第六話 メカヲタ、検証を開始する
この国の守護竜になると決めた以上、初手は重要だ。ただでさえ詰みかけた状況を覆すとなれば、並大抵ではない。相手に油断を誘うためにも、守護竜の交代時に行う命名の儀式とやらは、後回しにするべきだろう。まずやるべきは、この国の自信を取り戻すことだ。
城塞都市の奪還——それこそが、初手に相応しい。もっとも、今のままでは若い騎士たちの机上の空論と変わらない。実を伴わせるには、戦力の増強が急務だ。
まず、昨日の修練場を借りて、僕の魔法で何ができるかを検証する。その間に、ゴーレムに必要となりそうな素材を用意してもらう。幸い、鉱石はこの国の特産品と言っていい。備蓄も相当量あると分かっている。
三属性と言っても、雷は後回しだ。電気を扱えるのは正直かなり助かるが、今はそれを検証している時間が惜しい。ゴーレムといえば土属性。鉱石を有効利用することを考えても、この属性は今後の発展の基礎になる。
そして、空属性。異世界転生ものの小説も漫画もアニメも一通り網羅してきた僕から見れば、これはおそらく空間属性だ。お約束の、インベントリや転移、浮遊系に関わってくると見た。
異世界転生の基本だと思っていたステータスボードが出なかったのはショックだったが、それなら検証すればいいだけだ。夜中にこっそり「ステータス」やら「オープン」やら念じてみたが、見えるのは天井だけだった。あれは、悲しい思い出として今も胸を締めつける。
修練場に出ると、素材が着々と運ばれてきていた。よし、まずは空間属性から触れてみよう。
インベントリ。あらゆる異世界転生者のチートを、チートたらしめてきた夢のスキルだ。僕の場合は魔法ということになるんだろうが、要は異空間に物を保存する。これができるだけで、戦術のレベルが大きく変わる。
思考を巡らせながら、目の前の石の一つに手を翳し、収納をイメージする。音もなく、その石が消えた。
おっ。
脳内で、収めた石の状態を想像してみる。何もない空間に、浮いて止まっている感覚だ。視界の端に取り出してみる。また音もなく、石が現れた。よし、使える。魔力消費もほとんど感じない程度で、実に扱いやすい。座標の入力でも要るのかと思ったが、イメージさえしっかりしていれば問題ないらしい。ならば次は、大きさと質量の検証だ。
運ばれてきた素材を視界に入れ、まとめてインベントリに入れる。この時、素材の陰で作業していた騎士が一人いたのだが、彼は無事その場に残っていた。素材だけが音もなく消え、何もない空間に突然取り残された格好だ。
生物は入らないのか、それとも意図しない物が入らないのか。どちらかは、後で検証しよう。今はこれだけ分かればいい。危うく実験の尊い犠牲になりかけた騎士は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
インベントリの感触が良すぎて、気づけば僕は翼を広げ、昨日の装備格納庫へ飛んでいた。中の鎧や武器を、一気にインベントリへ収納する。よし。これだけの装備を一瞬で格納して、重さも感じない。音もしない。これは——戦術どころか、戦略のレベルで変わる魔法だ。
収納した素材と装備を、脳内で確認する。仕分けして、素材分析も試してみる。……あー、そこまでは無理か。素材ごとに分けることはできるが、成分までは分からない。まあ、それは鑑定のスキルの領分なんだろう。
楽しくなってきた僕は、そのままメルフィーナの腕の中まで飛んで戻った。次の検証に鼻息荒く集中していると、周囲が妙に騒がしい。
「マキナ様、もう飛べるようになられたのですね?」
メルフィーナが、僕の頭越しにそう言う。……飛んだ。誰が。おかしなことを言う、僕が飛べるわけ——そういえば、翼が4枚もあったな。だが、羽ばたいた記憶はない。試しに、翼を広げて浮いてみる。
……あ、浮いてる。
僕、飛べるんだ。すごい。驚き顔の僕にメルフィーナが噴き出し、ころころ笑った。
「マキナ様、ご自分で気づいていなかったのですか」
まったく、気づいたら飛んでいた。だが、これはいい。この機動力とインベントリだけでも、戦術の幅がぐっと広がった。
修練場に戻り、最高速、旋回性能、隠密性あたりをさらっと検証する。飛ぶのにも魔力は使っているのだろうが、特別消耗した感覚はない。まあ、鳥がすぐ疲れて落ちることもないだろう。自分が生き物である以上、体調や気分でも性能は変わりうる。今は、感覚的な検証だけで十分だ。
騎士たちが「守護竜様は一体何をされているんだ」という顔で見ていたが、気にしない。
さて、本命のゴーレムだ。
ゴーレムに要るのは、コアとなる魔晶石や宝石、魔物のコアなど。魂を封じ込めた石でも作れそうだ。とりあえずは、手に入りやすい魔晶石か宝石をコアにしてみよう。魔法書にあった必要な材料は、大きく分けて三つ。コア、素材、魔力回路だ。
