38 実技試験の準備
こうして結成された最下位三人のチームを、私はチーム・ヴァルプルギスと名付けた。
ただただかっこいいから、という理由で名付けたこの名前を聞いたクラリスは「いいですねお姉様……!」と怪我してないのに包帯を巻いた左手を振って言い、ケイトは「ほんと好きだよね」とあきれ顔をしていた
私は二人をSクラスのある時計塔に呼び、いつもの屋上前で作戦会議をした。
「これから、チーム・ヴァルプルギスによる学園支配計画の会議を始めるわ」
私はブランケットをマントのように翻して言った。
「了解です、悪女ミーティア様」
ブランケットをマントみたいに身体に巻いてクラリスは言った。
「なにやってんの、あんたたち」
ケイトは冷たい目で私たちを見ていた。
「予選で私たちはAブロックに入ったわ。王子殿下のチームはいないけれど、それでもSクラスに所属する有力チームも多くいる」
「なかなか厳しい戦いになりそうですね……」
「でも、だからこそ勝てば得るものも大きい。そうでしょ」
「かっこいいです姉様!」
キラキラした目のクラリスにうなずきを返す。
「そうだ。参考になるかもと思って新聞部が非公式に作っている戦力分析名鑑をもらってきた」
ケイトが取り出したのは学生新聞みたいな体裁の紙面だった。
「そんなの、あるの?」
「うちの新聞部はそういうの好きみたいなんだよね」
各生徒の順位と過去の成績から計算したチームの総合力と順位が詳しく載せられている。
私たちのチームはSクラス最下位だった。
「ぐぬぬ……許せん、目に物見せてやらなければ……」
記事を握りしめる私に、
「そうですね、許せませんね」
マントを揺らしながらクラリスがうなずく。
「私はやらないよ」
ケイトは冷めた目で見ている。
「前評判を覆すために、格上の相手を倒す作戦を考えたいと思うわ。いったいどういう作戦なら勝ち残ることができるかしら」
「とりあえず逃げ回るとかでしょうか」
「有効なのはわかるけど悪女感には欠けるわね」
今回の試験形式はチームサバイバル。
なるべく戦いを避け逃げ回るという戦略は、消耗を避ける上でも間違いなく効果的だけど、悪女的には少しかっこよさに欠けるところがある。
「でも、勝つために手段を選ばないという意味ではミーティア好みな感じもしない?」
「たしかに! その考え方ならありかもしれないわね!」
「ちょろい……」
ケイトはあきれ顔していたけれど、私は悪女らしいかっこいい戦い方を想像して気持ちよくなっていたのでそれどころではなかった。
「まずは、私たち三人が何の魔法を使えるのか認識を共有しましょう」
学園の裏庭で戦いに使えそうな魔法を試していく。
『飲み物に入れる氷を作る魔法』で一面を氷塗れにしたり、『タバコに火を付ける魔法』でたき火を大炎上させると、ケイトは驚いた顔で私を見た。
「生活魔法でそれって……」
「ん? 何かおかしいの?」
「どう考えても出力が異常だよ。下手すると通常魔法を超えるレベルに到達してる」
「いろいろと魔法式を改良してるからね。あと、最近なんか出力上がってるの。学校で本格的に勉強してるからかしら」
首をかしげる私に、ケイトははっとした顔で言った。
「今ので出力何パーセントくらい?」
「十パーセントくらいだけど」
「……下手すると上級魔法を超えてるかも」
ケイトは真剣な顔で続ける。
「ミーティアならSクラストップ層とも渡り合えると思う。問題は、私たちか」
続いて魔法を見せてくれたのはケイトだった。
得意とするのは、土属性。
壁を作ったり穴を掘ったりするのが得意だという。
「ごめんね、戦闘向きじゃなくて」
「いいえ、これは良い土だわ。水分と養分の持ちが良く、それでいて排水性と通気性も高い。とても良い野菜が作れると思う」
土をさわりながら私は言う。
確信がある。これは良い土だ。
「ありがと。この通り、私は戦闘向きじゃないからクラリスにがんばってほしいところなんだけど」
「は、はい。がんばります」
クラリスは魔法式を起動した。
得意とするのは光魔法。
見たことのない美しい魔法式が眩い光を放つ。
思わず目を閉じる。
瞼の裏が白く染まる。
光が止んで目を開けると、元通りの裏庭が広がっていた。
「えっと、どういう魔法だったの?」
ケイトがクラリスに聞く。
「光が出ます」
「それはわかったんだけど、他にも何かあるのかなって」
「いえ、光が出るだけですけど」
「他に何かできることは?」
「今のところないですかね」
「…………」
ケイトはこめかみをおさえてから言った。
「どうするの、ミーティア」
「今のは素晴らしい光だったわ。あれなら植物も気持ちよく光合成できるはず。雨が続く雨期でも大丈夫」
私は言う。
「ケイトは土でクラリスは光。そして、私は植物の生育に効果的な生活魔法を使うことができる。つまり――」
真剣な顔でうなずいてから続けた。
「私たちはすごくいい農業従事者になれると思う」
「…………」
ケイトは何言ってるんだこいつって顔で私を見ていた。
「ごめんなさい。私、これしかできないからFクラスで『ホタル』とか『懐中電灯』とか言われてて……」
深刻な顔で言うクラリス。
(あれ? 今のは私的に最大級の褒め言葉だったんだけどな)
思わぬ反応に首をかしげる。
食べるものを作る魔法の方が、戦う魔法よりずっと価値があると思うんだけど。
「大丈夫よ。ケイトの魔法制御力はたしかだし、クラリスは主人公だからそのうちどこかで覚醒してすごい魔法が使えるようになるわ。何より、大事なのは創意と工夫。うまく使えば、私たちは優勝できるだけの力を持っている」
私は髪を翻して言った。
「さあ、くだらない学園カーストをひっくり返す時間よ」






