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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第二十七話 メカヲタ、国境を超える

城塞都市ドラゴノートの城壁は、近付くにつれ大きくなった。


13年振りに取り戻された街だ。城壁の石組みにはあちこちに新しい補修の跡が見える。だが基礎は古く、戦役の爪痕が完全には消えていない。


街道脇の歩哨(ほしょう)——騎士の甲冑(かっちゅう)を纏った若い兵士——が車両を認めると敬礼し、奥へ合図を送った。全高5(メートル)のサイクロプスに牽引され、後方からもサイクロプスが追従しているのだ。周囲の注目を浴びる事この上ない。


城門が開く。


城門前の広場に、騎士ゴーレム部隊が整列していた。白騎士3機、黒騎士97機、それから今や1000人規模の機動部隊——騎士300、兵700強。先頭に、見覚えのある若い騎士が立っていた。


ティーガー・エルトート。


僕は宙に浮かんだまま、車両の上から彼を眺めていた。「街、頼んだ」とゴーレム100機を託した相手だ。あの時より、ずっと落ち着いて見える。


「マキナ殿、姫殿下。お待ちしておりました」


彼は(ひざまず)いた。背筋を伸ばし、しっかりとこちらを見ている。奪還作戦の頃の震えは、もう無いようだ。


成長したな。僕は黒板を手繰り寄せた。


[ティーガー、街の状況は]


「奪還以来、住民の帰還は順調です。畑も起こされ、市も再開しております。モンスターの襲撃に対しても、騎士ゴーレム部隊の常駐により、住民の不安は大きく軽減されました」


「あぎゃ」


「ただ」


彼の声が少し低くなった。


「神聖国側の斥候(せっこう)と思われる小規模な哨戒(しょうかい)班を、複数回確認しております」


僕は尻尾を止めた。


[数は。接触は]


「1週間から2週間に一度、3〜5名程度。軽装、騎乗。国境線の外側を沿うように移動し、此方の防衛態勢を観察している様子です。直接の接触はありません。が、商人などに変装して街中に入り込んでいる者は、間違いなくいるでしょう」


「あぎゃ」


メルフィーナが横で頷いた。


「ティーガー殿、それは何時から?」


「神聖国にて勇者が立った、との噂が流れ始めた頃と重なります」


空気が止まった。メルフィーナが静かに息を吐いた。


「やはり、ですか」


[噂の出所は]


「複数です。商人、旅人、難民。内容には揺れがあります。本当に勇者なのか、神聖国が戦意高揚の為に流しているのか、現時点では判別出来ません」


「あぎゃ」


僕は黒板を書き直した。


[サイクロプス10機、引き渡す]


ティーガーがまた跪いた。


「有り難く頂戴致します」


肩が少し震えていたが、武者震いだろう。


引き渡しの手順は決まっている。先に僕の魔力を識別登録、続いてティーガーが上位命令権者として登録、最後に各機の運用責任者を登録する。順番を間違えれば機体は起動しない。セキュリティとして組み込んだ仕組みだ。


10機の登録が完了するまで、小一時間。サイクロプスが順に立ち上がり、ティーガーの部隊の横に並んだ。機動力のある騎馬ゴーレムが入った事で、白黒の騎士ゴーレム部隊と合わせ、ドラゴノートの総戦力は更に厚くなった。


「マキナ殿の御信頼、決して裏切らぬ様、務めさせて頂きます」


ティーガーの声には重みがあった。僕は尻尾を軽く振った。


奪還作戦の頃は、若い騎士が背伸びしている様に見えた。今は若くとも、指揮官の顔をしている。


ただ、城壁そのものの脆さ、対空・遠距離攻撃への備えの薄さ、それから兵士個々の戦力の低さ。これらは変わらない。各拠点に常駐する兵団は1000人規模だが、彼等一人一人は通常の歩兵だ。弓兵と魔法使いは1個小隊程居るが、圧倒的に数が足りていない。


強化外骨格。個々の底上げ。それから対空・対遠距離の手段は、急いだ方がいい。


頭の中で構想が更に膨らんでいた。


---


ティーガーとの軍事的な打ち合わせ、城壁の現状確認、住民地区の簡単な視察。メルフィーナが帰還した農民達と短く言葉を交わすと、彼等は涙目で姫の手を握った。


その姿を車両の上から見ていて、僕は尻尾を静かに振った。守らねば、な。


ドラゴノートでの滞在は半日で済ませ、出発は午後遅くになった。次はハルトアイゼン本国。国境を越えて、北へ。通常で3〜4日の行程だが、牽引式装甲車なら2日で走破できる距離だ。


