16 ★ ゆずの香が そよぎ包むよ ふんわりと ★
●今回と次回はほぼ同じ出来事を別の視点で書いています。
優しい気配を察知して巣から出てみると…その人物が精霊1体を伴って同族達に木の実を与えていた。
(わー、魔人だ…。大丈夫かな…)
“優しい匂い”に釣られて出て行ってみたものの、その人物は魔人族だったために、アルマロンは面食らってしまう。
(どうしようか…。連れているのは怖そうじゃない精霊だから、平気かな…)
そう逡巡していると、その魔人の男がどこからかレモン栗を取り出した。
(――!レモン栗っ♪)
アルマロンは居ても立っても居られず、抱えていたレモン栗を急いで地面に埋めると、即座に魔人の男の方へ駆ける。
……
……
……
実はそれ以後のことは、記憶が霧散してしまっている。
ふと我に返ると、この魔人の男の“巣”にいた。
(えっと…レモン栗欲しさに…)
状況を思い出せずに苦心して顔を掻き毟る様にしていると、ふと近くに気配を感じた。
「ほんと、お前って可愛いよなー、アルマロン」
なんだか温かくて幸せな空気と匂いが、アルマロンの内側から膨れ上がってくる。
(…あれ?ボク、この人と……)
暫し悩むアルマロン。名乗ってはいるようだ。しかし魔人の名前は…わからない。
(うーんと…勢いで『ついて行きたい』って言っちゃったんだっけ…。でも、優しい匂いだから、平気だよね…魔人族で体が大きくて、顔も怖いけど…だぶん、大丈夫だよね…)
「なあ、アルマロン、お前はレモン栗以外では何が好きなんだ?」
どうやら、食べ物をくれるらしい。アルマロンは恐る恐る返答する。
「め…メロン栗と、み…かん、と…ゆずと、かぼす…とか」
「お、丁度さっき沢山収穫したやつばかりだな」
そう言うと、魔人はみかんと柚子とかぼすを宙からゴロゴロと取り出した。残念ながら、レモン栗に次ぐ好物であるメロン栗は1個しかなかった。
(…こんなに、食べ切れない……)
そう思いつつも、まずはメロン栗に齧り付く。
先程からずっと、内側から幸せな感じが膨れ上がって来るためか、いつもよりも美味しく感じられる。
しかし、傍らから凝視され続ける状況下で食べるというのは、至極落ち着かない。おかげで思わず固まってしまう。
(う…この人は、ぼくのことを好きみたいだけど…こう、凝視されるのは…)
そこへ助け舟が到来する。凝視する魔人の服をナマケモノーが軽く引っ張り出す。
「アレクー、ボクも何か食べたい」
「ん、ああ、おう、そうか…んん?お前は何が食べられて、何が好きなんだ?」
魔人は宙から視線をナマケモノーへ移した。
「ボク、果実や葉っぱが好きー!」
「ははは、えらく広い範囲だな」
魔人はどこからか甘藍とみかんを2個ずつ取り出し、ナマケモノーに手渡す。
「ほいよ」
「わーい♪」
ナマケモノーは20cm程もある甘藍を受け取ると丸のままかぶり付き、三口で食べ切り、みかんも丸ごと吸い込まれて行った。
「早っ!そして豪快だな、お前は」
魔人は驚き、やがて片手で顎をさすりながら続けた。
「なあ、ナマケモノー。さっきお前が収穫してくれた、大きな赤い柚子…食べるか?」
「食ーべるー♪」
見慣れた大きな赤い果物が落下した。
ドスンッッ!
