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14 ◆ 見かけたら 抱くのが礼儀さ もっこもこ ◆

 男は少し強張った表情で目の前の建造物を眺める。目前にあるは≪森の遺跡≫。鬱蒼と生い茂る樹木や草木の中に古びて怪しげな、しかし厳かな雰囲気も醸し出す建造物が浮かび上がっている。


 ≪森の遺跡≫は次元門の迷宮(ダンジョン)の一つ目ということもあり、通行料と入場条件は『1000ルブロ、必要レベル:40』とお手軽だ。推奨レベルは48。そして一人遺跡の前に立つ男、アレク・ベリーロは現在レベル55。一つ目ということもあり難易度は高くなく、罠や仕掛けといったものや魔物の配置も然して変動しない。


 今日は≪森の遺跡≫の単独攻略に挑戦してみるのだ。


(そろそろ一人でも攻略出来そうかなー)


 何度もPTで攻略した感触では、アレクでそれに単独で行きたい理由がもう一つある。PTでは余計な探索こと、気の向くままに寄り道をすることが出来ないのだ。面白いものに目がなく、散策が大好きなアレクにとり、こういった遺跡などには誘惑がてんこ盛りで、気分はさながら雪に目を輝かせる子供の様だった。

 そんな彼の一番目的地は中間地点に存在する“休憩所こと中庭”。伝え聞く限りでは、次元門迷宮(ダンジョン)においては、敵の出現しない“休憩所”があるそうな。


(ボス迄ならばいざ知らず、“中庭”迄なら心配ないだろ)


 支援魔法の〈ガード・ウォール〉、〈コンセントレーション〉と、闘気法の〈身体活性〉、〈身体強化〉を自身に掛け、遺跡の中へと入っていく。

 

   ※〈ガード・ウォール〉:防御力上昇

    〈コンセントレーション〉:集中力上昇

    〈身体活性〉:持久力、敏捷性、巧緻性上昇

    〈身体活性〉:力、耐久性、持久力上昇



 遺跡の中は所々崩れていて日が差し込んでいるものの、建物内部は薄暗い。深部は真っ暗闇となる部屋も多い。そのため、訪れる者は松明を出現させる魔法〈トーチ〉、もしくは照明道具“懐鳥灯”を使用して進んでいくのが常である。


 しかしながら、魔人族であるアレクにはそんなものは不要だった。むしろ暗さで快適な程だ。PTを組んだ際には、他種族の人から必ず驚かれる。おまけに、通常は暗緑色である目が、いつの間にか赤色になっていることも吃驚される。

 悪役適正と思える“魔人族で闇属性、弱点属性が聖”には当初からげんなりしているのだが、こういった時には非常に便利ではある。何しろ罠や仕掛けの察知、魔物の気配察知や視認においては、日光の下よりも鋭敏になる。真昼の外ではやや眩しく感じるものの、視認性が多種族に比べて落ちるのかと言えば、吸血鬼と違い劣るわけではない。



 また、これまでの比較においての話ではあるが、他の人々との相違点と言えば…


  ・成長はとても遅い

  ・1属性を除き総じて火力が低い(平均の半分ほど)

  ・物理紙防御

  ・HPは少なめ


  ・MP、SPが多め

  ・魔法等の展開と発動が早い

  ・再使用時間が少し短い

  ・魔法鉄壁防御

  ・回復魔法の威力は高め

  ・戦利品等の運は非常に良い


である。一見良い点が多いものの、火力の低さを手数で補う形となるため、MP・SP・疲労・集中力の消耗度は高い。また適正レベル帯においては、1~5撃の通常物理攻撃で死ぬ場合が常であるので、同レベル帯の人と比較してみると、現状では相当大変らしい。他人の口から――


『それって、運の良さがあってもやっていられない』


という感想を必ず引き出せること請け合いだ。悠長に構えているアレクだからこそ、然して気にならず、楽しく謳歌しているのかもしれない。そんな彼ではあるが、別に動揺すらしない剛毛、鋼の心臓なわけではない。


(ここの推奨レベル48が“単独での攻略”を意味しているとはなあ……)


 この事実を知った当初は、急所に強打を喰らわされた気分だった。前衛職である侍・忍・拳闘士に至っては、大抵レベル45程で単独攻略をしてしまうらしい。他の魔導士でもレベル50~52でいけるそうだ。


(適正が魔導士じゃないんかねえ…)


 適正と職が一致していない。これは考えられる話だ。魔導士なのに攻撃魔法の火力がほぼ総じて低いというのは、どうも腑に落ちない。一般的に『攻撃魔法や召喚は、不安定ながらも高火力・広範囲が売り』なんだそうだ。


(闘気法は自己強化系のみ、物理攻撃は貧弱、体術は移動や回避の身のこなし程度だしなー)


 回避のための身のこなしは、うさころろを参考に鍛錬して上達したが、攻撃はからっきしだった。


(まっ、レベル100くらいまでに方向性が判りゃ、いっか)





 さて、話を≪森の遺跡≫へと戻そう。


 序盤は順調に敵を蹴散らして行き、地上部の建物内から光の差す方へ抜けると、目的場所である遺跡の“中庭”に辿り付く。この“中庭”であるが、そう呼ぶには些か広く林か公園とでも表現すべきだろう。最短経路で抜ければたかが20m程だが、結構広い範囲に“中庭”は広がっている。景色が良く、向こうから攻撃を仕掛けてくる敵はいないため、休憩場所としては最適である。

 しかし、ここには動物がいる。動物は魔物と違い向こうから攻撃してくることは無く、大方は弱くて大した物も落とさない。従って現在では動物狩りをする者は滅多にいないそうだ。


 そんな“中間地点且つ休憩場所”なのだが、アレクには気になるモノがある。まず、樹上にいる動物が中々に可愛いのだ。数種の猿やナマケモノ、大小ゴリラっぽい動物、コアラっぽい動物と。


(あのふわふわ、ふかふか、もふもふ、もこもこした体に抱き付いたり、撫でたりしたいッ! いや、するぞッ!)


 それに意外と樹の背丈は高く、20mに始まり、50m程のものまであるんじゃなかろうか。猿と競うように木登りをするのも楽しいかもしれない。また林の中には木の実や果物なんかもありそうだ。採って食べてみたら、きっと美味しかろう。



 そんなわけで、早速動物を“捕獲”しに行くとしよう。そう心躍らせながら駆けて行く。すると、30m程ある樹の枝に小さな猿を発見。


(うっはぁ、リスザルみたいで可愛いなっ♪)


 脅かさないように、アレクはゆったりと気配を消して樹に上って行く。手を伸ばせば猿に手が届きそうという所で、猿が此方に気付く!――アレクは微笑みかけ…た途端に猿は逃げてしまった。


(なんてこったい…。ならば次の標的を…)


 そのまま太い枝伝いに跳躍して、樹上から探索を行う。アレクのような巨躯(きょく)でも猿(ましら)のように木々を移り行けるというのは、如何にもゲームらしく、胸が高鳴るというものだ。


(うっほぉー!こりゃ楽しい♪)


 時々木の実を見つけては採取しつつ、目当ての可愛い動物を物色。すると、眼下にアレクよりも三回りは大きなゴリラもどきを発見。


(うーん、でっかいゴリラっぽいのは外見が可愛くないが、毛はもこもこしてそうだよな……)


 少し逡巡しつつも抱き付いてみることにする。



 ―決意をしたらば、即行動!



 顔見知りに近づくように何気なく傍まで行き、『てぇい』と抱き付いてみた。すると……



 ゴンッ、ゴンッと殴られた。



 だが、全然痛くないし何度殴られてもHPは減らない。


(物理紙防御の俺でも減らないって…こいつら相当弱いんかい。ん?ということは…もしかして、こいつら俺を相当怖がっているのか、な?)


 よくよく観察してみると、表情も強張っており、抱き付いて触れている箇所からは震えのようなかすかな震動を感じる。試しにそっと撫でながら声を掛けてみる。


「よーし、襲う気はないから、怖がる必要はないぞ。ただ、抱き付きたいだけだぞー」


 殴る行為が止み、震えもおさまってきたものの、どうも歓迎されていない感じだ。


(んん、欲望のままに『抱き付きたい』と言ってしまったのは不覚だったかっ!仕方ない…)


 ふかふかを諦めて開放した。ゴリラもどきは慌てて逃げて行く。


(うーん、ふっかふかで抱き心地が良かったのになぁ。そんなに嫌だったのか…)


 とても名残惜しいが、嫌がる動物に更に追い討ちを掛ける行為はやめにした。

 



 その後もコアラもどき、猿4種、ゴリラもどき2種と戯れようとするも、尽く歓迎されなかった。


(ぐは……なんてこったい、そんなに嫌わなくてもいいだろ…)


 暫しの間打ちひしがれていたものの、アレクはあることに気付く。


(そういえば、入り口付近以外ではナマケモノを見掛けていないな…)


 猿、ゴリラ、コアラのそれぞれの分布には然して偏りを感じなかったが、さっきからナマケモノは目に入ってこない。ここはナマケモノに望みを掛けるしかあるまいと決意して、狙いをナマケモノだけに絞る。

 目的の第一位をナマケモノに定めるも、当然木の実や果実採集、他にも何か面白いものや発見等がないか探索することは怠らない。そして、入り口近くまで戻ってきたところで、樹上の第一ナマケモノを発見!


(今度こそ……)


 直ぐに近付こうと構えるも、昂(たかぶ)る気持ちから体に力が入っていることに気付き、目を閉じ、鼻からゆったりと息を吐いて落ち着けてから接近を試みる。


 30m先にいるナマケモノに向かって歩を進めた途端に――ナマケモノが此方を見た!視線が交錯し、思わず――


「や、やあ……」


 そう片手を挙げて声を掛けてしまった。

 すると、ナマケモノは手を上げて応え、するすると樹から下りて、とことこと此方へ向かってくる…。


 とことこと……。



 少しだけ呆然と眺めてしまったのだが、瞼を強く閉じて開け…何度見ても“とことこと四足で歩いて”いる。


(えっ?ナマケモノって、もっと這うように動作が鈍いんじゃなかったっけ?一日に数m程だったよな?近付こうとしたら此方を察知するし、腕もスッと上げて挨拶するし、猿(さる)のように樹から下りるし……。えっと、何?ナマケモノじゃないのか?こいつは…)


 何度見ても姿形はナマケモノだ。ふかふかもこもこの毛、丸っこい顔、長い鉤爪……。現実のナマケモノそっくりで、顔はマヌケさが少し減って…もっとぬいぐるみ的な愛らしさが増した感じだろうか。だが、動作は速い。特に樹から下りる速さは猿並みかそれ以上だった。


(いやいや、ナマケモノさん。全然怠けてないでっせ?まさか、こいつは襲い掛かってくる気なのか?その鉤爪で引っ掻いてくるのか?)


 そう少しだけ構えていたら、ナマケモノは予想外の行動に出た。

 縋るように左足に抱き付いて、顔をすりすりとしてきたのだ!


(くっはぁー!なんてこったい♪)


 アレクは胸から込み上がってくる衝動に気が狂いそうになる。


(ああ、むにむにして撫で回して抱いて、くすぐって遊びたいっ!だが…落ち着けアレクっ!ここで欲望のままに“襲い”掛かったら、逃げてしまうかもしれんぞ。そう、深呼吸だ。そして、ゆっくり…そっと触れて撫でることからだ。まずは、もっと親睦を……)


 暫しゆっくり撫でていると、ナマケモノの方から抱いてと言わんばかりに両手を挙げて上目遣いで見てきた。


(ひゃっほい、この甘え上手め♪)


 ほくほくの笑顔でナマケモノを抱っこし、赤ん坊をあやすようにさすった。暫し抱えてじゃれ合った後に、道具欄から甘藍(かんらん)を出して与えてみた。一枚一枚千切ってやろうとすると、そのままくれとでも訴えているかのように、首を左右に振りながらトントンと足を軽く叩いてきた。丸ごと渡してみると、甘藍(かんらん)を抱えて座り、器用に自分で一枚一枚捥(も)いで、もしゃもしゃと食べ始めた。


(飼育下のナマケモノはバナナの皮を剥いたりするらしいが…絶滅しちまった野生種は、こんなに器用だったか?)

  



 もしゃもしゃと甘藍(かんらん)をどんどん腹に収めていくナマケモノを微笑ましく眺め、アレクは他に何か与えられそうな物がないかと道具欄から探す。

 思いの外早く甘藍を食べ切ったナマケモノが、トントンと軽く叩いてきた。そちらを見やると…ナマケモノが拍手を打つようにポンポンと手を合わせ、一礼をし、片手を挙げて軽く振ると、踵を返してとことこと去って行った。途中立ち止まり、振り返ってもう一度手を振ってきたので、振り返してやった。これまで散々歓迎されなかった分、もう大満足だった。


 その後も3体のナマケモノと遭遇したが、どいつも近付いては甘えてきた。


(ははは、可愛い動物にモテモテというのは、女性にモテるよりも嬉しいもんだ)


