18 ◆ カサカサと 蠢く影の 蓼食わん! ◆
●虫が嫌いな方へ●
前半部の敵の描写に関しては、絵を想像せずにさらりと読み飛ばして下さい。
本日は少し長いです。
迷うことなく連れ帰ったシマリスであるが、なんと、召喚霊もとい召喚獣だった。アレクにとっては、そんなことはどちらでも良いことのようだ――超絶的な可愛いさ故に。そうはいうものの、可愛い旅の伴が役立ってくれるというのならば、無論大歓迎であるアレク。好物はレモン栗、メロン栗と数多く集めるには稀少性の高い物であるが、それしきは苦にも思わぬ様子だ。
さて、シマリスの名前であるアルマロンだが、アルの由来は判らないが、マロンは栗好きと栗の渋皮の様な濃い茶色と実のような淡い栗色の体毛が由来だろうか。
ここで召喚欄に記載されていた、幻獣アルマロンの説明を記しておこう。
【召喚獣】アルマロン(幻獣)
獲得特典(PT含む):持久力・SP成長率上昇・休憩時の自動回復率上昇
技名:SSA
効果:味方(1度に6名まで)の持久力が少し上がり疲労が軽減される
また疲労による能力の低下も軽減させる
継続時間:10分ほど
対象数制限:24名 (重ね掛け不可)
再使用時間:30分 (4連発まで可能)
最低消費MP:57 ・ 最低消費SP:102
技名:SSB
効果:味方(1~12名)の疲労が結構回復する
再使用時間:15分
最低消費MP:81 ・ 最低消費SP:19
そういえばナマケモノーはと言うと、アルマロンにめろめろのアレクに愛想を尽かすどころか、一緒になって楽しんでいる。ペットは飼い主に似るとでも言うのだろうか、短い間ながらも密に対話を重ねている結果だろうか、ナマケモノーはアレクを真似ているのやら、伝染してしまったのやら……。
ついでに、アレクがレベル42~55の間で新しく覚えた技の類を挙げておこう。
【闘気法】
〈明鏡止水〉:闇・毒属性への抵抗性が上昇する
〈泰然自若〉:集中力、巧緻性、精神力が上昇する
【魔法】
〈ウェーブ系〉攻撃魔法:自身を中心として半径8m程の範囲
(属性:火水土木冷風金雷)
〈ステップ・ヒーリング〉:徐々にHPを回復させる(1名)
〈ディトキシファイ〉:解毒する(1~4名) ※失敗することもある
〈フレイム・オーラ〉:攻撃力上昇(1~12名)
〈レコード〉:記録する
〈リファイン〉:対象物を精錬・洗練させる(=質向上) ※失敗することもある
可愛く頼もしくかわいらしいお供が2体も出来たので、アレクは今日こそ単独での≪森の遺跡≫攻略に挑むつもりだった。この時くらいは、残念アレクを押入れにしまい込んで。
アレクは自身に〈身体活性〉、〈身体強化〉、〈泰然自若〉、〈メタル・フォース〉、〈コンセントレーション〉を、皆に〈SSA〉を掛けてから、鬱蒼と生い茂る木々や植物を纏った遺跡へと、ナマケモノーとアルマロンを伴って入って行く。
建物は朽ちて所々が崩れ、そこから日の光が差し込んでいる。入り口から入ってすぐの広間にて、その差し込む光を遮る様に黒い影が蠢いている。
「アレクー♪ いるいる、ゴッキゴキー♪」
「アレク、2体いるよ」
傍らにナマケモノー、そして肩の上にいるアルマロンが敵の存在を感知し、知らせてくれる。
(どちらも感知は俺よりも早く、感度も高いかも……1体か2体かの判別が直ぐには出来なかったし)
