19 ◆ 新雪に ちゃぶ台返しの 黒きシミ ◆
前回と同程度の長さです。
アルマロンとナマケモノーを獲得してからというもの、以前よりも狩りや探検の楽しみが増え、能率も上がり、≪森の遺跡≫の単独攻略も出来た。更にPTでの重宝のされ具合も上がった。
さて、今日はそんな楽しいPTでの狩りの話だ。
「アレク君、お待たせー」
【ロクワ】で人気の一角、やや味気無い色の石畳と段々に広がる噴水、花で幾何学模様を描いた道がある広場にて、うら若き燕人の女性が空よりアレクに声を掛けて来る。彼女はエルサ・コロトリーナ。レベル27の時にPTを組んで知り合ったのだが、それ以後も時々PTを組むことがあった。
「おうよ、久しぶり」
「ヤッホー♪ ヒサしぶりー?」
ナマケモノーがひょこっとアレクの影から飛び出しては、降り立ったエルサに陽気に喋り掛ける。そんな不意打ちにエルサは目を見開いて固まる。
「……ぇっ……!?」
「こらこら、ナマケモノー。そうやって初対面の人を驚かせちゃいかんで」
「えー、ダメー?」
首を傾げるナマケモノー。エルサは目をぱちくりさせるばかりで、固まったままだ。
「ほら、エルサが面食らっているだろ?」
「エルサー♪ ボク、ナマケモノー♪ 宜しくねー♪」
ぴょんと跳ねてから、エルサの手を握るナマケモノー。
「……えっと、よ、ろしく……。あ、あの、アレク君、この子は……?」
戸惑うエルサに、アレクのいたずら心が稼動し始める。
「元気で可愛いっしょ。ナマケモノこと、名前もナマケモノー」
「そ、そうじゃなくて……うーんと、獣奏士だったっけ?」
「いいや。獣使いじゃあないよ。ほらっ――」
アレクは頭上で丸くなっているアルマロンを指でちょいっと小突き、手の上に乗せてはエルサの方へ差し出す。アルマロンは餌を齧る時の姿勢で頭を掻き毟るような仕草をしている。
「わぁっ! 可愛いっ!」
「ぼくはアルマロン。宜しくね、エルサ!」
手乗りアルマロンに触れようとした手が止まり、エルサは再度目を見開いて硬直する。
「ははは。喋るシマリスに喋るナマケモノと可愛いっしょ」
「……す、凄いねっ! ええっ!? いいなあ! ペットなの?」
「いやいや、召喚霊だよ」
またもや大きく目を開けるエルサ。
アレクのいたずら心は芽吹く。
「召喚士に転職したの?」
「実は運営に履歴書を送ったら無事転職を……ではなく、召喚の適――」
「すごーいっ! 私も送ってみようかな……」
被せる様にして大きな声を上げ、更に本気で考え込み始めるエルサ。隣で頭を掻くナマケモノー。
流石にこれ以上はまずいと判断し、アレクは即座に訂正を入れる。
「いやいや、エルサ。転職の話は冗談だからね。単に魔導士だけど召喚も使えるってだけだよ」
「なあんだ、そうなんだー。アレク君も魔法以外に得意なのが見付かったんだねっ! やったねっ!」
満面の笑顔を浮かべるエルサ。脇で飛び上がって喜ぶナマケモノー。
「……エルサは何を“見付けた”の?」
「私ね、弓も得意みたいなの……じゃーん♪」
張り切って道具欄から弓を取り出すエルサ。興味津々で覗き込むナマケモノー。
お披露目してくれた弓は良い艶のある木目調で、赤みがかっている。見た目通りの木製ということなれば、ホンジュラスで作られたものだろうか。
「おっ! 凄そうな物やね、これは。素材から作って貰ったの?」
返事がてら〈アプレイズ〉で確かめてみると……推測通り、ホンジュラス・マホガニー製だった。
「そうなの! オロフィールさんに作って貰ったの!」
「そりゃあ良かった。じゃあ、狩りでの腕前も期待しちゃおうかな」
ほくほく顔で御満悦のエルサに、アレクは微笑み掛けながら答える。
(オロフィールさんって、表面上は仏頂面で通しているけど、素直で若い女の子には内心デレデレだろうからなあ……)
『ブラウニー・ベア』の武具・防具担当である、虫人族はクワガタのおじさんこと、オロフィール・シエルヴォランテのことを想い起こすアレク。鍛冶職人に成り切って職人気質の殻を被っているようだが、中身は『娘大好きべったりの父親』という感じではなかろうか。
15分程談笑していると、慌ただしく駆けて来る者が2名。お待ちかねの前衛職だ。
「すまんー」
「待たせたー」
やって来たのは熊蜂男のナハーラン・ミエールと赤鬼人の豆撒二三だ。
「初めまして。魔導士で弓使いのエルサ・コロトリーナです」
エルサはアルマロンを肩に乗せながら二人に挨拶をする。
<なっ!……可愛い感じの子じゃないか、アレクっ!>
<アレ兄っ! どうやって仲良くなったんだよ! 年下が好みだったのか!?>
ナハーランと撒二三が同時に念話を飛ばして来る。
<PTを組んだ時に知り合ってからの縁だな。ああ、そうそう、俺は近い年齢が好みだから>
息を切らしていたわけではないのだが、咳払いをしてから自己紹介をする二人。
「お、俺はナハーラン・ミエール。し、忍だ」
「侍の豆撒二三だ。ま、撒二三って呼んでくれ」
二人して口調は固く、微かに上擦った響きも混じっている。
微笑ましく二人の様子を眺め、視線をエルサに移しては左手で顎をさするアレク。
少し間をおいて、やっと二人がアルマロンとナマケモノーに気付いたようだ。そして期待通り、二人もアルマロンとナマケモノーが喋り出すや、エルサと似寄った反応を示してくれた。おかげでアレクのいたずら心は健やかに育って行く。
一行のレベルはナハーランが65、撒二三が64、エルサが61、アレクが60である。3番目の次元門迷宮である≪海岸洞窟≫は、攻略出来なくもないが……という組み合わせとレベルにつき、2番目の次元門迷宮である≪植物園≫へ行く次第となった。
「あそこって、運で変わるのがなー」
「ハズレを引くとガッカリだよな」
ナハーランと撒二三が少々陰鬱な香りを漂わせ始めるのだが……アレクとエルサにはいまいちピンと来ない。
「ねえ、ナハル君に撒二三君。ハズレって、どういうこと?お花が咲いてたり、畑に作物がいっぱいあったりじゃないの?」
ハッとした様にエルサを見る二人。
「えっ!? ハズレって、不作や気味の悪いやつだよ」
「そうそう、毒が“ぼこぼこ、わっしゃー”みたいな」
炭酸が立ち昇るように、そして勢い良く噴出して溢れ返る様子を身振りで表す撒二三。
(思い浮かべている風景に、かなり隔たりがないか……)
そういうアレクも、ナハーランや撒二三が言う光景にお目に掛かったことはない。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦って感じで行くとしようか」
アレクは一行に〈SSA〉を掛け、先へと促す。一行は通行料5,000ルブロを支払い、次元門をくぐる。
目を開けるとそこは……
雪がはらはらと舞い落ち、一面白銀の世界でいかにも寒々しい真冬――なはずが、上空には碧空が広がり、元気で朗らかな太陽が煌々と地を照らしている。
「「「「……」」」」
周囲を見渡しては、瞬きするばかりの一同。それが当然の反応だろう。
強く目を閉じてから開き、次に目を軽くこすり、そして左手で右手の甲を抓むアレク。
(……残念ながら気のせいでも、視神経や脳がイカれたわけでもないな)
「うわーい♪ 雪ユキー♪」
元気に駆け回るナマケモノー。畑に積もった雪へ体を投げ出したり、雪玉を転がして大きな大きな大きな大きな大きな…………。
(待てこらっ!)
「アレクー、出来たー♪」
屹立する灰色の影。直径30mと20mの団子こと雪だるまが聳え立っている。
(ダメやろ、それはっ!)
アレクの予想通り、直ぐに傾き始める雪だるま。徐々に視界が濃い灰色で侵食されて行き、その侵食速度は指数関数の様な伸びを示す。
ぽかんと上を見上げるナハーランと撒二三。
何故か嬉しそうなエルサ。
反射的に〈トランジション〉を唱えるアレク。
視界は一層濃さを増す。
鼓膜が張り詰め、音は飛ぶ。
呼吸は止まり、煮立つ血液。
迫る星に、霞むアレク。
ズドシャーンッ!!
大気が轟く。
巨大な雪塊が砕け散り、雪煙が舞い上がる。
瞬きするばかりのナハーランが、数秒してから声を絞り出す。
「……あ、アレ、ク……?」
何度も左右を確認する撒二三とエルサ。
「い、いねぇ、ぞ……」
「……えっと……」
3人は一斉に雪の破片が散らばる方を見る。
「こっちだよ」
後方より落ち着いた声が響く。3人が振り向くと、小袖を着た魔人の男がやれやれという様子でゆったりと歩いて来る。
「わっほほーい♪ 楽しーね、アレクー♪」
元凶の動物がどこからか跳躍して来て、アレクにガシっと飛び付く。アレクは一度目を閉じ、鼻からすーっと長く息を吐き出してから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「なあ、ナマケモノー。楽しむのもいいが、今みたいに仲間に多大な迷惑が掛かったり、巻き添えにしたりするような遊びはやっちゃいかん。敵と戦わずして、皆で呆然として全滅なんざ、笑えもしないだろ?」
「……うー、ごめんなさい」
コアラの如く足でアレクに抱き付きながら、頭を抱えて謝るナマケモノー。
「ナマケモノー、謝るのは、俺に対してよりもあっちの3人に対してだ」
アレクから離れ、きちんと3人の方を向いて頭を下げるナマケモノー。しかし、反応の鈍い3人。出来事の消化に時間が掛かっているようで、まだ動揺が収まらない様だ。
アレクは平然とせとかを取り出しては1つをナマケモノーに与え、1片を分けてアルマロンに渡し、残りは自身で食べ始める。それから3人にも手渡した。
一行は一息付いてから≪植物園≫の散策を始める。
「雲から雪が舞い落ちる普通の冬は来たことあるが、こう満天の碧空にしんしんと雪が降る不思議な光景ってのは初だな。それに――木の雪をどかしてみると、広葉樹なのに葉が付いたままとか……折れないのか?」
背丈の低い広葉樹の枝を軽く揺らすアレク。雪の覆いが外れ、青々とした葉が沢山顔を出す。まるで夏真っ盛りの樹だ。
「本当に変だよな。畑の辺りを掘ってみると――巨大しめじや巨大松茸みたいな物が生えているし……ここいら全部、キノコ畑なのか?」
リスが土を掘る様にして雪をどかすナハーラン。下から覗くは、極太で逞しいキノコ達。直径が20~50cmはある。類似している物への言及は避けるとしよう。
ナハーランと撒二三で距離を置いて5箇所掘ってみたが、何れも元気でふとましい物が剣山の様に群生しては、『こんにちは』と大仰に出迎えてくれる。
「ねえねえ、アレク君にナハル君。あそこに、雪だるまが空を飛んでいるよっ」
エルサの指し示す方に目をやると、確かに2つ重なった雪団子が、宙に浮かんでいる。
「なん……何だ? ここはよ……」
混乱しているのか、上の空という語調の撒二三。
アレクは左手で顎をさすりながら、エルサに問い掛ける。
「エルサ、弓でこの距離……72mか。サクッと当てられそうか?」
「うん、任せて」
アレクは〈コンセントレーション〉を一同に、〈コンテンプレーション〉エルサに掛ける。
エルサは闘気で矢を生成し、闘気矢を弓に番い、両手を上にあげ、すーっと引き、狙いを定め、引く。カシュッと良い音が響く。
矢は見事に雪だるまの頭部に命中し……
「うがーっ!」
何やら雪団子が怒声を発し、みるみる橙色の団子へと……いや、橙色の闘気か魔力で覆われていると表現すべきだろう、先程よりも膨張している様に見受けられる。まるでみたらし団子の様になり、猛然と此方へ向かって来る。
(“空を舞う だるまにツッコミ 怒髪天”とな……冷水でも浴びせてやるか)
血気盛んに空を翔けるみたらし団子に対し、アレクは〈アクア・アロー(4射)〉と〈フリーズ・アロー(4射)〉を放射する。ズシャッと水を被ったところに冷気が襲来し、みたらし団子は見事に凍り漬けとなる。そして放物線を描きながら雪の絨毯へと落下した。
一同が10m程先の落下地点を覗きに行くと、突っ伏す格好で無様に凍り付いたまま倒れているみたらし団子の姿があった。通常ならば5~10秒で凍り漬け状態は解除されるのだが……一向に溶ける様子がない。しかも、みたらし団子のHPは漸次減少中だ。
(おいおい、雪だるまが冷属性に弱いって……冗談で放ったのに)
「こいつ、このまま放置していれば勝手に死んでくれそうだな」
「お団子みたいで美味しそう」
楽が出来て嬉しそうな撒二三に対し、エルサはぼそっと何か言っている。蝸牛神経がしっかりと電気信号を脳へと伝えていたが、アレクは聞かなかったことにした。
1分後にみたらし団子は息絶えた。サタルーダ・クエントにおいては、初めて見る敵は倒すと名が判明するのだが、今倒した敵の名は“丸だきゅー”だそうだ。
「……なあ、あっちにも何かいるぜ、アレ兄」
撒二三が指し示す先、水平方向63m、垂直方向37mの上空には3m程の半透明な物が浮遊している。暫く眺めていると、その物体はひらひらと泳ぐ方向を此方へと舵を切った。
アレクは左眉を持ち上げ、鼻からスッと息を吐き、再度エルサに問い掛ける。
「あれも射抜いてみてくれるか?」
「うん」
同様に落ち着き払って矢を放つエルサ。
見事に矢は命中し……宙を泳いでいた物体が頭部と思わしき部分をグワッと広げ、鯉幟のような大口を開けたと思った瞬間――
――ボンッ!!
なんと、大砲の如く巨大な雪玉を発射して来た。
ズゥドォォーンッ!!
頭上3m程を風を切って大雪玉が通過し、涼しい風を4人にもたらす。
少しして2発目が飛来するも、精度は悪い様で誰にも命中しなかった。しかしながら、喰らうと大変なことになりそうな音に変わりない。
アレクは〈テレポート〉でほぼ敵の真下まで転移し、直ぐ様〈ストーン・アロー(4射)〉を放つ。石化して重力に身を任せた敵は、地に落ちて体の一部が割れる。雪の浅い部分だったようだ。
見た目は……クリオネだろうか。ひとまず石化が解ける前に、アレクは〈グラビティ・ショット(6弾)〉、〈グラビティ・ブラスト〉、〈エレクトロ・ネスト〉を重ねる……ものの、どれも然程通らず、倒すには至らない。
(……まさかね……)
試しに〈フリーズ・アロー(4射)〉を至近距離からぶち込んでみると、見事に倒せた。信じ難いことに、通常の5倍以上の威力になっていた。
