40 あくまで意味の無い雑談のような感じで
Sクラスの上位勢三人が戦闘不能になったのを確認して、私はほっと息を吐く。
制服に施された付与魔法によってきちんと安全も確保されている様子。
安心して私も容赦なく攻撃することができる。
(今のはなかなか良い感じにかっこよく悪女できたんじゃないかしら)
外から見た自分の姿をイメージして悦に浸る私の隣で、ケイトが呆然とした声で言った。
「うそ、本当に倒しちゃった……」
信じられないという顔で声をふるわせている。
「全部ミーティアお姉様が言った通りになりました……」
その隣でクラリスも瞳を揺らしている。
(正直、ここまでうまくいくとは思ってなかったんだけど)
しかし、チャンスなのでここで思いきりかっこつけて悪女ポイントをたくさんゲットすることにする。
「すべて計算通り。世界は既に私の手の中に落ちている」
「かっこいいです、ミーティアお姉様!」
ちやほやしてくれるクラリスの前でポーズを取る。
「この調子で、他チームを撃破していきましょう」
ケイトの土魔法を利用した落とし穴作戦。
ピカピカ光るクラリスを囮にし、生活魔法で張った水の薄壁と光の屈折を利用して認識を誘導して落とし穴に誘導。
「な、なんだこれは」
「落とし穴なんて卑怯だぞ!」
上ずった声で抗議するAクラスのチーム。
「残念でした! 勝てば官軍なのよ!」
魔法を集中して撃破する。
それからも、私たちは次々と相手チームを撃破していった。
中央に陣取ったおかげで収縮するバリアが行動可能範囲を狭めても影響は少なかったし、腕に自信のあるチームが寄って来てくれるので成績は必然的に良くなっていく。
Sクラス二チーム、Aクラス三チーム、Bクラス三チームを含む十チームを撃破した私たちはAブロック予選を一位で通過。
決定的な攻撃を放った回数が一番多かったケイトが撃破数十七人で個人成績トップになった。
「わ、私が一位なんて……」
びっくりしてるケイトはかわいかった。
「ごめんなさい。一人も倒せなくて」
申し訳なさそうなクラリスの肩に手を置いて言った。
「ううん、敵が落とし穴に気づけなかったのは貴方の魔法が視界を妨害していたから。何より、主人公な貴方には秘めた力がある。覚醒したそのときがんばってくれたらいいの」
「ミーティアお姉様……!」
クラリスは瞳をふるわせて言った。
「信じてくれてありがとうございます! 私、がんばります!」
それから、クラリスは隠れて自主練習をするようになった。
ピカピカ光っているのであまり隠れられてはなかったし、攻撃魔法が使えそうな気配はまったくなかった。
でも、やる気を削いではいけないし何も言わないでおくことにする。
そのうち覚醒するだろう。主人公だし。
「まさか君たちが一位とはね」
「これは快挙だよ」
褒めてくれる先生達に頬をゆるめる。
何よりうれしかったのは、ケイトがすごく喜んでくれたこと。
「Sクラス最下位の私が予選一位だよ? 攻撃魔法苦手なのに。信じられない」
弾んだ声に幸せな気持ちになった。
教室では少し浮きがちなケイトだけど、これで周囲の見る目が変わればいいなと思う。
Bブロック予選では、私が勧誘を断った眼鏡の女子――カミラのチームが一位だった。
今大会最有力のチームと自分で言っていただけのことはあるらしく、彼女自身も予選一位の撃破数を記録。
「貴方たちは絶対に潰すから」
すれ違うときに小声でそう言われたので、
「貴方にできればいいわね」
と挑発しておいた。
交錯する視線。
「覚悟してなさい」と鼻をならして去って行くカミラの背中を見送りつつ、良い感じにかっこいい振る舞いができた、と頬をゆるめる。
(あの子といると自然に悪女な感じが出せるからいいわね)
私の中での好感度は上がっていた。
続いて、Cブロックの予選も行われた。
フェリクス王子のチームが前評判通り一位。
接敵したすべてのチームを粉砕して、私たちを超える十七チームの撃破を記録。
撃破人数でも二十人を記録して全体トップだった。
ちなみに、二位は側近のロイくんで十九人。
先生たちは一位の王子を褒めていたけれど、測ったように一人少ない結果が私の中でひっかかっていた。
(彼は王子に一位を取らせるために加減をしている可能性がある)
最も警戒すべき相手としてマークすることにする。
