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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第二十六話 メカヲタ、旅に出る

あれから、ひと月が経った。


マキナ工房——もう誰もそれ以外の呼び方をしなくなった修練場——は、前にも増して騒がしくなっていた。


ドワーフ達の槌音、銅線を巻く音、魔導線を刻印する小さなパチッという音。クラウスが図面を広げてカリカリと書き込む音、イーリスが鉱石の硬度を測る金属音。


ブルーノは初日の一件以来、少なくとも振る舞いの上では別人になっている。エルダの前では小走りで動き、メルフィーナとは絶対に目を合わせない。だが手腕は確かだった。魔導回路を組ませると、若手の中では一番速く精密だ。アイゼン王の見立ては正しかった事が伺える。


僕は工房の中央で、宙に浮かんだままその光景を眺めていた。


工房の奥には、完成したサイクロプスが37機並んでいる。ケンタウロス型の馬体が工房の奥を埋め尽くしていた。ドリルランス——正式名称カウンターローテーション・ランス——を懸架(けんか)し、タワーシールドを背に負い、馬体の両脇腹に大剣を鞘ごと装着している。


その手前に、メイドゴーレム三姉妹がいた。


アイン、ツヴァイ、ドライ。仮面の中の眼が静かに光っている。仮面ギミックは3機とも同じ仕様だが、それぞれ微妙にデザインの違う仮面を(あて)がった。アインは(りん)とした目元、ツヴァイは少し垂れ目、ドライは丸い目元。仮面にわざと付けた傷も、1〜3本で数を変えてある。


とりあえずの戦力は揃ったな。僕は尻尾を一度、床に打ち付けた。


「マキナ殿」


エルダが横に来ていた。


「次の話、聞いてはるか?」


「あぎゃ」


各都市への配備計画は、マルキウス王から既に話が来ていた。王都ドラグロードに10機、第二都市ドラグナートに10機、城塞都市ドラゴノートに10機。ハルトアイゼン本国に同盟の約束として3機。残り4機は予備兵力として、手元のインベントリ内に置く。


「マキナ殿が直接お持ちになる、と陛下から聞いとる」


そうだ。インベントリ無しで自走させてもいいのだが、5(メートル)とは言え目立つ事に違いはない。


「姫様もご同行される、とも」


僕は尻尾を止めた。あ、それな。


メルフィーナの同行は、マルキウス王から正式に申し入れがあった。各都市の領主への外交儀礼として、第一王女が立ち会う方が理に適う、との話だった。配備は単なる軍事行動ではなく王家としての配慮を伴う行為であると、各領主に示したいのだろう。


理屈は分かる。だが、姫を野宿させる訳にはいかない。宿屋も、神聖国国境に近付くほど安全とは言えない。


この話が出たのは2週間程前、サイクロプスの量産に目途が立った頃だった。


---


サイクロプス1機が牽引(けんいん)し、後輪2輪に電動補助を仕込む。電磁石モーターを車軸に組み込み、雷属性魔石で電力を供給する。雷属性の魔石には電池の様な蓄電能力があり、電力を魔力に、魔力を電力に変換する事が出来る。(もっと)も、この世界の人達には「電気」でモーターを動かしたりフィラメントを光らせるという発想はまだ無く、活用はもっぱら攻撃手段としてだけだった。


僕はこの魔石を蓄電池として機能させ、馬車——ほぼ別物だが——に組み込んだ。平坦走行時は車輪を空転させて発電し、雷属性魔石へ充電する。初動・登坂(とはん)・加速時のみアシストとしてモーターを起動させ、サイクロプスの負担を軽減する。減速時は回生ブレーキとして電力を回収する。


ここまでは、地球の知識をそのまま焼き直したもの。電動アシスト自転車の発想だ。


問題は車輪だった。


ゴムが無い。地球の知識で「タイヤ=ゴム」と固定されていれば、ここで詰む。だが、エアレスタイヤという解がある。空気の代わりに、幾何学構造そのものを弾性体として使う。地球で言えば、月面探査機にも採用された発想だ。


