↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

15 ◆ てのりリス 正義に勝る かわいさだ ◆

 ナマケモノーの能力を魔物に試してみたいこともあり、アレクは≪森の遺跡≫から直ぐに出ることにした。遺跡周辺の魔物ならば、内部と違って梃子摺(てこず)ることは無いからだ。

 

 ナマケモノーと対話をしながら何度も試すことで、使い方の感覚が直ぐに掴めた。予想した通り、召喚霊との意思疎通が能力を使いこなす鍵のようだ。しかも、意思疎通が密になるにつれて、MP・SPの消費量が最低値に近付いて行く様だ。勿論のことながら、威力を上げれば消費量も増大する。効果に関しては…微妙かもしれない。

 彷徨しつつ、そうやってナマケモノーとの仲を深めていると、色々な柑橘類が生えている地帯に辿り着いた。みかん、柚子、金柑、すだち、れもん、かぼす、南津海《なつみ》、ライム、せとか……。


(これは、美味しそうだな)


 薄緑色の軸が柔らかそうで、ややぽこぽこっとした赤みの橙色をしたみかんを1つ捥(も)ぎ取り、外皮を剥いて口に放り込んでみると、甘味と仄(ほの)かな酸味が口腔に広がり、温州みかんの香りが鼻腔から嗅覚を刺激し、味覚を増強させる。


(この甘さは…糖度が16もあるな。香りも強めで、仄(ほの)かな酸味が良い引き締め役。薄皮も相当薄いので、皮の食感が味を阻害することなく、正に豊潤な果実の恵みって感じだな)


 考え込むように黙ってみかんを口に運んでいると、ナマケモノーが腰の辺りをくいっ、くいっと引っ張ってきた。


「ああ、お前も食べるか?」

「食べるー♪」


 皮を剥いたみかんを手渡してやると、アレクの仕草を真似しながらみかんを口に運ぶのだった。


(これはもう、さながら良く懐いたペットのようだな…対話が出来るペット)


 最初に出会ったのがあのふてぶてしい茄子ではなく、このナマケモノーで良かったと、アレクはしみじみ思った。


(毛並みがふかふかもこもこで愛くるしい甘えん坊の中型ペットとか、もう胸いっぱい、夢いっぱい、欲望いっぱいじゃなかった、楽しさいっぱいじゃないか。それに対し、あの柄の悪くふてぶてしい不気味な茄子に擦り寄られでもしたら、それはもう悪夢だな)



 当面の食材の一つとして、またナマケモノーの“餌”として、ここらの柑橘類を色々と集めることにした。現実よりも生ものの持ちがかなり良いので、種類も個数も沢山集めても問題無いだろう。味も相当良いから、幾らでも食べられそうだ。

 

 寄り道好きのアレクとしては、こういった食材や素材の劣化という設定は、楽しみが増えて良いことだと感じている。大多数の人はそうは思っていないようだが……。


 ゲームとしては、食材や素材が緩やかではあるものの劣化ないし腐ってしまうのは困りの種だろう。集められる時に一気に集めて貯蔵し続けることが出来ず、必要になったら、度々採集に行かなくてはならないのだから。しかし、道具欄全体を対象として〈クリーン〉を使えば、相当長持ちさせられるので、親切設計にはなっているとアレクは考えている。





 最初は現実の柑橘類と同じような色の物だったのだが、散策をするにつれ、段々と変な色の物が混じるようになってきた。すだちか金柑が葡萄(ぶどう)の様に実っているものや、瓢箪(ひょうたん)型の柑橘類、巨大で赤い物もある。


(それにしても、赤い巨大な…香りは柚子か、迫力あり過ぎだろ……)


 目前にある樹には、40cm程はありそうな真っ赤な柚子がゴロゴロと実っていた。大きさと数からして、撓(たわ)わに実っていると表現したいところなのだが、枝は全く撓(しな)っていない。


(どうなっとんの?あの樹とその枝と柚子は…)


 軽いのだろうかと思って捥(も)いでみると……


 ――ドスン。


 あまりの重さに、アレクは体勢が崩れる前にさっと手放した。

 今度は重い物であると認識して、掴んでみると……。


(持ち上げられん…5t位あるんじゃないのか?いくらなんでも重過ぎだろっ!)

 

 非力な魔導士でも500kg程度ならば持ち上げられる設定になっている。アレクは〈スケール〉を使用し、重さを量ってみた。


(20t……)


 あまりの重さに収穫を諦めると、ナマケモノーがアレクを真似て巨大な赤い柚子を持ち上げようと掴んだ。必死になって力いっぱい引っ張るナマケモノーの可愛い姿を想像してしまい、制止はしなかった。期待に胸を膨らませ、待ち構えるアレク。すると……



 ナマケモノーはひょいっと軽々持ち上げた。


 まるで重さなど微塵も感じさせない様に、ひらひらと舞い落ちたハンカチをさっと拾って『落としましたよ』とでも声を掛けるようにナマケモノーは口を開いた。


「アレクー、拾ったよー♪」


 そう言いながら此方へ向かって来た。


「おー、凄いな。よくやったぞ」


 内心では驚愕から凄まじい程に動揺していたのだが、どうにかそれを露にすることなく、頭を撫でて褒めるアレク。


「わーい♪」


 そう喜びながら、ずいっと巨大な赤い柚子をアレクの方へと持ち上げる無邪気なナマケモノー。


(俺が潰れるんだが…)


 そう思いながら、とりあえず受け取ろうと柚子に手が触れた瞬間…



 ――柚子が消えた。


(えっ?)


 咄嗟に辺りを見渡してしまったのだが、直ぐにあることに思い至る。


(もしかして……)


 道具欄を確認してみると、そこには「赤柚子」の文字があった。


(ひょっとすると、召喚霊が何かを拾った場合に召喚者がそれを許諾すると、道具欄に収容されるといった具合なんだろうか……これは、確認してみよう)


「ナマケモノー。あの赤い柚子をもう一つ樹から採って来てくれるか?」

「任せてー。行ってくるー♪」


 ナマケモノーは“たったかたー♪”と駆けて行き、自身の体とそんなに大差無い赤い柚子をいとも簡単に捥(も)いで持ち上げた。その瞬間に、柚子が消えた。


(間違いないようだな)


 戻って来たナマケモノーを褒め、アレクは少し考え始める。


 ナマケモノーを獲得してからのことを振り返り、整理をして推察するに、恐らく召喚霊は対話をして意思疎通を深めると、人と同等とまでは行かずとも、相棒のように補佐の役割を果たしてくれることも出来るのだろう。戦闘においてもその力は発揮するのだろうか?それとも、技のみしか発揮出来ないという制限があるのだろうか。




 そう考え込んでいると、ふと視界の端に茶色い小さな影を捉えた。


(――エゾシマリスだっ!)


 直前に考えていたことは直ちに引っ込み、視線は可愛い生物をとらえて離さない。

 道具欄から森の遺跡の中庭にて集めた胡桃を数個取り出して手の平に並べ、シマリスを誘ってみた。

 シマリスは手の平から胡桃を取ると、その場で齧り始めた。あまりにも可愛いので、そのまま暫くナマケモノーと一緒にシマリスの様子を観察するアレク。


 すると、ひょこひょこと彼方此方(あちこち)から他のシマリスも顔を覗かせ、ちょろちょろと近付いてくる。


(こりゃあ、木の実類を山ほど集めといて良かったな)


 道具欄から栗に胡桃に松の実、アマンド、ピスターシュ、ノワゼットを沢山取り出し、シマリス達に分け与えた。



 はたと、変な物を抱えた一匹のシマリスが此方をじっと見ているのにアレクは気が付く。警戒しているのか、近付いて来ようとはしない。目を凝らすと、どうやらレモンの形をした茶色い…木の実だろう…を抱えている。


(ありゃあ、何だ?)


 道具欄にレモン型の木の実でもないものかと探していると…丁度それらしいのが一つずつある。


  レモン栗(茶)×1

  レモン栗(緑)×1

  レモン栗(橙)×1

  レモン栗(黄)×1

  レモン栗(金)×1


 恐らくあのシマリスが持っている物はこれだろうと考え、道具欄から茶色のやつを取り出すと――近付く前に、向こうから接近してきた。



 傍まで来ると、くれと言わんばかりに見上げるシマリス。

 可愛いので、当然レモン栗(茶)を手の平に乗せて差し出すアレク。

 掌に飛び乗って一心不乱に食べるシマリス。


 まだ欲しいともう一度見上げるシマリス。

 可愛いので、色違いを勿論手渡すアレク。

 またもや夢中になって食べるシマリス。


 更に再び……と結局5色を1個ずつ、アレクは無論惜しげも無くあげた。


 5個目のレモン栗を食べ終わったシマリスだが、まだ満足していないのか、掌の上から再び見上げてくる。


「ん?まだ欲しいのか?」


 代わりの物がないか道具欄を物色し始めると、下から声が聞こえた。


「もっと頂戴」


 『ボクも頂戴ー』の間違いじゃないのかと傍(かたわ)らのナマケモノーを見やると、彼はシマリスをじっと見ていた。


(ははは、まさか…)



 そのまさか、だ。



「もっと食べたいから、頂戴っ!」


 確かに手の上にいる1匹のシマリスがそう喋った。


(今日は動物不思議の国だな……)


 残念ながら、道具欄のレモン栗残数は既にゼロだ。


「…もうないよ」

「むー、もっと欲しい」


 餌を頬に溜め込む以外で膨れっ面をするシマリスというのは初めて見たが、激烈な可愛さだった。


「あれば惜しげもなくあげたいけど…残念ながら、もう手持ちはないよ」

「むー」


 『隠しているんだろう?』とでも訴えているような膨れっ面は、反則ものだろう。


「無い袖は触れないように、もう無いもんはあげられないさ」


 やがて喋るシマリスは、頭を掻き毟(むし)るような仕草をする。


(それは……悩んでいるのか?なあ、悩んでいる仕草だとしたら、可愛過ぎて発狂ものだぞ)


「んー、じゃあ、ついて行くから、さっきのやつをもっと頂戴っ!」


 “シマリスが可愛さを背負ってやって来た”ことから、『ええ、ええ、是非にもついて来て下さいな』という心情のアレクは迷わず即答する。


「任せろっ!!ついて来いっ!!!」


 アレクは人生で一番気合の篭った声を発した。今後、こんな気合を発する事態は二度と訪れないだろう。

次回は5/19(21時)の投稿です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。