---


夜。


街道脇の平地に、僕達は停車していた。宿場町の手前、林の脇。サイクロプス2機が車両の周りで待機モードに入っている。


車内ではアイン達がメルフィーナに給仕をし、静かな夜を過ごしていた。メルフィーナは寝台で横になり、ゆったりと本を読みながら眠気の到来を待っている。読書灯だけが柔らかく点り、暖かい色合いを部屋に灯していた。


メルフィーナは旅の間中、工学の説明を求めて来た。最初は小学校レベルの話から始まったが、彼女の理解は早く、2日目には中学校相当の話まで届いていた。零から論理を構築する事に比べたら遥かに簡単とは言え、未知の知識をこれ程効率的に吸収できるのは才能だろう。


アイン、ツヴァイ、ドライの三姉妹は、車内の侵入経路に成り得る場所で待機していた。表面上はメイドだが、戦闘時は2コアモードに切り替わり、スピードとパワーを兼備する。サイクロプスの方が質量も力も上だが、彼女達は実質「小さなタイタン」だ。1機いれば、中型魔物の群れであっても十分おつりがくる。


僕は寝台の向かいで宙に浮いたまま、筆を走らせていた。手元には強化外骨格の構想。


全身装着型の強化外骨格——フルアーマードパックが理想形だが、製造コストも訓練期間も嵩む。


我が国に足りないのは「遠距離攻撃力」だ。ハルトアイゼンの砲台、神聖国の長射程魔法兵器に対抗する手段が無い。装甲城壁だけでは耐えられない可能性が高い。


その対策として最適なのは、大型コンポジットボウを運用する部分強化外骨格、アームズパック・アーチャー。素手では引けない強度の弓を、人間の腕と足腰を強化する事で運用する。矢の運動エネルギーは小銃弾級。通常弓兵の50倍の戦闘力に相当するだろう。


アームズパック・アーチャーなら量産しやすい。部分的な強化で済むから、訓練期間も短い。フルアーマードパックを作るまでの繋ぎとして、これが最適解だ。


アーチャー仕様を先行量産する。配備はドラゴノート最優先、次にドラグナートだろう。


コンセプトとしては、四肢の強化アシストゴーレムを作り、1コアで制御する。身体の動きに合わせてパワーアシストするだけだが、その分かなり強烈な鉄矢を撃てる。銃や大砲を作る手も考えられたが、弓の方がこの世界の人間は慣れているし、量産性が高い。


紙に走らせる筆の音が、車内に響いた。


車両が微かに揺れた。揺れたというより、外で何かが起きた衝撃が装甲越しに伝わったのだろう。次に低い地響きと、金属の衝突音。外のサイクロプスが起動した音だ。


来たか。僕は筆を置いた。予想していた——と言うか、あり得る未来として考えの中にあった事が、起きたに過ぎない。


メルフィーナが寝台で身を起こした。目が覚めている。


「マキナ様」


[動かないで]


僕は窓の装甲鎧戸(よろいど)を半分だけ開けた。


外、月明かりの下。大きな影が複数、襲いかかって来ている。シルエットからして魔物だろう。背丈3米ほどのやや大きめな人型が3体、それから小さめの個体が数体。林から出て来た所らしい。


サイクロプスが2機、既に展開して対応を開始していた。牽引機は車両の前で連結を切り、護衛機は後方から前へ回り込んでいる。三姉妹は車両の周囲で警戒姿勢を取った。出る必要があれば出る、無ければ車両の防衛を優先する、という布陣だ。


護衛機が先に動いた。


ドリルランス——正式呼称、カウンターローテーション・ランス——が低く構えられた。先端と胴体の一部が逆方向に高速回転を始める。月明かりに、金属の刃が擦れる高音。


護衛機が突進した。


先頭のオークが大剣を構えた刹那(せつな)、ドリルランスが胴体を貫いた。穿(うが)った、と言う方が近い。逆回転する刃が皮膚を引き裂きながら前進する。オークが声を上げる前に、胴体が二つに割れた。


残りのオーク2体が怒声を上げて襲い掛かる。護衛機が身を捻ってドリルランスを引き抜き、タワーシールドで一体の攻撃を受け流しながら、ランスで相手の頭を貫いた。牽引機が遅れて戦闘に加わり、小型の個体数体を大剣の()ぎ払い一発で処理する。


戦闘時間、10秒程度。


三姉妹は動かなかった。動く必要が無かった。魔物達は声を上げる間もなく沈黙した。


車内、沈黙。


メルフィーナが静かに呟いた。


「……あれが、量産機で御座いますか」


「あぎゃ」


「10秒、で御座いますね。……これが、量産機」


「あぎゃ」


姫の護衛には、過剰で丁度いい。メルフィーナが今度は目も笑って頷いた。


僕は装甲鎧戸を閉めた。サイクロプス2機は既に片付けを始めている。魔物の死体を林の奥へ引きずって行く音。戦闘終了時の自動処理手順だ。


だが、これは偶然か。魔物の襲撃自体は、街道沿いの林で起きる事として不思議ではない。魔物の襲撃で戦力を測る——なんて事も考えたが、考え過ぎだろうか。


証拠は無い。分析に足るデータも無い。魔物の死体を調べた所で、たいした物は出ないだろう。今は気にするだけ無駄か。ハルトアイゼンで情報を集めてみよう。


僕は尻尾を軽く床に打ち付けた。


---


翌朝、綺麗に片づけられた野営地を後に進む。戦闘の痕跡を残すのも(しゃく)なので、全体を(なら)しておいた。


街道は静かだった。農民達が畑に出ている。商人の荷馬車が時折擦れ違う。


メルフィーナは窓辺で景色を見ていた。昨夜の事は、特に口には出してこなかった。


僕は車内で強化外骨格の設計を進めていた。頭の片隅には夜の襲撃の事。だが手は動かす。工学の問題は工学で進める。


国境を越えたのは、その日の夕方だった。


---


ハルトアイゼン本国の国境検問所。車両が停車する。衛兵が近付いてくる。


衛兵は車両を見て固まった。


「……話に伺っておりましたが、これは、馬車で御座いますか?」


僕は黒板を手繰り寄せた。


[牽引式装甲車両だ。サイクロプスで牽く]


「……はあ」


衛兵が顔を引き攣らせた。


「……アイゼン陛下より、事前に御連絡を頂いております。マキナ殿、姫殿下、お待ち申し上げておりました。本国までの護衛を手配致します」


「あぎゃ」


車両が再び動き出した。ハルトアイゼンの首都までは、更に半日の行程だった。


街道の景色が変わって来た。畑の代わりに採掘場の跡、溶鉱炉の煙、鍛冶場の金槌の音。工業国の景色だ。


首都の城門が見えて来た頃、遠くに大砲の台座が並んでいるのが見えた。城壁の上、塔の上、それぞれに配置された砲台。筒身(とうしん)の長い大型の物と、短くて連射式に見える物。


あれが、ハルトアイゼンの防衛大砲。噂は聞いていた。工業国として大砲を発達させてきた国。城塞防衛に特化した火砲の文化。ドラゴノートに、これが有ったらとも思う。


頭の中で、新たな構想が動き出していた。


メルフィーナが窓越しに大砲を見た。


「マキナ様、あれが説明頂いた、火薬による遠方攻撃兵器でしょうか?」


「あぎゃ」


「ドラゴノートにも、ああ言った遠距離や空への備えは必要なのですね」


「あぎゃ」


俺もそう思った。メルフィーナが静かに頷いた。


---


城門が開いた。城内に入ると、広場に見覚えのある二人が立っていた。


髭を撫でた大柄なドワーフと、横で頭を下げている少し細身のドワーフ。アイゼン王とゲパルト宰相だ。その後ろに、ハルトアイゼン本国のドワーフ達が20名ほど、整列している様で整列していない様な、何処かそわそわした列を作っていた。


来たな。僕は車両の上から眺めていた。


アイゼン王の目が僕を見て、それから——車両を見た。止まった。固まった。


「……ぅぉぉぉぉぉぉぉ!?」


アイゼン王が突然奇声を上げて駆け寄って来た。髭が乱れていた。


「な、なんやこれぇ!? 師匠! これなんやー!?」


[牽引式装甲車両だ]


「いや、馬車やろ!? 馬車にしては——いや待て、装甲、多層式か!? またけったいな馬車を作ったなぁ!」


ゲパルトが目を細めて車輪を凝視している。


「親方、これ車輪、意味が分かりません。鱗状の構造で衝撃を……蜂の巣構造……? マキナ殿、これでどうして動くのです?」


[秘密だ]


「親方、これ世界の誰も作っとらん代物ですな!」


「当たり前やろ! ワシらが知らん物は漏れなく世界初だ! ゲパルト、お前、冷静そうに見せてパニクってるじゃろ」


「親方こそ髭が乱れております」


「うるさいわ!」


本国ドワーフ達も既に動き出していた。十数人が車両の周囲に殺到し、装甲を撫で、車輪を覗き込み、連結部を確認している。サイクロプス3機は車両の後方に並んだままだが、ドワーフ達の視線は車両一点。


殺到したドワーフ達の声が、車両の周りで重なった。


「マキナ殿! 中見せてくれや、中!」

「こちらの後輪、何の機構です? 導線が見えますが」

「親方、車軸の構造、通常の4倍以上の太さ……」


待て、一人ずつ来い。僕は宙に浮かんだまま、尻尾がおろおろと揺れていた。


メルフィーナが車両から降りて状況を見て、微笑んだ。困った時の笑顔だ。


「アイゼン陛下、皆様、まずはご挨拶を……」


「あ、これはメルフィーナ姫様、御無沙汰です! 乗り心地は如何でしたかな?」


「アイゼン陛下、せめて順番に……」


「順番!? 順番なんぞ言うとる場合か! マキナ殿が帰る前に、見ときたい所が山ほどあるんやで!」


ゲパルトが咳払いをした。


「親方、その通りでは御座いますが、まずは姫殿下に御挨拶を……マキナ殿、申し訳御座いません。我等、心の準備が出来ておりませんでした。装甲車両、とお聞きしておりましたが、これ程の物とは想定しておりませんでした」


「あぎゃぎゃ」


ドワーフ達は、完全に統制下に無かった。


アイン、ツヴァイ、ドライの三姉妹が、車両の脇で静かに立っていた。本国ドワーフの一人が三姉妹に気付いて声を漏らす。「メイドゴーレム……噂の三姉妹……」が、彼の視線も結局、車両に戻った。三姉妹は表情を変えずに立ち続けた。


お前らも興味の対象外か。メイドゴーレムは大変人気で、新参のドワーフ達も興味津々の筈なのだが、今は車両に全部持って行かれている。


---


サイクロプス3機の引き渡しは、結局その日のうちには出来なかった。


アイゼン王と本国ドワーフ達が車両から離れない為だ。僕が「サイクロプスの引き渡しを」と何度黒板を出しても、「分かった分かった、後でやる、後で!」とアイゼン王が応える。後で、が果たして来るのか、僕は疑った。


夜になって、ゲパルトがやっと親方を引き剥がし、客間へ案内してくれた。


ハルトアイゼン本国の客間。僕用は工房直結の広い部屋、メルフィーナ用は別棟の姫専用客間。三姉妹の内、アインは僕に従い、ツヴァイとドライはメルフィーナに付いて護衛を兼ねる。


僕は工房直結の客間で、夜の静寂の中でようやく一息ついていた。


明日は引き渡しを完了させる。その後、砲台の見学だ。


ハルトアイゼンの防衛大砲。長筒身の大型砲。短身で連射式の中型砲。城壁の上、塔の上、それぞれに配置された砲台群。あれを見たい。技術を、自分の目で確認したい。ドラゴノートに足りない物。対空、対遠距離兵器のお手本だ。


そして個々の戦力の底上げ——強化外骨格。先行はアームズパック・アーチャー、その先に控えるのがフルアーマードパック、と繋がっていく。


構想が、増えて来た。


僕は寝台代わりの大型クッションに身を沈めた。古代竜の身体は本来、長々と寝る必要が無いっぽいが、メルフィーナに心配をかけない為にも、寝ておく事にする。


頭の片隅で、昨夜の襲撃の事がチラつく。勇者が召喚されたなら、その敵役は僕か。もしくは僕は中ボスで、始祖竜がボスなのかな。うとうととした頭で考える。


明日、ゲパルトに神聖国の事も聞こう。国境地帯の、最近の魔物の動き。神聖国の動き。勇者の噂の詳細。


僕は尻尾を一度静かに振って、ゆっくりと心地よい闇に落ちていった。


第二十七話・了

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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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