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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
成竜編

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第六十六話 ”あなたの翼”

村を襲っていたゴブリンとコボルトの群れは、もういない。西の巣も潰した。オーガの死骸も片付けた。後に残ったのは、荒らされた畑と、崩れた家と、それを立て直す作業だけだった。


僕たちは、まだ村にいた。


脅威の排除は、任務の入り口にすぎない。第一は人命救助。要救助者を助け出し、傷病者はトリアージで手当ての順を決める。人命の段階が済めば、生活支援へ移行する。給水、給食、暖の確保。損壊家屋の応急、二次災害の防止。ライフラインを最低限まで復旧し、住民が自立できる線まで戻して、後続へ引き渡す。初動対応の担当範囲は、そこまでだ。


  ◇


村の広場を、ヴィの声が回している。


「ジリオンさんは北側の梁を。ララさんは井戸の周りを先に。三姉妹は倒れた木を運んでください」


指揮というより、盤面を並べ直す手つきに近い。誰をどこに置けば全体が最短で片付くか、あの子の目にはそれが見えている。戦場でゴブリンを窪地に釣った時と、やっていることは変わらない。ただ相手が、敵の群れから瓦礫の山や負傷者に変わっただけだ。


前に出たがるジリオンが、今日は素直に梁を担いでいる。オーガに突っ走ってミカルに絞られた一件が、まだ効いているのかもしれない。それとも、盤面通りに動けば物事が片付くと、あの対抗戦で腹に落ちたのか。理由はどうあれ、噛み合わなかった歯車が、今はしっかりと回っている。


ララが井戸の縁を組み直し、その隣でディがフィックスを動かしていた。折れた水車の軸に部品を宛がい、締め直していく。何も壊さず、直すための機体の本領発揮だ。壊れた物が、彼の手を通ると元の形を取り戻していく。村の水を引き直すのは、井戸と水車が生きてからの話だ。ディはヴィの指示を的確に理解し真っ先にそこへ手を付けていた。


三姉妹は、倒れた大木を軽々と運んでいた。呼吸も要らず、寒さにも音を上げず、指示された仕事を淡々と片付けていく。


そして一つ仕事を終えるたびに、三体は僕の前へ来て、そっと頭を差し出すようになった。


理由は判然としない。ただ、頭を撫でた後の作業ログを見ると、処理速度と精度が有意に向上している。原理は不明だ。だが再現性がある。ゆえに、僕は撫でることにした。


「よくやりました」


アインの頭をポンポンと叩く。ツヴァイとドライも、順番を待つように並んでいる。三体まとめて撫でてやると、また次の木を運びに戻っていった。効率が上がるなら、安いものだ。列の最後尾にターニャが並んで居たがそっとデコピンしてやった。

変な事を学んでしまいましたねぇ。

  ◇


人命の確保が済めば、次は生活だ。


僕は広場の一角に、大鍋を据えさせた。魔導の熱源で湯を沸かし、村に残っていた根菜と、こちらが持ち込んだ塩漬けの肉を放り込む。温かい物を、まず腹に入れさせる。北の村は、日が落ちると急に冷える。冷えた体と空きっ腹を抱えたままでは、人は立ち直る気力すら湧かない。熱い汁物が一杯、それだけで顔つきが変わるものだ。


炊き出しといえば、前世でも決まって大鍋で煮物だった。もっとも、あちらでよく作ったのはカレーだったが。大鍋一つで大量に作れて、腹に溜まって、体が芯から温まる。冷えた現場には、あれが一番効いた。よく作ったな、と、ふと思い出す。ここにあの香辛料は無いから、代わりは慎ましい根菜の汁物だが、湯気の立ち方は同じだった。



崩れた家の者には、雨露と寒さをしのげる仮設の屋根と壁を架けた。ただ屋根を渡すだけではない。夜間に暖を取れるよう、魔導で熱を持つ簡素な設備も一つずつ据えていく。凍えて夜を越せなければ、助けた命も無駄になる。脅威を退けることと、退けた後で人が生き延びられることは、別の仕事だ。両方を揃えて、初めて「救った」と言える。


湯気の立つ鍋の前に、村の子供が一人、恐る恐る近づいてきた。列に並んで汁物を受け取り、それからすぐ近くで木を運んでいたアインを、じっと見上げている。しばらく迷った末、小さな手を伸ばして、ゴーレムの装甲にそっと触れた。アインは仕事の手を止めて、されるがままになっている。子供が笑った。


救えた、という手応えは、こういう小さな顔の中にある。数字の上や報告では「脅威排除・生活再建の目処あり」と一行で済む話が、目の前では一人の子供が笑うという形をしていた。計画通りだ。図面に描いた仕組みが、今、人の動きとして裏付けられていく。


  ◇


一人が慣れれば、あとは早い。


着いた当初、村の者はレイヴンズを遠巻きにしていた。獣人だ、ならず者の寄せ集めだ、と。それが昼を回る頃には、子供らがすっかり隊員たちにまとわりついている。中でも人気を集めていたのが、ジリオンだった。


きっかけはララだ。子供らに向かって、獅子の獣人を指さし「あれは大きなワンコだよ」と吹き込んだのだ。子供は素直だ。すぐさま「わんこ、わんこ」とジリオンを取り囲んだ。


「――誰がワンコだ、ごらぁ!」


当然、ジリオンが吼えた。獅子の顔で、地を震わす声で。


その瞬間、足元にいた二歳ほどの女の子が、火が付いたように泣き出した。ぎゃあ、と、村じゅうに響く声で。


ララとアーレフを含む数名が、蜘蛛の子を散らすように、その場からすっと離れていった。あまりに素早く、無駄がない。撤退だけは一流の連中だ。


泣き声を聞きつけたヴィとミカルが、すぐに飛んできた。


「ジリオンさん。子供を泣かせて、どうするんですか!」


小さな指揮官が、大きな獅子を見上げて叱っている。その後ろで、ミカルが無言のまま腕を組んでいた。何も言わない。だが、寡黙な老将の視線ほど、効くものはない。


ジリオンが、しょぼんと地面に座り込んだ。獅子のたてがみが、心なしか萎れて見える。


その、しょげ返った獅子のそばに、さっきまで泣いていた女の子が、ぺたぺたと歩み寄った。そして、彼の指に――大きく、鋭い鉤爪の生えた、その一本に、小さな両手できゅっと掴まった。


女の子が、ジリオンの顔を見上げる。


「わんこ」


ジリオンが、はぁ――――――――っと、特大のため息をついた。


それから、爪をそっと引っ込めて、掴まれるがままにした。抗うのを、諦めたらしい。


その様子を見て、散っていた子供らが、またわらわらと集まってくる。獅子の獣人は、もう吼えなかった。


  ◇


撤収の支度を始めた頃、アーレフが僕の前に立った。機体を抱えたまま、俯いている。


「マキナさま。なまえ、決まらない」


散々唸った末に、観念して来たらしい。急かした覚えはないが、あの様子では、こちらから助け舟を出すくらいは許されるだろう。


「ではこう言うのはどうです? 私が知る古き神に仕える鴉の名前なんですが、フギン、ムニンと言います。神さまに毎日、世界中の事を見て聞いて伝える鴉なんですよ?」


前世の神話に、老いた神の肩へ止まる二羽の鴉がいた。フギンは思考、ムニンは記憶。毎朝世界を巡り、見聞きした物を主のもとへ持ち帰る。飛んで、見て、伝える。偵察の獣人と、その翼に、これ以上の名は無い。


もっとも、その神の名までは言わない。彼女には、名前と手触りだけ渡せればいい。


アーレフが機体に額を寄せた。


「フギン……ムニン」


大事な物を確かめるように繰り返して、それからパッと顔を上げた。


「……うん。この子たちの、名前」


  ◇


日が傾き始めた頃、街道の向こうから車列が上ってきた。


ドラグロードから寄越された復興部隊だ。大工も、医者も、当面の物資も揃っている。ここから先の、腰を据えた立て直しは、彼らの領分だった。初動で場を安定させ、専門の後続へ移す。居座って全部を抱え込むのは、僕たちの仕事ではない。


引き継ぎは短く済んだ。こちらが手を付けた所と、まだの所。危ういと見た箇所。炊き出しと暖の設備をどこに据えたか。要点だけを渡して、僕たちは撤収に入った。


最初に駆けつけ、脅威を鎮め、暮らしの土台を戻し、後続に渡して去る。それが遊撃隊の役目だ。レイヴンズが去った後に、この村がちゃんと立ち直っていく。その形まで含めて、初めて仕組みが完結する。


村を離れる段になって、子供らがジリオンに群がっていた。行くな、と、袖やたてがみを掴んで離さない。


百戦錬磨の獅子の獣人が、その一人一人の頭に、大きな手をぎこちなく乗せていく。何も言わない。ただ、その鼻が、きゅー、きゅー、と鳴っていた。泣くのを、必死にこらえているらしい。


要塞が動き出す。


村の者たちが、街道の端に並んでいた。誰に言われたわけでもなく、去っていく僕たちに向かって、手を振っている。あの二歳の女の子も、母親に抱かれて、小さな手を振っていた。


天蓋のヴィが、それに気づいて、小さく手を振り返した。


僕はその光景を見ていた。脅威は去り、村は立ち直りの途に就いた。仕組みは正しく回った。


車列は、北の名も無き村を後にした。


  ◇


帰りの街道は、来た時よりずっと空気が緩んでいた。


要塞の天蓋で、アーレフがフギンを抱えている。その脇を通りかかって、ふと目をやると、上面に、たどたどしい字で「ふぎん」と書いてあった。気に入ってくれたようで、嬉しい。


その少し先で、カルミナが欄干に背を預けて空を見上げていた。アーレフの機体が試験で舞った話を、道中の誰かから聞いたのだろう。


「なあ、主」


「はい」


「妾も飛びたいぞ?」


飛行戦力は、今のところ三姉妹とアーレフに限られる。カルミナに専用の滑空機を組む手もあるが、コアの都合がある。彼女一人に割いているコアは、既に少なくない。これ以上増やすのは合理に合わない。ならば、答えは一つだった。


「次に対空戦があれば、僕が貴方の翼になりましょう」


僕としては、単純な運用の話だ。装備を新造するより、僕自身が飛べばいい。コアを一つも使わずに済む。


だが、言い終えた途端、天蓋の空気が変わった。


紅茶のカップを手にしたまま、メルフィーナが固まっている。無表情のまま、こめかみに、ぴきりと血管が浮いた。


カルミナはといえば、一瞬、軽く目眩を起こしたように欄干へ手をついた。それから、下からメルフィーナを見上げて、にやぁ、と笑った。


「聞いたか、小娘」


その先を言わせるより早く、リーディアが両手で顔を覆った。もう見ていられない、という風に。


僕は自分の一言のどこが火種になったのか、いまいち掴めないまま、紅茶をひと口飲んだ。


要塞は、北の空の下を、ゆっくりと南へ進んでいく。




第六十六話・了

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