凄まじい音が鳴り響き、地が揺れ……ることはなく、床も無傷だ。
そんな凄まじい重さらしい、そして40cm大の赤い柚子をナマケモノーは嬉しそうに抱え、丸ごとかぶり付く。天晴れな豪快さだ。
「これ、すんごくオイシー♪」
アルマロンは、羨ましそうにナマケモノーを眺めた。
(あれ、どんな味がするんだろう…)
いつも眺めていた巨大で赤い柚子。しかし、皮が恐ろしい程に硬く、アルマロンでは全く歯が立たない。
幸せそうに赤柚子に齧り付くナマケモノーを見て、魔人もこの大きな果物の味に興味が沸いたのか、精霊に呼びかける。
「ナマケモノー、その赤柚子、一口俺にも分けてくれるか?」
「うん♪はーい♪」
大きな一口分が手渡された。魔人の拳大の大きさだ。魔人はその柚子の切れ端を落としそうになっており、食べる動作も緩慢で、顔には汗が浮かび上がっている。
「んんっ!こいつは本当に美味しいぞッ!」
アルマロンの内側から、暖かな風が膨れ上がって弾ける。きっととても美味しいのだろう。
(ぼくも食べたい…)
みかんに齧り付きながら、少し恨めしそうにナマケモノーと魔人を凝視する。
すると、魔人が宙から何か平たいものと短い刃物を取り出し、赤い柚子の実を抉り出して平たいものに乗せ、此方に向かって来る。
アルマロンは期待に胸を膨らませ、咄嗟にみかんを手放してしまった。
「はは、そんなにお前も食べてみたかったか。だが、食べ物を粗末にしちゃあいけないな」
魔人はそう言って、アルマロンが机の上に落とした齧りかけのみかんも平たい物に載せ、アルマロンの足元に置いた。
「ほら、これはアルマロンの分だ」
アルマロンは無心になって赤い柚子もみかんも頬張った。
この魔人ならば、信頼して大丈夫だろう。見た目は怖いが……。
次の日、アレクは昨日と同じく赤い柚子やかぼす、みかん、柚子をくれた。昨日食べ切れなかったのを見て、アルマロンの食べる量を把握してくれたのか、それぞれ一つずつ、赤い柚子はみかん程の大きさの欠片が平たいものに盛られている。
アレクとナマケモノーは食事を済ませると、アルマロンにこう言った。
「じゃあ、レモン栗とメロン栗を探してくるから、家で留守番を頼むぞ」
挨拶代わりなのか、執拗にアルマロンを撫でるアレク。
……
……
(えっと…もしかして、アレク、ぼくが召喚獣ってことに気付いていない?)
これは確かめるべきだろう。
「ぼくも行くよ、アレク」
「んん、その気持ちだけで嬉しいぞー、アルマロン。でも外は危ないから、お前は待っていてくれよ。ちゃんとレモン栗とメロン栗を取って来るからな」
「あのー、アレク。ぼく戦えるよ。召喚“獣”だもん」
「ははは、お前は可愛くてよい子だなー♪」
(うん、だめだ、通じていない…)
アルマロンは顔を掻き毟るようにして考える。何か、伝える方法は、ないものか……。
技はアレクが命じてくれないと使用出来ない。
すると、ここでもナマケモノーが助け舟を出す。
「ねえ、アレクー。この子…ボクと同じ感じ、だよー?」
「ん?何を言っているんだ、ナマケモノー。お前と違って僅かに透けた感じがないだろ?アルマロンは」
「うーん…召喚レーみたいな存在だと、思うよ?」
あまり信じていないアレクが、何やら手を動かしながら宙を凝視している。
「……おう…本当だ。召喚霊の欄にアルマロンの名が載っとる。何々…幻獣“アルマロン”。あー、精霊や魔霊とは少し違うのか…」
酷く衝撃を受けながらも、なにやら宙を凝視して、ふんふん、と頷いている。
(やっと伝わった!)
アルマロンはこれからアレクの役に立てることを想い描き、期待に胸を膨らませた。
(頑張るぞー♪)
気合全開っ!アルマロン、絶賛待機中!
「なあ、アルマロン。〈SSB〉の疲労回復効果の“結構”ってどれくらいなんだ?」
(やった!やっと訊いてくれたよっ♪…効果は、高めかも?)
