第三話 メカヲタ 本を読む
メルフィーナに抱かれて着いたのは、どうやら彼女の私室らしい。後ろからついて来ていた騎士たちも、部屋の前で待機して中までは入ってこない。代わりに、部屋付きのメイドが室内で控えていた。
改めて見ると、メルフィーナ王女は13、4歳といったところ。ブロンドの、美少女と呼んでいい風貌だ。栄養が足りていないのか、やや細い印象を受けるが、不健康というほどでもない。
部屋は、少女の私室というより書斎と言った方がしっくりくる内装だった。普段から勤勉なのだろう。
正面の壁には大きな地図が掛かっている。島なのか大陸なのかは判然としないが、いくつかの国名が記されていた。
地図の前の大きな机に降ろされた僕は、その地図をじっと眺める。それを見たメルフィーナが、各国の位置と特徴を説明してくれた。
◇
ハルトアイゼン(ドワーフ王国)
位置:北西
国民性:諦めない鉄の職人気質。浪漫に命を賭ける熱血、寡黙だが認めた相手には全力。鉄の哲学で人生を語る。
地形:地上に堂々たる鋼鉄の城塞都市、地下は採掘場と工房。
産業:鉱業・鍛冶・兵器開発。世界最高品質の技術。
軍事:旧式大砲あり。神聖国との小競り合いで実戦経験は豊富。一度も征服されたことがない。
特徴:技術的な中立地帯。誰とでも取引するが、誰にも屈しない職人大国。
—— 是非とも仲良くしておきたいタイプの国だ。
神聖国ゴッテスベフェール
位置:南西
国民性:女神信仰に基づく、誠実で真面目な民族。善良だが、洗脳には気づきにくい。
支配構造:神殿権力が王権より強い。
敵対理由:神殿の支持する女神信仰に対し、竜信仰を邪教とする。完全に敵対している。
軍事:大規模な神官騎士団。
特徴:勇者召喚システムを持つ、正義の国。
—— 宗教が絡むと、色々と複雑で面倒だ。勇者、か。そんなものが居るのか。
フィーンライヒ(妖精・エルフ王国)
位置:北東
国民性:超長期視点。古代種族としての誇り、慎重な策謀家気質。表向きは中立だが、全方位に手を伸ばしている。
支配構造:長命種だけあって、基本構造が1000年単位で変わらない。各部族の族長の上に王族が君臨しているようだが、露出が少なく、直接の国交も乏しい。
軍事:基本的に謎。ただし世界で唯一、精霊魔法と呼ばれる魔術を使う。
特徴:数千年の歴史を持つ古代種族。高度な魔法文明があるらしいが、情報が極端に少ない国だ。
—— 真面目そうで、頭は硬そうだ。勝手なイメージだが。
南東国家連邦
位置:南東
国民性:損得だけで動く。感情より計算。逆説的に、世界を最も正確に見ている連中でもある。
構造:複数の商業国家・獣人国家の連合体。流通を握ることで発言力を持つ。
軍事:獣人やヒューマン種の傭兵・冒険者が多数寝床にしており、常に万単位の傭兵団が居ると思われる。
特徴:流通の要。誰とでも取引し、敵対する国同士がこの国を通じて取引することもあるという。
—— 商人の国、傭兵の国、といった印象。ただ、交渉は利く相手だと思えた。
そして最後に、我らがドラグロード王国だが——。
ドラグロード王国
位置:大陸中央、ドラグロード山脈に囲まれた小国。
地形:国土の6割が山岳地帯。難攻不落。第二都市ドラグナートを擁する。
国民性:質素で素朴。竜への強い憧れと、信頼と、依存。
産業:竜信仰の総本山としてのお布施収入、鉱物採掘、連邦との交易でどうにか成り立っている。
軍事:1000人規模の騎士団。
特徴:竜信仰と守護竜契約、そして天然の要塞たるドラグロード山脈のおかげで、辛うじて成り立つ小国。全方位を大国に囲まれ、人口も少ない。国土面積は他国の1割程度。
—— ……正直、完全に詰んでいる。
◇
本を読み、メルフィーナやメイドの話を聞くに、昔はもっと国土が広かったらしい。この守護竜契約のシステムには、大きな欠点がある。守護竜に危険が及べば、始祖竜が竜の軍団を率いて助けに来る——それはいい。だが、その条件では守れる範囲が狭すぎる。
頼みの鉱石資源も足元を見られて安く買い叩かれているようだし、ドラグロード王は立派でも、王族だけが優秀では限界がある。
騎士団の装備と実力は後で確認するとして、まずは、始祖竜の応援トリガー以外に今の僕で何ができるかだ。この体型では肉弾戦は無理だろう。ブレスは吐けるかもしれないが、弱そうだ。となると、自然と属性に寄せた魔法が候補に挙がってくる。幸い、メルフィーナの蔵書には魔法関連の本もあるようだ。優先的に読もう。
それにしても、この身体は小さい割に、脳の性能が桁違いだった。今のところ、読んで分からないものがない。前世の記憶があっても、この脳がなければここまで理解は速くなかっただろう。実際、前世の僕はそれなりに頭は回ったが、天才というほどではなかった。
魔法に関する書物も、まったく問題なく頭に入ってくる。おかげで、本を読むのが無性に楽しい。
だが、この身体の限界は不意に訪れた。空腹だ。しかも、身の危険を覚えるほどの。僕はメルフィーナたちに、急いで何か書く物を用意してもらった。
彼女たちが持ってきてくれたのは、小型の黒板とチョークだった。この世界では、子供から大人まで、これで勉強したり書き物をしたりするらしい。ちょうどいい。取り急ぎ、僕は黒板に大事な一言を書きなぐって、突きつけた。
[お腹減った]
いつもは騒がしい尻尾も、今ばかりはぐったりしていた。
第三話・了
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク




