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39 特別実技試験


 それから三人の魔法を使った作戦を考え、一週間みっちり練習して、私たちは特別実技試験当日を迎えた。


 一日目はブロック予選で二日目が勝ち残ったチームによる決勝になる。


 AブロックからCブロックまである中で、私たちはAブロックの予選に振り分けられていた。


 最強チームと言われる王子のチームはCブロックとのこと。


 Aブロックで最有力なのはSクラスの上位4チームと言われているらしい。


 戦いの舞台は学園にある演習用迷宮。


 元々この地にあったものを利用して作られたこの地下迷宮は全長三キロメートル。


 この一角にエリアを区切るバリアを先生が制作し、その中で戦いが行われることになる。


 時間が経過し、人数が減るごとにバリアの範囲は縮小していく。


 チームメンバー全員が戦闘不能になるとそのチームは脱落したという判定になる。


 決勝に残れるのは上位十チーム。


 身体を動かしつつ待機していると、聞こえてきたのはSクラスのクラスメイトからのひそひそ声。


「見ろよ、あのチーム」

「組んでくれる子いなかったのかな」

「予選敗退してSクラスの恥さらしにだけはならないでほしいね」

「あの戦力じゃ無理でしょ」


 同じAブロック予選に振り分けられた子たちだった。


 仲が良い二チームらしく、クラスでも一緒にいるところをよく見る印象がある。


「油断してくれてる。好都合だわ。すべては私の想定通りに進んでいる」


 口元をかくしつつ、ふふふと笑みを浮かべる。


「計画通りですね姉様」


 手作りらしい十字架のアクセサリーを揺らして言うクラリスに、ケイトが棒読みで言った。


「二人が楽しそうで何よりだよ」


 試合開始の時間が近づく。

 迷宮に入るとすぐに、私は駆け出した。


「とりあえず最初は真ん中の方に陣取りましょう」

「真ん中はそっちじゃないけど」

「わかってるわ。今のはケイトを試したの。本当はこっちでしょ」

「そっちも違う」

「…………」


 私は方向音痴であるみたいだった。


 しっかり者のケイトに道案内をお願いする。


「不安しかない……」

「私も心配になってきました……」


 二人の声には力が無かった。


 おかしい。

 ここに来てなぜか私に対する信頼度が下がっているような気がする。


(まあ、大事な勝負の前だし仕方ないか)


 不安を感じるのは自然だし、当然のこと。


(そこはリーダーでありクイーンの私がみんなを引っ張らないとね)


「見通しの悪いこの辺りにしましょう。ケイト、お願い」

「わかった」


 練習してきた通りケイトが魔法を使って戦いの準備をしてくれる。


 薄暗い迷宮の壁に耳を当てて、周囲の気配を探った。


 爆発のような震動が身体を揺らす。


 かなり威力のある魔法のようだ。


(おそらく、Sクラス……)


「今のって……」

「逃げなくてほんとに大丈夫ですか?」


 不安そうな二人に、首を振った。


「練習通りやれば勝てるから。任せて」






 ◆  ◆  ◆


 グレイグ・オースベックは学園屈指の優秀な男子生徒として知られていた。


 学園内順位は常に一桁。


 何より彼が誇りに思っていたのは、その好成績を一切の自主的な学習無く達成していることだった。


(みんな、俺より必死にやっているのに俺に勝てない)


 その状況をグレイグは楽しんでいたし、誰よりも努力をしていないのに上位に位置し続けている自分がこのクラスで一番優れた存在だと感じていた。


 本気を出せば、学園首席だって手が届く。


 ただ、本気を出していないだけだ。


 そして、心の中で努力してるのにできないクラスメイトを見下していた。


 SクラスとAクラスを行き来する昇格組はもちろん、それ以下のクラスなんて、そもそも眼中に入っていない。


『予選敗退してSクラスの恥さらしにだけはならないでほしいね』


 試合前に言ったその言葉は彼の本心だった。


 能力の低い連中によって自分のいるSクラスの価値が下がってしまうのは許せない。


 もっと上のクラスが無いから仕方なく、俺はクラス下位の連中と同じ教室にいてやっているのだ。


(近くに一チームいるな)


 空気に混じる魔力の気配。


 展開する魔法式。


 角に隠れていた三人の生徒に、グレイグの炎魔法が注がれる。


 それは下位のクラスとは次元が違う類いの魔法だった。


 準備して展開していた魔法障壁は一瞬で破砕し、二人の生徒が一撃で戦闘不能になる。


「ば、化け物……!」


 腰を抜かしながら逃げた最後の一人である女子生徒は、グレイグの火炎に包まれて動かなくなった。


 とはいえ、制服の付与魔法による耐性強化があるので一時的に戦闘不能状態になっているだけで命に支障はない。


(本当は、もっと傷だらけにできていたはずなのに)


 舌打ちしつつ先に進む。


 別のチームの気配を感じたのはそのときだった。


 勝てない相手だと判断して、逃げていくだろうと思っていたが、敵は動くことなく迷宮の中心部の一角で陣取っている。


(相手の強さも見極められない雑魚どもめ)


 顔を歪めつつ近づく。


 壁を曲がったその瞬間、魔法による攻撃がグレイグに殺到した。


(この程度ね)


 展開した魔法障壁は、三人が放つ攻撃を無力化する。


(ミーティア・リュミオールか。随分珍しい魔法を使っている)


 異様な魔力の気配と見たことのない攻撃魔法。


 先の演習でSクラス二位の成績を出した編入生。


 その実力を認めつつも、しかしグレイグはチームとしての彼らには失望を感じずにいられなかった。


 土の壁を作って守りを固めるだけのSクラス下位の女子と、攻撃魔法を放つことさえできずにピカピカ光り続けるFクラス生。


 壁と目くらましとして機能してはいるが、Sクラス上位の自分たちを止めるには力があまりにも不足している。


「一気に押し込むぞ」


 チームメイト二人と息を合わせて魔法を放つと、敵の攻撃魔法は吹き飛び、土の壁は跡形も無く消し飛んだ。


 誰が見ても明らかな力の差。


 それぞれが持つ力の総量が覆すことのできない大きな差になって二つのチームを隔てている。


 逃げようとする三人を追いつつ魔法を放つ。


 敵に効果的な攻撃手段が無い状況で、三人を追い詰めるのは簡単なことだった。


 攻撃を回避することができない見通しの良い場所へと追い詰めていく。


(ここなら、障害物もない)


 視界がひらけたその場所に誘導して、グレイグは勝利を確信する。


「終わりだ」


 確実にとどめを刺すために、グレイグが踏み込みながら魔法式を起動したそのときだった。


 地面の底が抜けるような感触。


 浮遊感。


 視界が反転する。


(――――――え?)


 何が起きているのかわからなかった。


 吹き抜ける空気が髪を撫でる。


 落ちている。


 沼のようなやわらかい土の中に叩きつけられる。


(落とし穴……!)


 気づいたときには遅かった。


 身体はやわらかい沼の中にはまっている。


 予想外の事態。


 頭の中が真っ白になる。


(すべてはここに誘い込むため。Fクラス生が光っていたのは視界からの情報を減らすのが狙い……!)


「貴方の中では、予選敗退したらSクラスの恥さらしになるんだっけ?」


 穴の上で、ミーティア・リュミオールは長い髪をひらりとたなびかせて言った。


「さようなら、Sクラスの恥さらしさん」


 瞬間、殺到した生活魔法と土魔法がグレイグたち三人を戦闘不能にした。





見つけてくれて、二章も読んでくれて本当にありがとうございます。


書籍版『華麗なる悪女』2巻が明日発売と言うことで、公式サイトさまにて書き下ろしSSが公開されています。

(https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/special/2024/kareinaruakujo02_ss.html)


好きなお話なのでよかったら楽しんでいただけるとうれしいです!

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