第二十四話 メルフィーナ、奮闘する
朝の厨房は湯気で満たされていた。
私はストーブの前で盆を握り、料理が出来上がるのを待っている。今朝も自分で取りに来ていた。
スーシェフが私を見て、何も言わずに肉の塊を取り出す。
「お肉を一口大にして、串に刺して頂けますか。片手でつまめる方が、お時間を取らせずに済みますから」
「かしこまりました」
スーシェフは黙って肉を切り始めた。手際がいい。盆の上に皿が並んでいく。串に刺した焼き肉、根菜のスープ、柔らかいパン、果物。それを持って厨房を出る。
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マキナ様が工房に籠られてから、修練場まで自分で運ぶと決めていた。メイドに頼めば、後で報告を聞くまで様子が分からない。私が行けば、その場で見られる。
廊下で衛兵に会う。彼は深く頭を下げた。扱う機密の高さゆえ、お父様が配置された衛兵だ。
「姫様、おはようございます」
「中は」
「夜明け前から音が止みません。夜の間も、明かりは落ちませんでした」
私は頷いて廊下を進んだ。
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修練場の前で呼吸を整える。中から張り上げた声が聞こえていた。
「親方ぁ! 1号機の脚部ブロック、軸もう一寸ずらした方がええんちゃう?」
「あいよぉ! 寸法寄越せ!」
エルダ殿とアイゼン王の声だ。私は扉を押し開けた。
「マキナ様、朝食をお持ちしました」
中の4人は私を見もせず、それぞれの作業を続けていた。手を止められないのだろう。
「おう、適当にその辺に置いといてくれー」
私は盆を作業卓の端に置き、中の様子を見た。
馬の形をした巨大な鋼の影が2体、修練場の中央に並んでいる。タイタン程ではないが、人と比べると大分大きい。1体目は脚部までしか出来ていない。4本の太い脚が床に立ち、その上に腰部らしき塊が乗っている。2体目はもう少し進んで、長い胴体が出来上がっていた。胴体の中ほど、馬の背中に当たる場所から、人の上半身が伸び出す予定なのだろう。
その奥にマキナ様がいた。宙に浮いて2体目の胴体に小さな前足を当てている。前足から薄青い光が流れ、胴体の表面に魔導回路らしき線が描かれていく。
綺麗。それが最初に頭に浮かんだ。
ドワーフ達は脚部の組み立てに集中していた。エルダ殿が金属の板を運び、ゲパルト殿が小さな道具で何かを叩き、アイゼン王が鉄敷の前で何かを鍛えている。
マキナ様の声は聞こえなかった。私は静かに踵を返した。
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夕方、メイドが盆を下げて戻ってきた。皿の上は、串が2本だけ無くなっていた。
2切れ。工夫は効いた。片手でつまめる物にしたのが正解だった。それでも、2切れは少ない。身体が小さいとは言え、働き詰めの方が体力を保つには遠く足りない。
私は窓辺に立った。煙突から白い煙が立ち上っている。火がまだ落ちていない。
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2日目の朝、スーシェフは肉を取り出して待っていた。
「今朝はどう致しましょう」
「串をもう少し増やして下さい。それと、塩を強めに振った物も少し。お疲れの時は、塩気が欲しくなりますから」
「かしこまりました」
盆を持って修練場に向かい、扉を押し開けた。
「マキナ様、朝食をお持ちしました」
返事は今日も無い。ドワーフの方達は返事をしてくれる。私は盆を作業卓の端に置いた。
馬の影が3体に増えていた。1体目は昨日より進んで、馬の背中から人の上半身が組み始まっている。肩に大きな関節があり、腕の骨格らしき棒が伸びていた。2体目は馬体が出来上がり、上半身の組み立てが始まったところ。3体目は脚部の途中で、昨日の1体目と同じ段階だった。
1日に1体ずつ増えている。
