第3位:【ロクワ】にお住まいのE・Cさん 1個!
1位と2位の差は、接した野菜の数です。A・Bさんは、天文学的数のナスー家と対峙しているはずなのに! どうして殺さずを貫いてしまったのか……。オジさんはそんな風に育てた覚えはないっ! ボク達、ちゃんと空気を読めるようになりましょーね?
しょうがないので、何か面白い物をきちんと差し上げます。悔しいから“野菜の恨み汁”も2本おまけしちゃいまーす♪
最後に変わりダネ、しかし素晴らしい順位でーす。いっぱい美味しく食べたで賞!
第1位:【トラッツェ】にお住まいのS・Nさん 21,645,442,980個!
第2位:【トラッツェ】にお住まいのA・Bさん 132個
第3位:【トラッツェ】にお住まいのG・Aさん 23個
1位の方が断トツですねー。そして【トラッツェ】勢、強いですねー。食べ物はやはり、ちゃんと美味しく食べるのが一番ですよねっ! 皆さん、くれぐれも“ラ・ピミエンティーナ”での野菜投げ合戦を現実で行ってはイケませんよ! 食べ物を粗末にしてはー、なりませんっ!
そんなナスー家にとって素晴らしい存在の皆さんには、“ナスー家”と何か素晴らしい物を差し上げます!
それでは、次回のフィエスタでお会いしましょう♪ どきどき~アディオス!
追伸:とっくに贈り物は届けてあるんですけどねっ♪』
本当に碌でもない物を寄越してくれたものだ。この分だとアレクに加え、ナマケモノーやアルマロンに送られて来た箱の中身も、知れたことだろう。
アレクは空き瓶256本と赤色、青色の箱を眺めながら、臭いため息をつく。
「アレク、開けてみてもいいかな……」
アルマロンが遠慮がちに尋ねて来た。もじもじと恥じ入るような声で、尻尾を抱え、自身で尾を撫でている。
(ぐ……)
アレクはその可愛さに完敗して、開けることを許諾した。
アルマロンは尻尾を振りながら、嬉しそうに赤い箱を開く。
すると、箱の中にぴったりと収まるようにして赤い箱が入っていた。暫し硬直するアルマロン。ゆっくりとアレクの方を向き、首を傾げてアレクを見る。
アレクは吐き気を堪えて内箱を開けてやると、更に箱が入っていた。
(マトリョーシカ手法かい)
臭いため息をつきながら、アレクは箱を次々に開けて行く。
13個目を開けた所で、小さな垂れ飾りが出てきた。赤いトマト型の輝石が付いている。
「何の効果だ?」
〈アプレイズ〉で簡易鑑定をしてみたところ、品名は“トマテ・ペンディエンテ”、効果は『物の劣化を永久的に防ぐ』だそうだ。
(とんでもなく、大当たりの物じゃないか?)
小振りの装飾品を、アレクは翳してはまじまじと見る。アルマロンに丁度良い大きさ故に、アレクが身に着けられるはずもない。もとより、アルマロンへ贈られて来た物を取るつもりがあろうものか。
アレクはアルマロンに“トマテ・ペンディエンテ”を着けてやる。
「良かったな、アルマロン。凄く良い物みたいだぞ」
「うん♪」
嬉しそうに尾を振り、頬に前肢を当てるアルマロン。激震の走る可愛さだった。
「アレクー♪ ボクも開けるー!」
「おう、開けてみろ」
ナマケモノーが大喜びで赤い箱を開ける。すると、こちらも箱の中に赤い箱があった。
ゆっくりと瞬きをするナマケモノー。それから、アレクの方に顔を向ける。
「どんどん開けてみろ」
アレクに促され、ナマケモノーは順に箱を開けて行く。7個目を開けた所で突然、坊ちゃん南瓜のような大きさの赤い南瓜が、びっくり箱の如く飛び出した。
反射的にアレクは宙に舞った顔入りの赤い南瓜を掴み、箱へ押し込めて蓋を閉じた。そして順に箱を箱へしまい、元通りの状態にする。更に、一番外の箱に『びっくり玉手箱』と書き、ナマケモノーに向き直る。箱がカタタタタッと少し振動しているが、アレクは無視した。治まりかけた気持ち悪さがぶり返しそうだ。
「ナマケモノー、こいつはもう開けちゃ駄目だからな。これは俺宛の贈り物だったみたいだ。お前のはこっちだよ、こっち」
そう言いながら、アレクは自身に贈られて来た赤い箱をナマケモノーに手渡す。
「はーい♪」
ナマケモノーが箱を開けると、今度は腕輪が出てきた。トマトの模様が散りばめられており、色も赤い。
「ほら、貸してみろ」
アレクはナマケモノーに装着してやる傍らで、〈アプレイズ〉にて簡易鑑定を行った。名は“トマテ・プルセーラ”、効果は『選択した対象物の数を増やせる』だった。
(これも、ある意味大当たりなんじゃないか?)
ナマケモノーが腕輪を眺めては、飛び跳ねて大喜びしている。
アレクは意を決し、もう一つの青い箱を開けてみた。蓋の下から覗くは赤い物体。艶があり、丸みを帯びている。中央に緑色のギザギザがあり……そう、20cm程のトマトっぽい物だった。
反射的に箱へ戻そうとするも顔が無いことに気付き、アレクはそのトマトをまじまじと観察する。
感触は本物のトマトそっくりであり、見た目も紛うことなきトマト。〈アプレイズ〉で簡易鑑定をしてみると、トマト型の置物であるとわかった。名は“デコ・トマテ”、効果は『住まいを清潔に保ち、ほのかなトマトの良い香りで満たす。防犯効果もある』だそうだ。
アレクは眉間に皺を寄せて首を傾げる。
(防犯効果とはなんぞや?)
前半の効果に関しては有用そうなので、住居登録をして、木造部分の居間に置くことにした。
置いた途端、家に住み着いているトマト3体とトマティーヨ3体が『仲間だー』と喜び勇んで寄って来た。さながら餌に集る鯉のようだった。
●次回は6/5(21時)の投稿です。
●今回の話で“ラ・ピミエンティーナ”関連は終了です。
内容と名前とスペイン語からお気付きの方もいると思いますが、スペインの小さな町ブニョールの祭り『ラ・トマティナ(La tomatina)=トマト祭り』から思い付いた話です。トマト祭りの由来と変遷には笑いました。