 現実の友人連中にそんなことを言おうものならば、目を剥いて猛烈な抗議を受けるだろう。アレクこと聖大は、俳優等に勝る眉目秀麗さと、低音で渋さと甘さと柔らかさが調和した声故に、当然の如く女性からモテる。ただし、容姿端麗過ぎる点や『残念皇帝』やら『勿体無い王子』といった渾名も有名であるため、色んな意味で“観賞用”が良いという意見も多いそうだ。

 当人としては、好みでもなければ価値観も違う人に寄り付かれても、困惑する部分が大きい。


 予め説明しておくと、聖大は変態・奇人の類ではない。まあ、可愛いものに目がない点と“少し変わり者”であるという点、突っ込まずにはいられない点が面白要素であるだけだ。残念要素であるかもしれないが。




 話を戻し、次のナマケモノを探していると、異常に動きの素早いナマケモノの影を捉えた。


(うーん…こいつ、俺より素早くないか?)


 もはや怠け者ではなくて機敏者が相応しい。

 暫く観察してみたが…捕まえるのは無理だろう。時々魔法で瞬間移動したかのような動きを見せるのだ。それに、僅かだが透けていないだろうか……。アレクはしばし黙考した末に、声を掛けてみることにした。


「おーい、そこの機敏者」


 すると機敏者ははるか頭上で動きを止め、此方を向いてこう答えた。


「ボク、ナマケモノー」


(おい…喋ったぞ)


 耳を疑ったが、そのナマケモノはもう一度こう言った。


「ボク、ナマケモノー」


(大事なことだから二回言ったのか?……まさかっ、名前とか?よしっ)


「おいっ、なまけものー」


 すると、今度は首を振る仕草をしながら答えた。


「ボク、ナマケモノー」


 どうやら発音と抑揚が違うらしい。そして、名前であることは間違いなさそうだ。ナマケモノが発した抑揚と発音をよく思い出しながら、復唱するように言ってみた。


「おーい、ナマケモノー」


 すると、ぱっとナマケモノの雰囲気が明るくなったような気がした…と同時に、目の前に瞬間移動して来た。


「うん、ボク、ナマケモノー。ねえ、ついて行ってもいい?」


 突如目の前に出現して些か驚いたが、仕草が可愛いので驚きはすぐに潜めた。


「可愛いから、ついてくるのは大歓迎だが……」


 続ける言葉に迷っていると、ナマケモノーが嬉しそうに飛び跳ねながら答えた。


「ほんと?ホント?ボクを選んだら、マンドラナスは選べなくなるけど、ヘーキー?」


(ん?マンドラナス?…ああ、あのふてぶてしくて柄の悪い、デカイ茄子か。確かここで手に入れられる召喚霊だったか。あいつ、技使用時の表情が歴史的画家の叫ぶ人の絵のようで、可愛さの欠片もなかったな。

 待てっ…ということは、こいつが対となる召喚霊ってことか。でもこいつを召喚している召喚士って見たことないな。いやいや…待て待て、待てよ。俺、召喚を使えるんかっ!?)


 考えても埒が明かないので、まずはナマケモノーの問いに答えることにした。


「ああ、可愛いからあの茄子よりお前がいい。だから一緒に来てくれ」

「やったー、ヤッター!ボク、頑張るよー」


 そう言うとナマケモノーの姿が忽然と消えてしまった。


(き、消えたっ!え、えっと…召喚が使えるならば、召喚霊の表示か何か出ているはずか…)


 確認をしてみると、新たに召喚霊の項目が出現しており、そして欄の中には『生毛も能』という表示があった。


 【召喚霊】生毛も能(精霊)

   技名:ナマケルゾー

   効果:少しだけ対象(単体)の行動を遅くする 

   対象数制限:3体(重ね掛け不可)

   継続時間:2分ほど

   再使用時間:10秒

   最低消費MP:20 ・ 最低消費SP:12


(生毛って…発音も“なまけものう”じゃないんかいっ!ホントこの大雑把というか、このテキトーさやふざけ具合が楽しいよな。少しだけってどれくらいだよっ!“ナマケルゾー”って怠けるのは相手じゃないかいっ!よし、早速召喚してみよう)


「えーっと、ナマケモノー?」

「はいはーい♪呼んだー?ご主人様」


(えらく陽気だな)


「そういえば俺の名前は伝えてなかったな。俺の名はアレクっていうんだ。宜しくな、ナマケモノー」

「わかったー、アレクー。今後はアレクって呼べばいいの?ご主人様って呼べばいいの?アレクー」


(……)


「名前の方がいいから、アレクと呼んでくれ」

「がってん承知しましたぜよ、アレクー♪」


(……突っ込み待ちなんだろうか…)


「なあ、ナマケモノー。お前の技である〈ナマケルゾー〉の少し敵の行動を遅くするってのは、具体的にはどういう効果なんだ?」

「テキのマホーや技とかの展開・発動の時間をチョット、延ばしちゃうよー」

「おう、それは凄いな。少しってどれくらいの時間だ?」

「うーん、ちょっとー。アレクがどれくらいMPとSPを込めてくれるかによるー」


(…召喚も魔法と同じか…“最低”消費MP・SPね…)


「技の効果は単体で、かつ対象数制限が3という意味は、2分の間に、連続で別の3体までに技を使用できるってことか?」

「そんな感じー」

「なら、一度目に掛けたものが2分後に切れたとして、同じ相手にすぐ掛け直すことは可能なのか?」

「いけるかもー?ダメかもー?」

「なるほど…。範囲とかの記載がないが、目安としてはどれくらいなんだ?」

「範囲は…やらないとわからないかもー♪」


 そう言ってぴょんぴょん飛び跳ねる。


(やってみないと判らないってどういうこった?それにしても、質問を重ねていく度に段々陽気というか、嬉しそうになっているというか…)


「はやく、早く、ハヤク、試してみよー♪」


(お前が言うんかいっ)


「わかった、わかったから……」


 そう答えると、なにやらナマケモノーは集中し…数秒後に突如振り返って後方を指した。


「あの猿くらいまでイケるよー♪」


 猿……30mくらい先の樹の上にいる緑掛かった猿のことだろうか。


「えーと、そこの樹の上にいる緑っぽい色の猿?」

「んー、木の枝にぶら下がっている小っちゃくて赤っぽいのー」


(赤?どこにいる?)


 少し目を凝らして探すと、150m程先に…赤色の小さい猿が枝にぶら下がって遊んでいた。


「範囲広いなっ!しかも、後方も大丈夫って、お前、範囲は凄く優秀なんだな」


 しゃがみ込んで頭を撫でるアレク。


「えへへー♪嬉しいわん、アレクー」


 垂れ目具合が増し、間抜けなパンダに見える顔で見上げてくるナマケモノー。笑…顔だろう。口調は嬉しそうだ。


(…嬉しいと語尾が変わるのか?)


「やってみないと判らないってのは、どういうことだったんだ?普通は範囲って、凡そ決まっているものだろ?」


 今度は宙返りも交えて飛び跳ねる。


「アレクはいっぱい相手をしてくれて、嬉しーにゃん♪嬉しーから、範囲が広がった気がしたんだにゃー♪」


(ダメだ、もう耐え切れん)


「おいっ、動物が変わってるぞっ!お前はナマケモノじゃなかったのかー!」

「ボク、ナマケモノー♪」

「――!」


 更に突っ込もうとしたが、危うく大事なことを流してしまう所だったので、踏み止まった。


「あー、嬉しいと範囲が広がるってどういうこった?」


 長めに息を吐くことを意識しないと、無邪気で陽気なナマケモノーにこのまま振り回されてしまうだろう。


「うーん…アレクのことが好きになると、チカラが沸いてくるっぽいー♪」

「ということは…俺との結び付きというか、意思疎通が密になる程お前の能力も上がるってことか?」

「チカラは好きになったら沸いてくるのー!」


(…つまり、召喚霊から召喚士に対する好意が能力を発揮する鍵で、意思疎通の方は魔法でいう安定度や、精密さ辺りになるのかもな。ならば、こいつとしっかり対話をしないと、能力を使いこなせないって話になるわけか…)


「なあ、お前って戦闘時以外もずっと召喚したままでいられるのか?」

「たぶん、ヘーキー。MP・SPも減らないと思うー」

「よし、それじゃあ、なるべく召喚したままでいようと思うけど、構わないか?」


 ナマケモノーは、びょんっと両手を挙げて後方3回転4回捻りの大跳躍をした。これ迄で一番嬉しそうだった


●彼の現実世界では、ナマケモノは野生絶滅種です。


●次回の投稿は5/17(21時)です。

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