奥ではマキナ様が1体目の上半身に魔導刻印を描いていた。前足から流れる光は変わらず薄青い。しかしマキナ様の元気が、少しずつ無くなっている様に見える。私の中で、何かが引っ掛かった。
ドワーフ達は新しい部品を運んでいた。エルダ殿の手元に、長い槍の様な物がある。長さはマキナ様の体の3倍ほど。先端は丸く、何故か尖っていない。
「親方、軸ブレ確認しますわ」
エルダ殿がその長い物を持ち上げ、軸の周りで回す。すると先端の部分と胴体の部分が、別々の方向に回転した。
回っている。これは私の知っている槍ではない。
私は盆を置いたまま、そっと踵を返した。マキナ様の「あぎゃ」は、今日も聞こえなかった。
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夕方の報告では、串が4本無くなっていた。昨日の倍。増えてはいる。しかしマキナ様の作業量を思えば、4切れの焼き肉では明らかに足りない。
父上にご相談しよう。
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3日目の朝、私は厨房に寄る前に父上の執務室へ向かった。
早朝だったが、父上は既に書類に向かっておられる。私が入ると顔を上げた。
「どうした」
「父上、マキナ様の事で」
父上の手が止まる。
「お入り。話してみなさい」
私は中に入って扉を閉めた。
「マキナ様がお休みになっておられません。もう4日になります。お食事も少しずつしか召し上がらず、工夫はしておりますが、追いついておりません」
父上は腕を組んで暫く黙り、それから低く言った。
「儂も気になっておった。マキナ殿の作業の重要性は分かっておる。しかしあの方が倒れては元も子もない。儂は儂で動いておった。ゲパルト殿と話をしておる。技術提携の一環として、ハルトアイゼン本国から技師団を呼ぶ手筈だ。マキナ殿一人では量産は無理だ、とゲパルト殿も申しておる。我が国の技師も参加させ、双方の技術レベルを上げて、マキナ殿の手伝いくらいは出来る様にしたい」
私は深く息を吐いた。胸の中に積もっていた何かが、少し軽くなる。
「ただし、技師団が到着するまでには数日かかる。それまでの間、マキナ殿のお側におるのはお前だけだ。くれぐれも、無理をさせない様気を付けてくれ。友人とは言われたが、儂には出来ぬ。あの方の側におられるのは、お前だけだ」
「はい、父上」
執務室を出る私の足取りは、来た時より軽かった。
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3日目の盆は、父上との話の後に厨房で用意した。
「種類を増やして下さい。お肉以外にもつまめる物を。干し果実、燻製のチーズあたりで、お願いします」
修練場の扉を押し開ける。
「マキナ様、朝食をお持ちしました」
馬の影は5体に増えていた。最初の2体は完成に近づき、馬の胴体と人の上半身が一つに繋がって、4本の脚が床に立っている。長い槍は2体それぞれに装備されていた。馬体の側面には、剣の鞘らしき物が左右に1本ずつ。
剣? 長い槍に加えて、剣を2本。それも左右に。用途は分からない。しかし、多くの武器を持っている事は分かる。
奥のマキナ様は5体目の脚部に魔導刻印を描いていた。翼が、今日も重そうに見えてしまう。
ドワーフ達は別々の機体に分かれていた。エルダ殿が1体目の槍の調整、ゲパルト殿が2体目の剣の鞘の取り付け、アイゼン王が3体目の馬体の組み立て。
「あぎゃ」
マキナ様の声が一度だけ聞こえた。私の中で何かが、ぱっと明るくなる。
「マキナ様」
声をかけてみたが、返事は無い。先程の「あぎゃ」は、ドワーフへの応えだったのだろう。私は盆を作業卓の端に置いて、静かに踵を返した。
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夕方の報告では、肉の串が6本、干し果実が半分、燻製のチーズも少し減っていた。増えている。しかしまだ足りない。
