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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第三十二話 メカヲタ、新たな興味を持つ(改訂版)

※長過ぎた32話を2500文字程削りました。

工房の作業台に、1挺のボウ・ライフルが横たわっていた。


筒長75cm、弓本体の全長1.4m。発射筒の周囲に圧縮空気シリンダーが4本、放射状に固定されている。シリンダー1本あたりの容積100cm³、最大圧50気圧。4本合計でフル充填時の蓄積エネルギーは約7800J。シリンダーの継ぎ目には、ミスリル含有合金特有の青みがかった光沢が走っていた。マルエージング鋼のフレームが鈍く光る。


弓本体の後方には、長さ30cmのエクステンドアームが伸びている。先端に、ピストル型のグリップとトリガー機構。装着者はこれを握って弦を後方に引き、空気を圧縮する。持ち手を弓本体から30cm離した事で、アジャスト機能と合わせ、装着者の体格差に左右されない設計になっている。


エルダが机の脇に立ち、ボウ・ライフルを見下ろしていた。


「マキナ殿、見れば見るほどとんでもないモンやな」


[1号機だ]


「1号機、か。完成版ですかい?」


[試射次第だが、ほぼ完成と言っていいだろう]


エルダが発射筒の上方の装填機構に指を伸ばした。スライドを前方に押すと、カチャ、と低い金属音が鳴り、筒の上部が一段前にずれる。ここに矢を上方から差し込み、スライドを後方に戻す事で、矢の後端はシリンダー底部の連結部と噛み合い、筒が密閉される。装填と密閉が一連の動作で完結する。前装式の銃と装填方向が逆、後方装填の発想を捨てた結果だった。


「ええ動きやな。引っ掛かりが無い」


[ミスリル鍛冶で内部の継ぎ目を消した]


「若手に任せたが、いい仕事や」


エルダがスライドを元に戻した。装填動作の精度は設計値通り、フレームの応力分布も問題なし。


弦を引けば、両端の歯車が段階的に噛み合い、引いた位置で固定される。引き切るまでに8段、各段で約12%ずつ引き重量を機械的にロックする。装着者の負担は最大引き重量の25%程度まで軽減され、引き切った位置では弦の重さから完全に解放される。狙いを定める時間を確保する為の機構だ。


「ほな、試射場で皆を待たせとるで。行こか」


僕は尻尾を一度床に打ち付けた。


---


工房脇の試射場。


直線距離50m、奥に標的群が並んでいた。木製の的、プレートメイル吊るし、鉄板積層、サイクロプスの装甲廃材。エルダと段階的に配置した順序だった。


立ち会いはエルダ、クラウス、イーリス、ブルーノとドワーフの職人達。メルフィーナが少し離れた位置で観察に徹していた。


「失礼致します。守護竜様」


試射場の入口に、ヴェルディが立っていた。革鎧の上に騎士団の外套。背には、自前のコンポジットボウを背負っている。


[来てくれたか]


「お呼び立て頂き光栄に存じます」


ヴェルディが深く頭を下げた。クラウス、イーリス、ブルーノも会釈を交わす。採寸試験の日以降も工房に通い続けた男だ。所作にも馴染みが出ている。


[ヴェルディに頼みたい。君のコンポジットボウで、通常の弓射を見せて欲しい]


「私が、撃つので御座いますか」


[撃つ動作を、観察させたいんだ。アインが、君の動作を観察して取り込む]


ヴェルディの視線が、試射場の脇に立っていたアインに向いた。メイド服のアインが、無言で立っていた。仮面の眼窩から、薄いスカイブルーの灯火が漏れていた。


「私の腕では、あの標的群を撃ち抜く事は——」


[威力は要らない。動作だけだ]


ヴェルディはしばらく黙っていたが、意を決したように姿勢を正した。


「畏まりました。私の動作で宜しければ」


ヴェルディが背からコンポジットボウを下ろし、矢を一本取り出した。木製の的を見据える。


足を肩幅に開き、半身に構える。矢を弦に掛け、左手で弓を持ち上げ、右手の指で弦を引く。呼吸を整え、引き切る。ドローレングス約70cm、ドロー重量約25kgf、引き終わりまで一定の負荷が掛かり続けるリカーブ式の力曲線。基本に忠実な弓射姿勢だ。


