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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
成竜編

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第七十九話 ”基準・百花繚乱”

指南は、翌朝から始まった。


場所は、ドラグネストの外れの演習場だ。的を並べ、遠くに岩場を背負った、開けた土地。ここなら多少のことをやっても、拠点に被害は出ない。


僕が呼んだわけではない。ルーニィが勝手に決めた。朝一番に僕の開発室へ来て、「今日から始めるぞ」とだけ言って、外へ歩いていった。断る理由もなかったので、僕は工具を置いて後を追った。


演習場には、既に人が集まっていた。


カルミナが、いつものように岩に腰を掛けている。ヴィが、その少し後ろに立っていた。レイヴンズが数人、遠巻きに眺めている。ジリオンの巨体が一番目立っていて、その横でララが腕を組んでいた。メルフィーナも、来ていた。


指南だと聞いて、見物に来たのだろう。魔術の師匠を名乗る女が、守護竜に何をどう教えるのか。興味が湧くのは分かる。


「まず、これを見よ」


ルーニィが、手にした本を開いた。恐らく魔導書とかそう言った本なんだろう。


「昨日の業火滅天。あれは六節じゃ。地上で撃てば拠点が消える。だから今日は、小さく撃つ」


そう言って、ルーニィは的の一つに向き直った。昨日は街中で撃とうとしたくせに。


「一節」


短い詠唱だった。二言、三言。的の前で、拳ほどの火が弾けた。的が焦げる。それだけだ。


「二節」


今度は、少し長い。火が的を包んで、木の的が炭になった。


「四節」


詠唱が伸びた。空気が、わずかに鳴った。火柱が立って、的が根本から消えた。後ろの岩場に、黒い焼け跡が走った。


僕は、それを数えていた。


一節、二節、四節。出力が、跳ねている。焦げる、炭になる、消える。等差ではない。的の壊れ方が、段ごとに桁で変わっている。


「分かるか、守護竜マキナ」


ルーニィが、僕を見た。


「一節が、次の一節の踏み台になる。台が高いほど、上に載るものが大きくなる。じゃから、詠唱が長い方が出力が上がる。ただし一節増える毎に、消費魔力も倍々じゃ」


昨日、空の上で聞いた話だ。今日はそれを、目の前で刻んで見せている。二節から四節で、消えた的の数が合わない。出力が倍で伸びるなら、消費も倍で伸びる。積み上げた分を、最後まで抱え続けるからだ。ならば長い詠唱ほど、抱える時間も長くなる。


抱える。


そこに、引っ掛かりがあった。長い詠唱の消費が倍々で膨らむのは、出力が倍々だからではない。積んだものを、詠唱が終わるまで保持し続けるからではないか。


「そこじゃ」


ルーニィが、僕の顔を見て笑った。


「顔に出とるぞ。何か掴みかけとる顔じゃ。良い、その調子で――」


「妾も、良いか」


――声が、割って入った。


カルミナだった。


岩から、背を離している。いつの間にか、演習場の中央近くまで歩いてきていた。


「主様の師を名乗る者が、どれほどのものか。妾も見せてもらおうと思うての」


「カルミナ」


僕は、止めようとした。


この女の性格は分かっている。見せてもらう、ではない。見せる側に回るつもりだ。しかも、相手はルーニィだ。昨日、空に穴を開けた女に、張り合うつもりでいる。


「案ずるな、主様。的は、あそこに絞る」


カルミナが、遠くの岩場を指した。人も建物もない、演習場の一番奥だ。


そして、詠唱を始めた。


「咲け――紅蓮の花よ」


――空気が、変わった。


「妾が歩む道を彩るは、慈悲なき朱の輝き」


僕は、それを聞いていた。聞きながら、術式を追った。


一節目で、分かった。これは、昨日ルーニィがやったものと造りが違う。ルーニィの詠唱は、節が節を踏み台にして、順に積んでいた。積んで、次へ渡して、また積む。橋を架けるような組み方だ。


カルミナのは、違う。


積んでいない。全部の節を、一本の束にして、同時に握り込もうとしている。踏み台を作らず、最初から全部を一度に抱えて、力ずくで押し上げている。彼女得意のディレイスペルオーバーを使用していない。


「一輪は矢となり、十輪は槍となり、百輪は天を覆う」


魔力の膨らみ方が、おかしい。


ルーニィの四節が、二節の四倍だとすれば、これは既に、その桁をいくつも超えている。なのに、術式に踏み台がない。支えがないまま、質量だけが積み上がっていく。


効率が、最悪だ。


同じ出力を出すのに、ルーニィの何倍の魔力を注いでいる。橋を架ければ半分で済むものを、この女は全部を腕で抱えて運んでいる。


「逃げ惑う影すら打消し、紅き閃光の花吹雪なりて」


――待て。


この消費量だ。この女、最後まで撃つつもりでいる。


「その命、その盾、その誇り――悉く穿ち、悉く焼き払い、悉く散らせ」


止められない。詠唱の途中で割り込めば、暴発する。


天頂(てんちょう)を埋め尽くす紅蓮の花宴」


魔力が、限界を超えて注がれていく。この女は、自分の残量を数えていない。数えていないのではない。数える必要を感じていない。


「踊れ、咲狂え、絶え間なく穿ち――一切を赦すな――――」


カルミナの足元に、魔法陣が生まれた。


赤い。幾重にも重なった円の中に、無数の花弁の形が回っている。ルーニィのものより、はるかに複雑で、はるかに雑だった。美しい図と、荒い図が、同じ場所に同居している。


「――《百花繚乱》」


――


激しい花吹雪の後、奥の岩場が消えた。


音が、遅れて来た。地面が跳ねて、演習場の土が波打った。無数の光の筋が、岩場の一点へ殺到して、そこで咲いた。花が開くように、炎が広がって、閉じた。


岩場は、なかった。


そこにあったはずの岩の壁が、抉れて、後ろの斜面ごと無くなっていた。的に絞っていなければ、この演習場は残らなかった。いや、演習場だけでは済まなかっただろう。


僕は、その威力を測った。


昨日のルーニィの六節に、届いている。的を絞った一点集中だから、範囲では劣る。だが、注ぎ込まれた総量では、拮抗している。


「――アホかぁあああ!」


ルーニィが、叫んだ。


帽子を押さえて、目を剥いている。


「殺す気か! こやつ、加減を知らんのか! 踏み台も架けずに全部抱えおって、そんな撃ち方をする奴がどこにおる!」


狂気と名付けられた女が、本気で怒っていた。


その狂気の女に「アホか」と怒られながら、当のカルミナは、こちらへ歩いてきていた。


足元が、覚束ない。一歩土を踏むたびに、体が横へ流れる。顔から、血の気が引いていた。真っ青だ。それでも、口の端が上がっている。


「どうじゃ、主様」


僕の前まで来て、そう言った。


言い終わる前に、膝が折れた。


僕は、腕を伸ばした。倒れてくる体を、受け止める。軽い。この女はいつもこうやって、平然と自分を使い切る。


「魔力欠乏じゃ、アホめ」


ルーニィが、歩いてきた。


まだ、少し怒っている。だが、その目は、カルミナの残した焼け跡の方を向いていた。


「わしですら、こんな編み込みはせんっちゅーのに。橋も架けず、全部を一度に抱えて撃つ。正気の沙汰ではないわ。魔力が幾らあっても足りん」


正気の沙汰ではない、と狂気の女が言う。


「なんちゅー女じゃ」


カルミナは、答えなかった。


僕の腕の中で、目を閉じている。気を失ったわけではない。使い切って、動けないだけだ。真っ青な顔のまま、それでも満足そうに息をしている。


――


僕は、腕にその重さを預けたまま、さっきの術式を頭の中に開いた。


見えている。あの詠唱は、全部覚えた。一節から最後まで、どこで何を積んだか、順に追える。


そして、追えるからこそ、無駄が見えた。


カルミナは、全部の節を一本の束にして抱えた。だから、詠唱が終わるまで、積んだもの全部を一人で保持し続けた。保持している間、魔力は出力に変わらず、ただ抱えられている。その抱える時間の分だけ、魔力が消えていく。この術式の消費の大半は、出力ではない。保持だ。


昨日、ルーニィが言った。消費魔力は倍々だ、と。倍々になるのは、積んだものを最後まで抱えるからだ。ならば――抱える時間を、減らせばいい。


一本の束を、二つに割る。


前半と後半に割って、後半を少し遅らせて、前半に重ねる。片方を遅延させ、上へ重ねる。


それは、カルミナが前にやったことだ。剣を交えたあの日、この女は一人で主旋律と副旋律を同時に編んでみせた。遅延詠唱重奏ディレイスペルオーバー


あの技を、この百花繚乱に架ければいい。束を二つに割って、片方を遅らせて重ねる。抱える時間が半分になれば、保持で消えていた分が、大きく落ちる。出力は、そのままだ。倒れるまで注いだ量の、半分以下で足りる。


そこまで組み上げて、僕は手を止めた。


おかしい。


この女は、ディレイスペルオーバーを使える技術を持っている。剣を交えたあの日、目の前で使ってみせた。今、僕が組み上げたこの答えを、とっくに知っているはずだ。知っていて――使わなかった。


わざと架けなかった。全部を一度に抱える、一番重い版で撃った。


そこで、ようやく分かった。カルミナが、何を見せたかったのか。


これは、基準だ。割る前の、素の、最大消費の版。ここに橋を架ければどれだけ軽くなるか、それを僕が自分で辿れるように、一番手のかかっていない形を、丸ごと置いていった。倒れるまで注いだのは、その基準を曖昧にしないためだ。


しかも、この女は、そこで終わりだとは思っていない。僕なら、この基準からさらに削れる。もっと良い架け方を見つける。そこまで見込んで、一番非効率な形を、情報として渡してきた。


「カルミナ。無茶をしてくれましたね」


腕の中で、閉じていた目が薄く開いた。口の端が、また上がる。


「でも、お陰でよく分かりました」


「――わしが、丁寧に教えてやろうと思っておったのに」


ルーニィが、横で頬を膨らませていた。


「そこの娘が、答えごと先に撃ちおってからに。教える隙もありゃせん」


ぶいぶいと言っているのが、少しおかしかった。


なるほど、と腑に落ちた。人間の頭と、機械で走らせるAI。その違いくらいのものが、ここにある。


呪文は、プロンプトだ。魔法陣や魔導回路が土台なのは、変わらない。プロンプトは、細かく書くほど正確になる。ただし、その分だけ節が増える。節が増えれば、消費が嵩む。それでいて、出力は書いた内容までしか出ない。


マッチの火を、細かく指定してやる。すると、リアルなマッチの火が再現される。されるが、そのマッチ一本に、見合わない量の魔力を食う。詳しく言えば言うほど、正確にはなるが、消費だけが膨らんでいく。


出したい結果に、丁度見合った量のスペル。それでなければ、結果はショボいのに、消費だけが莫大になる。


実に工学的で、分かりやすい話だった。


第七十九話・了

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