アレクは、にゅるにゅるとした触手の沢山生えた黒光りのする、そして壁面や天井をカサカサッとすばしっこく動き回る30cm程の昆虫2体に、〈フリーズ・アロー(4射)〉、〈ストーン・アロー(4射)〉を放ち、2体を近い位置で凍結・石化させて動きを止める。走って近付きながら、アロー系の貫通特性を活かして2体に〈ブライト・アロー(4射)〉を重ね、15m程まで近付いてから〈グラビティ・ブラスト〉で止めを刺す。
(どうしてこう、気持ち悪い魔物か変な魔物が多いのかね……名前も変だし)
今の魔物の名は恐らく“G麺”。麺のような触手の沢山生えた30~40cmのゴキブリだ。近付くと、麺類を啜る時のように粘液を撒き散らしながら嬉々として飛び付いて来るので、不快で仕方がない魔物である。
ちなみに同種で“炭麺”という魔物もいるが、此方は表面の組成が炭らしく、火属性の魔法を当てると燃え出し、一層俊敏になって飛び付いて来る。しかも炭が燃えた状態で引っ付かれると、熱いことこの上ない。
困ったことに、“G麺”と“炭麺”は外見での判別が出来ない。従って、麺の生えたかさかさと動き回る黒光りする敵には、火属性魔法を放たないことが最善の方策である。
以前PTで≪森の遺跡≫を訪れた際は、前衛職の人々がものの見事ににゅるにゅるゴキちゃんに抱き着かれていた。複数の“G麺”か“炭麺”が、やや粘性のある液体を飛び散らせながら連携して壁や天井や床から飛来し、がっしり、べちょっり、にゅるりと纏わり着き、そのまま離れることなく前衛職の人に噛み付いている様は、中々に壮絶だ。
沢山生えているあんかけ麺のような触手は非常に結着力が強く、脚と触手で熱烈な抱擁をし続けてくれるそうだ。そして抱擁中は、キシャキシャと小刻みに動かし続ける口器で激しく接吻をしてくれるらしい。
そういう時は決まってアレクが、範囲を非常に狭めた《フリーズ・ブラスト》か《ストーン・ブラスト》で動きを止めて引き剥がすか、《グラビティ・ショット》で落とすかしていた。
(5体に寄り着かれていた色男もいたっけ……それに、熱い抱擁に恍惚としている奴もいたな)
“G麺”か“炭麺”を倒しつつ、何部屋か奥へと進んで行くと、次は通路に傘が浮遊している。こいつは“蝙蝠傘”。名の通り、傘型の蝙蝠である。
(こいつは無視に限るっ!)
魔法職が≪森の遺跡≫の単独攻略に梃子摺る要因の一つは、この柄が頭部で中棒が胴体、小間部が羽となっている珍妙な蝙蝠である。厄介なことに、“蝙蝠傘”はほとんどの魔法を弾いてしまうので、“魔法使い”が単独で相手をするのは非常に骨が折れる。迷宮は先が長いために、こいつ等相手にMP、SPを浪費する余裕はない。
アレクはそのまま浮遊する傘の脇を急いで突っ切る。幸いなことにこの傘は動きが遅く、やり過ごすことは容易だ。
続いて上方に敵の気配を察知し、アレクは手早く〈スパーク・ショット(6弾)〉で敵を僅かの間痺れさせ、落下して来た所に〈フリーズ・ブラスト〉、〈グラビティ・ブラスト〉を重ね、撃退する。
今倒した敵は“むかんでーっ!”。大きさ3~4mの百足だ。連なった体節を器用に用い、体を鞭のように撓らせて天井から攻撃して来るのが定石である。魔人族につき暗視が出来、また感知能力、とりわけ魔力感知に優れたアレクにおいては、“むかんでーっ!”に不意打ちを食らうようなことはなく、常にアレクが先制攻撃を仕掛けてそのまま倒してしまうのだった。それに、感知の優れたお供もいることだから、鬼に金棒だろう。
勘の鈍いPTの場合には、突然上部から叩かれて将棋倒しとなったところに、ぼとりと上に乗っかって来てくれるらしい。その後は沢山生えた足で拘束して来るなり、突いて来るなり、齧り突いて来るなり、尾の針で攻撃して来るなり、嬉しくない光景が展開される。
(デカいから気持ち悪いよな、ほんと……)
そのまま2、3体ずつ出現する敵を倒して行きつつ、順調に遺跡の奥へと進んで行く。道中の落とし穴や、矢・針、落下物等の罠や仕掛けも、尽くアレクは感知して回避する。
(こういう点に関しては、魔人族という種族か、感知能力の高さというか、勘の鋭さは有難いよな。引っ掛かることがないし)
続いては建物内にも関わらず、広間に70cm程の雲が3つ漂っているのを発見する。
(おっと、ありゃあ遠くからさっさと撃退するに限る)
「アレクー、何あれー? 室内に雲ー♪ オモシロそー♪」
「待て待てっ! 接近しちゃだめだっ、ナマケモノー!」
アレクは駆け出そうとするナマケモノーを咄嗟に掴んで制止し、20m程離れた所から〈ブライト・アロー〈4射〉〉、〈マグネティック・アロー(4射)〉、〈フリーズ・アロー(4射)〉、〈メタル・アロー(4射)〉、〈ウィンド・アロー(4射)〉、〈ファイア・アロー(4射)〉、そして〈セイクリッド・アロー(4射)〉にて3体同時に止めを刺す。
今の魔物は“雨蜘蛛”もしくは“綿蜘蛛”。近付くと、雲から30cm大の蜘蛛が延々と湧き続ける面倒な敵だ。“雨蜘蛛”の雲は魔法の通りが良く、蜘蛛は物理攻撃の通りが良い。対照的に“綿蜘蛛”の方は逆となる。
1体当たり〈アロー系〉9射程で倒せている所を見る限り、アレクの低火力振りを考慮すると3体共に“雨蜘蛛”だろう。
この敵もお近付きにはなりたくない敵である。G麺や炭麺よりも不快な姿形をしていないものの、跳ねて抱き付いて来る蜘蛛など、土下座されても願い下げだ。なにせ数が多いのだから。
(蜘蛛なんざ、身に纏いたかないっ!)
そんな安全策の攻略方法に、ナマケモノーが抗議の声を挙げる。
「エー、つまんなーい」
「俺が死んじゃうからな、ナマケモノー」
「アレクって、守りは弱いの?」
肩にいるアルマロンが、首を傾げながら問い掛けて来る。
「この間言った通り、俺は物理攻撃に滅法弱くて、1撃から4撃で大抵死んじゃうの」
「アレクー、よわーい♪」
嬉しそうに囃し立てるナマケモノー
「俺は専ら支援・回復役なんだよ、ナマケモノー」
「じゃあ、ぼく達いっぱいアレクの役に立てそうだね」
「ボク、アレクより役立ちモノー♪」
「二人とも、たっくさん期待してるぞー!」
アルマロンの鼻先を軽く撫で、そして飛び跳ねるナマケモノーを捕まえて擽るアレク。
楽しい探検は続き、敵を倒しつつもう少し奥へと歩を進めると、思ったよりも早く“中庭”に到着した。アルマロンとナマケモノーの感知能力のおかげもあって、いつもは1、2撃は貰ってしまうところを、前半は1撃も食らうことが無かった。
(こりゃー、最後まで行けそうやな)
可愛いお供と柑橘類を食べながら一休みするアレク。折角なので、暫く休んでからレモン栗やメロン栗を求めて“中庭”を散策する。
最近【トラッツェ】、【ロクワ】、ユサベ温泉郷の辺りの森をかなり捜索したのだが、方々の森で入手することが出来たのは、胡桃、栗、松の実、落花生だった。ノワゼット、ピスターシュ、アマンド、ノア・ダ・カシュ、メロン栗(5色)、レモン栗(5色)、薔薇胡桃(3色)については、この≪森の遺跡≫の“中庭”だけでしか見付けることが叶わなかった。