リリース。


ヒュッと音を立てて矢が飛ぶ。ストアエネルギー約100J、矢の質量30g、初速80m/s。木製の的の中心からやや右に逸れた位置に刺さった。


「申し訳御座いません、外しました」


ヴェルディが二射目を準備した。同じ動作、同じリズム。今度は中心に刺さった。動作は安定している。


アインは無言でヴェルディの動作を見ていた。仮面の眼窩のスカイブルーが、引手の角度、肩の位置、足のスタンス、リリースのタイミングを捉える。アインの内部では、取り込んだ動作モデルをボウ・ライフルの機構諸元に最適化する演算が並行している筈だ。


ヴェルディが弓を下ろした。


「お役に立てたで御座いましょうか」


[十分だ。流石だな]


「光栄で御座います」


---


「あぎゃ」


魔力の波長で、命令が伝わる。アインが、無言でボウ・ライフルを持ち上げた。左手で弓本体のグリップを支え、右手は後方の弦を握る。腕長50cmにエクステンドの30cmが加わり、有効ドローレングスは80cm。矢長75cmの引き切りには余裕がある。


装填と射撃を機構的に分離した結果、連射性能はコンポジットボウの毎分10射以上に対して毎分2〜3射程度まで低下する。代償として得たのは射程と貫通力。ボウ・ライフルはコンポジットボウの代替ではなく、その射程の外側に届かせる為に設計した兵器だ。


アインが装填動作に入った。スライドを前に押す。カチャ。矢筒から通常矢を一本取り、上方から発射筒に入れる。中空鉄シャフトに鉄ヘッド、質量168g、矢じり先端の規格穴は空のまま。スライドを後ろに引く。カチャ。筒が密閉された。


アインが再び構え、右手で弦を後方に引き始めた。


カチ、カチ、カチ、カチ。


歯車が段階的に噛み合う音が試射場に響く。シリンダー内で空気が圧縮されていく音、弓本体がしなる音が、歯車音の合間に重なる。アインの現在モードはシングルコア、出力は通常運用の弓兵相当。シリンダー圧は20気圧程度までしか到達しない。


カチッ。最終ロック。総ストアエネルギー約2500J、矢のエネルギー約2000J。


アインが構えた。1射目、プレートメイル。


リリース。


空気圧の解放音、弓のしなり戻り音、矢が筒を抜ける音が、一瞬で重なった。初速約156m/s、ライフリングのねじれ角から計算される矢の回転速度は約350rps。


矢がプレートメイルの胸部に着弾した。鉄の板を貫き、背面に矢じりが突き抜ける。


エネルギー密度は約26J/mm²。板厚3mm、ハルトアイゼン産軟鋼の貫通必要エネルギーは約180J。余力は10倍以上だった。


ブルーノが標的に歩み寄り、貫通孔を観察した。


「綺麗な孔です。矢じり先端から後部まで、孔径がほぼ均一。回転による安定の証拠です」


[ライフリングが効いている。矢の回転で弾道が安定する]


通常運用で、プレートメイル装備の重装兵を単発で無効化する。それが量産機の基本性能。エースクラスの弓兵に配備すれば、戦線の力学が変わる。


[次は、最大出力の検証だ]


「あぎゃ」


---


アインが顔を上げた。


仮面の眼窩の奥で、灯火が変わる。スカイブルーから、ルビーレッドへ。


一歩、右足が引かれる。


どんっ!!!


