第二話 メカヲタ 鑑定を受ける(改訂版)
謁見の間へ連れて来られた僕は、メルフィーナに抱きかかえられたまま、王の前へ進んでいく。
こんな場に覚えがあるとすれば、前世で自衛隊にいた頃、式典で統合幕僚長を遠目に見た時くらいだ。
◇
広間に通されると、玉座の男と目が合った。
50前後だろうか。白髪交じりの髪に、深く刻まれた皺。疲れた王様、というのが第一印象だった。
だが、違う。その目は僕を見ながら、同時に広間全体を見ていた。空気、貴族たちの反応、僕の一挙一動——それを一度に処理している目だ。
切れる人間の目だった。前世でも、こういう目を何人か知っていた。
王が口を開いた。
「よく来てくれた、竜よ。知性を感じる目をしているな。我の言葉が解るな?」
挨拶も儀礼もない。いきなり核心だった。少し考えてから、頷く。
王が微かに笑った。つられて尻尾がぴんと立つ。——ああ、この男は分かっている。
「我が名はマルキウス・フォン・ドラグロード」
「生まれたばかりでも、そなたの方が愚王である我よりずっと格上だ。礼儀など不要、自由にすると良い」
にかっと笑った王からは、先程までの威圧感が綺麗に消えていた。この男、なかなか優秀だ。
◇
メルフィーナは僕をそっと下ろすと、美しいカーテシーで一礼し、王の傍へ歩んでいった。
見回せば、大臣やら騎士やらがずらりと並んで、こちらを見ている。こういう場に慣れるほどの経験は、前世にもない。どう振る舞うべきか、正直悩む。
「言葉は解しても、話せはしない、といったところか。ふむ、先に鑑定を済ませよう」
運ばれてきたのは、大きな水晶板だった。
「それは鑑定の魔法装置だ」
王の説明では、この水晶には鑑定の魔法が込められていて、対象を映してキーワードを唱えると結果が出るらしい。
宮廷魔術師だろうか。王がいつの間にか僕の隣で説明を始めるものだから、仕事を奪われた術師が右往左往している。気を使って、つい声をかけた。
「あぎゃ?」
……そうだった。こんな声しか出ないんだった。
それでも、王が術師の存在を思い出すきっかけにはなったらしい。王は場を譲り、術師が続きを引き取った。
「まずはあなた様の鑑定を行わせて頂きます。そこで、じっとしていて下さいね」
ややおどおどした調子だった。素直に手を挙げて、あぎゃっと返事をしておく。
周囲が一斉に、ほっこりした空気になったのを感じた。
◇
水晶には、僕が映っている。……なるほど、4枚羽を生やした白いワンコだ、これは。角と鋭い爪、それに少しの鱗はあるが、8割がた白い犬に見える。
水晶が淡く動き出し、何かが放射されるのを感じた。やがて読めるはずのない文字が浮かび、空間に魔法陣らしきものが展開される。
これが鑑定の魔法か。人生——竜生も含めて、初めての魔法体験だ。尻尾が床をばんばん叩いているが、今は気にしない。初の魔法は、メカヲタの僕にもそれなりに衝撃だった。
異世界転生ものの鉄板要素、それが魔法である。専門ではないが、小説も漫画もアニメも、人並み以上には嗜んできた。それくらいには、テンションが上がっていた。尻尾を見るまでもない。
◇
術式が収束し、結果が表示された。
「古代竜種(幼生体) 属性不明」
……なんだ。ずいぶん大掛かりな割に、分かる範囲が狭い。
「何と、古代竜種! これではこの鑑定板では、鑑定しきれませんな……」
術師がぐぬぬと唸っている。
気になって、鑑定板にそっと触れてみる。
僕の目には、この板に書き込まれた術式が見えた。理解もできる。転生ボーナスなのか、古代竜種の能力なのかは分からないが、ともかく読める。
この魔法陣を少し整えてやれば、性能は上がりそうだ。理解してしまえば、要は一種のプログラム言語のようなものである。命令の並べ方を直せば、もっと効率よく動く。
前世の知識が異世界で役立つとは妙な話だが——時代も場所も、科学と魔法という隔たりがあっても、組み上がる技術にはどこか似た理屈が通っているのかもしれない。
魔法の論理演算はどこで処理しているんだろう。疑問は浮かんだが、今はいい。
術式を一部書き換えると、水晶板が再び起動した。先程よりも滑らかに、速く鑑定が終わる。
「古代竜種(幼生体) 属性 雷・地・空」
よし、鑑定できた。まるでPCだ……いや。PCみたい、だと?
