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境界の修理屋-外れスキル《魔法道具作成》で宿屋を直していたら、世界の対立まで直すことになりました-  作者: 山賀 秀明
第1章:第2部

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第11話:最初の客は壊れた荷車の商人

 小屋の外に出ると、朝の森の空気がひやりと頬を撫でた。


 昨夜の雨の匂いが、まだ土に残っている。


 小屋の前の細い道には、荷車が斜めに止まっていた。片側の車輪が地面に沈み、車体が傾いている。積まれている木箱や布包みも、今にも崩れそうに片側へ寄っていた。


 馬が一頭、困ったように鼻を鳴らしている。


 その横で、四十代後半くらいの男が片足をかばって立っていた。旅人というより、商人だ。丈夫そうな外套。革の手袋。腰には短剣ではなく、小さな帳面と値札を入れる革袋。荷台には、布、金具、古い道具、木箱が積まれている。


「すまん。こんな朝っぱらから」


 男は片手を上げた。


「境界道で車輪をやっちまった。近くに明かりが見えたもんで、助けを求めに来たんだが……」


 男の視線が、小屋の入口で止まった。


 セラさんが、ぼくの後ろから顔を出していた。


 さらにその横から、ヴェルが眠そうな目で外を睨んでいる。黒い鎖の巻きついた腕輪が、朝の薄明かりを鈍く返した。


 男の肩が、ほんの少し強ばる。


 無理もない。


 境界道で、森の中の古い小屋から、人間の男と白い髪の女性と黒髪の魔物娘が出てきたのだ。警戒するなという方が難しい。


「彼女は、ぼくの連れです」


 ぼくは工具箱を持ち直して言った。


「あなたを襲うつもりはありません」


「……そうかい」


 男はヴェルから目を逸らしきれないまま、苦笑した。


「いや、すまん。こっちも境界道を商売場にしてる身だ。見た目だけで騒ぐほど若くはねえつもりなんだが、足をくじいて荷車が傾いてりゃ、肝も小さくなる」


「怖がるなら最初から来なきゃいいじゃん」


 ヴェルが腕を組む。


「助けてほしいんでしょ?」


「ヴェル」


 ぼくが小さく名前を呼ぶと、ヴェルはむっと唇を尖らせた。


「分かってるわよ。噛みつかない」


「噛みつくつもりだったのかよ」


 男が引きつった笑みを浮かべる。


 セラさんが、やわらかく一歩前に出た。


「まずは、お怪我を見ませんか。足をかばっていらっしゃいます」


「ああ、いや、俺より荷車が先だ。荷が駄目になる」


「荷車も見ます」


 ぼくは男の足首と、荷車と、周囲の森を順番に見た。


 追手の気配はない。魔物の足跡も、すぐ近くにはない。馬は怯えているが、怪我はしていない。荷の縄は古く、結び目が一つ緩んでいる。車輪の沈み方を見ると、ただ穴に落ちたのではなく、車体そのものが左に流れている。


「先に足を少し休ませてください。車輪を直すにも、荷を降ろすにも、立ったままだと危ないです」


「……あんた、修理屋か?」


「たぶん、そうです」


「たぶん?」


 男が眉を上げる。


 ヴェルが横から言った。


「おじさん、昨日まで追い出されたばっかりだから。宿でも修理屋でもないけど、もう宿で修理屋みたいなものよ」


「説明が雑だね」


「だって本当じゃん」


 男は、小屋を見上げた。


 古びた屋根。継ぎはぎの扉。まだ乾ききっていない壁。けれど昨夜より、少しだけ隙間風が減った気がする。ぼくたちが直した分と、小屋が自分で整えた分が混ざっているのだろう。


「ここは宿か、修理屋か」


「まだ、どちらでもありません」


「どちらでもない場所に、壊れた荷車を持ち込んじまったわけか。そいつは悪かったな」


「壊れたものを見るのは慣れています」


 そう言ってから、自分で少しだけおかしくなった。


 ぼくは町から追い出され、森の小屋に流れ着いたばかりだ。慣れていると言えるほど、この世界で修理屋をやってきたわけではない。


 それでも、壊れたものを前にすると、体が先に動く。


「セラさん、水をお願いできますか。布もあれば」


「はい、シュウ様」


 セラさんが小屋へ戻る。


「ヴェルは、荷台が倒れないように見ていて。無理に触らなくていい」


「あたしに命令?」


「お願い」


「……それなら、まあ、聞いてあげる」


 ヴェルはそっぽを向きながらも、荷車のそばへ移動した。


 ぼくは膝をつき、車輪に触れる。


 木部が湿っている。外輪の金具は歪み、留め金の片方が浮いていた。車軸の先に細い割れ。割れ目の中に古い泥が詰まっている。今朝割れたのではない。


 何度も少しずつ傷んで、それをごまかしながら使ってきた荷車だ。


「壊れたのは、今朝じゃないです」


 ぼくは車軸の下に手を入れた。


「ずっと無理をさせていたんだと思います」


「耳が痛いな」


 男が苦笑する。


「安く済ませた補修ってのは、こういう時に高くつく」


「荷も少し偏っています。左側の木箱が重い。道がぬかるんで、そこへ車軸の割れと留め金の緩みが重なったんです」


「見ただけで、そこまで分かるのか」


「見ただけじゃありません。触ると、少し分かります」


 ぼくは割れ目をなぞった。


 このまま引けば、車輪は外れる。外れるだけならまだいい。車体が倒れ、荷台の角が馬の脚に当たるかもしれない。


「このまま動かすのはやめた方がいいです」


「町までは?」


「このままでは無理です」


 男の顔が曇る。


「ただ、荷を減らして、車軸を支える金具を足せば、ゆっくりなら次の町までは持たせられます」


「持たせる、か」


「新品にはできません。ちゃんとした工房で打ち直した方がいいです」


「分かった。町まで持つなら十分だ。境界道じゃ、それが一番高い修理だ」


 男の目が変わった。


 困った旅人の目ではなく、品物を見定める商人の目だ。


 ぼくの工具箱、革の作業エプロン、手元の動き。そういうものを、値踏みするように見ている。


 嫌な感じはしない。


 けれど、油断もできない。


 この人は、助けられるだけの客ではない。助かった後に、すぐ商売のことを考える人だ。


「シュウ様」


 セラさんが桶を持って戻ってきた。


 桶の水は、昨日の雨水をためたものだ。けれどセラさんが指先を浸すと、濁りがすうっと薄くなった。大げさに光るわけではない。ただ、飲んでも腹を壊さなさそうな澄み方になる。


 男が目を細めた。


「嬢ちゃん、それは?」


「少し、澄ませただけです」


 セラさんは穏やかに答えた。


「足首を冷やしてください。痛むでしょう」


「……助かる」


 男は布を受け取り、足首に当てた。


 セラさんの動きは丁寧だ。無理に踏み込まない。けれど、痛んでいる場所にはすぐ気づく。町で見た神官や治療師とは違うのに、妙に人を安心させる。


 本人は、たぶん自覚していない。


 ぼくは工具箱を開けた。


 曲がった釘。小さな金槌。細いヤスリ。補修針。昨日から使い回している低級魔石の欠片。まともな材料は少ない。


「金具が足りないな」


「俺の荷に、古い蝶番と銅線がある」


 男がすぐに言った。


「売れ残りだ。使えるなら使ってくれ」


「助かります」


「あと、防水布の切れ端もある。荷台の下に敷いてたやつだ」


「それも使います」


 荷を少し降ろす必要があった。


 ぼく一人では危ない。商人は足をくじいている。セラさんに重い木箱を持たせるわけにもいかない。


 ヴェルが、ため息をついた。


「おじさん、これ、持ち上げればいいんでしょ」


 黒い鎖が、彼女の腕輪から音もなく伸びた。


 男が身構える。


 ヴェルの眉がつり上がる。


「何よ。人間って、助けてもらう時まで怖がるわけ?」


「怖がるのは仕方ない」


 ぼくは言った。


「でも、今は荷車を助けたい。ヴェル、頼める?」


「……頼まれたなら、やる」


 ヴェルは不満そうに言いながら、鎖を荷台の下へ回した。


 鎖が車体を支える。ぎし、と荷車が鳴った。沈み込んでいた車輪が、わずかに浮く。


「すげえな」


 男が思わずつぶやいた。


 ヴェルはふんと鼻を鳴らす。


「嬢ちゃん、もう少し右を」


「嬢ちゃんって言うな」


「じゃあ、黒髪の嬢ちゃん」


「それもやめて」


「ヴェルです」


 セラさんが横から微笑んで言った。


「ヴェル、もう少しだけお願いします」


「命令しないで。……まあ、やるけど」


 ヴェルの鎖が、さらに短く張った。


 ぼくは車軸の下へ古い蝶番を当てた。形は合わない。だから、少し曲げる。銅線で固定し、防水布の切れ端を挟んで、木の割れ目に余計な力がかからないようにする。


 そこへ、低級魔石の粉を指先につける。


 魔力回路を刻むと言っても、大したものではない。車軸の摩擦を少し減らす。金具にかかる力を散らす。急に割れが広がらないよう、補修針で留める。


 丁寧に作れば、もっといいものになる。


 だが今は、道端の荷車だ。材料も少ない。目的は新品に戻すことではない。


 町まで持たせること。


 それだけに絞る。


「壊れたところだけ見ると、また壊れます」


 ぼくは手を動かしながら言った。


「無理をしていた場所を逃がしてやらないと」


「道具の話か?」


「道具の話です」


 少し間を置いて、男が笑った。


「そうか。道具の話なら、俺にも分かる」


 補修金具を締める。


 釘を打ち直す。


 浮いていた留め金を押さえ、銅線を巻く。強く巻きすぎると木が割れる。緩ければ意味がない。ちょうどいいところで止める。


「セラさん、布を」


「はい」


 白い手が、布を差し出してくれる。


 距離が近い。


 昨日からずっとそうだが、セラさんは人に触れることに妙なためらいがない。いや、たぶん、ぼくを信頼してくれているのだと思う。


 ありがたい。


 ありがたいのだが、作業中に白い髪が肩に触れると、ぼくの手元が少しだけ怪しくなる。


「シュウ様?」


「だ、大丈夫です。金具が少し固いだけで」


「おじさん、顔赤い」


 ヴェルが荷車を支えながら、にやりと笑った。


「魔力回路の熱だよ」


「荷車の修理で耳まで赤くなるんだ?」


「ヴェル、車体が傾く」


「はいはい」


 鎖がぴんと張り直される。


 ぼくは咳払いをして、最後の留め具を締めた。


「ゆっくり降ろして」


「分かってる」


 ヴェルが鎖を緩める。


 荷車の車体が、少しずつ地面に戻った。


 車輪は、外れない。


 ぼくは男に手で合図した。


「少しだけ、前へ」


 男は馬の手綱を取った。


 馬が一歩進む。車輪がぎしりと鳴る。もう一歩。車軸の補修金具が震えたが、割れは広がらない。


 さらに一歩。


 荷車は、倒れなかった。


「おお」


 男が低く声を漏らした。


「動くな」


「急な坂は避けてください」


 ぼくは車輪の音を聞きながら言った。


「荷を半分に分けた方がいいです。重い木箱は右側へ。町に着いたら、この金具は外して、ちゃんとした鍛冶屋か車大工に見せてください」


「あんたが直したのに、外すのか」


「応急です。これを本修理だと思って使い続けると、次はもっと大きく壊れます」


 男はしばらく補修した車軸を見ていた。


 それから、にやりと笑った。


「いいな。そういう正直な修理屋は、長く付き合える」


「まだ修理屋では」


「どちらでもないんだったな」


 男は笑った。


「じゃあ、どちらでもない小屋の、どちらでもない修理代はいくらだ?」


「ええと」


 困った。


 代金を取れるような店ではない。看板もない。床は硬い。食事もろくにない。何より、男も遭難しかけていた。


「食べ物を少し分けてもらえれば」


 ぼくが言うと、男はぽかんとした。


 それから、腹の底から笑った。


「安すぎる」


「でも、こちらも正式な店ではありませんし」


「そういう値付けをしてると、商売人に食われるぞ」


「おじさん、そういうところだよ」


 ヴェルが呆れた声を出す。


 セラさんは困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。


「でも、シュウ様らしいです」


「褒められてるのかな、それ」


「もちろんです」


 男は荷台の後ろへ回った。


「食料は出す。だが、それだけじゃ足りねえ」


「いえ、そんなに」


「まあ聞け」


 男は木箱を一つ開けた。


 中には、壊れた結界灯が二つ、ひび割れた魔石ランタン、口の欠けた浄水瓶、古い蝶番の束、銅線、釘、低級魔石の欠片、布の端切れが詰められていた。


 別の包みには、古い毛布と保存食。


 さらに小さな板材の束まで降ろそうとする。


「待ってください。こんなにもらえません」


「礼じゃない」


 男は木箱を地面に置いた。


「先行投資だ」


「先行投資?」


「あんたは壊れた道具を直せる。俺は壊れた道具を持っている」


 男は、壊れた結界灯を指で叩いた。


「こいつらは、町じゃ売れ残りだ。直せる職人に流せば少しは金になるが、運ぶ手間の方が高い。だが、あんたの手元に置けば、別のものに変わるかもしれない」


「それは、まあ」


 ぼくは木箱の中を見た。


 ひび割れた魔石ランタンは、灯りとしては危ない。だが、魔石の受け皿は使える。結界灯の外枠は歪んでいるが、内側の反射板はまだ生きている。浄水瓶は水瓶としては駄目でも、濾し材を取り出せる。


 釘。蝶番。銅線。布。板材。


 小屋の床。扉。棚。寝床。暖炉。水場。修理台。


 頭の中で、直せる場所が次々に浮かぶ。


「今、目が変わったな」


 男が笑った。


「宝の山に見えたか?」


「……少し」


「なら、置いていく価値がある」


「でも、あなたの損になります」


「損をするかどうかは、俺が決める」


 男は胸を張った。


「今ここで恩を売っておけば、あとで大きく返ってくるかもしれない。恩を売るのが俺の商売だ」


 ヴェルが目を細める。


「商人って、みんなそうやって人を値踏みするの?」


「するさ」


 男は悪びれなかった。


「道具も人も、価値を見ねえ商人は二流だ」


 セラさんの表情が、ほんの少し硬くなる。


 それに気づいたのか、男は手を振った。


「ただし、人を鎖につないで売る奴はもっと二流だ。あれは一度は儲かるが、信用も道も焼く」


 ぼくの手が止まった。


 セラさんの指が、首元のチョーカーに触れる。


 ヴェルの腕輪の鎖が、かすかに鳴った。


 男は二人の反応を見て、少しだけ目を伏せた。


「境界道じゃ、そういう連中も見る。だが、俺は毎年通れる道で、毎年儲けたい。人を売って道を汚す商売は、俺の性に合わねえ」


「……腹黒いのか、まともなのか分からない」


 ヴェルが言う。


「商人としては、まともな方だと自分では思ってる」


「自分で言うところが怪しい」


「怪しむ目があるのはいいことだ、黒髪の嬢ちゃん」


「だから嬢ちゃんって言うな」


 少しだけ空気が緩んだ。


 ぼくは木箱を持ち上げようとして、思ったより重くて腰にきた。


「いたた」


「シュウ様、無理をなさらないで」


「おじさん、腰いわすよ」


「四十男に重い木箱は厳しいね」


 すると、小屋の扉が、きい、と勝手に開いた。


 ぼくは手を止めた。


 風は吹いていない。


 扉は、昨日より少し大きく開いている。まるで、木箱を中へ入れやすいように。


 さらに、小屋の中で、古い棚がきしりと鳴った。


 中を覗くと、棚が壁際へわずかに傾き、床に空き場所ができている。


 セラさんが、静かに微笑む。


 ヴェルは顔をしかめた。


「今のは絶対、古い小屋だからって音じゃない」


「古い小屋なので」


「おじさん、便利な言い訳にしすぎ」


 男は小屋の中を覗き込んだ。


 食器が、かたりと小さく鳴る。


 男は一瞬だけ黙った。


 普通なら、気味悪がってもおかしくない。


 けれど彼は、にやりと笑った。


「面白い小屋だな」


「面白い、ですか」


「商売の匂いがする」


「そこですか」


「そこだ。人が寄る場所ってのは、だいたい妙な匂いがするもんだ」


 男は木箱を小屋の入口まで運び、足首をかばって壁に寄りかかった。


 セラさんが古い毛布を受け取る。ヴェルは面倒くさそうにしながらも、入口に近い場所へ木箱を並べた。逃げ道を塞がない位置だ。本人は気づいていないかもしれないが、見張りの置き方になっている。


「今夜は、本当に床しかありません」


 ぼくは男に言った。


「食事も、あなたにもらった保存食を温めるくらいです。宿代を取れるような場所ではないです」


「屋根と扉があれば上等だ」


 男は足首を押さえながら、ほっと息を吐いた。


「それに、荷車を動かしたばかりだ。今すぐ走らせるより、一晩置いた方がいいんだろ?」


「はい。金具が馴染むか見たいです」


「そういや、まだ名乗ってなかったな」


 男は壁に背を預けたまま、片手を上げた。


「俺はガルス。境界道を往復して二十年の、しぶとい道具商人だ。あんたは?」


「シュウです。ただの修理屋ですよ」


「ただの修理屋は、境界道で荷車を町まで持たせたりしねえよ」


 ガルスは楽しそうに笑った。


「じゃあシュウ、今夜は泊めてくれ。客第一号ってやつだ」


「客第一号」


 言葉にすると、変な感じがした。


 昨日まで、ここはただの古い小屋だった。


 いや、まだ古い小屋だ。


 床は硬い。壁は湿っている。暖炉もちゃんと使えるか分からない。看板もない。食器も足りない。


 それなのに、目の前には客がいる。


 壊れた荷車を直し、その礼として壊れた道具と素材を受け取った。今夜は、その客が泊まる。


 小屋の奥で、また食器がかたりと鳴った。


 返事のようだった。


「……分かりました。今夜だけ」


「今夜だけ、ねえ」


 ガルスは楽しそうに笑う。


「そういう場所ほど、だいたい長く続くんだ」


「不吉なことを言わないでください」


「商人の勘だ。この小屋、化けるぞ」


 ぼくは返事に困り、木箱の中の壊れた結界灯を手に取った。


 外枠は曲がっている。


 魔石は濁っている。


 けれど、芯はまだ折れていない。


 枠が歪んで、魔力の通り道が途切れているだけだ。


 歪みを叩いて、ガルスにもらった銅線を通し直せば、ただの灯りどころか、小屋の入口に小さな結界くらいは張れるかもしれない。


「ぼくは、壊れた荷車を直しただけなんですが」


「それでも、助かった人がいます」


 セラさんが言った。


 ヴェルが腕を組み、ぼくを見上げる。


「で、次は小屋を直すんでしょ。おじさん、休む気ないじゃん」


「休む気はあるよ」


「嘘。目がもう修理の目だもん」


 そんなことはない、と言いかけて、ぼくは手の中の結界灯を見た。


 寝床。


 浄水。


 暖炉。


 雨漏り。


 修理台。


 今夜の灯り。


 直すものが、山ほどある。


 困ったことに、少しだけ楽しい。


「……じゃあ、まずは灯りからかな」


 ぼくがつぶやくと、小屋の奥の棚が、きし、と嬉しそうに鳴った。


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