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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第二十九話 神聖国の深き闇(改訂)

ハルトアイゼンを出てから3日目の朝、王都ドラグロードの城門が見えてきた。


夜通しサイクロプスを入れ替え、ほぼ止まる事無く移動に費やした事で、通常の馬車移動の倍の早さで到着できた。


護衛のサイクロプス1機は街道脇でインベントリに収納する。城門前に5(メートル)級が2機並んでいると、入市の流れを止めてしまうからだ。


「マキナ様、お疲れ様で御座いました」


メルフィーナが寝台から身を起こした。3日の街道を寝ながら過ごせるのが、ジャイロ吊り客室の有り難い所だ。


「あぎゃ」


城門を抜けると、王城まで一直線。沿道の民の視線が、装甲車両に集まっていた。


サイクロプスはともかく、車両は珍しいか。僕は黒板に書きかけて、そういえば外には見せないなと止めた。


---


王城・謁見の間。


マルキウス王が玉座から立ち上がった。


「メルフィーナ、無事の帰還、何よりだ。マキナ殿、お役目大儀」


メルフィーナがカーテシーを美しく見せる。


「父上、ご報告致します」


報告は短く済んだ。ハルトアイゼンとの同盟強化、サイクロプス3機の配備、素材取引の合意、技術提携の方向性。僕の車両の構造共有まで。詳細は書面で、と添えて、メルフィーナは立ち上がった。


「素晴らしい成果だ」


マルキウス王が頷いた。


「マキナ殿、ゲパルト殿からの情報は」


[魔力鉱石の特性、ミスリル結合鍛冶の秘伝。後ほど書面で]


僕は黒板に書いた。


「うむ。だが一点、口頭で確認したい」


王が玉座に座り直した。


「ドラゴノートへの増援、追加配備を進めて貰えるか?」


僕は少し考えた。ティーガーが守るドラゴノートは、神聖国国境の最前線。ハルトアイゼンの軍議で勇者の噂が話題に出たが、出所が神聖国であれば、最初に動くのは国境の街だろう。


[サイクロプス、追加2機をドラゴノートへ]


王が頷いた。


「明朝にでも出立させよう」


メルフィーナが付け加えた。


「父上、ティーガーへの伝令もご一緒に。哨戒班の動きを最優先で報告する様、改めて」


「承知した」


謁見はそれで終わった。


---


王城を出て、僕は自分の工房へ戻った。メルフィーナは執務に向かう。アインがツヴァイ・ドライを連れて、補給品の搬入を始めていた。


工房の机に座ると、僕は途中だった設計図を広げた。アームズパック・アーチャーの骨格構造。両腕、背面、膝下。


ペントランダイトの硫黄抜きは、ハルトアイゼンで進めて貰う。ニッケル・コバルトの精錬は王都の鋳造所で並行。駆動方式は機械式リンク+部分電磁石。動力は雷属性魔石。


頭の中で、構造が具体化していく。帰路の街道で寝ずに走り続けた設計が、王都の机の上で形になり始めた。


アームズパックは、騎士団や一般兵を強化する優秀な手段だ。国家機密級。ドラグロード国内で先行試作、ハルトアイゼンにはまだ出さない。弓と矢の量産体制、継ぎ矢の名手の選抜、訓練体系の構築も並行で必要だ。


筆が走る。工房の窓の外で、王都の街が日常を続けていた。


噂が流れた以上、動きは始まっていると見るべきだろう。ティーガーへの追加増援は、最初の一手だ。


---


同じ頃、神聖国・聖都ゴッテスベフェール。


教皇庁の大会議室は、午後の光が斜めに差し込んでいた。


長卓を囲むのは枢機卿(すうきけい)8名と、王室派の代表として参加を許された1名——ロロル・ヴェント。前線から本国に戻って2ヶ月、王室派の若手として中枢に席を得た男だった。


第三枢機卿が議長を務めていた。教皇派の中堅、50代の痩せた男だ。


「次の議題、勇者召喚計画の進捗について」


長卓に書類が回された。ロロルにも一部が渡されたが、機密扱いの箇所は墨で塗り潰されている。


第三枢機卿が淡々と読み上げた。


「神学局が3年に亘り研究を続けて参った異世界召喚魔法、その理論的完成を見ました。試行段階に入る目処が立ったとの報告で御座います」


ロロルの呼吸が僅かに浅くなった。異世界召喚魔法。


枢機卿の一人が問うた。


「それは——勇者召喚と同じものか」


「同じでは御座いません。勇者召喚は女神の選定を経るもの、こちらは選定を経ずに、勇者の出身世界から人を招き入れる魔法と理解しております」


長卓の何人かが顔を見合わせた。


第三枢機卿が続けた。


「過去千年、勇者召喚が継続的に成功した実績がある以上、女神は勇者の世界との間に通路を維持しておられる。我等はその通路を、別の形で利用する」


別の枢機卿が訊ねた。


「勇者の魂を持たぬ者が来ても、聖剣(アーティファクト)は使えぬのではないか」


「左様ですな。然し、聖剣に代わる装備の準備は既に進んでおります。魔剣・強化薬・身体改造の組み合わせで、戦力としては十分な水準に達するとの試算で御座います」


ロロルの指が、書類の端を僅かに握った。魔剣、強化薬、身体改造。これは勇者ではない。勇者の形をした、教皇派の道具だ。


第三枢機卿がロロルの方に顔を向けた。


「ロロル殿。王室派にもご承知頂きたく」


「……は」


「召喚は近日中に実行されます。召喚後、勇者として民衆に披露する儀礼、それから育成期間に入ります。育成は概ね2年から3年を見込んでおります」


「2年から3年」


「その後、神聖国の正義として前線へ。勇者の存在さえあれば、我が国は再び聖戦の旗を掲げられる」


長卓の枢機卿達が頷いた。聖戦という免罪符を手に入れると同時に、民のドラグロードに対する感情を操作する目的だろう。しかし、勇者と銘打つ以上、姫を差し出す事になる。


ロロルは表情を動かさずに頷き返した。


「承知致しました。王室派にも伝達致します」


これは、私を試しているのだろう。第三枢機卿が小さく笑った様に見えた。それとも、わざと知らせているのか。


会議が次の議題に移っても、ロロルの頭の中は止まらなかった。


---


夜半、王室派の屋敷の一室。


ロロルがミカルの部屋に入った時、ミカルは机に向かって書類を整理していた。前線指揮官の地位を解かれて2ヶ月、諮問役(しもんやく)という名目で本国に留まっている。


「ロロル」


ミカルが顔を上げた。


「夜分にどうした」


「副将殿——いえ、ミカル様」


「副将でも構わんぞ」


ロロルは扉を閉め、向かいの椅子に座った。


「今日の教皇庁の会議で、勇者召喚計画の話が出ました」


ミカルの手が止まった。


ロロルは三つ折りにした自分のメモを差し出した。


「女神の選定を経ない異世界召喚魔法、神学局が3年研究して理論的完成を見たと。試行段階に入る目処が立ち、近日中に実行されると」


ミカルがメモを読んだ。長い沈黙が落ちた。


「召喚される者は勇者の魂を持たない。聖剣は使えない。代わりに魔剣・強化薬・身体改造で底上げをする。育成は2年から3年」


「……勇者の形をした、偽物、か」


「左様で」


ミカルが書類を脇に置き、机の上で指を組んだ。


「ロロル。お前、その情報を受け取った時、どう感じた」


ロロルは言葉を選んだ。


「……正直に申し上げますと、悪意を持って与えられた情報の様に感じました。王室派に対する、攻撃的な意識があると」


ミカルの目は動かなかった。


「会議の場で、王室派代表の私に、機密の一部を堂々と通知した。墨塗りはあっても、内容は伝わる程度に。第三枢機卿が私の方を見て、笑った様に見えました」


「笑ったか」


「気のせいかもしれません。然し」


「気のせいではあるまい」


ミカルが目を伏せ、それからゆっくりと顔を上げた。


「ロロル。連中の狙いを、整理するぞ。お前に偽勇者の計画を知らせた。お前は私に伝えた。これは予定通りだ。我等が動揺し、対策を考える事を、連中は織り込んでいる。最も自然な対策は何だ」


ロロルは暫く黙った。


「……姫様の亡命、で御座いますか」


「そうだ。王室の血を、偽勇者の妻にされる前に、神聖国の外へ出す。これが王室派の最後の手だ。連中はそれを読んでいる」


「では、亡命を許して頂けないと」


「逆だ。連中は亡命させたい」


ロロルの口が僅かに開いた。


「姫様が亡命すれば、その責任を誰かが取らねばならん。教皇派の前で、王室派の中枢に詰め腹(つめばら)を切らせる口実が要る。私だ。お前が育てた若手が姫を連れて逃げた、その責を副将のお前が取れ——そう来る。私が消えれば、王室派の屋台骨が一つ折れる。連中が面倒に思っているのは、私だ。古代竜と戦った経験を持つ唯一の指揮官、お前を本国に送り込んだ張本人、王室派の重鎮。私が消えれば、王室派の発言力は半減する」


ロロルは机を見つめていた。


長い沈黙の後、ミカルが言った。


「だから、ロロル。お前が姫様を連れて逃げろ」


ロロルの顔が上がった。


「副将殿——」


「お前なら、若い。逃げ切れる。姫様もお前と同年代だ、二人で動けば違和感も少ない。私は本国に残って、責は責で受ける。連中の狙いはどのみち私だ。私が居る限り、王室派は的を持ち続ける。私一人で済むなら、それでいい」


ロロルは暫く言葉を探した。


あの夜の焚き火の景色が、彼の頭の中で蘇った。ドラゴノートを失った直後、国境の野営地で副将と向かい合った時の事。あの時、自分は副将殿の決定を、首を振りながらも受け入れた。


今度は、違う。


「副将殿。お言葉、お待ちください。副将殿は、連中の狙いを読み切っておられます」


「ああ」


「では、もう一段、読まれてみては」


ミカルの目がロロルを見た。


ロロルは、あの時の自分が震えていた事を思い出していた。今度は、震えていなかった。


「連中は、私が姫様を連れて逃げる事を想定しています。であれば、その想定の上で動けば、連中の手の内です。逆を行きましょう。副将殿が、姫様を連れて亡命なさってください」


ミカルの指が机の上で止まった。


「ロロル。お前、何を言っている」


「副将殿が亡命なされば、連中のシナリオは崩れます。お前が育てた若手が逃げた、という構図にはなりません。副将殿ご本人が逃げた、という事実が残る。連中は副将殿を罰する事ができません、対象が国内に居ないので。私は残ります。若手として、王室派の眼として、本国中枢に残り続ける。連中は私を煙たがるでしょうが、消す口実は得られません」


ミカルが目を伏せた。


「……ロロル。お前は、私が逃げる事を、是とすると思うのか」


「はい」


「副将が前線で敗北し、降格され諮問役に回された男が、姫様を連れて亡命する。神聖国の歴史に残る恥だ」


「副将殿」


ロロルが机に手をついた。


「副将殿の価値は、古代竜と戦ったという単純なものだけではありません。あなたの知略と、多くの部下からの求心力があるからこそ、目障りなのです。どうか一度、国を捨ててでも生き永らえ、外で再起を図って頂けないでしょうか」


「……外で生かす、か」


「副将殿が国内で消されれば、その経験も、多くの流れも、永遠に失われます。神聖国の外で生きておられれば、何かが続く可能性が残ります」


ミカルは長く息を吐いた。机の上の指が震えていた。


「……ロロル。お前は、私を逃がしたいのか。私を、生かしたいのか」


「はい」


ミカルは目を閉じた。それから、ゆっくりと首を振った。


「ロロル。私は、逃げる訳にはいかん」


ロロルの呼吸が止まった。


「私は副将だった男だ。神聖国の軍人として、最後まで残る。逃げれば、私はただの臆病者として歴史に残る」


「副将殿——」


「お前の言う事は分かる。理屈も、情も、全て分かる。だが、私が逃げる事は、私が自分自身に許せん」


ロロルは机に手をついたまま、動けなかった。


「ロロル。お前の覚悟は受け取った。だが、私の覚悟も、受け取ってくれ」


ロロルは目を伏せた。長い沈黙が、二人の間に落ちた。


ミカルが、ロロルの差し出したメモを机の脇に置いた。


「考える時間が要る。明日、もう一度話そう」


「は」


ロロルは立ち上がった。扉に手をかけた所で、ミカルの声が止めた。


「ロロル。お前が言った事、無駄ではない」


ロロルは黙って頷き、扉を閉めた。


廊下の冷たい空気が、彼の額に当たった。ロロルは目を閉じた。


あの夜の焚き火と、今夜の机を挟んだ向かい合いと。形は対称だが、結論はまだ出ていない。


ミカルの部屋から、灯りが漏れ続けていた。夜が、深くなっていった。


第二十九話・了

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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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