マルエージング鋼の薄板を蜂の巣状のセルに組む。外周には炭化タングステンの鱗トレッド。各鱗は独立して可動し、悪路の凹凸に追従する。鱗の下のハニカムセルが個別に(たわ)んで衝撃を吸収する。


僕は紙の上に筆を走らせていた。セルの形状、鱗の傾斜角、リムとの接合方法。手は止まらなかった。


不思議なもんだ。地球で見た時は、成程なぁ、と感心したくらいだったが。同じ知識でも、古代竜の脳を通すと理解度が数段深くなる。


地球で雑誌記事を読んでいた頃の自分は、構造を「見て知っていた」だけだった。理屈は分かったし構造も覚えていたが、今は各セルの応力分布まで頭の中で勝手に計算が走っている。鱗の傾斜角一つ取っても、最適解が瞬時に浮かぶ。


古代竜の脳は、演算能力が桁違いだと思う。人間とでは、何か構造が違うのだろうか。


僕は手を止めて、少しだけ息を吐いた。それからまた筆を走らせた。


---


サスペンションは2段構え。


一次サスは4輪独立懸架。マルエージング鋼のコイルばねと油圧ダンパー。スタビライザーを前後に通して横揺れを抑える。


二次サスは、客室そのものをジャイロ機構で車体に吊る。タイタンで実装した姿勢制御技術の応用だ。客室は車体の上下動・前後の傾き・左右の揺れの全てから隔離され、常に水平を保つ。


地面が揺れても車体が揺れても、客室は揺れない。


姫が寝ている間は、特にね。


---


装甲は4層。


最外層は炭化タングステンの薄板。3〜5ミリ。徹甲(てっこう)性能と防刃(ぼうじん)、対魔法。


第2層はマルエージング鋼の厚板。15〜25ミリ。構造強度と衝撃の変形吸収。


第3層はミスリル薄板。2〜3ミリ。魔法攻撃の魔力を逃がし、内部のコアと配線を保護する。


最内層はマルエージング鋼の内殻。5〜10ミリ。万一の貫通破片を最終的に止める。


配置は傾斜配分。床下を最厚に。仕掛けと魔法の奇襲を想定する。側面は基本被弾面、厚めに。前後は牽引方向で中厚。屋根は軽装甲。


これで重量、10トンに収まる目算だ。サイクロプス1機の牽引能力なら、通常の馬車を余裕で上回る速度を維持できる。重さのイメージで言えば、戦車がだいたい40トン、大型のトラックの車重が14トンくらいだろうか。


---


内装は、何人かで滞在する空間として組む。


寝台は固定式、2床。上下2段の船室方式で空間効率を稼ぐ。


シャワーと風呂。水属性魔石で給水、火属性魔石で加熱。この世界にタンクは要らないから軽量化が簡単でいい。尤も、高価な魔石が必要だが。必要な時に魔石が水を生成し、即座に温める。排水は床下の蒸発皿に落とし、火属性魔石で蒸発させ、風属性魔石で排気する。汚水は外に出さない。


トイレも同じ哲学。汚物は炭化タングステンの燃焼皿に落ち、火属性魔石で焼却される。煙と灰は風属性魔石で排気。臭気は出ない。二重構造の焼却システムで汚物を貯めず振り撒かないから、衛生面でも優秀だ。


照明は白熱電球。


タングステンフィラメントは、炭化タングステン製造の中間工程で既に精錬出来ている。ガラス球は技師が手作りで吹いて作る。中の空気は僕の空間属性で真空に引く。これは僕にしか出来ないが、僕がやれば一瞬だ。配線は銅で、雷属性魔石を電源とする。


