第七話 メカヲタ、作戦を練る
修練場は、見るも無残な有様だった。天井に大穴、壁にも穴、床にはマキビシが散乱している。隅では、サンドゴーレムがひたすらスクワットを続けていた。騎士たちは思い思いの場所でぐったり倒れ、魔術師団の何人かは座り込んだまま動けない。メルフィーナだけが、壁に寄りかかってうとうとしていた。
必要なものは、全部揃った。
うたた寝するメルフィーナをぺちぺち起こし、王と作戦会議を開くと伝える。疲れが残っていそうだったが、彼女は急いで周囲の者を起こし、指示を出していった。
作戦会議は、謁見の間で開かれた。ドラグロード王、大臣、宮廷魔術師、そして一晩付き合わされて疲弊の残る騎士団の面々が居並んでいる。僕はメルフィーナの腕の中から、黒板を掲げた。
[守護竜として、最初の仕事を進言する]
部屋が静まり返る。
[城塞都市ドラゴノートの奪還だ]
その名が刻まれた瞬間、部屋の空気が変わった。13年間、誰も口にしなかった名前が、黒板の上に白い文字で並んでいる。ドラグロード王の表情が、微かに揺れた。
「……しかし、どうやって」
メルフィーナが前に出た。作戦の概要は、事前に伝えてある。言葉にする役は、彼女が引き受けてくれていた。説明が進むにつれ、部屋の空気が変わっていく。深夜2時の発火。突撃車の城門への激突。空からのマキビシと火炎瓶の投下。100機のアイアンゴーレムの展開。騎士団と魔術師団の後方支援。
説明が終わると、ドラグロード王が口を開いた。
「……この作戦には、そなたが敵地の上空へ出向かねばならない」
王の声には、迷いがあった。契約したばかりの、しかも幼生体の守護竜を危険に晒すことへの躊躇だ。僕は黒板を引き寄せる。
[マルキウス・フォン・ドラグロード王よ]
普段と違う口調で書く。部屋の全員が、息を呑んだ。
[私はあなたのこれまでの努力に報いたい。そしてこの国の全ての人に祝福されて、守護竜となりたいのだ]
ドラグロード王の目頭に、熱いものが滲んだ。それでも王は、無様な姿を見せまいと堪えている。僕はもう一行、書いた。
[これは私のわがままだ。そして、願いでもある。ドラグロード王……いや、マルキウス王よ。この願い、叶えてはくれないか]
部屋が、静寂に包まれた。マルキウス王はしばらく、黒板を見つめていた。
「……他でもない、守護竜の願いだ。聞き届けよう」
その瞬間、大臣が涙声で号令をかけた。
「騎士団は、作戦準備にかかれ!」
宮廷魔術師も、涙声で続く。
「魔術師団、騎士団と協力し準備にかかれ!」
「はっ!!」
揃った返事が、謁見の間に響いた。疲弊しきっていたはずの騎士たちが立ち上がり、一斉に動き出す。その足音が、廊下の奥へ遠ざかっていった。
マルキウス王は、その日のうちに草へ連絡を取った。諜報に出ている者たちにも急ぎ繋ぎを取り、神聖国の最新の動きを探る。そして今この瞬間から、国を出る全ての者を足止めし、情報が外へ漏れないよう封鎖した。
草からの報告が届いたのは、その夜のことだった。神聖国は既に準備に入っている。ただ、秋の収穫シーズンと重なり、数日の遅れが生じていた。
マルキウス王が、静かに告げた。
「残り5日だ」
部屋の空気が張り詰める。僕は黒板を引き寄せた。
[十分だ]
出発の前夜、マルキウス王が僕を呼んだ。二人きりで、修練場に立つ。松明の灯りだけが揺れている。僕は静かに、魔力を解き放った。
音もなく、黒衣の騎士が現れる。1機、5機、10機——やがて97機の黒いアイアンゴーレムが、修練場に整列した。そして3機、深紅のマントを羽織った白い巨体が、最前列に並ぶ。松明の光に照らされた100機の騎士が、静かにそこに立っていた。
僕は黒板に書いた。
[今はまだ、この程度だけどな]
マルキウス王はしばらく、無言でその光景を見つめていた。
「……果たして私は、貴方に報いることができるのだろうか」
僕は黒板を引き寄せる。
[守護竜が守るのは、普通のことだろう?]
マルキウス王が、静かに目を閉じた。松明が揺れる。100機の騎士が、音もなく闇の中に立っていた。
城塞都市の奪還。この作戦を最初に持ってきたのは、彼らに言った通り、自信を取り戻すという側面もある。だが、本当の理由は別だ。
僕という存在——ゴーレムと空間魔術を使った奇襲、その情報が相手に伝わる前に、決行する必要があった。城塞都市という性質上、守りやすく攻めにくい。だが、僕がいるなら話は別だ。地球の歴史にあった攻城戦で言えば、攻め手には守り手の3倍の戦力が必須とされていた。
駐留軍2000に対し、騎士団と魔術師団を足しても1000強にしか届かない。この状況で駐留軍は、援軍が来るまで耐えればいい——それが昨日までの実情だった。13年間、ずっとそうだった。それだけ続いた日常が明日変わるとは、誰も想像しないだろう。
その油断に、深夜火災というイレギュラー。居るはずのない城壁内への戦力投下。神聖国が逃げ出しやすいよう、東側から攻めて撤退させるのが狙いだ。下手に城壁を痛めては、今後の運用に差し支えるからな。
マルキウス王は、僕の戦術を見て静かに頷いた。明日、王都を発ち、明晩に作戦準備。そのまま深夜、奇襲をかける。
インベントリという便利な代物と飛行能力を持った、小型ドローンのようなものだ。魔法による哨戒やセンサーの類があるかとも疑ったが、地上にはあっても空中には無いらしい。飛行戦力が少ないからだろうが、そういう概念が、まだ生まれていないのかもしれない。
もう少し時間があれば、もっと戦力を開発してから仕掛けたのだが。まあ、この戦いに勝った後で、色々作っていこう。
不敵に笑う僕に呼応して、尻尾が石畳をスパーンと景気よく叩いた。
第七話・了
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク




