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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
成竜編

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第六十五話 ”空を駆けて戦士を選び運ぶ女神”

展開式移動要塞の甲板に、急遽建造したカタパルトの射出レールが朝日を受けて伸びていた。


レールの上でレギンレイヴが待機している。試作一号機、量産前の唯一の実機だ。双発の魔導ダクテッドファンが低く唸り、翼の付け根から陽炎に似た魔力の揺らぎが立ち上っていた。搭乗しているのはアイン。仮面の眼窩(がんか)に、薄いスカイブルーの灯火が点っている。


今日はこれを飛ばして、三姉妹を空へ上げるという発想そのものの正否を確かめる。設計上の問題は無い。あとは実機が理屈通りに動くかどうか、それだけだった。


通信卓の前で、セラがヘッドセットに指を添えた。


「アイン、カタパルトスタンバイOK。いつでも出せます」


普段の砕けた調子は消え、要点だけを刻む声に変わっている。作戦時の彼女だ。


僕は甲板の端に立ち、レギンレイヴを見上げた。


「レギンレイヴ、射出」


ターニャが復唱する。


「レギンレイヴ、射出します」


カタパルトのレールに、蓄えられた魔力が一気に流れ込む音がした。


射出台がレギンレイヴを弾き出す。加速度に押されて、アインの体が一瞬だけ後方へ沈み込んだ。風を切り、機体が甲板を離れる。翼が空気を掴み、機首がわずかに持ち上がって、失速する事もなくそのまま上昇へ転じた。


甲板の全員が、その軌跡を目で追っている。


僕は通信端末に手をかけた。


「アイン、魔導ダクテッドファン起動。加速性能を試す。上昇高度三百から三百五十で滑空モードに移行してください」


短い波長が返ってくる。了解の合図だ。三姉妹は声を持たない。命令への返答は、いつもこの一拍の波長で届く。


遠くで、ファンの出力が上がる音がした。上昇角が増し、機体がぐんと高度を稼いでいく。速度のデータが、手元の水晶板に流れ込んできた。加速は設計値通り、翼面の揺れも許容範囲内。フレームに異常な負荷はかかっていない。


「高度百、百五十、二百、二百五十、三百。危険域突破。滑空モードに移行します」


ターニャの声にあわせて、ファンの音が落ちた。


翼だけで風を受け、機体が静かに空に浮いている。理論通りだ。魔力を吹かせ続ければ変換効率の限界で蓄えが尽きる。ゆえに離陸と緊急回避以外はエンジンを止めて滑空する。その設計が、今、数字の羅列として裏付けられていく。


「すごい!本当に、飛びましたね」


セラの声が、僅かに柔らかくなった。作戦モードの隙間から、いつもの彼女が覗く。


「飛ばした、が正確ですよ。偶然じゃないですからね」


セラが小さく笑う気配があった。


「ですね」


ふふっと微笑む彼女の目線に、僕は視線を空へ戻した。


レギンレイヴが緩やかにバンクを取り、大きく円を描く。急旋回、急減速、再加速。アインが機体の限界を確かめるように機動を重ねていく。翼に問題はない。データ上、フレームの余裕はまだ残っていた。


足場さえ確保できれば、三姉妹はあの高速戦闘とコンビネーションをそのまま空へ持ち込める。その見立てが、目の前で機体の挙動として証明されつつある。足場としては十分に機能する。次の課題は武装との連動と着陸コンボの詰めだが、それは今日の試験の範囲ではない。


高度を落としながら、レギンレイヴが甲板(こうはん)へ戻ってくる。減速、着地態勢。ソリ状の胴体が甲板を滑り、削られた甲板が火花を散らして停止した。


構造上胴体下部がソリの様になっており、胴体その物でランディングする設計だ。


甲板の空気が、安堵で僅かに緩んだ。


アインが機体から降り立つ。仮面の灯火は、スカイブルーのまま静かに揺れている。僕の前まで来ると、無言で水晶板を差し出した。飛行中に取得したデータの全記録だ。速度、高度、負荷、燃費。実機の言葉は、どんな報告より雄弁だった。


受け取って目を通す。理論値からのズレは僅かで、修正の要る箇所も想定の範囲に収まっている。三姉妹を空へ上げるという発想の正否は、これで片が付いた。


僕はアインの頭をポンポンと叩いてから、甲板の隅に控えていた影へ視線を向けた。


アーレフだ。背には、彼女の為に作った小型の滑空機。翼を折り畳んだ状態で、パックのように背負っている。試験の間、ずっとそこに立って空を見上げていた。


僕はアーレフに向き直った。


「アーレフ」


「はい」


彼女の耳が、ぴくりと動いた。


「これは、君の翼だ」


それ以上の言葉は要らないはずだった。


「試してみてくれないか」


アーレフが僕を見上げる。仮面越しではない、素の(ひとみ)だった。瞬きも忘れたように、しばらく固まっている。


「――飛んで、いいの?」


「ああ、君の空だ」


アーレフの手が、背中の折り畳まれた翼にそっと触れた。指先が機体の輪郭をなぞる。それから彼女は、要塞から少し離れた岩場の高台へと駆け出していった。


突端に立ち、振り返ってこちらを一瞥する。僕は小さく頷いた。


アーレフが背中の機体を取り外し抱き抱える様にして、飛び降りた。


一瞬、体が落下する。次の瞬間、抱き抱えた翼がレール式に展開し、単発の魔導ダクテッドファンが起動する音が響いた。翼が風を掴み、落下が滑空へ変わる。


「――っ、うわ、うわあああああっ!!」


機体にへばり付いた余裕の無いアーレフの声が、風に乗って甲板まで届いた。歓声とも悲鳴ともつかない、混ざりあった声だった。


彼女の機体が朝の空を切って滑っていく。翼を傾け、旋回し、また風を捉えて上昇する。操縦は危なっかしかったが、機体はちゃんと彼女の意志に応えていた。


「飛べる! 私、飛べてる!!」


偵察用のドローンであるからすで、僕は彼女に空を見る目を渡した。この滑空機で、彼女自身の翼を空へ届かせた。生まれてからずっと飛べなかった鴉の獣人が、今、自分の翼で空を切って飛んでいる。


いつかもっといっぱい飛べる様にしてやる。あの時そう返した約束を、嘘にしないであげれただろうか。


アーレフの機体が大きく弧を描き、高度を落として甲板へ滑り込んでくる。ウィリー状態で胴体を抱え込み、翼をレール式に畳んで、彼女は器用に地面へ降り立った。息が上がっている。頬が上気して、耳がぴんと立っていた。


僕の前まで駆け寄ってくると、アーレフは機体を抱えたまま、深く頭を下げた。


「――あり、がとう」


声が、震えていた。


その先は、言葉にならなかったようだった。無理に続けさせる必要も無い。飛んだ、という事実が、彼女の中では何より雄弁に片付いているはずだ。


「礼はいいんですよ」


僕はアーレフの背の機体に目をやった。


「それより、そいつに名前を付けてやってくれませんか?君の翼です。僕が付けるより、その方がいい」


アーレフが顔を上げる。抱えた機体を見下ろし、それから、そっと機体に額を寄せた。


「……名前」


大事な物を確かめるように、彼女は小さく繰り返した。




第六十五話・了

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