「魔力」というエネルギーは、実に効率よく変換できる夢のエネルギーだ。地球で発見されたら、大騒ぎになるだろうな。


室内灯、枕元の読書灯、調理場の作業灯。車外には前照灯と、停車中の警戒灯。ゆえに夜になっても車内は明るい。室内は密閉に近い空間だからこそ、「火」を使えば一酸化炭素中毒の危険もある。だから、ついでに照明も電気で組んでおいた。


---


車両全体の諸元(しょげん)(まと)まった所で、僕はエルダに設計図一式を渡した。


エルダはしばらく図面を凝視していた。


「……マキナ殿」

「あぎゃ」

「これ、馬車って言うていいんか?」

「あぎゃ」

「いや、馬車ちゃうやろ……サイクロプスで牽くから馬車、て、サイクロプスは馬ちゃうがな……」


半分は馬型だろう。


エルダは図面を捲りながら、何度も髭を撫でていた。


「分かった。ワシらでやらせてもらう。クラウス、イーリス、ブルーノにも噛ませてええか?」

「あぎゃ」

「ブルーノには回路周りを担当させる。あいつ最近、伸びとる」

「あぎゃ」


エルダが図面を抱えて去って行った。


---


半月後。


完成した車両は、工房の前に据えられていた。


全長8米、全幅3米、全高3米弱。マルエージング鋼の4層装甲が朝日を弾いている。屋根の稜線(りょうせん)から煙突が1本、後方に傾いて立っている。エアレスタイヤの蜂の巣構造が、車軸の周囲で複雑な文様を形作っていた。


メルフィーナがアイン達三姉妹を引き連れ、車両の前に立っていた。


三姉妹は、身辺警備から作業の手伝い、僕の手足の代わりが基本の役目だが、こう見えて戦闘力はサイクロプスを凌ぐ。質量で言えばサイクロプスの方が圧倒的に大きいから、単純なパワーではサイクロプスに軍配が上がる。しかし三姉妹は、通常時こそ1コアで人の様に生活へ溶け込み、戦闘時には2コアモードでスピードとパワーを併せ持つ。有事の備えもある。実質、小さなタイタンと言って過言ではない。この旅でも、護衛を兼ねて同乗していく。


「……マキナ様。これ、本当に馬車ですか?」


メルフィーナが首をかしげて僕に尋ねてくる。


「あぎゃ」


「中を見てもよろしいですか?」


「あぎゃ」


メルフィーナが恐る恐る扉を開け、ゆっくりと中へ入っていく。ところが、しばらく出て来なかった。


エルダと僕が顔を見合わせた。


やがてメルフィーナがゆっくり出て来た。


「……マキナ様。ベッドが、ありました」

「あぎゃ」

「身体を洗う設備も、お手洗いも、ありました」

「あぎゃ」

「天井や足元から、灯りが点りました」

「あぎゃ」


メルフィーナはしばらく沈黙していた。それから微笑んだ。


「マキナ様、これ、馬車では御座いません。最新鋭の、お屋敷で御座います」


え? まあ、キャンピングカー的なやつだよね。


「……あぎゃ」


エルダが横で噴き出した。


「あはははは! 姫様、ええ事仰る!」


メルフィーナが少し赤くなったが、笑顔を崩さなかった。どうやら気に入ってくれた様だ。


まあ、姫が喜んでくれるなら。僕は尻尾を静かに振った。


---


配備の旅は、王都ドラグロードから始まった。


最初の10機は、城外の練兵場で正式に引き渡された。マルキウス王が立ち会い、騎士団長が誓いの言葉を述べた。サイクロプス10機が一列に並び、メルフィーナがその前を歩いて回った。


王都に配備された10機は、王都防衛の主力として配される。一般騎士団と組み合わせて運用される予定だ。


引き渡しが済むと、僕達は発った。


サイクロプス1機が僕達の車両を牽いていた。後ろには護衛として、もう1機のサイクロプスが随伴する。配備分とは別の機体、予備兵力からの抜擢だ。ツーマンセルで、2交代で魔力を充電しつつ、24時間体制で活動できる。


街道を進む。


車内ではメルフィーナがしばらく窓辺に寄っていた。ジャイロ吊りの客室は揺れない。馬車に乗り慣れた者ほど、その違和感に驚く。


「……マキナ様、不思議ですわ。外の景色は流れているのに、私の身がまるで止まっているように感じます」


「あぎゃ」


「お茶がこぼれません」


「あぎゃ」


メルフィーナが微笑んだ。


「マキナ様の馬車、いえお屋敷は、魔法のようですわ」


僕は黒板を手繰り寄せて短く書いた。


[魔法ではない、工学だ]


「……まあ」


メルフィーナが小さく声を上げて、それから声を抑えてくすくすと笑った。


工学に興味を持ったメルフィーナは、旅の間中、色々な説明を聞いては質問していた。内容は小学校レベルから始まり、中・高を経て、大学の講義に至る手前くらいまで。零から論理を作り出す事に比べたらずっと簡単とは言え、未知の知識をこれ程効率的に把握できるのは才能だろう。メルフィーナの頭も、大概凄い出来だと思う。


---


第二都市ドラグナートには、2日で着いた。


地方領主が門の前で出迎えた。白髪の細身の老人で、王家への忠誠が厚い人物だと事前に聞いている。


サイクロプス10機の引き渡しは滞り無く済んだ。領主はメルフィーナに深く頭を下げ、王家の配慮に感謝を述べた。


サイクロプスの命令権は、マスターとなった者に絶対遵守だが、それでも更に上位からの命令が優先される様に組んである。最終的には、僕の言う事を絶対に聞くという事だ。登録は、上位命令権を持つ者と命令権を受け取る者が一緒に魔力を流し、その魔力波で識別する様に作ってある。完成したばかりの機体は、必ず僕と一緒に登録しないと起動できない。セキュリティは大事だからね。


ただ、僕は気付いた事があった。


商業都市であるドラグナートの城壁は、古かった。分厚いが、遠距離の砲撃や爆裂魔法には耐えられそうにない。兵士達は勇敢そうだったが、装備は標準の騎士のものだ。数こそ増え、各拠点に1000人は兵団として常駐しているが、サイクロプス10機が加わった所で、それは拠点防衛の柱には成っても、城壁そのものの脆さは消えない。


戦力の絶対数が、足りない。サイクロプスは主戦力だが、兵士達そのものが装備的に脆弱と言うしかない。個々の戦力が、低過ぎる。


これは王都でも感じていた。マルキウス王の呼び掛けで新しい兵士達が集まっているのは喜ばしい。立身出世を目指す若者達も増えている。だが彼等一人一人は、通常の歩兵だ。サイクロプス1機に敵う人間は居ない。


個としての戦力を底上げする手段が要る。


甲冑そのものを強化する発想。あるいは、人間が装着する外骨格。地球で言うところの強化外骨格なんかも、いいかもしれない。


頭の片隅に、新しい構想が芽生えていた。忘れない内に、車内で筆を走らせる事にしよう。


---


ドラグナートを出て、車両は南西へ進んだ。


次は、城塞都市ドラゴノート。


13年前に神聖国に奪われ、最近奪還した拠点。最前線である。


街道の脇には、畑を耕す人々の姿があった。奪還されて間もない土地だ。戻ってきた農民達が、13年振りの畑を起こしている。


彼等の顔は疲れていたが、穏やかだった。


メルフィーナが窓越しに彼等を見ていた。


「……マキナ様。あの方達の生活を、お守りせねば」


「あぎゃ」


僕は尻尾を静かに振った。


街道の先、地平線にドラゴノートの城壁が見えてきた。


サンドゴーレム100機とサイクロプス10機が入れば、守備力は大きく上がる。だが、十分とは思えなかった。防衛機構をしっかり作らないと、数で圧されてしまうのは明らかだろう。


中心戦力は出来た。次は、量産化とは視点を変えた戦力が要る。


第二十六話・了

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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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