「アレクっ! あそこ、あそこっ♪」
レモン栗(橙)を発見し、肩の上ではしゃぐアルマロン。
「よし、直ぐに採りに行こうっ!」
可愛いアルマロンのため、気合全開で素早くレモン栗を採取するアレク。
今回は運が良いらしく、ほぼ“中庭”を一周した所で、色を問わずレモン栗:18個、メロン栗:21個、薔薇胡桃:13個も収穫出来た。
「一度にこれだけ収穫出来るのは凄いな。今日は運に恵まれているぞ、アルマロンっ!」
アレクは語り掛けつつ、左肩の上にいるアルマロンを撫でる。
そうそう、ナマケモノーはというと――
「アレクー、遊びに行ってもいいー?」
こう尋ねて来て、許可するや否や瞬きする間にどこかへ消え失せてしまった。邂逅した時もそうだったが、ナマケモノーは転移する様な速さで移動出来るようだ。最早、現在どこにいるのか判らない事態だった。
些か困惑していると、アルマロンが話し掛けて来た。
「500m以上離れると、召喚者は召喚霊の所在を把握出来なくなるよ。逆は平気だけどね」
「そりゃ、本当かっ!?」
アルマロンの口から飛び出た言葉に、アレクはとても驚く。
「うん」
肩の上のシマリスはレモン栗(黄)を齧りながら、鼻先をアレクの方に向けて答える。
(物知りな子なんだな、アルマロンって……)
「……位置を把握出来なくなったら、地道に足で探せってことだよな」
「うん。ナマケモノーが探知可能な範囲に入る迄は……」
そういうわけで、アレクとアルマロンは迷子を捜索する運びとなった。
“中庭”を探し回ること15分、ようやくナマケモノーを感知領域内に捕捉した。どうやら彼は一箇所に留まっている様子だ。はてさて、何に無我夢中となっているのやら……。
遠めからナマケモノーの姿を視認すると、何やら彼は林檎を投げている。
(何をやっとんだ、お前は)
25m程まで近付いてみると、ナマケモノーは3匹の猿と雪合戦もとい“林檎合戦”をやっている最中だった。
「あっ! アレクー♪ 楽しーよー♪ アレクもやろー♪」
20m程先から陽気に声を発しているナマケモノー。ふぅっと一息吐き、アレクは返事をする。
「ナマケモノー、楽しかろうとも食べ物を粗末にしちゃいかん」
「えー」
やや口を尖らせてアレクの方を向くナマケモノー。その間も、彼は投げつけられた林檎を全て器用に避ける。
「一緒に遊ぶならば、食べ物を粗末にしない遊びじゃないと駄目だ」
毅然たる態度のアレクに、ナマケモノーが心持しょぼくれた様子でアレクの元へ戻って来る。いつの間にか林檎の雨は止んでいる。
「ホントにボクと遊んでくれるー?」
「勿論。家に帰ったら、追い駆けっこや組み手や的当てやらの勝負をしよう」
屈んでニっと笑い掛けるアレク。
「やったー♪ 約束っ、ヤクソクー♪」
大喜びのナマケモノー、ぴょんぴょんと元気に飛び跳ねる。
「じゃあ早いとこ、この迷宮を攻略しちまおうか」
「ハイハーイ♪」
ナマケモノーはとても元気良く手を挙げて快諾、アレクにコアラの如く飛び付く。
“中庭”を後にし、地下へと進むアレクとそのお供。そこで逸早くナマケモノーがアレクに注意を促す。
「チューチューが奥にいっぱーい♪」
(おっと、後半部は俺にとっちゃあ運の悪い敵配置か……)
“チューチュー”こと“怒武鼠”は、大きさ1.2mの凶暴な鼠だ。体術に長けている武闘派にも係わらず、物理系攻撃に弱く、魔法の通りは悪い。拳闘士の如く襲い掛かって来るこの鼠は、物理紙防御のアレクにとり≪森の遺跡≫で一番の難敵である。
この通路に出現するのは歩く木の魔物かこの鼠、もしくは雲の3通りである。
「ナマケモノーにアルマロン、この通路の先の部屋にもチューチューはいそうか?」
「いなーい♪」
「きっといないと思うよ。いるのは違うの。因みに、この通路に大きな鼠は17匹、3群の塊に別れているみたいだよ」
(精度はアルマロンの方が上か、それとも……)
通路の長さは100m、幅は6m、高さは4mと通路にしては広いのだが、すばしっこくうろついているのは、体術に長けた巨大な鼠だ。
(数が多いから、戦うと確実に負けるな……よしっ)
「アルマロンにナマケモノー、ちゃんと俺にしがみ付いているんだぞ」
アレクはナマケモノーを背負い、アルマロンを頭に乗せて駆け出す。
通路の手前にいる一群の5匹は走り抜けてやり過ごし、半ばで待ち受けている一群の4匹は〈トランジション〉で通路の入り口の辺りへと転送する。そして、奥でアレクを袋叩きにしようと待ち構えている8匹がバラけて襲い掛かって来る。列車のように一列に連なった点での攻め方ではなく、積層した面での攻め方だ。
一層目の鼠達3匹をアレクから2m程まで引き付けた所で、アレクが忽然と姿を消す。攻撃目標を失い、辺りを見回す鼠達。8匹で周辺を見るも、自身の仲間達しか見当たらない。
(よしっ、巧く行った)
そっと次の広間へと進むアレク。
入ってすぐに敵の気配を感知したが、それはアルマロンの指摘通り鼠ではなかった。今度は動きの遅い歩く木の魔物だ。
(相手をするにしても、鼠に勘付かれない様、奥で戦わないとな…)
幸いにしてこの広間は広く、また所々に太い柱という視界を遮る物がある。柱を巧みに利用して、抜き足差し足ながらもススッと奥へと足早に歩を進めるアレク。
広間に5本生えている木の魔物は、注連縄のような物を巻いている。しかし、これは注連縄ではなく鉢巻だ。名は“けやんでぇいっ!”、歩く欅の魔物だ。大きさは3.5m程で、葉っぱ手裏剣や毛虫爆弾を撒き散らして来る。割と魔法に弱いのだが、結構厄介ではある。
柱の影を利用しながら広間の左側を進み、半ばにある柱まで来た所で立ち止まる。
(ここからなら、2本を倒せるな……)
アレクは12m先で屯している“けやんでぇいっ!”に魔法を放つ。まず1本目は〈フリーズ・ブラスト〉で暫し凍らせ、もう1本には〈グラビティ・ショット(6弾)〉、〈マグネティック・アロー(4射)〉、〈ストーン・ブラスト〉を手早く当てて石化させる。氷が溶けて動き出した1本目に〈メタル・アロー(4射)〉〈アクア・アロー(4射)〉を重ねる。
更に〈トゥインクル・ブラスト〉を放とうと準備をする直前に斜め後方からの気配を察知し、柱から素早く前方へ体を捻りつつ踊り出る。その左方を振り向き様に〈スパーク・ショット(3弾)〉を放ち、葉っぱ手裏剣を投擲して来た3本目を数秒だけ痺れさせる。そのまま回転しつつ巧く着地すると同時に、1、2本目へ向けて手早く〈グラビティ・ブラスト〉を命中させて2本を倒す。
即座に前方向である部屋の奥へと駆け、20m先にいる新たな2本へ向けて〈セイクリッド・アロー(4射)〉、続けて〈スパーク・ブラスト〉を当てて痺れさせ、敵の手前で跳躍し、月面宙返りで飛び越えて着地すると同時に〈アイス・ウェーブ〉を放って2本を撃滅し、直ぐに〈ストーン・アロー(4射)〉で11m程の所まで追い駆けて来ていた3本目を暫し石化させ、〈エアー・ブラスト〉、〈ホーリー・ブラスト〉を放って倒す。
(ふぅ……少しヒヤっとしたな。投げて来たのが、げじげじ爆弾じゃなくて良かったな。爆発は2m程と範囲が広く、爆風で吹き飛ばされて体勢を崩すために、食らうとその後がマズイ)
物理紙防御であるアレクにおいては、単独の場合は一撃でも食らってしまうと、命取りになることがままあるのだ。
広間の敵を殲滅したところで一息付くアレク。それまでしっかりと貼り付いて静かにしていたお供が口を開く。
「アレクって凄いんだねっ!」
「アレク、けっこー機敏モノー」
「まあな。うさ猫の体術を参考にさせて貰ったしな」
「ところでアレク、通路で攻撃が当たりそうな瞬間に、一気に広間の入り口まで移動したのはどうやったの?」
頭上のアルマロンが問い掛けて来る。
「ああ、それは〈テレポート〉って転移魔法で25m程を瞬間移動したのさ。今のところ、視認出来ている場所へならば200m先まで飛べるってわけ」
「その距離は……凄いの?」
「おうよ。最初は15m程だったのが、鍛錬の甲斐あって今に至るってもんよ」
珍しくやや得意気な口調のアレク。
「アレク、頑張りモノー♪」
「俺は結構頑張りモノーで少しちゃっかりモノーなんだぞ、ナマケモノー」
「しっかりチャッカリちょうしモノー♪」
いつの間にか背中から離れているナマケモノー。嬉しさ全開でびょんびょんに跳ね回っている。
「ナマケモノー、しっかりじゃなく、ちょっとだ、ちょっと」
「それでお茶目モノーなアレク、少しだけ休憩してから行くの?このまま先へ進むの?」
楽しそうに、しかし冷静に頭上のアルマロンが尋ねてくる。
「おっと、MPもSPまだまだあるから、先を急ごうか」
最早乾いた笑いが出そうなのだが、アレクはレベル43からHPよりもMPの方が多くなり、レベルの上昇と共にその差は開く一方だった。また、アルマロンの獲得特典もあることから、SPもそのうちHPを追い越すことだろう。最近のSPの伸び率は、MPばりに上昇しているようだった。HPの上昇は俄然亀の歩みであるのだが。
雲や木の魔物を倒しつつ、鼠は2匹以下で出現した時のみ相手をして進むこと暫く……どうにかボスの手前の広間までやって来た。
眼前には幅100m、奥行き200m、高さ15mという広大な空間が広がり……無駄に木が沢山生えている。
(……最後にこう来たか……)
元気良く生えている木は全て、もう1種類の木の魔物である“マホーがに…”。大きさは3m程で、歩行速度は“けやんでぇいっ!”よりも遅いが、物理攻撃は強力無比っ!伸縮する枝を猛然と振り払う攻撃は、この遺跡内で一番の威力を誇る。当然ながら、アレクは一撃でお陀仏出来てしまう威力だ。しかし射程は5mであり、行って来る攻撃はそれのみのため、接近しなければどうってことはない。なにせ名前の通り魔法に弱いのだから。
「なあ、アルマロン……何本生えているかな」
「118本だと思うよ」
アレクは鼻からフーッと長めに息を吐く。
アレクの火力でも〈グラビティ・ブラスト〉1発か、〈ウェーブ系〉1発と〈ボール系〉1弾、他の〈ブラスト系〉ならば2発、〈アロー系〉は7~8射分で倒せる敵だ。
“けやんでぇいっ!”の場合は〈ブラスト系〉3発と〈アロー系〉1~2射。
参考までに、他の一般的な魔導師は〈ブラスト系〉1発、もしくは〈アロー系〉3~4射で“マホーがに…”を倒せる。
(骨が折れるが、射程30~35mで貫通特性のある〈アロー系〉を主軸として倒して行くか……途中で休憩しないと、MP、SPがもたんな……)
