17 ◆ いとしさに 爆ぜる残念 えっ、何が? ◆
さて、可愛い可愛いエゾシマリスを膨張し続ける宇宙のような規模で愛で回すために、アレクは足取り軽く颯爽と【トラッツェ】の家へと舞い戻った。連行する道中に名前はちゃんと確認しておいた。名はアルマロンだそうだ。
(さーて、シマリスだから木の実や果物とかは大好きだろうなー♪)
盛り沢山食べ物を与えてあげようと意気込むアレク。欅と一角ウサギの毛皮で作って貰った椅子に、大事そうにちょこんとアルマロンを乗せる。
(寝顔もすんごい可愛いよなー♪)
暫く起きそうにないため、アレクは採集した物や戦利品の整理、〈アプレイズ〉にて簡易の鑑定を行い「優・良・並・悪」の4段階で区分けしていく。以前は「優」が無く3段階だったことを考えると、〈アプレイズ〉の鍛錬度が上昇し、上達しているのだろう。「優・良」については鑑定後に商会で捌いて貰うか自身用に取って置き、「並・悪」については鑑定後に銀行へ売り払ってしまうことにしている。
またこれも毎度のことなのだが、迷宮攻略後は所持品類を〈クリーン〉で簡易の手入れも怠らない。〈リファイン〉も度々試しているが、現状では失敗の確率が異様に高い。というより、成功したことなぞあっただろうか。幸いなのは、失敗しても質が下がりはしないことだろう。この成功率で下がりでもしたら、堪ったものではないだろう。
また、不要そうな武具、防具は〈ディコンポーズ〉で分解することも怠らない。そのまま銀行に買い取って貰うか、素材へと分解してから銀行に買い取って貰うか、生産系の人々や“にゃんこ商会”に素材として卸すか…。どれが得かというと、一概には言えない。装飾品を分解してみたら、屑鉄や腐食した金属へと分解されることだってあるのだ。攻撃魔法、回復魔法、支援魔法でそれぞれかなり癖が違うのだ。況や生産系の魔法においてをや。一つずつ扱い方が全く違うために厄介と言える。
(こりゃー、技能を身に付けないと駄目なんじゃ?もしくは、これらの魔法を鍛錬すると技能が少しずつ身に付く?卵が先か、鶏が先なのか…)
そうこうしていると、椅子の上のアルマロンが目を覚ました。寝惚けているのか、ぽわんぽわんっと朦朧とした様子だ。アレクは愛でるために、期待に胸を破裂させて近付く。
傍まで行くと、アルマロンが頭を掻き毟るような仕草をし始める。
(うっははー♪眠くて目が閉じて行くのを、どうにか目をこすって必死に堪えている様子みたいだなー♪)
「ほんと、お前って可愛いよなー、アルマロン」
アレクは暫くアルマロンを眺め、やおら道具欄を開いてから、アルマロンに視線を戻す。
「なあ、アルマロン、お前はレモン栗以外では何が好きなんだ?」
暫し固まるアルマロン。警戒されているのかもしれない。
「め…メロン栗と、み…かん、と…ゆずと、かぼす…とか」
「お、丁度さっき沢山収穫したやつばかりだな」
(ぬっははー、予想通り木の実や果物だぜぃっ♪)
張り切ってアレクは道具欄から柑橘類、それに栗などの木の実類を取り出して、大きな食卓の上にこんもりどっさりと積み上げる。
暫し固まっていたアルマロンが、椅子から食卓の上にぴょんと軽々跳躍し、一目散にメロン模様且つメロン型の栗っぽい物に齧り付く。
(へぇ、そういう変わった栗…かな?、が大好きなのか。どれどれ…それはメロン栗か。しっかし、カリカリ、ガジガジと少しずつ食べて行く様ってのは、可愛さ爆発もんだよな♪)
余りに可愛いので、アレクはアルマロンを凝視し続ける。
そこへ、現実へと引き戻すように服を引っ張る者が現れる。
(おう…しまった、忘れとった…)
「アレクー、ボクも何か食べたい」
「ん、ああ、おう、そうか…」
(…現実のナマケモノと同じなのか?遺跡の奴みたく、こいつも甘藍とか?)
アレクは道具欄から目ぼしい物を探そうと、視線を滑らせる。
「んん?お前は何が食べられて、何が好きなんだ?」
判らないので、素直に質問してみることにしたアレク。
「ボク、果実や葉っぱが好きー!」
「ははは、えらく広い範囲だな」
(こりゃ、好きな物が多くて助かるな)
アレクは甘藍とみかんを2個ずつ取り出して、ナマケモノーに手渡す――や否や、丸ごとかぶり付いて甘藍は一つを三口で、みかんは丸飲みし、数秒で平らげるナマケモノー。
(早過ぎだっ!こいつもにゃん助やフェルサみたいな腹減り虫かっ!)
「早っ!そして豪快だな、お前は」
(あー、あいつらみたいに道具欄の食料や家の備蓄をすっからかんにしてくれる穀潰しか…。何か膨れそうな物は……おっ!そうだ!20tもあるやつがいるじゃないか)
「なあ、ナマケモノー。さっきお前が収穫してくれた、大きな赤い柚子…食べるか?」
「食ーべるー♪」
ドスンっと赤柚子をアレクの胸の高さから床に落としてみる。
(やっぱ…住居扱いの物は傷一つ付かないな。こんな重いのに…)
そうこうしていると、ナマケモノーが此方も丸ごとかぶり付いている。
「これ、すんごくオイシー♪」
(食べっ振りは豪快だし、美味しそうに食べるんだけどな……ん、香りが凄く良いな。柚子に…オレンジっぽいものも含まれているのか?)
香りに釣られ、アレクは俄然味にも興味が湧き起こる。
「ナマケモノー、その赤柚子、一口俺にも分けてくれるか?」
「うん♪はーい♪」
拳大の柚子一切れを、アレクは慎重に受け取る。
(ぐ…やっぱり重い…)
ぷるぷると震えそうになりながらも、口へと頑張って運ぶ。
「んんっ!こいつは本当に美味いぞッ!」
(最初の香りこそ柚子だが、口の中でバレンシアオレンジのような香りに変化し……って、アルマロンの凝視っぷりが半端じゃないな♪くはー、可愛いねえ。そんなに食べたいのかー。じゃあ、いっぱいあげちゃうぞー♪)
道具欄から小刀を取り出し、実を綺麗に切り分け、皿の上に櫓を組む用に綺麗に盛り付けてからアルマロンの前に持って行こう――と立ち上がったと同時に、アルマロンがみかんをぽろりと落とす。
(ぬぉー!その唖然とした感じも可愛いっ!)
「はは、そんなにお前も食べてみたかったか。だが、食べ物を粗末にしちゃあいけないな」
卓の上に落ちた齧りかけのみかんをさらっと拾い上げ、ちょんと皿の上に載せてから、アルマロンの前に差し出す。
「ほら、これはアルマロンの分だ」
一心不乱に食べ続けるアルマロンを、アレクは迸る慈しみを湛えた顔で見続けるのだった。
一角ウサギの毛皮の布団で、アルマロン、ナマケモノーと共に幸せ満開で添い寝すること1時間と少し、雲一つない空に富士山の頂から少しずつ曙色が染み出し、やがて眩い新円の光球が満天に碧空へと染め上げた光景のような清々しい気分で目覚めるアレク。アルマロンとナマケモノーは、まだもこもこの毛皮に蹲るようにして穏やかな寝息を立てている。
(むっはー♪可愛いなぁ♪)
ほくほく顔でアレクはむにむに、撫で撫でと優しく2体を“愛で回す”。
(くはー、実に良い毛並みだったー♪)
10分程楽しんだところで食事の用意に取り掛かり、作り終わる頃に2体を起こしに行った。
(さて、今日は張り切ってレモン栗とメロン栗を集めに行くかっ!!)
食べ終わり、気合も十分過ぎて溢れ返った程に充填した所で、ナマケモノーを伴って家を出ようとするアレク。当然ながら、お留守番のアルマロンへの挨拶は忘れない。
「じゃあ、レモン栗とメロン栗を探して来るから、家で留守番を頼むぞ」
微笑み掛けて暫し頭や体を優しく撫でて…撫でて…撫でるアレク。
十分程経過しただろうか。
(よしっ、そろそろ行くかっ!)
「ぼくも行くよ、アレク」
(頑張り屋さんのえらい子だなー、もう♪)
「んん、その気持ちだけで嬉しいぞー、アルマロン。でも外は危ないから、お前は待っていてくれよ。ちゃんとレモン栗とメロン栗を取って来るからな」
「あのー、アレク。ぼく戦えるよ。召喚“獣”だもん」
(小さい子供とかもこんな感じで可愛いよなー。『もう僕だって、子供じゃないもんっ!』みたいな可愛さっ♪ぬははー)
「ははは、お前は可愛くてよい子だなー♪」
するとアルマロンが顔を掻き毟る様な頭を抱える様な、可愛過ぎて発狂しそうな仕草をする。
(なんと良い反応っ♪『もう違うもん、違うもんっ!』みたいな感じやー♪)
幸せに浸っていると、ナマケモノーに“現実”へと引き戻されてしまう。
「ねえ、アレクー。この子…ボクと同じ感じ、だよー?」
(ははは、耄碌したかな、ナマケモノー。嘘はいけないんだぞ)
「ん?何を言っているんだ、ナマケモノー。お前と違って僅かに透けた感じがないだろ?アルマロンは」
アレクの返しに些か困惑するナマケモノー。
「うーん…召喚レーみたいな存在だと、思うよ?」
(んんん…こいつがそこまで言うとは…とりあえず、まずは確認してみるか)
黙って召喚霊欄を開くアレク。そこには……
(な、なんとぉっ!衝撃のじじーつっ!耄碌してんのは俺だったーっ!おう……何てこったい)
残念さが大炸裂していた分、星が爆ぜた様な衝撃を受けるアレク。
「……おう……本当だ。召喚霊の欄にアルマロンの名が載っとる。何々……“幻獣アルマロン”。あー、精霊や魔霊とは少し違うのか」
(……技は二つもあり、効果は…かなり凄いし、ずっと役に立ち続けるだろ、これは。おう、獲得特典なんてのも付帯しているのか。すんごいな。それにしても、技名の一つが〈SSA〉か……こいつはもしや……ま、まあ、楽しみは取っておくことにして、まずは尋ねるとしようか)
ほくそ笑むのを堪えるのに必死なアレク。どうやら撃沈していたのも束の間だったようで、残念さが息を吹き返したようだ。
「なあ、アルマロン。〈SSB〉の疲労回復効果の“結構”ってどれくらいなんだ?」
「4割以上だと思うよ」
「かなり効果が高いんだな。次は、発動時の範囲ってどれくらいになりそうかな?」
アルマロンは顔を掻き毟るような仕草をした。
「んー……ちょっと、判らない…」
(ぬほほー。可愛い過ぎやー)
「うん、そうかー、判らないかー。じゃあ、今度試してみようなー」
気分が良いので、むにむにとしてやろうとアルマロンに近付くアレク。
「今やってみたい」
頑張り屋さんなのか、アルマロンはとってもとっても積極的な様子だ。
(張り切ってるなー。そんな姿もすんごい可愛いなー)
「ん?味方といっても、俺しかいないだろ?それじゃあ範囲も何も判らなくないか?」
「ううん、召喚霊にも使えるよ。だから、ナマケモノーが少しずつ離れてみてくれれば、判るはずっ」
真剣に、そして可愛く訴え掛けるアルマロン。
「…それは、ナマケモノーやお前もPTの一員としてみなされるということか?」
「うーん、そんな感じかな?」
「じゃあ、ナマケモノー、少しずつ俺から離れてみてくれるか?」
「はいはーい♪任せてー」
とことこと、そして此方を気にしつつナマケモノーが少しずつ離れて行く。なんというか、『見放さないでー』、『引き止めてー』という風にも見える様子が、これまた可愛くて堪らない。
30m程離れた所で、アルマロンがナマケモノーを制止した。
「それ以上離れると、ダメだと思う」
「じゃあ、アルマロンっ、〈SSB〉だ!」
「うん、わかった!」
アルマロンは前方宙返り1回捻りをして着地をし、片手を挙げると――淡い栗色の光がふわんっとした感じで、急速に広がった。
(発動の仕草も反則的に可愛いっ!)
可愛さに気を取られて、アレクは〈SSB〉の効果が如何程なのかを計り損ねた。
「わーい。ヒローがほぼ回復したよー」
ナマケモノーがそう言って飛び跳ねる。
(そう飛び跳ねるから疲れるんだぞ…むはは、可愛いからいいかっ! いや、むしろもっとやるんだ!)
アレクの欲望はどんどん肥大していく。
「アルマロン、お前4割どころか、もっと凄いんじゃないかー」
「だってアレクからいっぱいMPとSPが流れて来たもの」
嬉しそうに答えるアルマロン。
今の消費量はMPにして101、SPにして33。効果の割りに消費量は少ないと言えようか?反応からしても、どうやらアルマロンもアレクのことを好いてはいるらしい。
(さて、お次はお楽しみの……)
「なら、次は〈SSA〉だ!アルマロン」
「任せてっ!」
アルマロンがリスパンチや、匂いを確かめるように鼻を突き出す仕草、尻尾を抱えて毛づくろいの仕草をせわしなくやり始める。すると、濃い茶色の光がふわんっとだが急速に広がる。
(こっちも超絶の可愛いさだ……)
内心では悶絶しているアレク。
メニュー画面を確認すると、持久力が2割近く上昇している。次に継続時間であるが、規定値の10分どころか、倍以上の21分と表示されている。して、消費量の方はと確認すると、MP:67、SP:124。これだけの消費量で記載されている説明の倍以上の効果を発揮するとは……。召喚霊との信頼関係というものが如何に重要な要素であるかの証左だろう、きっと。
(これは無下に扱っちゃあいけないってことか。元よりそんなつもりは毛頭ないけどな。なんと言っても、可愛いしっ!)
アレクは此方を見上げるアルマロンの鼻をそっと指で撫でた。
●次回の投稿は5/22(21時)です。
●赤柚子の感想
本文中では動物大好きアレクさんが味の感想を打ち切って、アルマロンに与えに行ってしまったので…
(アレク)
【最初の香りこそ柚子だが、口の中でバレンシアオレンジのような香りに変化し、初めの味はブラッドオレンジに近いだろう。その後マンゴーのような甘さと濃厚さが加わる感じだ】
(ナマケモノー)
【美味しーよー♪100個食べたーい】




