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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第三十七話 前線の灯

ドラゴノートへの街道を、サイクロプスに引かれた装甲車両が進んでいた。


車輪が地を噛む音と、馬の蹄の音が規則正しく続く。窓の外には、刈り入れの済んだ畑が流れていた。所々に農夫の姿が見える。13年振りに取り戻された土地は、もう戦の匂いより、土と麦の匂いの方が濃くなっていた。


僕はメルフィーナの膝の上に座っていた。


空間収納の中には、前線へ届ける新型のアームズパック・アーチャー50基、コンパウンドボウ200、ボウ・ライフル80挺を入れてある。インベントリがあると、荷を負って歩く必要はない。兵站も含めて収納済みだ。だから一行は身軽に街道を進めた。


車内には、メルフィーナと僕、そして三姉妹。アイン、ツヴァイ、ドライが、それぞれ車内の出入り口に近い位置で控えていた。表向きはメイドの装い。だが万一の時は優秀な戦力に切り替わる。彼女達がいれば、魔物の群れだろうが、盗賊だろうが問題にならない。


そしてもう一人。ヴェルディ・カーリスが、車内の隅に背筋を伸ばして座っていた。


一国の王女と守護竜と、広い車両とは言っても同室。従士の彼が緊張しないはずが無かった。こういう様を見ると、移動用の車両はいくつか作った方が気が楽でよさそうだな。


革鎧の上に騎士団の外套。日に焼けた顔。この1年余りで、すっかり青年の体になった男だ。僕は黒板を引き寄せた。


[ヴェルディ]


「はい!」


緊張しまくったヴェルディが姿勢を正しながら、ややうわずった返事をする。


[今のドラグロードの兵の数、足りていると思うか]


ヴェルディが、少し考えてから答えた。


「……正直に申し上げます。足りていないかと」


[そうだ。神聖国は数で来る。こちらは数では及ばない]


メルフィーナが、僕の書いた文字を読んで、言葉を継いだ。


「お父様も、同じ事を仰っていました。13年、この国は数で押されてきた、と」


[古いやり方では、足りない。家柄、年功、序列。そういうもので兵を並べていては、もう間に合わない]


ヴェルディが黙って聞いている。


[経験も、場数も見る。だが、それだけじゃない。僕は使える者は、何でも使うつもりだ]


短い一文だった。メルフィーナが、その文字を見て静かに頷いた。


「家の格でも、年でもなく……その者が何を為せるか、ですね」


[そうだ。身分の低い者が、上に立つ事もある。逆もある。働きで決める]


ヴェルディが、何かを噛みしめるように頷いた。


「……得難いお考えかと存じます。私の様な、一介の従士の出にも——」


そこで彼は言葉を止めた。出過ぎたと思ったのだろう。口を結んだ。


僕は、彼の顔を見上げた。


[その話は、後でしよう]


ヴェルディは、自分の事だとは思っていない。僕がそう書いても、ただの一般論として受け取ったらしい。短く答えて、また背筋を伸ばした。


メルフィーナが、窓の外へ目を戻した。


「マキナ様がお考えになる国は、きっと、今までのどの国とも違うものになりますね」


僕は尻尾を一度、ゆっくり振った。


[まだ、始まったばかりだ]


車輪の音が続く。ドラゴノートは、もう遠くなかった。


---


城塞都市ドラゴノートの城壁が、街道の先に見えてきた。


石組みの補修跡は、前に来た時より範囲が増えていた。崩れていた箇所が、新しい石で埋められている。土木作業用のゴーレム、とも考えないでもなかったが、コアの価格と割が合わないかもしれない。大型を作ればクレーンの代わりになるかもだが、要検証だな、と思考を巡らせる。


城壁の上には歩哨が立ち、こちらを認めると奥へ合図を送った。


城門が開く。


門前の広場に、騎士ゴーレム部隊と機動部隊が整列していた。白騎士、黒騎士、そして人の兵。先頭に、見覚えのある若い騎士が立っている。配備したサイクロプスは、緊急時以外は収納庫に格納され、未だ一般には公開していない。


ティーガー・エルトート。


車両が止まると、彼は片膝をついた。背筋を伸ばし、まっすぐにこちらを見ている。


「マキナ殿、姫殿下。お待ちしておりました」


メルフィーナが車を降りる。僕はその腕に抱かれて広場に出た。


「ティーガー、街の様子は如何ですか」


メルフィーナの問いかけに、ティーガーが姿勢を正す。


「住民の暮らしは落ち着いております。畑も市も動いております。ただ——神聖国の哨戒が、増えております。以前は1〜2週に一度でしたが、今は数日に一度。数も、5名から10名ほどに」


僕は尻尾を止めた。


[宣戦の後だな]


「はい。間違いなく」


メルフィーナが静かに息を吐いた。


「いよいよ、ですね」


[ああ]


僕はティーガーに書いた。


[新型を引き渡す。アームズパック・アーチャー50、ボウ・ライフル80挺、コンパウンドボウ200、各弓の矢。それと——人員を連れてきた]


ティーガーの視線が、車を降りてきたヴェルディに向いた。


「あの方は」


[アームズパック・アーチャーの最初の射手で、僕の手伝いをさせた男だ]


ティーガーの目が、僅かに鋭さを増した。


---


ティーガーの案内で、城壁の修復状況を見て回った。


対空、長射程への備えは、まだ薄い。城壁そのものの脆さも残っている。弓兵と魔法使いの数も、足りていない。


それでも、前に来た時とは空気が違った。


兵達の目に、輝きが見える。ティーガーが指揮を執り、白騎士と黒騎士が街に常駐し、サイクロプスが加わった。少しずつ、自分達は守られているという実感が、彼等の背筋を伸ばしている。


そして今日、王女が新型兵器と共に前線まで足を運んだ。メルフィーナが城壁を歩くと、兵達がざわめいた。一国の第一王女が、最も危険なこの場所まで来た。その事実が、言葉よりも雄弁に伝わっていく。王家は、この街を見捨てていない。


メルフィーナは、兵の一人一人に短く声をかけていた。名を尋ね、出身を聞き、労をねぎらう。大した言葉ではない。だが、声をかけられた兵の顔が、ひとつひとつ変わっていくのが見えた。


僕は、その様子を彼女の肩口から見ていた。


[上手いものだな]


メルフィーナが、小さく笑った。


「上手くなど。ただ、お礼を言っているだけです」


彼女の話術には、カリスマのある人特有の説得力がある。同じ言葉を言っても、彼女が言うだけで、結果は変わってくるだろう。


---


視察を終え、広場に兵が集められた。


騎士、戦士、弓兵、魔法使い。ドラゴノートに詰める者達が、整列している。ティーガーが前に立ち、その傍らにメルフィーナが進み出た。僕はメルフィーナの傍らに浮かんでいる。


ヴェルディは、列の中ほどに立っていた。何が始まるのか、分かっていない顔だった。視察の締めくくりに、王女から兵へ言葉があるのだろう。その程度に思っている。


僕は前世の頃から、サプライズという企画が苦手だった。欲しくもない物を渡された上に、喜ばないという選択肢が無い。あれは拷問だ。なぜあの時、貯金が趣味でもない僕に貯金箱が届いたのか。……いや、昔の記憶に、つい力が入った。


メルフィーナが、口を開いた。


「ヴェルディ・カーリス」


列の中で、ヴェルディの肩が跳ねた。


呼ばれるとは思っていなかった顔だった。一瞬、自分の聞き間違いかと辺りを見回し、それからゆっくりと前に進み出る。


「……はっ」


彼は、メルフィーナの前で片膝をついた。


「アームズパック・アーチャーの射手として、その身をもって新たな兵器を世に出した働き。マキナ様によく仕え、良き結果を得た事、大儀でした」


メルフィーナの声が、広場に通った。


「守護竜マキナ様の御承認のもと、ここにあなたを騎士に叙する。そして——ティーガー・エルトートの下、アームズパック・アーチャー部隊の長を命じる」


広場が、静まった。


ヴェルディは、片膝をついたまま動けなかった。顔を上げ、メルフィーナを見て、それから傍らの僕を見た。何かを言おうとして、言葉が出てこない。口だけが、僅かに動いた。


[聞こえなかったか。隊長だ。お前が]


ヴェルディの喉が、上下した。


「……私で、御座いますか」


[他に誰がいる]


ヴェルディは、まだ信じきれない顔をしていた。試作ドリルの実験台から始まり、装具を着け、矢を放った。その一つ一つが、まさかこの場所へ繋がっているとは、思っていなかったのだろう。


ティーガーが、一歩進み出た。


「カーリス殿。いや——ヴェルディ」


ティーガーが、手を差し出した。


「共に、この街を守りましょう」


ヴェルディが、その手を見た。それから、ゆっくりと立ち上がり、震える手でその手を握った。


「……微力、非才の身ではございますが、全身全霊で、務めさせて頂きます」


声が、掠れていた。


広場の兵達が、ザッと音を立てて一斉に敬礼した。


一介の従士だった男が、その働きだけで、前線の部隊長へ引き上げられた。家柄でも、年功でもなく。働きで。


その光景が、何を意味するか。並んだ兵達の目が、変わっていくのが見えた。ここでは、働けば見られる。引き上げられる。数で劣り、いずれ神聖国が押し寄せて来ても——自分達は、ただの頭数ではない。


僕は、尻尾を一度静かに振った。


メルフィーナが、ヴェルディを見て、それから僕を見た。その瞳に、確かな満足が宿っていた。


---


その夜。


城壁の上で、僕は西の空を見ていた。国境の向こう、神聖国の方角。あの空の下で、数を恃む軍が、ここへ向かう支度を進めている。


足元の街では、灯りがいくつも点っていた。取り戻した家々の、暖かい色の灯りだ。


メルフィーナが、隣に立った。外套を羽織っている。


「ヴェルディ殿、まだ信じられないという顔をしておりました」


メルフィーナが、ヴェルディの方を思い出して小さく笑った。それから、西の空へ目を向けた。


「来ますね」


僕は小さく頷いて、彼女に振り返る。彼女の横顔は、怯えていなかった。


僕は、灯りの点る街を見下ろした。守るべきものが、そこにある。数では及ばない。それでも、退けてみせる。


尻尾が、夜風にゆっくりと揺れた。

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