決勝であたるチームへの対策を考えつつ、向かったのは学園の図書館だった。
分厚い植物図鑑を借りて、いつもの屋上前で読む。
「どうして植物図鑑を読んでるの?」
予備の机に座って足をぶらぶらさせながら読んでいると、隣にケイトが座って覗き込んできた。
「迷宮に生息する毒草の植生について知りたくて」
迷宮には魔素を取り込んで育つ植物が生息している。
季節によっては毒や麻痺、催眠のような状態異常を引き起こす花粉を放つ毒草もあって、基礎的な知識といざというときのための対策が迷宮探索者にとっては必須の技能だった。
「でも、今は季節的に毒草に警戒する必要ないと思うけど」
「だからこそ勉強する価値があるのよ。毒草ってすごく悪女っぽくて私的にポイント高いし」
「明日決勝なのによく関係ない本読めるよね。みんな必死で知識の点検とかしてるのに」
「他の人と違う視点に立つのが良い悪女になるためには大切なことなの」
「良い悪女って概念的に矛盾してない?」
「してないわ。強くて気高くてかっこいいのが良い悪女なの」
「ふーん。そういうものか」
ケイトは興味ないらしく、持ち込んだ魔導書を開いて読み始める。
土魔法の項目を読んでいるのは、明日の決勝に向けて知識の再確認をしているのだろう。
階段の下では、クラリスがピカピカ光りながら魔法の練習をしている。
「私、小さい頃は神童って言われてたんだ」
不意にこぼすみたいにケイトが言った。
「でも、この学校に入ったらもっとすごい人がたくさんいて。その上、お父さんがやらかしてみんなから浮いちゃって。負けちゃダメだって平気なフリしてたけど結構きつくてさ。学校辞めようと思ってたんだ」
ケイトは本に視線を落としたまま続ける。
私もそのまま本を読んでいるフリをしていたけれど、内容は全然頭に入ってきていなかった。
ちゃんと聞かないといけないような気がしていていた。
それも、聞いていないようなフリをして、あくまで何の意味も無い雑談のような感じで。
「だから、ミーティアが話しかけてきたときやめて欲しいって思ってたの。私と友達になったら仲間はずれにされるかもしれないし、私も転校していなくなっちゃうからって」
ケイトは言う。
「だけど、今は学校がちょっと楽しい。ミーティアといると嫌なこと忘れられるんだ。他の子と違って裏表がないからかな。みんなの視線が怖かったけど、ミーティアの視線は怖くない」
夕暮れの日射しが私たちの足下に四角い光の箱のような模様を作っている。
「明日、もし今日みたいに活躍することができたら。この学校でもやっていけそうって思えたら、お母さんに転校しないって伝えようと思う。いろいろと手続きも進んでるから迷惑かけちゃうかもしれないけど。でも、勇気を出してみようと思うんだ」
「うん」
私はうなずいた。
それ以外に何を言えばいいのかわからなかったし、何を言ってもうまく伝えられない気がした。
言葉では伝えられない。
だから行動と結果で示す。
ケイトが胸を張って学校にいられるようにする。
「優勝しよう」
私は言った。
ケイトは一瞬顔を上げて私を見てから、
「うん」
と小さく言ってうなずいた。
見つけてくれて、二章も読んでくれて本当にありがとうございます。
お話の途中ですが少し告知を。
書籍版『華麗なる悪女』2巻が7月5日本日発売しました!
細かいディテールなど書き込んだり調整して、web版よりも質の高い小説になっています。
さらに、書き下ろし番外編を二本追加しています。
『鍵開けの技術』
領民出身のエージェントから見るシエルとヴィンセント、そしてミーティアのお話。
実は当時ぼんやり思ってたことを書いた小説になっていたりします。
地道にがんばるのって大変だけど、だからこそがんばっている人は素敵だなって。
『実験室で光を送る』
午後の実験室での授業中、手鏡で光を送りあう話。
手鏡で好きな人に光を送ってバレて恥ずかしかったという思い出話をネットで見かけて、何それ尊いと思わず書いていたお話です。
懐かしい匂いがして書いていてすごく楽しかったなって。
葉月の好きを目一杯込めて書きました。
特に本編ラストは今まで書いた中でもトップクラスに良いものになってるのでは、と自分的には大好き。
よかったら、楽しんでいただけるとうれしいです!