コアには魔力を込め、命令となる基礎のプログラミングをする。感覚としては、プロンプトを入力するのに近い。素材にも同じく魔力を通し、形をイメージする。そして体表に、魔力で魔力回路を書き込む。……うん、拍子抜けするほど簡単に、砂で作ったサンドゴーレムが完成した。やはり古代竜の脳は作りが違うのだろうか。魔術回路を成型する際、ほぼ感覚だけで描けてしまう。
見た目はさらさらして、いかにも弱そうではある。試しに、騎士の一人に攻撃させてみた。弓を射れば刺さるが、ダメージらしいダメージは受けない。剣で切りかかると砂は飛び散るが、形状としては問題ない。ただ、飛び散った砂はただの砂に戻っていた。滅多打ちにされれば、消えてしまうかもしれない。
物理耐性はなかなか、と言いたいところだったが、魔力を帯びた武器で切られて話が変わった。魔力回路は純粋な物理攻撃には強い。だが、魔力を帯びた攻撃が当たると破壊されてしまう。弱点をもう一つ挙げれば、このサンドゴーレムは移動するだけでも、足の裏から体積が少しずつ減っていく。長距離移動はもちろん、長時間の戦闘でも問題になりそうだ。
素材を石に変えたロックゴーレム、木に変えたウッドゴーレム、と色々試していく。騎士たちには攻撃方法を考えさせ、壊せたら報告するよう、作業を分担した。数は多くないが魔術師団もいるので、対魔法防御も試す。日が傾いてきた頃、騎士たちがそれとなく目配せし合っているのが見えた。疲れているのだろう。構わず続ける。
検証を重ねる中で、ふとアイデアが浮かんだ。フルプレートアーマーの内側に魔力回路を形成し、サンドゴーレムの表面にも同じく回路を形成して繋げたらどうだ。鉄の防御力と、中に詰めた砂の柔軟性が合わさって、物理的にも魔力回路的にも強くならないか。そこへ魔法を受け止める盾を持たせ、攻撃用の剣かメイスを添える。サンドゴーレムを改良して——アイアンゴーレムが出来上がった。
全高2メートルほどの騎士甲冑が、目の前に立っている。騎士たちが、鍛え上げた練度で攻撃を仕掛けた。だが、目の前にいるのは人の形をした人ならざるものだ。関節の可動限界がなく、予想外の動きで応じてくる。その気になれば、手の本数を増やすこともできそうだな。
物理攻撃に対しては、かなり有効だ。続いて魔法攻撃。飛んでくる雷や光の矢、炎の玉を盾で受け止め、爆風が起きても問題ない。しかもフルプレートアーマーの中身は砂でみっちり重さがあるので、吹き飛ばされることも少ない。
欠点は一つ。足が遅い。逃げる騎士には追いつかない。拠点防衛や壁役なら問題ないが、この機動性の無さは、本来なら大問題だっただろう。
だが、ここには僕がいる。
完成したアイアンゴーレムを、インベントリに収納してみる。よし、入った。これは大きい。製造にかかる時間も、鎧があるおかげでかなり早い。そして何より、砂が飛び散らないぶん質量が減りにくい。
そこからは、無我夢中だった。あるだけのフルプレートアーマーを、片端からアイアンゴーレム化していく。1機、5機、10機——気づけば、夜になっていた。
「マキナ様……そろそろ……」
メルフィーナが遠慮がちに声をかけてくる。騎士たちは、とっくに限界を超えた顔をしていた。魔術師団の何人かは、その場に座り込んでいる。構わず続けた。夜明け前、100機のアイアンゴーレムが完成した。
こいつを空中から城壁の内側に展開すれば、陽動としても十分な成果が見込める。アイアンゴーレムは騎士ほどの機動力はないが、疲れ知らずでパワーもある。魔力がどれだけ持つかは要検証だが、とりあえず最初に作ったゴーレムを、修練場の隅でスクワットさせておく。
さて、次だ。機動性の無さを補う、速い機体が欲しい。馬車はこの世界にもあるようだし改造するのも面白そうだが、素材検証が多すぎる。希少な鉱石も、今はあまり使いたくない。きっちり検証した後でこそ、意味を成すからだ。
壊れた馬車や荷車をリメイクして、破城槌型の突撃車を作ってみた。車軸は鉄で作り直し、後輪を大きく太くして凹凸を付け、トラクションを確保する。車体も鉄で強化し、前方に重量を寄せることで、突撃時の破壊力を上げる。直進特化の設計だ。試しに、アイアンゴーレムへ向かって突撃させてみた。
アイアンゴーレムが、吹き飛ばされた。
よし。
城門への一点突破。荷台にマキビシを詰めて撒き散らす使い方もできるし、前方にランスを装備して、騎士の隊列へ突っ込ませてもいい。見た目は耕運機にだいぶ近いが、まあ今はいいだろう。修練場の隅では、最初に作ったサンドゴーレムが、ひたすらスクワットを続けていた。
夜が明け、朝日が差し込む頃、騎士たちは思い思いの場所でぐったり倒れていた。メルフィーナだけが僕のそばで、目を閉じたまま壁に寄りかかっている。
悪いな。
だが、止まれなかった。頭の中で、設計図が次々と展開していく。尻尾が、びしびしと床を叩いていた。
第六話・了
読んで頂きありがとうございました!
「星評価」、「ブックマーク」、「いいね! 」
よろしくお願いします!!
感想やご意見有れば是非お聞かせくださいね!
(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク




