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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
成竜編

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第五十五話 "居場所"(挿絵を入れました)

挿絵は本日中にアップ致しますm(_ _)m6/21

妾は、退屈という病に罹っていた。


 生まれた時から、ずっとだ。


 剣を握れば、教師は三月で教えるものを失くした。魔法を学べば、宮廷魔術師が舌を巻いて黙り込んだ。冒険者に混じって魔物を狩り、ギルドからの国防の依頼をこなし、それでも妾の渇きは埋まらなかった。誰も彼も、弱い。強くなりたいのではない。強い何かと、ぶつかりたかった。妾を本気にさせる何かが、この世のどこかにあるはずだと、そればかりを探していた。


 弱き国などというものに、興味はなかった。


 血の繋がらぬ父を名乗る王が、妾に言った。お前を隣国へ嫁がせ、その金で国を保たせる、と。母の連れ子に過ぎぬ妾の使い道など、そんなものだろう。下らぬ下衆に売られてやる気は、微塵もなかった。だから妾は、その場で王が静かになるまで殴ってやった。


 安く見積もった愚かな男を処した結果、国は妾を追放すると言ってきた。傾いた貧乏国家の分際で、妾を追放とは、笑わせてくれる。母も一緒になって、きゃんきゃんと喚いておったわ。妾は国を捨てた女だが、世間では追放された王女、と噂されている。小さなことに五月蠅い連中だ。どちらでも構わぬ。妾はもう、あの国の何ものでもない。




 その折に、ギルドから魔物討伐の依頼が来た。


 ギルド長は、王城に居らぬ妾を、街で騒ぎになっている場所を城から順に探したという。一つ目で当てたそうだ。なかなか頭の切れる男だと感心したものだ。


 国境で、二人の傭兵に出会った。


 黒い装具を纏った大女と、その大女に犬ころと呼ばれて顎で使われている男。ドラグロードのレイヴンズ、と名乗った。あの装具——後にアーマードパックと知る——を見た時、妾は久方ぶりに胸が高鳴った。鋼が、人の動きに添って吼えている。あれを生み出した者がいる。


 話を聞くだけで、妾の胸はここまで躍った。


 こやつらの飼い主は、面白そうだ。ときめいた、とでも言えばいいのか。妾はその日、滅びかけの国に留まる理由を、最後の一片まで失くした。強さの出所へ、まっすぐ行く。それだけが、妾を動かしていた。




  ◇




 そうして辿り着いた守護竜の男は、妾の一切を片手で受け止めた。


 二重に詠唱を編み、魔法陣を放射に展け、身体強化の脚で踏み込んだ。妾の全力だった。それを、男は杖の一本でいなし、空いた手で妾の腰を抱き寄せて、こう言ったのだ。これで貴方は私のものだ、と。


 負けた。生まれて初めて、妾は心の底から負けを認めた。


 惨めさは、なかった。むしろ、胸の奥が熱かった。妾を超える何かが、確かにこの世にあった。その傍らに居られるなら、王女の冠など惜しくもない。だから妾は、口づけを一つくれてやった。賭けは賭けだ。妾はこの男のものになる。


 我、という一人称を、妾はその時そっと仕舞った。




  ◇




「アーマードパックを寄こせ」


 妾が言うと、マキナと呼ばれる男は、静かに首を振った。


「そうですね貴方には、アーマードパックでは不釣り合いというモノ。貴方にあしらえて、別のものを用意しています」


 別の、だと。妾が見込んだのは、あの黒い鋼だ。それより劣るものを宛がうつもりなら——と気色ばむ前に、男は続けた。前々から温めていた装備がある、と。骨格の頑強な者には使えぬ代物で、ずっと使い手を待っていた、と。


 差し出されたのは、軽い骨組みだった。


 纏ってみて、妾は息を呑んだ。軽い。なのに、脚が地を蹴れば体が驚くほど高く飛び、着地の衝撃が嘘のように消える。剣を振れば、振りそのものが速く重くなる。詠唱を回せば、魔力の通りが太くなる。剣も魔法も、妾の地力をそのまま押し上げてくる。アーマードパックが鋼を着る装備なら、これは妾という刃を、研ぎ直す装備だった。


「ただし」


 男の声が、一つ落ちた。


「それは貴方を守りません。装甲を捨てて、軽さと出力を取ってあります。掠れば斬れる。飛んできた破片の一つも、防いではくれない。当たれば、生身と同じだけ傷つきます。それでも」


 妾は、笑った。


「上等だ」


 守りなど、要るものか。当たらなければ、それでよかろう。もらう前提で鈍重に固めるより、避けて、捌いて、攻めに全てを注げる方が、妾の性に合っている。守りを捨てた分だけ、刃が鋭くなる。これほど妾向きの装備が、他にあるか。男は、妾という使い手を、正しく見抜いていた。安く見積もった王とは、見ている所が違う。


 新しい力が、妾の手にある。


 ならば、試さずにいられるか。




 手合わせの相手を、と妾が言うより早く、レイヴンズの連中は退いていた。


 大女も、犬ころも、他の面々も、誰一人として前に出てこない。臆したのではない。勝てぬと、見切っているのだ。素の妾とアーマードパック越しで互角だった者が、この装備を得た。結果は分かりきっている。だから挑まぬ。できる者ほど、勝てぬ戦いを避ける。


 つまらぬ。せっかく手が疼いているというのに。


 その渇きを、男は見ていたらしい。


「アイン、ツヴァイ、ドライ」


 主様が、傍らに控える三体のメイドゴーレムを呼んだ。


「戦闘モード、起動。お相手して差し上げなさい」


 名を呼ばれた三体が、すっと前へ出る。今は主武装は持たぬ。徒手空拳で相手するそうだ。妾には剣も魔法も全て許された。一見、妾に手厚い条件だ。だが、あの守護竜が三体がかりで徒手と縛りを入れて、それでようやく釣り合うと踏んだ、ということでもある。


 悪くない。むしろ、これでいい。




 ところが、面白いことが起きた。


 三体のうち、先頭の一体——アインと呼ばれた娘だけが、つい、と進み出た。残る二体は、後ろに下がったまま動かぬ。そしてアインは、片手をひらりと上げて、妾を手招きした。


 来い、と。


「ほう」


 一体で、妾の相手をするというのか。


 妾の口の端が、勝手に吊り上がった。フル装備の妾に、徒手の縛り、しかも三体のうちのたった一機で挑むと申すか。いい度胸だ。生意気な人形だ。妾相手に、単騎とはな。

挿絵(By みてみん)

 その昂りのまま、妾は踏み込んだ。


 刹那、背に影が二つ差した。


 下がっていたはずの二体が、いつの間にか妾の背後に回り込んでいた。手招きは、餌だった。一体で挑むと見せて、妾を踏み込ませ、慢心の頂きで刈り取る——伏兵の、二つの蹴りが妾の背を撃ち抜いた。


 飼い主に、よう似ておるわ。


 まともに食らえば、この装備に守りはない。だが妾は、剣の鞘で受けてやった。あえて、だ。蹴りの勢いに逆らわず、吹き飛ばされてやった。錐揉みに散る体勢と見せかけて、その回転を一息に殺し、勢いのまま——餌を撒いた本命、アインの懐へ斬りかかった。


 謀ったつもりが、謀られておるぞ。人形。




 刃が、空を裂いた。


 アインが、いない。地を蹴る音すら置き去りに、低く、まっすぐ、妾の脇を抜けていく。足だ。あの娘ら、速い対応を、何もかも足でこなす。手で受けず、足で捌き、足で詰める。一体を斬れば、その勢いを別の一体が空中で拾い、足の裏を合わせて蹴り返し、まるで壁を蹴るように向きを変えて戻ってくる。


 3つの影が、もはや目で追えぬ速さで交差した。


 妾も、笑いながらそれに乗った。


 剣で薙ぐ。躱される。詠唱を差し込む。足で蹴り落とされる。一体を崩したと思えば、崩れた勢いが次の一体の加速に化けている。捨てるはずの力を、こやつらは一つも捨てぬ。妾が捨てぬのと、同じだ。外骨格の脚が、妾を三体の速度域へ引き上げている。並んで走れる。ようやく、並んで走れる相手が、ここにいる。


 ああ、楽しい。


 心の底から、楽しい。




 三つの蹴りが、同時に来た。


 妾は剣の腹で、その全てを受け止めた。鍔元が軋み、四つの力が一点で拮抗する。その均衡の真ん中で、妾は片手で髪をかき上げ、満面の笑みを浮かべた。


「装備も、相手も、超一級品。素晴らしいッ」


 これだ。これを、妾はずっと探していた。


 三体が、ふっと力を抜いた。蹴りの拮抗が解け、構えが緩む。終わり、とでも言うように。


 甘いわ。


 妾は、その緩みへ斬り込んだ。讃えておいて、解いた隙を突く。戦いとは、そういうものだ——


 だが。


 それも、誘いだった。


 妾が踏み込んだ刹那、三体が一斉に動いた。一つは喉元へ。一つは胴へ。一つは膝の裏へ。三方向から、寸分の狂いもなく、急所の手前でぴたりと止まる。指一本動かせば、三つとも入る。完全な、詰みだった。


 ……してやられた。


 緩んだと見せたのも、罠だったか。妾が「解けた隙を突く」と読むことまで、読まれていた。誘って、誘って、最後に誘い切ったのは、この人形どもの方だった。


 妾は、剣を握ったまま、声を上げて笑った。




「主どのに似て、性格が悪いのぉ」


 寸止めの三体に囲まれたまま、妾は言ってやった。


「一度、再教育したらどうじゃ。なんなら妾がやってやろうか」


 負けた。だが、これしきで終いにする気はない。こやつらは、いい。もっとやれる。次は妾が、稽古をつける側だ。負けが、次の戦いの約束になる。妾にとって、それ以上のものはない。


 三体が、攻撃を解いた。


 そして、すうと退いて、マキナの傍らに戻る。三人揃って妾へ向き直ると、裾をつまみ、寸分の隙もない美しいカーテシーを返してきた。先ほどまで妾を詰めていた人形どもが、戦いを終えれば、淑やかな侍女の顔に戻る。


「どうです」


 マキナが、満足げに言った。


「自慢の娘たちです」


 娘、と来たか。


 妾の頭に、ひとつ、悪くない考えが浮かんだ。


「では、妾の娘でもあるわけだな」


 この男に妾は負け、女になると誓った。ならばこの男の娘は、妾の娘でもある。理屈は通っている。妾は鷹揚に頷いてやった。


「苦しゅうない。妾を母と思うて、いつでも挑むがよい」


「何であなたが母なんですか……ッ!!」


 声を裏返したのは、金髪の姫——マキナの契約者だという、メルフィーナとかいう娘だった。


 ふん。よく囀る娘だ。


 だが、嫌いではない。この娘は、この守護竜の身を、本気で案じている。その目を見ればわかる。案じて、慕って、たぶん——そのたぶんから先が、妾にはよくわからぬのだが。まあいい。怒ったり、慌てたり、忙しい娘だ。傍に居て、退屈はせぬ。


 その隣で、もう一人の姫が、頬に手を当ててほうと息をついていた。聖国の装いの、おっとりした娘だ。妾とメルフィーナを見比べて、何やら、ひどく嬉しそうにしている。


 ……何を見て、微笑んでおるのだ、この姫は。




第五十五話・了

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