ちなみに今の敵の名は“エノイルク”という。
その後も“丸だきゅー”や“エノイルク”が度々出現し、それらを冷属性の魔法で倒して行く。幸運なことに皆が冷属性の攻撃魔法を使えるため、非常に殲滅するのは容易い上に、MPやSPの消耗が誰かに偏らずに済んでいる。
「行けども行けども一面雪っ! 敵も雪っぽいのしか見当たらないって、飽きて来たな」
ナハーランがうんざりし始める。
≪植物園≫では様々な農作物や草花、樹木等の収穫が見込める、少し変わった迷宮なのだが……冬景色ともなれば、何も収穫は出来ないようだ。雪の下にいるキノコの類にしろ、掘り起こしてはみたものの道具欄に収納されることは無かったし、生えている広葉樹にしろ、収穫出来るものは一切無かった。
敵にしろ、現在のところ“丸だきゅー”と“エノイルク”しか見掛けなかった。
そのまま中間地点である“休憩所こと庭園”に辿り着いてしまう。
一行はアレクから燻製肉や柑橘類を貰いながら一休みする。
「なあ、アレ兄。アル……シマリスの召喚“霊”は疲労に関する支援系として凄いけど、そっちのナマケモノの技って何?」
「そうだな、それ気になるぜ。さっきの巨大雪だるまを作る怪力具合と言い、凄そうだなっ!」
撒二三の言葉に、ナハーランが興奮した様子で乗っかる。
肩の上で金柑を齧っているアルマロンを撫でながら、アレクは答える。
「シマリスの召喚獣の名はアルマロンな。それでナマケモノーの技だが――」
「ボクっ、ナマケルゾー♪」
アレクの言葉に被せ、隣のナマケモノーが手を挙げて元気良く答える。しかし、その意味を掴みかねて3人は首を傾げる。
「ナマケモノーちゃん……『怠けるぞー』って宣言されても……」
「あ、ああ……そうだぜ。あんだけ力持ちなんだから、敵をぶん殴ったり、重い物を投げ付けたりとか出来るんだろ?」
「ボクっ、〈ナマケルゾー〉でしか攻撃出来ないよっ♪」
嬉しそうに飛び跳ねて返事をするナマケモノー。
(やはりそうか……)
「おいおい、ぐーたらしないで何かやってくれよ」
「ボクっ、ナマケルゾー♪ わほーいっ♪」
撒二三の言葉に、ナマケモノーは後方2回転5回捻りの跳躍と共に返事をする。
会話にならずに口を噤む3人。
アレクはナマケモノーを抱えて撫でつつ、ナマケモノーに代わりきちんと3人にナマケモノーの技と効果、そして普段の能力を説明した。
アレクの腕の中でナマケモノーは『ボクっ、役立ちモノー♪ エヘン♪』と自慢気だったのだが、3人は微妙な表情を浮かべていた。
“庭園”を出て後半部はというと……
やはり地上は一面銀世界、しかし空は茜色に染まっていた。しかも、今度は地上から雪が空へ舞い上がっている。此方は一層不思議な世界だった。
開いた口が塞がらない撒二三とナハーラン。その場で立ち尽くしている。
「重力が反転しているわけでもないのにな……」
「か、考えるのは、もう止そうぜ」
「アレクー、楽しいのがいるー♪」
何かに気付いたナマケモノーが軽快に飛び出して行き、転移したような速度で130m程地を滑って行った。そして遠くから楽しげな叫び声が発せられる。
「わーい♪ アレクー、カワイーよー」
雪の塊4体がナマケモノーに襲い掛かっているが、ナマケモノーは造作も無く、流麗に避け続ける。
およそ20m迄近付いてみると、その雪の塊は大きさが約20cm、うさぎの形をしていた。
(確かに! ぱっと見は可愛いかも!?)
何かが間近まで行くことを踏み止まらせたが、アレクの心中は雪うさぎに近寄りたい衝動が荒れ狂っていた。
「……アレク、あのうさぎは結構凶暴だと思うけど」
耳元のアルマロンに釘を刺されてしまうアレク。
苦笑いを浮かべながら〈スパーク・ショット(6弾)〉を放ち、見事にちょこまかと動く雪うさぎに命中させる。やや不自然な力み具合の表情で〈テレポート〉を発動し、痺れている雪うさぎの傍まで行く。屈み込んで何かをしたかと思うと……〈フリーズ・ブラスト〉、〈アイス・ウェーブ〉を放って4体の雪ウサギを殲滅した。
「どうしたの? アレク君」
「雪うさぎ達の出来栄えを間近で確認したが、微妙だったな……」
どうやらアレクの眼鏡に適う造形ではなかったようだ。因みに今の敵の名は“うさ雪”である。
更に歩を進めると、雪の丘や瘤、複雑なすべり台、遊具の類が出現する。さながら公園のようだ。
「わーい♪ 楽しそー♪ お友達もいっぱーい♪」
(友達……そりゃ敵やがな)
肩の上のアルマロンが素早く詳細を追加する。
「アレク、2種類の敵が計18体いるよ」
手前から――雪の丘の上にペンギンが3体、瘤の辺りに“うさ雪”が5体、すべり台付近にペンギンが6体、簡易基地のような遊具に“うさ雪”が4体いるようだ。
「そこまで判るのか……凄いな……」
ナハーランは驚きを禁じ得ない様子だ。撒二三、エルサも瞠目している。
「……それにしても、18体か……多いな」
それぞれの物の位置はそこまで離れていないために、戦闘になった際は18体全てを同時に相手取ることになり兼ねない。
「やっほほーい♪」
ナハーランや撒二三が真剣に考えるのを余所に、ナマケモノーが飛び出して行く。
「ちょっ――」
「待っ――」
焦る二人に対し、暢気に構えるアレク。それを見て困惑するエルサ。
「アレ兄っ! あいつを止めてくれよっ! このままじゃあ……」
「このままじゃあ?――しっかり囮役を買って出ている様だが」
アレクの指摘に撒二三とナハーランがハッと振り向くと、確かにナマケモノーがすべり台付近のペンギン6体、遊具近辺の“うさ雪”4体を引連れて鬼ごっこをやっている。ペンギンの投じた雪玉の剛速球が数多飛び交っている辺り、ただの鬼ごっこには見えないが……。
「さて、今の内に手前の丘と瘤の所にいるやつ等を倒してしまおうか」
アレクの言葉を皮切りに、4人は一斉に〈フリーズ・アロー〉、〈スノー・ボール〉、〈フリーズ・ブラスト〉、〈アイス・ウェーブ〉でペンギン3体、“うさ雪”5体を撃滅して行く。
そして、遮二無二ナマケモノーを追う敵達を後方や側面から不意打ちを喰らわせてどんどん数を減らし、誰も傷を負うことなく、いとも簡単に殲滅出来てしまった。
「オモシロかったねー♪ ボク、一回も捕まらなかったー!」
ぴょんっと軽快にアレクの胸に抱き付くナマケモノー。
「よくやったな! 楽しく遊んで囮役をやるとは、凄いじゃないか」
「エヘヘー♪」
嬉しそうに頬擦りをするナマケモノーを、アレクは優しく撫でる。
<アレ兄……子供を手玉に取るの、巧いんだな……>
<そうか?>
更に先へ進むと、段々と雪の造形物が芸術的に、そして建築的な構造物へと変貌して行く。
捩れた幾何学形の輪や、抽象表現の造形物、樹木の家や軍艦など、どうやって支えているのか不明な物まであった。
当然ながら造形物の付近にはペンギンこと“ステピデーユ”、“うさ雪”が潜んでいる。これも当たり前の話だが、造形物に攻撃を加え続けると倒壊し、立ち居地が悪いと下敷きにされる。
「ねえ、新しいカワイイ感じの動物がいるよ」
(――何っ!?)
雷光の如くエルサの言葉に反応し、アレクはそちらに視線を向ける。
今度は幼齢のアザラシだろう。大きさは50cm程で、乳白色のもこもこの毛で覆われているかに見える。目を凝らして見ると、乳白色の地に白色で雪の結晶のような模様となっているようだ。
(可愛い感じでもあるが、それより……あの毛に見える物は……何かの結晶かっ!?)
“動物”としてよりも、その造形や出来栄えに興味を抱くアレク。またもやアルマロンに忠告されてしまう。
「……危険だと判っていても、近付くの?」
「……どうしても気になるから、な……。皆はここで待っていてくれ」
アレクはアルマロンとナマケモノーを3人に預け、颯爽と1体のアザラシっぽいものへと接近する。
17m程迄近付いた所でアザラシがバタバタともぞつき始めた。15m迄近付き、それに向けて〈スパーク・ショット(6弾)〉を放とうとした刹那、地が大きく揺れた。
目を見開くアレク。
放った〈スパーク・ショット(6弾)〉が雪に掻き消される。
雪原が勢いよく隆起する。
アレクは即座に〈トランジション〉を放つ。
一層盛り上がる雪。
雪は大波となり、アレクを襲う。
勢い止まぬ雪は辺り一帯、約200m四方に渡り飲み込んで行った。
「……えーっと……アレ兄?」
様変わりした風景に、瞬きをしながら撒二三が呟く。
撒二三、ナハーラン、エルサ、アルマロン、ナマケモノーは〈トランジション〉で被害の及ばぬ所、400m手間まで転送されていた。
そこへ一行にアレクからの念話が届く。
<死んでしもうた……>
暫し沈黙する3人。
矢庭にナマケモノーが荒れた雪原へと駆け出し、アルマロンはエルサの肩に乗り、話し掛ける。
「エルサ、アレクの蘇生をお願い」
「……う、うん、わかった」
動揺しながらも、エルサはアルマロンに頷く。
その間、ナマケモノーはフェレットの如く猛然と雪を掘って行く。死体となったアレクを掘り起こし、持ち上げたまま転移したようにして3人の元へ戻って来る。
エルサが〈リヴァイブ〉を唱え、アレクは蘇る。
「いやー、すまん。あいつは17~18m以内に近付いたらイカンようだ」
(にしても、雪か?――それであそこまで“毛”の質感を表現しているとは、凄いだろ!)
先程のアザラシはどこかへ去ってしまったようなので、一行は暫しその場で小休止を取る。蘇生したアレクのHP・MP・OP・SP残量が、2割弱であるというのもその理由だった。
その後、アザラシの敵こと“あざらし雪”が出現した際には、30m程の位置から〈フリーズ・アロー〉を放って地道に削る戦法で対処して行き、ようやっとボスの手前へとやって来た。
「よしっ! 行くぞ」
気合を漲らせて駆け出す一同。直径約80m、深さ約20mの窪地へと坂道を伝って下りて行く。
降り立った先には……
何もいない。
一帯を隈なく走り回って探るも、何もいなければ宙から湧いて出現もしない。ナハーランとエルサは首を捻る。
「えーっと、どういうこと?」
「さ、さあ……?」
アレクは顎をさすり、撒二三はやや俯いている。やがて二人は顔をちらっと見合わせると、アレクが口を開いた。
「もしかするとなんだが……冬景色の時は、ボスが出現しないんじゃないかな……」
「はあっ!?」
目を瞬くナハーラン。
「落ち着けよ、ナハル。俺も前にボスがいなかったことがあるんだよ。その時は……確か冬だったはず。アレ兄もそうなんでしょ?」
「まさしく。俺の時は『豊穣の園:冬』だったんだが、雪蔵野菜を収穫出来たのは良いものの、ボスはいなかった」
そうして、一行は少し物悲しい気分で≪植物園≫を後にする。出る時に判明することなのだが……
今回は『不思議の園:冬』だった。
どうにも悔しいために、一行は再入場する。
澄み渡る空に、畑には豊かに実った作物の数々。収穫を楽しみつつ意気揚々と攻略すると、今度は『普通の園:秋』であった。
気分良く岐路に着いた一同だが……
〈リターン〉で【ロクワ】へ戻ると、街が騒然となっていた――。
次回の投稿は5/26(21時)です。