次元門迷宮においては、倒した敵が再度湧くことはない。従って、途中で前の部屋へ退避して休み……と合間に休憩を挟んで地道に倒すことが可能となる。但し敵が追い駆けて来ない場合の話ではあるが。
小休止を挟むこと30分で無事118本を伐採し終わり、お供と赤柚子を仲良く頬張って休憩をするアレク。
やっとこさ、残るはボスのみである。
「さて、行くとするか」
ここのボスであるが、名は“ビャクダンマ”と言い、15m程の大きな樹であり、“マホーがに…”と“けやんでぇいっ!”を合わせたような魔物である。
枝で振り払う強力な物理攻撃は射程が10m、大きな葉っぱ手裏剣は射程が25m、大毛虫爆弾は射程が20mであり、大葉手裏剣と大毛虫弾は一度に大量に投下して来る。“けやんでぇいっ!”よりは足が遅く、広間も50m四方につき、位置取りに気を配りながら〈アロー系〉の魔法で戦えば、無傷で倒すことが可能だ。至って姑息で平凡、至って小ざかしく地味な戦法だ。というより、アレクの場合は無傷で倒さないと死ぬだけだ。
「ナマケモノーっ!」
「ハイハーイ♪ ナマケルゾーっ♪」
これまでの雑魚敵にはまるで効果が無かった〈ナマケルゾー〉なのだが、ボスに対してはその効果たるや如何に……。
「グゥォォォォー!」
随分と猛々しい反応だが、大葉手裏剣や大毛虫爆弾の発動速度や落下速度等は変わったようには見えない。
(……効果無しかい……っと、待った!ビャクダンマの動く速度が明らかに鈍くなっとるな。こりゃあ、容易に25m以上の距離を保てそうだな)
そういうわけで、平和に大きな毛虫や尖った大きな葉っぱの雨あられを眺めながら、地道に削って倒したアレク。『きしゃーっ♪』と不快な不協和音を発して蠢きつつ落下し、宙で、もしくは落下後に少しだけ地をもぞもぞと這いずってから爆発する多量の大きなげじげじ爆弾は、何度見ても到底好きにはなれなかった。外見はぬいぐるみっぽく可愛らしい感じにはなっているのだが、如何せん動き方と声と口が不快感を生じさせる。
大概ボスは太っ腹で、今回も稀少な木材であるジャカランダ、スネークウッド、老山白檀、ローズウッド、スウィテニアを数多く落として……いや、大盤振る舞い過ぎじゃなかろうか。それぞれ20~30個ずつある。
(ぬこ丸さんが喜びそうかな)
趣味に直走るねこオジさんを想い浮かべながら、可愛いお供と共に岐路に着くアレクであった。
●次回の投稿は5/24(21時)です。
●そういえば、アレクの初期時のHP・MP・SP・OPの値って記載していませんでした。凡その値ですが、装備補正無しで下記の想定で書いております。
【レベル1 】HP:700、 MP:300、 OP:50、 SP:200
【レベル55】HP:6000、MP:6600、OP:500、SP:4000
平均的な魔導士におけるレベル55では、HP:7300程、MP:4500、OP:200、SP:2500、前衛職だと、HP:10000~14000。
●G麺と炭麺についてですが、予め申しておきますと、筆者はラーメン等の麺類が嫌い、憎いわけではありません。好きな部類に該当します。
「万引きGメン」という言葉、遺跡が出てくる“ハム”のつく映画の一場面から、人型ゴキちゃんが万引き犯を捕まえてずるずると連れて行く様子、その引き摺る音がラーメンを啜る際の音と飛沫に誤訳されて“G麺”になってしまいました。




