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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第二十二話 悲しい右手

遠くから聞こえていた騎馬隊の音が、谷の入口で止まった。


ドラグロード王国騎士団の精鋭、20騎。


先頭の隊長が馬を降り、即座にメルフィーナに駆け寄った。


「姫様、ご無事で——」

「ええ、こちらに問題はございません」


メルフィーナの声は、既に整っていた。王城への早馬を出してから、僕とアイゼン王の間で起きたことを、彼女は頭の中で整理し終えていたらしい。王女として、契約者として、外交官として、彼女は成長しているのだろう。


隊長は谷の中を見渡し、チャリオット1台、ドワーフ3人、そしてタイタンを認めて、僅かに眉を寄せた。


「……このご一行が、ハルトアイゼンの——」

「ええ。丁重にご案内差し上げて下さい」


メルフィーナはそれだけ言って、隊長に頷いた。


アイゼンは、谷の真ん中に胡座をかいたまま、騎馬隊の到着など気にもしていない様子だった。エルダはまだタイタンの足元を覗き込み、何やら呟きながらコアの配置を観察している。ゲパルトだけが、ようやく長い溜息を吐いてこちらに歩み寄ってきた。


「……当方の無遠慮な来訪、心よりお詫び申し上げます」


僕に向かって、深く一礼した。それからメルフィーナにも、同じだけ深く頭を下げた。


「ドラグロード王国第一王女殿下にも、心よりお詫び申し上げる。私はハルトアイゼン王国宰相、ゲパルト・フォン・エルツバルトと申します」


宰相に、フォン付き。やはり本物の重鎮だ。


メルフィーナが、礼を返した。


「ご丁寧なご挨拶を、痛み入ります。ですが、この様な来訪は、我が国を小国と見下したと取られてもおかしくないのではございませんか」


二人の挨拶の間も、アイゼンは胡座をかいたまま、ぽりぽりと髭を掻いていた。宰相の詫びも自分のことだという自覚があるのか、無いのか。


「まあまあ、そう言うなメルフィーナ王女。で、マキナ」


アイゼンが、髭を掻き終えて僕を見た。


「お前さんこの機体、量産する気じゃろ?」


僕の尻尾が、ぴくりと動いた。メルフィーナの表情が、僅かに強張った。


「いや、責めとる訳じゃない。当然じゃ。これだけの機体を作っといて、量産せん訳がない。テスト項目見れば誰でも分かる。コアの消費を測っとった。武装の出力を測っとった。決戦兵器の運用試験じゃない。これは量産機の元型を取る作業じゃろう。何せこのデカブツじゃ運用が局地的になってしまい、汎用性に欠ける」


読まれている。アイゼンの言う通り、タイタンをこのまま量産するのはコスパも悪いし、活動率が悪すぎる。


僕は黒板を出した。書こうとして、書く前に止めた。


そんな僕を見て、アイゼンがにやりと笑った。


「で、提案じゃ」


彼は立ち上がり、僕の前に歩み寄った。胡座から立つドワーフの動きは、見た目より遥かに速かった。


「ハルトアイゼンとドラグロードで、同盟を組まんか。お前さんの量産機、ワシらにも何機か回してくれ。代わりに、こちらは鉱石の精錬技術と高品質な魔導コアを出す。魔導回路の知見も出そうじゃないか」


後ろでゲパルトが、額に手を当てた。完全な交渉モードに入る前に、王が口走ってしまったのだ。


「親方、それは——」

「黙れゲパルト、ワシは決めた。こやつと知己になれるなら安いもんじゃ!」


正直、このレベルで生産や開発に理解を示せる仲間は、喉から手が出る程欲しい。ドラグロードには鉱石資源はあっても技術力が足りていない。全てを僕がやっていては生産性が低すぎて、実戦投入に時間をかけてしまう。火薬技術もあるなら、発破による採掘も可能になるだろう。


僕は黒板に書いた。


[王の判断、仰ぐ]


アイゼンの動きが、一瞬止まった。それから、彼の目がまた少しだけ深くなった。


「……ほう。それだけの知識と見識があれば、自分で判断して推し進めれるだろうに。王の顔を立てようと言うか」


「あぎゃ」


アイゼンの口の端が、嬉しそうに上がった。


「ますます、気に入った。では、お前さんの王の所に行こう。正式に話し、国家としての筋を通そうじゃないか」


ゲパルトが、頭を抱える仕草の途中で止まった。その止まり方が、僅かに希望を含んでいるように、僕には見えた。宰相の、救いの目。ようやく正規ルートに戻ってくれるという期待だろう。


メルフィーナも、僕を見て僅かに頷いた。


「では、王城にご案内致します」


彼女の声に、ようやくいつもの王女らしい落ち着きが戻っていた。


谷の入口で、ハルトアイゼンの護衛団が王城方向から走ってきたことを、騎馬隊の隊長が報告してきた。振り切られた護衛団は、既に王城に着いていたらしい。そして護衛団長は、青ざめた顔で平身低頭しているという。


そりゃそうだ。


僕は尻尾を、軽く一振りした。


谷から王城までの移動は、ドラグロード騎士団とハルトアイゼン側のチャリオットの混成行列という、見たことのない構図になっていた。


  ◇


王城に戻ると、謁見(えっけん)の間でマルキウス王が待っていた。


玉座の前、いつもの簡素な石の床。王は、玉座に座らず立っていた。その隣に、ハルトアイゼン護衛団長と、その部下達が整列して平伏している。護衛団長の青ざめ方は、騎馬隊長の報告通り、相当のものだった。


ゲパルトが、入室するなりまっすぐに護衛団長の所へ歩み寄った。そして、何も言わずに護衛団長の肩に手を置いた。


護衛団長が、深く頭を下げた。


いつも苦労しているんだろうな。


僕はメルフィーナの腕の中で、その光景を見ていた。護衛団の処遇は、ハルトアイゼン側の内政。ゲパルトが宰相として、その責を取る。その仕草に、長年の手慣れがあった。


アイゼン王は、護衛団の方など見もせず、まっすぐマルキウス王の前まで歩いた。


「ドラグロード国王、マルキウス殿。ハルトアイゼン王国第12代国王、ギアム・ゼ・アイゼンである。不躾な訪問、まあ、許してくれ」


まあ、許してくれ、か。なんて軽い詫び方だ。悪いと思っているのかも不安になる。


マルキウス王は、しかし表情を変えなかった。


「アイゼン王。我が国の試験場への、貴殿の突発的な訪問。我が娘、我が守護竜への、無断での接触。これは本来であれば、相応の対応を取らねばならぬ事案であることは、ご理解頂けよう」


マルキウス王の声は、怒気はなかったが低く、淡々としていた。しかしその淡々さの中に、外交として絶対に譲れない一線が、はっきりと引かれていた。


アイゼンの顔から、笑いが少しだけ消えた。ゲパルトが、護衛団の傍らからこちらをじっと見ていた。


「しかし」


マルキウス王が続けた。


「我が国としても、貴国との関係は長く深いものを望んでいる。ここで事を荒立てるは、両国のためにならぬ」


上手いな。


僕はメルフィーナの腕の中で、尻尾を一振りした。メルフィーナが、僕の頭を軽く撫でた。静かにしていろ、という合図だった。


「故に、提案致す」


マルキウス王が、アイゼンを見据えた。


「同盟、更には共同開発の形を取るならば、今回の件は全て不問と致そう」


アイゼンの目が、僅かに見開いた。


「共同開発ならば、マキナ殿が必要とされる、情報、物資、費用。これらにつきましても、貴国にご協力頂けると、そう解釈してよろしいか」


謁見の間が、静まり返った。


これは、見事だ。


マルキウス王は、外交的失態を相手側の利点へと裏返した。「不問にする」と「共同開発」を一つの取引にまとめ、しかも「マキナの必要とする物全部」を相手に約束させる構図に持って行った。怒らず、責めず、しかし引き出すべきものは全て引き出す。


ゲパルトが、護衛団の傍らからゆっくりと前に進み出てきた。宰相としての交渉に入るためだ。ゲパルトの右手が、軽く挙がった。


「では、条件の詳細につきましては——」

「よっしゃ、それで行こう!」


謁見の間に、ドワーフ王の大声が反響した。


ゲパルトが、固まった。ちょっと固まった音が聞こえた気がしたくらい、固まった。


「マキナ! 開発室はどこじゃあ!」


アイゼンが、僕に向かって手を伸ばした。メルフィーナが反応する前に、僕は鷲掴みにされ、連れ去られていた。


あぎゃっ!?


「メルフィーナ殿、案内せい! エルダ、付いて来い!」

「親方ぁぁ!」


エルダが慌てて追ってきた。メルフィーナも片手を僕に伸ばしながら、もう片方の手で額を押さえつつ、急ぎ足で続いた。


「お、お待ち下さいませ! 話の途中でございます!」


アイゼンは僕を小脇に抱え直し、もう謁見の間の出口へ向かって歩き出していた。その歩みは速く迷いが無く、まるで何度も来たことのある場所であるかのように、修練場の方向へ真っ直ぐだった。


何て豪快なおっさんだ。


  ◇


謁見の間に、足音が遠ざかっていく。修練場まで、まだ少し距離がある。しかし、アイゼン王の歩調なら、まもなく着くだろう。


謁見の間に、二人だけが残された。マルキウス王と、ゲパルト。


ゲパルトの右手が、まだ空中で行き場を失っていた。その右手は、交渉モードに入ろうとして上がりかけた手だった。しかし上げた本人の主君は、もう謁見の間から退場していた。


右手の指先が、ほんの僅かに震えていた。下ろすに下ろせず、しかし上げ続けるにも意味の無い、宙吊りの右手だった。


マルキウス王が、その右手をちらりと見た。それから一つ咳払いして、真顔で口を開いた。


「ゲパルト殿。今後共、よろしく頼む」


ゲパルトの右手が、ゆっくりと下りた。下ろす理由を、ようやく得た右手だった。それは一礼の形を取って、深く頭を下げた。


「……マルキウス国王陛下。……ありがとう、ございます」


謁見の間の高い天井に、その小さな声が薄く反響した。遠く修練場の方角から、アイゼン王の大笑いが、二人の耳に聞こえてきていた。


第二十二話・了

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