石畳が、彼女の足を受け止めた。低い音が、試射場の壁に反響する。地面に微かな振動。


クラウスの筆が止まった。イーリスの背筋が伸びた。ブルーノが目を見開いた。


身長140cmの機体が踏み下ろした一歩の重さ。普段はメイドの所作で淡々と立っているアインが、コアを2基稼働させた瞬間、サイクロプスにも引けを取らない出力が石畳に伝わる。


メルフィーナが息を呑んだ。エルダが腕を組んだまま、小さく頷いた。


アインが2本目の通常矢を装填した。動作は通常モードと変わらない、機械的精密。弦を引く。


カチカチカチカチッ。


歯車音が、通常モードより速い。引き上げる速度、空気の圧縮速度、弓のしなり速度、全てが上がっている。今度はシリンダー圧50気圧、フル充填まで到達する。


引き切る。


戦闘モード、コア2基稼働。総ストア約8000J、伝達効率80%で矢のエネルギーは約6400J。通常矢168gで初速は約277m/s、エネルギー密度約82J/mm²。これがボウ・ライフルの設計上限。


アインが構えた。鉄板積層10cmを見据える。引いた右足で支え、上半身を標的方向に固定する。後方に踏み込んで反動を吸収する。人体の射撃姿勢を、そのまま機械的精密で再現していた。


リリース。


空気圧の解放音が、通常モードより遥かに大きい。矢が筒を抜ける速度が、目で追えなかった。


着弾。鉄板積層10cmを貫いた。矢が積層の奥の土に半分まで埋まっている。


クラウスが小さく息を吸い込んだ。


「板厚10cm、鉄板積層を、貫通——」


鉄板積層は板間の界面で運動エネルギーが拡散する分、単純な板厚計算より多くのエネルギーを要する。10cm積層への必要エネルギーは経験則で約1500J。設計値通りだった。


---


[次、徹甲矢]


「あぎゃ」


アインが矢筒から徹甲矢を取り出した。中実鉄シャフトにタングステンヘッド、371g。通常矢の倍以上の重量。タングステンは比重19.25、装甲貫通に必要な硬度と質量を両立する素材だ。


装填。弦を引く。


カチカチカチカチッ。


引き切る。矢のエネルギーは通常矢と同じ約6400J、質量が増えた分、初速は約187m/sまで下がる。だが運動量は約69kg・m/sに増加。重い矢の貫通は衝撃破壊ではなく、押し込み貫通だ。ラミネート装甲には、軽量高速弾より重量低速弾の方が深部まで食い込む。


リリース。


矢がサイクロプスの装甲廃材に着弾した。表層が割れる音、奥のラミネート層が押し広げられる音。矢じりが装甲の内部まで沈み込んでいる。完全貫通はしていない。


イーリスが装甲材に駆け寄り、矢の沈み込みを測定した。


「貫入深さ、表層から5cm。装甲を完全に抜くにはあと一押し」


炭化タングステン外殻に対しては、設計値の閾値ぎりぎり。ここから先はカスタムモデルの領域、装着者の魔力量とコア魔石の出力スケーリングで上限を引き上げる必要がある。


[通常運用は、ここまで]


エルダが頷いた。


「重装甲・コア狙いはカスタムや。量産機としては、この性能で十分やな」


[十分だ]


---


アインが、ゆっくり姿勢を戻した。仮面の眼窩の灯火が、ルビーレッドからスカイブルーへ戻る。


試射が終わった、と一同が解散する空気になった時。


エルダが、地面に落ちていた通常矢の一本を拾い上げた。矢じりの先端を見つめている。動きが止まっていた。しばらく、黙っていた。


「マキナ殿」


[何だ]


エルダが矢の先端を僕に向けた。


「先端部分はねじ込み式で、別な用途にも使えるやんな?」


[そうだ]


エルダが矢を片手に持ったまま、視線を空中の一点に向けた。何かを考えている顔だった。


「魔晶石」


[屑石の魔石だな]


「ワシらが普段、燈に使うとるあれや。発火剤にも使う。攻撃魔法も入れられる。ワシらドワーフは魔石加工が本職や、屑石を成形して、魔力を込めて、貯蔵媒体として使う。だが、攻撃魔法を入れた魔晶石は、今まで使い道が無かった。投擲しても近距離、術者本人も巻き込む。袋に詰めて運んでも、結局、敵に近付かなあかん。だが、この弓なら——届く距離が違う」


エルダが、僕の方を見た。


「マキナ殿、試させてくれ」


攻撃魔法のエンチャントは技術的に可能だが、有効活用の手段が無かった。魔法の射程が術者の距離に縛られていた為だ。それを、ボウ・ライフルの2400mの射程に乗せる。既存技術と新技術の組み合わせ。僕の頭からは出てこなかった発想だった。


[試そう]


---


エルダが懐から小さな結晶を取り出した。親指の先ほどの大きさ、淡い透明感のある石。


「常に何個か持っとるんや。職人の癖でな」


エルダが結晶を矢の先端の規格穴に差し込み、指先で軽く回した。小さな金属音と共に固定される。


「ほな、火、入れるで」


エルダが結晶に手をかざした。ドワーフが魔石加工で日常的に行う動作、詠唱は無い。手のひらから魔力が流れ込み、魔晶石の中に小さな光点が灯った。橙色の、火の魔力。


「これでええ。アイン、一番手前の的の手前の地面を狙え。届けばそれで証明や」


アインが、無言で矢を受け取った。


「あぎゃ」


僕の許可が、魔力の波長で伝わる。アインが頷いた。


通常モードのまま、装填。弦を引く。


カチカチカチカチッ。


構え、リリース。


矢が飛ぶ。約40m地点の地面に着弾した瞬間、橙色の火球が広がった。直径2mほどの炎が噴き上がり、地面の土を焦がしながら消えた。木の的の脚部が焼け焦げていた。


一同が止まった。クラウスの口が開いたままになっていた。ブルーノが、エルダを振り返った。


僕は宙に浮いたまま、着弾点を見つめていた。


魔法が届いた。40m。たった40mだ。だが、術者であるエルダはここに居る。前に出ていない。エルダの火魔法が、エルダから離れた地点で発動した。


これがもしも、2000m離れた地点で起きたら。術者は安全な後方に居ながら、2000m先の敵に攻撃魔法を届かせられる。詠唱と射出を分離する。魔術師は前線に出ない。弓兵が魔力を運ぶ。戦術が変わる。


僕はこれまで魔法に強く興味を持たなかった。空間属性を扱う事はあったが、それは僕の身体の機能であって、世界の魔法そのものへの関心ではなかった。工学で必要ない限り、魔法には深く立ち入らない。そう決めて、今までやってきた。


だが今、魔法が工学の射程に乗った。


[エルダ]


エルダがこちらを見た。


[凄い]


エルダが、照れたように頭を掻いた。


「いやいや、思いつきや」


[凄い]


僕は二回書いた。エルダが、笑った。


「マキナ殿、ワシも今、初めて使い道を見つけた所や。お前さんの弓が無かったら、ワシは一生これを思いつかんかった」


[僕は思いつかなかった]


「組み合わせや。お前さんの工学と、ワシらの日常技術。両方あって、初めて意味が出る」


僕は尻尾を一度床に打ち付けた。


[面白い]


エルダが、目を細めた。


「面白いか」


[凄く面白い]


エルダが声を上げて笑った。


「お前さん、初めてやな、魔法の話で面白いって言うのは」


そうかもしれない。


[エルダ、考案者として記録する]


エルダが慌てて手を振った。


「いや、ええって、ええって。ただの思いつきや」


[これは、組み合わせの発見だ。考案者が居る。エルダだ]


エルダが何か言いかけて、止めた。それから、小さく笑った。


「ほな、好きにしてくれ」


頭を掻きながら恥ずかしそうにしているエルダを、皆が褒めていた。


メルフィーナが、僕の傍に静かに歩み寄った。


「マキナ様。何か、新しいご興味を見つけられたのですね」


[多分]


「楽しみにしております」


僕は尻尾をゆっくり振った。


---


工房に戻り、僕は白紙の図面を一枚広げた。中央に一文字書いた。


[魔法]


しばらく、その文字を見つめていた。


工房の窓の外で、王都の街に夕日が差していた。煙突の煙が、橙色に染まりながら、ゆっくり空に登っていた。


第32話・了

読んで頂きありがとうございました!


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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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