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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
成竜編

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第七十八話 ”自慢の仲間”

ドラグネストに着いた時、空気が変わっているのが分かった。


うまく言えない。建物は変わっていないし、人も変わっていない。だが、場の空気が違う。留守にしていた十日ほどの間に、ここは一度、僕の手を離れて回っていた。回っていた形がそのまま残っている、そんな感じだった。


広間に、皆が集まっていた。


その中央近くに、リーディアがいた。以前は端の方で、静かに座っている人だったのに。彼女が何を言うわけでもないのに、人の視線がそこを中心に回っている。ミカルが、その斜め後ろに控えていた。ヴィとディが、少し離れて並んでいる。


何かが、あったのだと思う。


聞けば分かることだ。何かいいことがあったんだろうなと感じる空気だった。


「主殿の帰還じゃ」


僕より先に、声を張ったのがいた。


カルミナだ。前線視察から、僕より一足先に戻っていた。広間の壁に背を預けて、我が物顔で立っている。留守を任せた覚えはないが、この女はいつだって我が物顔だ。


「うむ、無事の帰還、何よりじゃ」


そして、僕の後ろへ目をやった。


その瞬間だった。


カルミナの背が、壁から離れた。素早く身を屈める。周囲の強者達が即座に緊張が疾る。

ミカルがリーディアの前に立ち、レイヴンズが非戦闘員を守る体制に動いた。


カルミナは腰の刀に、手がかかっている。抜いてはいない。だが、いつでも抜ける形だ。目の光が、変わっていた。獲物の間合いを測る、狩人の目だ。


広間の空気が、一斉に張った。


皆、僕の後ろの女を見ている。


ルーニィだ。


つばの広い帽子に、裾の長い外套。手には本と杖。竜の証は一つもない。だが、この場の誰よりも、竜に近い女だ。


カルミナが、それを一目で見抜いた。


「主殿」


低い声だった。


「その女、何者じゃ」


──


僕は、答える前に、少し考えた。


カルミナが構えたのは、正しい。この女の底を、僕は空の上で見てきた。雲の海に、王都がまるごと入る穴を開ける女だ。カルミナの直感は、相手の格を正確に読んでいる。格下に構えたのではない。同格以上と見て、構えた。


だが、殺し合わせるわけにはいかない。


「なるほどの」


僕が口を開く前に、ルーニィが言った。


広間を、ぐるりと見回している。構えられている側だというのに、まるで気にしていない。むしろ、こちらが値踏みされていた。


「粗削りな連中も多いが、素晴らしい戦力を集めてあるのー」


カルミナの眉が、ひくりと動いた。


構えている相手に、品定めをされている。そういう顔だった。


「それじゃ、マキナ殿」


ルーニィが、僕を振り返った。


「我はどこに入れば良いかの? 5か? 11か?」


──息を、呑む音がした。


僕のではない。カルミナだ。


この女、道中で聞いた話から、うちの組織の格をもう掴んでいる。掴んだ上で、自分がどこに嵌まるかを、5か11かの二択にまで絞ってきた。カルミナと同じ位置か、レイヴンズと同じ位置か。


僕が一度だけ話した並びを、一度で構造として読んで、自分の座席を弾き出したわけだ。


「ルーニィ」


僕は、答えた。


「あなたは、カルミナと同格です」


「ふむ」


ルーニィが、帽子のつばを直した。


「では5か。謹んで拝命しよう」


その言い方に、覚えがあった。


そして、その言葉を聞いた瞬間。


カルミナが、刀から手を離した。


一番早かった。まだ皆が構えているうちに、この女だけが、するりと警戒を解いた。


「なんじゃ、主殿も恐ろしい女をしれっと連れて戻って来る」


肩をすくめて、おどけてみせる。


同格だと分かれば、もう敵ではない。カルミナの物差しは格だ。格が定まれば、それ以上こだわらない。


「恐ろしい女? 何を言う」


ルーニィが、けらけらと笑った。


「貴様の方が、わしより恐ろしいではないか?」


「ほう?」


カルミナの目が、細くなった。


離したばかりの手が、また刀にかかる。今度は、殺気ではない。だが、鞘の鳴る音がした。


「それでも、そう簡単にはやらせんがの?」


ルーニィが、笑ったまま言う。


近接なら、この女は不利だ。詠唱に時間がかかる。カルミナに詰められれば、大きな魔法は撃てない。だが、間合いを取られてしまえば、話は逆になる。二人とも、それを分かっている。分かった上で、互いの底を測り合っている。


殺し合いではない。もっと質の悪い、好奇心という名の興味だ。


──


「それじゃ、各部署から報告をお願いしますね」


僕は、二人をよそに言った。


どうせこの二人が本気でやり合わないことは、見れば分かる。ならば、相手にする必要はない。


「待て主殿、話を聞け」


「はいはい、後でゆっくり聞きますから。まずは業務連絡からです」


カルミナが、はあ、と息を吐いた。刀から手を離す。ルーニィは、まだ楽しそうにしている。


「まあ待て、マキナ殿」


ルーニィが、手を打った。


「その前に、自己紹介というものが要るじゃろう。わしは、ここの誰も知らんのだからな」


それは、その通りだった。


「自己紹介となれば、新人のわしからじゃな!」


言うが早いか、ルーニィが一歩前に出た。


「マキナ殿の"魔術の師匠"になる、ドラゴノイドのルーニィじゃ! 見ての通り、魔術をかじっとる」


魔術の師匠。


自分で同格だと言われたばかりの女が、格の上では師匠を名乗る。組織の序列と、魔術の師弟は別物だという顔だった。かじっとる、という言い方も、大空に穴を開けておいてよく言う。


「では、次はドラグネスト側の筆頭として、妾の番じゃな」


カルミナが、待っていたように前へ出た。


新人が先に名乗ったから、所属で格を取り返しにきた。


「マキナ殿の"代理"にして——」


そこで、一拍あった。


「"マキナの女"であるカルミナという」


──広間が、ざわりと動いた。僕の後ろで小さく「ぁあん?」とメルフィーナの声が聞こえた気がしたが、スルーしておこう。


僕は、口を開きかけて、閉じた。


「違う」とも言えず。かといって、流せば認めたことになる。


どちらにも、角が立つ。


だから、黙るしかなかった。


カルミナは、そこまで計算している。


「カ、カルミナ様」


声を上げたのは、リーディアだった。


頬が、赤い。


「変な自己紹介をしないで下さいませ。わたくしの自己紹介が、し辛いですわ」


赤らめた頬が、彼女のらしさを語っている。ミカル殿の視線がやや痛いです。


「神聖国第一王女、リーディア・フォン・ゼーレンハイムと申します」


襟首を直し立て直した上で、名乗る。


「強いて言うなれば……"マキナ様に庇護されし姫"、ということでしょうか」


「……であれば」


ぶすっとした顔で僕を睨みつつ、メルフィーナが前に出た。メルフィーナ?僕は何もしてないよ?


「真打である、私の番ですわね!」


危機感が、表に出ていた。二人に張り合うつもりだ。


「ドラグロード王国第一王女にして、"マキナ様の契約者"、"幼少からの幼馴染"——」


そこまでは、良かった。


契約者は、誰にも真似できない。幼馴染も本物だ。この娘が持っている札は、実のところ一番強い。


「後は……えーっと……」


止まった。


一番強い札を二枚持っていて、その先が続かない。そこで止めておけば良かったのに。


しどろもどろになったメルフィーナを見て少し助け舟を出す事にした。


「あなた達は、何を張り合っているのですか」


代わりに、そう言った。


三人まとめて、流しておく。この流れは何か良くない気がするし。


だが、止まらなかった。


「はい!」


ヴィが、手を挙げた。


いつから挙手制になったんだ?元気のいいハイだったが。


「レイヴンズ"司令官"にして、"マキナ様の教え子"、ヴィです!」


健全な肩書だった。認めてほしい、という気持ちだけが、まっすぐに出ている。


そして、その後ろ。


こっそりと、小さく手を挙げている者がいた。


ミカルだ。マジかおっさん。


あの寡黙な老兵が、頬をやや赤らめて、輪の端で手を挙げようとしている。若い連中の自己紹介大会に、混ざりたがっている。そう言ったキャラじゃなかっただろうに、この10日余りで何があったと言うんだ。


僕は、噴き出しそうになるのを堪えた。


「お?俺の番か!?」


ジリオンが、巨体を揺すって手を挙げた。


「レイヴンズのペットは黙ってろ」


ララが、間髪入れずに潰した。


ジリオンの手が、行き場を失って下りていく。獅子の獣人が、ペット扱いだ。埋もれたいのに目立つ男が、名乗り出た途端に落とされる。


広間が、笑いに包まれた。


「——はい、おふざけはそこまでにして下さい」


僕は、二度目の制止をかけた。


これで、報告に移れる。そう思った矢先間の抜けた声が飛ぶ。


「えー」


頬を膨らませたのは、ターニャだった。


「あーしも、自己紹介したかったっすー」


通信席から、不満そうな声を上げている。二度止めても、この拠点は言うことを聞かない。


「何じゃ何じゃ」


ルーニィが、けらけらと笑い出した。


「ここは、楽しいところじゃのー」


そして、広間をぐるりと見回した。到着した時、この女はここを「戦力」として値踏みした。今、その目が、少し違うものを見ている。


「良く心の通じた、良い部隊じゃな。規律に少々不安を感じるがの!」


僕を、振り返る。


外から来たばかりの女に、そう言われた。


「……自慢の仲間ですよ」


僕は、苦笑した。


おふざけが過ぎる連中だ。二度止めても止まらないし、報告一つ始めるのに、この騒ぎだ。


それでも、心から自慢の仲間だと思った。


僕が留守にしている間も、この場所は回っていた。回った形が、今、目の前にある。誰かが欠けても回るし、僕が欠けても回るのだろう。それは、寂しいことではなかった。


自分がいなくても回る場所を、自慢だと言える。


「では」


僕は、手を叩いた。


「各部署から、報告をお願いします」


今度は、皆が背筋を伸ばした。


ふざけていた連中が、一斉に顔つきを変える。おどけていたカルミナも、壁から背を離した。ヴィが、司令官の目になる。


騒がしい仲間で、切り替えれば立派な部隊だ。


その両方が、ここドラグネストの形だ。


第七十八話・了

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