「4割以上だと思うよ」
「かなり効果が高いんだな。次は、発動時の範囲ってどれくらいになりそうかな?」
アルマロンは顔を掻き毟るような仕草をした。
(うーんと…あれ?思ったよりも広い気がする……)
「んー……ちょっと、判らない…」
「うん、そうかー、判らないかー。じゃあ、今度試してみようなー」
にこやかに、そして優しくあやそうとするアレク。これは話を打ち切るつもりかもしれない。
(待って、待ってよ…これはまずい。このままじゃあ、確実に置いてけぼりになっちゃう。ここは…)
「今やってみたい」
身を震わせ、強く主張してみる。どうだろうか、アレクは提案を受け入れてくれるだろうか。
「ん?味方といっても、俺しかいないだろ?それじゃあ範囲も何も判らなくないか?」
どうやら話を聞いてはいるようだ。時々対話にならないが…幸せ満開でそうなるものだろうか…。
「ううん、召喚霊にも使えるよ。だから、ナマケモノーが少しずつ離れてみてくれれば、判るはずっ」
(これは唯一の機会! ここでどうにかアレクに認めて貰わないと…)
「…それは、ナマケモノーやお前もPTの一員のようにみなされるということか?」
「うーん、そんな感じかな?」
「じゃあ、ナマケモノー、少しずつ俺から離れてみてくれるか?」
「はいはーい♪任せてー」
徐々にナマケモノーが離れて行く。それを目で追いつつ、アルマロンは集中する。
ナマケモノーが30m程離れたところで、手が届かないような、物が手からこぼれ落ちるような感覚に見舞われた。
「それ以上離れると、掛からないと思う」
「じゃあ、アルマロン、〈SSB〉だ!」
(待ってましたッ♪)
「うん、わかった!」
(アレクから沢山MPとSPと…力かな?流れ込んで来たよ…)
アルマロンは前方宙返り1回捻りをして着地し、片手を挙げると淡い栗色の光がふわんっとした感じで、急速に広がった。
なにやら幸せな感じとよく判らない感じが、内側から噴出した。期待と不安が渦を成し、祈る気持ちでアレクの方を見るアルマロン。しかし、アレクは沈黙したままだ。
(アレク…どう?)
「わーい♪ヒローがほぼ回復したよー」
ナマケモノーがそう言って飛び跳ねる。なにやら幸せな感じとよく判らない感じが、アルマロンの内側から再度噴出した。アレクの方を見ると、彼は笑いを堪えているような…目は微笑んでいるものの、口周りは微かに噛み締めるような表情をしていた。
(……えっと、アレク?)
「アルマロン、お前4割どころか、もっと凄いんじゃないかー」
「だってアレクからいっぱいMPとSPが流れて来たもの」
(やった♪ 褒められたよ。もう一つのも見せて、もっと褒めてもらうぞー!)
アレクの優しい笑顔と口調に安堵するアルマロン。更に『もう一つ技がある』と訴えようとして、アレクを見上げると…。
「なら、次は〈SSA〉だ!アルマロン」
(きたよっ♪任せてっ♪頑張るよ、ぼく)
「任せてっ!」
アルマロンは前足を突き出したり、匂いを確かめる様に鼻を突き出す仕草、尻尾を抱えて毛づくろいの仕草をすると、濃い茶色の光がふわんっとだが急速に広がる。
先程と同様に、なにやら幸せな感じとよく判らない感じが、アルマロンの内側から噴出した。
(どう、どうっ!?アレクっ!)
アルマロンは褒めて欲しくて、アレクを真剣な眼差しで見上げた。上げた鼻先をひくひくさせていると、アレクがその鼻先を指で優しく撫でてくれた。アルマロンは堪らなく嬉しかった。
●次回の投稿は 明日5/20(21時)です。




