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メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

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第十五話 メカヲタ、類は友を呼ぶ

鎚音(ついおん)が、地下の鍛冶場に絶え間なく響いていた。


ハルトアイゼン王ギアム・ゼ・アイゼンは火床(ほど)の前に立ち、上半身裸で汗を流しながら(つち)を振っている。赤熱した鉄を打つたびに火花が散り、(ひげ)面の影が壁に大きく揺れた。玉座にある時の威厳はそこになく、ただ一人の武骨な鍛冶師がいるだけだ。


階段を駆け降りてくる足音が、鎚音に割り込んだ。側近のゲパルト。火薬を専門とする異色のドワーフで、脇に抱えた木箱が、走った勢いでガタガタ鳴っていた。

陛下(おやかた)ぁッ! 例の、フィールドテストの映像が——!」


王は手を止めない。赤熱した鉄に、最後の一打を振り下ろす。火花が一際大きく散り、それを見届けてから、ようやく鎚を置いた。

「何が映った」

「ドラグロードの、奪還戦です」


ゲパルトが木箱を作業台に下ろす。

「あの衰退した王国が、ドラゴノートを取り返しました」


王の眉が、上がった。

「観るぞ」


  ◇


工房の一角に、機材が据えられた。銅の枠に囲まれた黒い水晶の塊で、側面のレバーを引くと、磨かれた金属板がぼうっと青白く光る。記録用の魔晶石に焼き付けた光景を、映し出す装置だ。


最初は何も映らなかった。だが次の瞬間、揺れる視界の中に、夜の街が現れた。白黒の荒い映像で、古い記録画のような粗さがある。


火柱が3本、闇を裂いて立ち上っていた。その光に照らされて、城門へ向かう鉄の塊が3両、一直線に駆けていく。やがて先頭が城門に到達し、白い光がぶわりと膨れた。音は無いまま、城門が砕け散る。


王は腕を組み、画面に顔を近づけた。

「後輪駆動式だな」

「動力から車輪へ、直に。伝達機構らしき物が、見当たりません」


ゲパルトが応じた。二人の目は、職人のそれだった。車輪の径の派手さ、表面に刻まれた深い格子、ぬかるみでも食いつくであろう接地。前のめりに偏った重心と、それを破城槌の重さで打ち消す帳尻(ちょうじり)合わせ。後輪と前輪の径差(けいさ)を、頭の重量で相殺している。舵らしい舵は無く、曲がる気がそもそも無い造りだ。

「直進専用だ」


王が言い切った。


映像が、空からの降下に切り替わった。


鉄の人型が、夜空から街へ降り注いでいく。

「100体は、下らんな」


ゲパルトが数を見積もる。王は画面を睨んだまま、口を開いた。

「動きが、人間のそれじゃない」


関節が、人体では曲がらない向きに曲がっている。重量配分も、人のものではない。鎧の中身は、おそらく別物だ。


王は髭を撫でた。

「……間に合わせだな」


ゲパルトが、口の端で笑う。

「機能を絞り切ってます。削った後に、何の妥協も入れてない」


有り合わせの素材で、ここまで綺麗に組める者はそう居ない。実用品を作り慣れた、洗練された知識がある。二人の見立ては、そこで一致した。

「製作者は」

「現地では『古代竜』、あるいは『守護竜』と呼ばれているようで」


王が短く笑った。

「古代竜、ねえ……太古の知識って感じじゃぁねぇな」


再生の終わった魔晶石を、王はもう一度頭から流した。

「本気のを、見たくなる」


ゲパルトも、同感だと頷く。


王は革の前掛けを外し、椅子の背に掛けた。

「後でエルダにも観せておけ。黙ってると、後で機嫌を損ねる」


あの工房狂いなら、喜んで食いつくだろう。

「そうでしょうね」


ゲパルトが、笑った。


  ◇


遠いドワーフ王国でそんな話がされているとも知らず、僕は採掘の現場にいた。


掘削ドリルは、魔力さえ使えれば人間でも扱える。魔石(ませき)()ませれば、魔力消費なしのバッテリー式のような運用もできた。ただ、ゴーレムに持たせた方が腕力で勝る分、作業速度は段違いだ。土魔法の使える作業員には坑道の壁や天井の補強を任せ、重労働そのものはゴーレムが担う。坑道はガスの発生も考えられるから、風魔法の使い手と、回復のできる術師にも入ってもらっていた。


炭鉱夫のような人手を要らなくする、新しい労働力。その試金石として、今回の試みには意味があると思った。


ドラグロード王国の人口は、決して少なくはない。だが長年の負け戦で戦力が削られ続け、誰も徴兵されたくないという空気が、国に根を張ってしまっていた。それを変えるには、人の気持ちを動かす象徴が要る。この世界に地球のような常識はまだ無いから、象徴は分かりやすいほどいい。純粋な日本人だった僕の感覚で言えば、それは「でかい、強い、やばい」に尽きる。語彙を奪うほどの迫力、畏怖(いふ)させるメカニズム、有無を言わさぬ破壊力。浪漫の塊こそが、人を奮い立たせる支えになる。かつて戦時中の大和が、大艦巨砲主義の集大成としてそこに在ったように。


採掘ゴーレムが岩盤を削る音が、谷に響いていた。運搬ゴーレムが鉱石を抱えて坑道を行き来する。作業員たちは、まるで木材でも削るような岩の崩れ方に目を丸くしながら、支保(しほ)の施工を続けていた。この分なら、しばらく現場は彼らに任せて大丈夫だろう。僕は採掘チームのリーダーに後を託し、王城へ戻ることにした。


  ◇


夕刻、王城の謁見の間。マルキウス王とメルフィーナが、僕を迎えた。戻りを労う王の声には、安堵の色があった。


僕は黒板を出し、採掘が順調であることを伝えた。マルエージング鋼の素材も、ミスリルも、炭化タングステン用の鉱石も、見込みが立った。身を乗り出す王に、僕は尻尾を一度床に打ち付けてから、次の話を切り出す。


[次は、デカいのを作る]


王が目を瞬かせ、メルフィーナが首を僅かに傾げた。


[全高15メートルのゴーレム。実験機、兼、象徴]


「象徴、とは」


王の問いに、僕は黒板を書き換えながら考えを伝えた。人口はある。だが、戦力の低下で徴兵が嫌われている。負け戦続きなら当然の心理で、それを責める気は無い。けれど、その空気そのものを変える必要がある。人は、理屈では動かない。圧倒的な何かを目にした時に初めて、これなら勝てる、と思える。その心を動かす象徴が、要るのだ。


マルキウス王は暫く僕を見て、それからメルフィーナへ視線を移した。メルフィーナは、何も言わなかった。


僕がもし幼生体でなく成体であったなら、僕自身が象徴になれただろう。だが今の僕は、可愛いワンコに過ぎない。遠く離れた人々の心までは、動かせない。かといって、僕が成長するまで待つには時間がかかり過ぎる。今すぐ、はっきりとした脅威の形が要る。その結論が、巨人だった。


「その『でかいの』とは、どのような姿だ」


僕は黒板に、ざっと輪郭を描いてみせた。人型の巨人。巨大なメイスと盾を構えた、騎士の姿だ。


「人、ですか」


戸惑う王に、巨人型のゴーレムだと返す。実験機として素材も構造もコアの数も全て詰め込み、動かしてデータを取る。その先に、簡略化した量産型を据える。象徴を見せた後、量産機を多数並べれば、それがドラグロードの新しい戦力になる。


王はゆっくりと椅子に座り直し、低く息を吐いた。

「……正直、想像が追いつきません。ですが、貴殿が『要る』と言うのなら、そうなのでしょう。我が王国は、貴殿の構想に全面協力します」


僕は尻尾を、ぱたんと振った。やる気が(みなぎ)ってきた。


  ◇


その夜、工房に()もり、僕は鉱石を並べて明日からの段取りを頭の中で組み立てていた。やがて入口で、軽い足音がした。


メルフィーナだった。盆は持たず、両手に何も携えずに立っている。彼女は工房に入ると僕の前に屈み込み、目をじっと覗き込んできた。

「無理は、なさらないでくださいね」


僕の尻尾が、ぴたりと止まった。

「謁見の間で、見ておりました。あの時の……マキナ様の目が、ぎらぎらしておいででした」


僕は黒板に書いた。


[楽しいから]


「それは、よく分かりました」


彼女が微笑む。だがその微笑みの奥には、少しだけ困った色があった。

「寝ずに、食べずに、お一人で全部やろうとするのは——私が、許しません」


僕は黒板を書き直した。


[今が大事な時だ。出来ることは、やっておきたい]


メルフィーナは、それ以上は言葉を重ねなかった。ただ静かに僕を見つめ、僕も黙って、その視線を受け止める。やがて彼女は小さく溜息を吐き、もう一度微笑んだ。今度は、困った色は消えていた。

「明日からの大事業、楽しみにしておりますね。おやすみなさいませ」


彼女は立ち上がり、工房を出ていった。扉が、静かに閉じる。


僕は鉱石の山を見つめた。出来ることを、やれることを、可能な限り。それから尻尾を、ゆっくりと一度振った。


第十五話・了

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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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