《51》魔族の出産
「そういえば赤ちゃん、いつ産まれるんですか?」
まだブツブツとデルタについて言っているカロンに、なんとか話題を変えようと思いたずねると、カロンの顔は一気に明るく嬉しそうに変わりる。
「そうね、どうしようかしら。本当はデルタが戻る前に産もうと思ってたんだけど、帰って来ちゃってるし、私のお腹が大きくなるスピードから考えて、ダクトと私だけだと大変そうだから、ちょうど良く居るガルシュダッドにも手伝わせるのも手なのよね。」
「え?男性が手伝うんですか??」
昔、屋敷の書庫で人族の事が詳しく書かれている本を読んだ事がある。そこに出ていた出産についての項目・・・そこに書かれた細やかな挿絵を見たヴィオレットは母の偉大さを知り、そっと本を閉じた。
そして、閉じる直前に見た挿絵の下には『出産は生死を賭けた戦い。男共よ、その場で何が起きようと、子が無事に生まれたならば、全ての事に目をつぶり、忘れろ。それが出来ぬ男は無理せず、その場を離れよ。生死を賭けた戦いの最中に、戦い以外の事を気にかける余裕などいない。』と書かれていた。
それに、物語の中の出産場面は大抵、男性が部屋の外でソワソワとしながら待ち、産声と共に部屋の中へと駆け込んでいた。
だからてっきり、男性が立ち会う事はあっても、手伝いは同性である女性なのだろうとヴィオレットは思っていた。けれどカロンは、何故かキョトンとした顔をしている。
「え?それは勿論。私一人では無理だもの。」
「それは、そうなんでしょうけど、普通女性が手伝うものなのでは?」
「女性?手伝いに性別って関係・・・あぁ、そう言えばそうだったわね。ヴィオレットちゃんは、魔族の常識をあまり知らないんだったわね。」
そう言うと、カロンは魔族の出産について説明を始めた。
「魔族の出産は何と言うか・・・人族や獣族と違って、女性が痛みに耐えるとか、血がドバァとか、ヒッヒッフゥーとかしないのよ。大量の魔素で赤ちゃんを包んで、お腹からポワァって赤ちゃんを取り出すのよ。」
説明はしてくれたが、意味は分からなかった。
「ポワァ・・・ですか?」
「そう、ポワァなのよ。魔族って、基本的に痛いのも苦しいのも嫌いで、自分達がやりたい事をやりたい様にやる自分勝手な者達なの。だから、出産っていう痛くて苦しい事はやりたくない。だけど、赤ちゃんは欲しい。そこで魔族の出産は、大量の魔素で赤ちゃんを包んで、ポワァって取り出すのよ。偶に、長い魔族生の中で、何度も経験出来る事ではないからと、獣族や人族の様に産む魔族もいるけれど、殆どの魔族は、ポワァって出産ね。ポワァって出産すれば、成長が未熟でも大量の魔素に包まれているから、その魔素を使って赤ちゃんは、ある程度は成長出来るの。だから安全も考えて殆どの魔族はポワァ出産ね。だから、手伝いは魔族の強い者なら誰でも良いのよ。それこそ、そこら辺を散歩している魔族でもね。」
ポワァがどんな感じなのか、いまいち分からないが、他の者に見られても問題無い事だけは分かった。
「だからヴィオレットちゃんは、暫く泊まっていってね。」
「はい?」
「ガルシュダッドは絶対に、ヴィオレットちゃんを置いて帰ったりしないもの。だから、ヴィオレットちゃんは魔質ね!」
「あのぉ、ガルシュダッド様にもお仕事がありますし、私の為にわざわざ残ったりしないと思うのですが。」
苦笑いを浮かべながら言うヴィオレットに対して、カロンは絶妙に『この子、何言っているかしら』と読み取れる表情をしている。
「残るわよ。しかも、ヴィオレットちゃんの将来の為に、出産を見せてあげたいって言ったら、きっとタダで手伝って、出産祝いと称してベビーグッツを大量に持って来た挙句、どれが一番使い心地が良かったかを後でレポートにして提出してほしいって言うわよ。」
「それは、流石に・・・」
「するわよ。魔族はね、本来他の魔族に興味が無いの。恋愛もするし家族愛もあるけれど、それ以外は殆ど利害関係よ、だから他にもっと良い条件があれば、仲良くしていた相手を裏切るし騙すわ、まあ裏切られたり騙された方も、もっと良い条件があったらそっちに行くから、お互い恨む様な事は無いんだけどね。だけど、結婚は違うのよ。互いの魂を縛り離れない様にする。それは、もっと良い条件があってもそちらを選べないという事よ、それは相当大切な相手で、他を選ぶ気が無いという事の証明なのよ。」
「でも・・・私とガルシュダッド様の結婚は、私がうっかり・・・」
「知ってるわ。デルタとダクトが色々と話してくれるから。でもね、婚約を申し込んだのはガルシュダットで、通常の婚約の儀が出来ないからって、わざわざ結婚の儀をしてまで婚約しようとしたのもガルシュダッドでしょう。」
「それは、私に魔素を分ける為の対価で・・・」
「対価で自分まで縛る必要なんて無いでしょう。それに、手元に置いておきたいだけなら所有物と主張するだけで充分だもの。一応魔王だし、命令を聞いたり敬ったりする気の無い魔族達だって、魔王の所有物に手を出したら、面倒な事になるのが分かっているもの。いくらヴィオレットちゃんが珍しくても、それだけでは婚約なんて言い出さないと思うわ。」
そう言って、楽しそうに笑うカロンの目は、何か特別な娯楽を見つけたかの様に輝いていた。