ぴんと跳ね上がった尻尾と、思わず顔を見合わせる。
これ、上手く使えばプログラミングができて、PC同然の事もできるんじゃないか?
尻尾がすぱーんと床を叩いた。
◇
「何と、トリプルですと!」
突然、横で術師が大声を出すものだから驚いた。
「王よ、トリプルの古代竜種となると、メルフィーナ様であっても魔力量が足りません」
周囲がどよめき始める。メルフィーナも、真っ青な顔で立ち尽くしていた。王の表情も硬い。
——誰でもいいから、状況を説明してほしい。
とりあえず、横であわあわしている術師のローブを掴んで、ぐいぐい引っ張る。気付いた術師に、これ見よがしに首をかしげてみせた。
「あぎゃ?」
不思議そうに聞いてみせると、場の空気が少しだけ和らいだ。
「ご説明致します。我らがドラグロード王国は、100年から500年ごとに始祖竜より授けられる竜と契約し、国防の要としているのです」
ほう、国防に竜との契約か。察するに、契約には魔力が要る。そしてメルフィーナの魔力をもってしても、僕とは結べない——そういうことらしい。
ふんふん頷いて——ふと気付く。
……それはつまり、僕がお払い箱ということでは?
跳ね上がっていた尻尾が、そのままぐったり垂れた。しょぼんとした僕を見て、術師が慌てて声を張り上げる。
「方法が無い訳ではありません! 魔力による拘束の契約ができないだけで、言葉による契約は可能です。国防に拘束契約は、必ずしも要りません!」
要するに、こういう手順だ。
①始祖竜がよこした卵を、人の手で孵化させる
②名前と契約をもって守護竜とする
③逃げられては困るので、魔力を対価に拘束魔法で縛る ←ここ
④竜が危機に陥れば、始祖竜がその竜の軍勢を率いて守りに来る
僕とメルフィーナの場合、僕のスペックが想定外だったせいで、③の拘束契約が結べない。我ながら誇らしい。命名と契約だけ、つまり拘束力が低いぶん、不履行を心配されている——そういう話らしい。
前世でも、大国が小国との約束を後から反故にする例はいくらでもあった。妙に納得できてしまう。
とはいえ、それは僕が契約を守れば済む話だ。……その為にも、もう少し彼ら彼女らのことを知る必要がある。
とととっとメルフィーナに走り寄り、両手を挙げる。抱っこの合図だ。メルフィーナは戸惑いながらも、僕を抱き上げてくれた。抱かれたまま、王の目を見る。
「ふむ。生まれて直ぐに、信用も何もあるまいな。鑑定板の改良、見事であった。メルフィーナを連れ、王国内での自由を約束しよう」
自らを愚王と称するが、その実かなりの切れ者だ。満足のいく答えをもらって、僕はメルフィーナと共に謁見の間を後にした。
◇
メルフィーナは僕を抱えたまま、とぼとぼと歩いている。その表情には、明らかに元気がない。じっと見上げていると、彼女が僕の視線に気付いた。
「失礼致しました、古代竜様。どこか行きたい場所はございますか?」
不安を抱えているだろうに、気丈に振る舞う。流石は王女様、といったところか。
行きたい場所、か。まず何より情報が欲しい。それと、何かしらの意思疎通の手段が要る。
身振り手振りで必死に伝えてみるが、半分ほどは「?」で埋まった気がする。それでも、本が読みたい・書く物が欲しい、はどうにか伝わったらしい。ひとまず安心した。
分からないことは相変わらず山積みだが、魔法という手札を見つけられたのは大きい。おまけに属性が雷・地・空ときている。これも検証したい。
雷、地、空。雷は使い道がいくつも浮かぶし、地も同じだ。空は……まあ、追々でいい。ともあれ、試すことが一気に増えた。
まずは情報収集だ。
尻尾が僕の後ろで、ゆらゆらと揺れていた。
第二話・了
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク