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4日目の朝、スーシェフは何も訊かずに昨日より多めに用意した。
「今朝も同じ方向で?」
「ええ。もう少しずつ増やしましょう」
修練場の扉を押し開ける。
「マキナ様、朝食をお持ちしました」
馬の影は6体に増えていた。最初の2体は完成している。1体目の馬体が試運転されていた。エルダ殿が機体の横で、何かを計測している。
馬体が低い唸りを上げ、ゆっくりと前進した。それから止まり、その場で回転する。前進したまま、機体だけが軸を変えて方向転換していた。
馬とは違う動き。馬は走りながら向きを変える時、弧を描く。しかしこの機体は、軸だけを変えて方向転換していた。
お強そう。それが私の素朴な感想だった。
奥のマキナ様は4体目の上半身に魔導刻印を描いている。
「マキナ様」
声をかける。
「あぎゃ」
返事があった。それも今日は早く。私の中で何かが、ぱっと明るくなる。
「朝食をお持ちしました」
「あぎゃ」
意味は分からない。しかし、何かを労って下さっている気がした。
「お忙しい所、失礼いたしました」
「あぎゃ」
私は盆を作業卓の端に置いて、踵を返した。
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夕方の報告では、串が8本、干し果実もチーズもほぼ全部減っていた。かなり食べて下さった。それでも、4日間休まず作業を続けている方の必要量には程遠い。
私は窓辺に立って、煙突の煙を見ていた。食事の量は少しずつ増え、工夫は効いている。しかし根本の問題は別だ。
マキナ様は食欲が無い訳ではない。食べる暇が無いのだ。作業に没頭しすぎて、食事に手を伸ばす時間を惜しんでおられる。私がいくら食べやすい物を工夫しても、お休みを取られなければ意味がない。
明日は、ちゃんとお目にかかります。お休みについて、直接ご相談を。
そう決めた。眠りに着く瞬間、お返事くださったマキナ様のにこやかなお顔を思い出して少し嬉しくなった。
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5日目の朝、私は寝台から起き上がった瞬間に決めていた。今日は作業を止めてでも、ちゃんとお話しして頂きます。
朝の支度をしながら、心の中で言葉を組み立てる。マキナ様、少しだけお休みになって下さい、お体に障ります——。最後の言葉が引っ込まないように、声に出して練習した。
「お、休、み、になって、下さい」
寝室で一人、声を出して言ってみる。少し恥ずかしい。しかし、口が動くという事を確かめておきたかった。
厨房に着くと、スーシェフが一目で察した様子だった。
「今朝は」
「お肉と果物、たっぷりお願いします。お茶も温かいのを」
「かしこまりました」
盆の上に皿が並んでいく。今日は本当にたっぷりで、両手でしっかり持たないと運べないほどの量。しかし今朝は、この重さも気にならない。
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修練場の前に着いた。衛兵が深く頭を下げる。私はいつも通り頷いた。
「失礼いたします」
声を上げ、扉に手を掛けてそのまま押し開いた。
中は熱気で満ちていた。炉の熱、人いきれ、土の匂い、油の匂い、煤の匂い。それらが一斉に顔へ押し寄せる。
奥には馬の影が7体並んでいた。また増えている。しかし私の目は、そこに留まらなかった。
作業場の真ん中。そこに四つの背中があった。作業台を中心に、何かに集中している四つの背中。ハァ、ハァ、と荒い息。汗ばんだ首筋。煤で汚れた前掛け。その真ん中に——小さな女性が寝かせられて、白いメイド服を着せられて、床に横たわっている。動かない。
「ええんか、もう一寸……」
「動くなや、ええか、ええか……」
「もう少し……あと、もう少し……」
「あぎゃ……ぐっ……あぎゃ……」
息の漏れる音。低く抑えた声。四つの体が密着し、その中央に小さな女性という異様な光景。
頭の中の覚悟が、丁寧に組み立てた言葉が、全て吹き飛んだ。代わりに、別の物が口から飛び出す。
「——なあにをやってるんだ!! あんたらぁ!!」
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四つの背中がビクッと跳ね上がった。細工針が、ぴたりと止まる。落とさない。それだけは職人の意地だった。
四つの顔が一斉に私を見た。汗だくのアイゼン王。油まみれのゲパルト殿。煤だらけのエルダ殿。そして、小さな前足に細工針を握ったまま、ぽかんと口を半開きにしたマキナ様。四つの顔が揃って、心臓をわし掴みにされた様な表情をしていた。
私の視線が、4人の手元に行く。エルダ殿の指に小さな端子。ゲパルト殿の手元に銀色の細い工具。アイゼン王の手に照明器具。マキナ様の前足に細工針。そして中央、床に横たわった小さな人型と、半分だけ装着された白い仮面。
精密作業。ゴーレムの。理解した瞬間、頭の中で恥ずかしさが爆発した。
「あっ……」
しかし4人は、まだ私が気付いた事を知らない。彼らは、説明を始めた。
エルダ殿が両手を振った。「いや、これはやな、メイドの機能として……いやメイドっちゅーてもゴーレムなんやけど、140cmでな?」
ゲパルト殿が額の汗を拭こうとして、道具を持ったままだと気付き、慌てて持ち替える。「い、いえ、姫様、これは魔導刻印の二重スイッチを……いえ、その、つまり、ですね……」
アイゼン王は腕を組もうとして組めず、髭を撫でようとして工具を持ったまま。「あー、姫さん、これはな! これはやな……うむ、これは、その、なんやな……」
マキナ様は黒板を取り出して何か書こうとするが、手が震えて筆が定まらない。「あ」と書いて消す。「い」と書いて消す。何度も書いては消す。
道具を持ったまま右往左往するアイゼン王。両手を振り続けるエルダ殿。何度も持ち替えるゲパルト殿。黒板を消しまくるマキナ様。4人の動きが混ざり合う。
変な踊りをする4人組。その思いが頭に浮かんだ瞬間、私の中で何かが弾けた。
「ふっ……ふふっ……」
両手で口を押さえる。しかし堪えきれない。皆が必死で、私が誤解したばかりに——そう思えば思うほど、可笑しい。恥ずかしさと笑いが、私の中で同時に膨らんでいく。
「し、失礼……いたしました!! ご、ごゆっくり……お続け下さい!!」
何が「ごゆっくり」かは自分でも分からない。しかし口は止まらなかった。くるりと振り返って、逃げた。
廊下に出た瞬間、堪えていた笑いが噴き出す。
「ふふっ、ふふふっ、ふっ……!!」
口を押さえながら走る。衛兵が驚いた顔をしたが、止まれなかった。
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一方その頃、修練場では。
扉が閉まる音が遠くで響き、廊下を駆ける足音が遠ざかっていく。その音が完全に消えた後も、4人はしばらく動かなかった。
最初に動いたのはアイゼン王だった。ふっと息を吐いて髭を撫でる。
「……姫さん、可愛らしいなぁ」
「可愛らしゅうございますな」
「めっちゃ可愛らしいわ」
マキナが黒板に書いた。
[悪い事、した]
アイゼン王が髭を撫でて笑う。
「ええんやで、師匠。後で詫び入れたれや」
マキナの尻尾が一度、ぱたんと床を叩く。それから、また黒板に向かった。
[続き、やる]
「あいよぉ」
「了解」
「あぎゃ」
四つの背中が、再びゴーレムの頭部に集まっていく。作業が再開された。
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ゴーレム——名をアインという——の仮面装着が完了したのは、その日の昼前だった。
仮面がしっかりと装着される。頭部の魔導刻印と仮面の魔導刻印が、薄らと共鳴する光を見せた。それからアインの瞳が、ゆっくりと開く。ガラスの様な青い瞳が、無感情でまっすぐに前を見た。
「あぎゃ」
マキナが短く声を上げ、ドワーフ達が息を呑む。
「動いたで」
「動きましたな。魔導回路、全系統正常」
「ええ顔しとるなぁ、この子」
マキナが黒板に書いた。
[3姉妹にする予定]
アインがゆっくりと体を起こす。最初は生まれたての子鹿の様な動き。しかし三歩四歩と歩くごとに、動きが滑らかになっていった。
修練場の隅に積まれた、未加工のマルエージング鋼の塊。大人3人がかりでも持ち上げるのに苦労する重さを、アインは片手で軽々と持ち上げた。ゆっくりと作業場まで運んでいく。
ドンッ。鉄塊が所定の場所に置かれる。
アインは無感情のまま、頭をマキナの方へ向けた。何かを問う様な動作。
マキナが黒板に書く。
[上出来]
アインはそれを読み、無音で頭を深く下げた。それからまた顔を上げる。無感情のまま。
しかしマキナは、その動作を見つめて、ふぅと長い息を吐いた。マキナは黒板にもう一行書き加える。しかしそれは誰にも見せず、書いてからすぐに消した。
[メルフィーナに、もう少し早く話しておけば良かった]
その文字が消えた後、マキナの尻尾がもう一度、ぱたんと床を叩いた。
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仮面ギミックの組み込みは、午後に再開された。
ゲパルトが細工針を握ったまま、ふと顔を上げる。
「マキナ殿。こんな機能、本当に必要なんですか。対人戦闘なら、もう既に十分でしょう。戦闘モードのダブルコアで、騎士10人相手でも圧倒的なはずです。この覚醒モードの仮面ギミックは、物凄く繊細で、物凄く脆い。仮面はワンオフでしょう。一度割れたら、もう同じ物は作れない。滅多に使えない切り札に、これだけの手間を……」
仮面の内側の刻印と、頭部の刻印。二つが噛み合って初めて、覚醒モードのコアが起動する。片方でも狂えば、永遠に起動しない。
エルダも頷いた。
「マキナ殿、儂もそれは思うとった。データを見る限り、単体でも十分な戦闘力や。戦闘モードで十分なら、覚醒モードまで組まんでもええんちゃう?」
アイゼン王は黙って腕を組んでいる。しかしその目はマキナを見ていた。何かを待っている目だった。
マキナは目を細め、口角を僅かに上げた。尻尾がぱたんと一度、床を叩く。黒板をゆっくりと出して、書き始める。
[データは重要な参考だ]
ゲパルトが頷く。マキナは黒板を消して書き直した。
[だが、全てではない]
ゲパルトの動きが止まる。マキナはもう一度黒板を消し、書く。
[この機能は、浪漫だ]
ゲパルトの口が半開きになった。エルダの顎が落ちる。アイゼン王の口角が、わずかに上がった。
マキナはもう一度黒板を消す。ゆっくりと、しかし力強く書いた。
[浪漫の無い設計を、私は認めない]
修練場の中が静まり返った。
ゲパルトはしばらく黒板を見つめ、それからエルダと顔を見合わせた。
「マキナ殿。あんた、ホンマにええ職人やわ」
「私もそう思います」
「儂も最初からそう思うとった。師匠の拘りに、わしらも拘ろうやないか」
4人は再び細工針を握り直した。仮面の魔導刻印——物凄く繊細で、物凄く脆い、滅多に使われない切り札の核心ギミック——その精密作業が、また始まる。
マキナの小さな前足が、刻印の1本に魔力を流し込む。その隣でドワーフ達の手が、一糸乱れず動いた。
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自分の部屋まで、一気に駆け戻った。
扉を閉めてベッドに飛び込み、両手で顔を覆う。顔が熱い。耳まで熱い。心臓が早鐘の様に鳴っている。しかし口元は、まだ緩んでいた。
「ふふっ……何ですか、あの顔」
笑いが収まってくると、今度は恥ずかしさで顔が赤くなる。と同時に、また4人の動きの面白さを思い出し、笑いが繰り返される。
「明日はねじ込んででも食べて頂きましょう」
そう決意するも、思い出すと、笑ってしまうのだった。
第二十四話・了
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク




