《52》分からない
「で?で?で?」
何故か目をキラキラと輝かせながら、前のめりで『で?』を繰り返すカロン。
カロンが何を言いたいのか分からず、キョトンとしているヴィオレット。
「で?とは??」
「で、ヴィオレットちゃんはどうなの??」
「どう、とは??」
「そんなの決まってるじゃない、ガルシュダッドの事どう思っているの?」
期待のこもった眼差しに、ヴィオレットは首を傾げた。
「えっと・・・・・命の恩人です。」
「そうではなくて。」
「・・・魔王様です。」
「うん、それは職業ね。」
「黒くて大きいです。」
「それは、見た目ね。」
「見た目は色気ダダ漏れですが、中身は残念だとミルビーさんが言ってました。」
「うわぁ、すっごい分かりやすい・・・・・とういうか、そうではなくてね、ヴィオレットちゃんの気持ちよ、気持ち。好きぃぃとか、大好きぃぃぃとか、愛してるぅぅぅぅとか。」
「好き?・・・・大好き?・・・愛ししてる???」
「えーっと、ガルシュダッドの姿を見ていると心が温かくなるとか、会えないと寂しいとか、側に居るとドキドキするとかないの?」
そう言われ、ヴィオレットは考える。
・・・・すっごい考える。
・・・すっごいすっごい考える。
「・・え?・・・無いの??何も無いの??ドキドキとか、ウズウズとか、ポカポカとか。」
更に考えて、ようやくヴィオレットの口から出てきた言葉は
「・・・分からないです。」
だった。
人族の物語に出てきた恋する者達は、理由なんて無くても相手を求めいた。それは時に一目惚れだったり、時にゆっくりと育むものだったり。けれど、それらの感情に明確な理由が綴られている事は無かった。気になる、惹かれる、魂が求める。そんな曖昧な文字達で綴られた感情達。
何処かの本の中で『愛する事に理由など無い。』『愛は理屈ではない。』などと書かれていた。
けれど、ヴィオレットが感じている感情には理由がある。
姿を見れば、ドキドキして触れたくて、触れてしまえば離れたくないと思ってしまう。けれど、それは身体が魔素を求めるているからで、離れていると寂しいと思ってしまうのは、結婚のせいで互いの身体が出会おうとしているから。
そんな説明出来てしまう感情が、愛や恋のはずが無いと思う。
思うけれど、何故かヴィオレットは完全に否定する事は出来なかった。
「そう、分からないのね・・・・ふふふ。」
何故か嬉しそうにしてるカロンに、ヴィオレットが落ち着かない気持ちになり視線をそらした。
その時、突然家の扉がけたたましい音をたてて開いた。
「カロン!!大丈夫か???」
音と共に、声の主の背後へと飛んでいく扉。
「ダクト!!」
嬉しそうに駆け寄るカロン。
そんなカロンを、危なげなく抱き止める男。
その顔には深い皺がいくつも刻まれており、手はゴツゴツとしていて、腰は少し曲がっている。
その姿を、ヴィオレットのよく知っていた。
「ダクトさん?」
「おぉ、ヴィオレット様戻られたか。お帰りなさいじゃ。」
カロンを抱きとめたまま、優しげな笑顔を浮かべているダクトに、ヴィオレットはようやく『魔族は見た目と年齢が比例しない。』と言われた事を思い出した。
「・・・たっ、ただいま・・・です。」
見た目は美女と老魔の抱擁。けれどそれが夫婦の抱擁だと思うと、何故か見いるのが気恥ずかしく感じてしまい、ヴィオレットはそっと視線をそらした。
「ほれほれカロン。ヴィオレット様がワシらの熱に当てられて、真っ赤になってしまっておるぞ。」
「あらやだわぁ。今日は奇襲にあって、気が動転していたからつい。」
「もう大丈夫じゃ、ワシが付いておるからのぉ。」
「頼りにしているわ。お・と・う・さ・ん。」
「頼りにしておくれ。お・か・あ・さ・ん。」
そう言って、ダクトとカロンは微笑み合いながら・・・・チュッ
ヴィオレットは見ていない。見ていないが、耳はしっかりとその音を聞き取っており、一気に顔が真っ赤に染まる。
そんなヴィオレットを微笑ましそうに眺めながら、カロンとダクトは、ヴィオレットの向かい側の椅子へと腰をおろした。
勿論片手を握り合いながら。
「で、ヴィオレット様、獣界に行っていたはずじゃったのに、何故にワシらの家におられるのじゃ?それに外のデルタ・・・は良いとして、ガルシュダッド様はどうしたんじゃ。」
デルタの事は良いらしい・・・
「それが、獣界の水瓶に大穴を開ける儀式に出て、すごく大きな音を聞いたかと思うと、ここに居て、足元にガルシュダッド様が倒れてたんです。」
「ふむ、獣界の水瓶に大穴を開けるのは、相当な魔素を消費するからのぉ。しかも獣界の水瓶からここまで来るのに、中立地を経由するからのぉ、二回は転移魔法を使う。それは、魔王も流石に魔力切れになるじゃろうて。2・3時間もあれば回復するはずじゃ。それならば、待っている間退屈せんようにワシがヴィオレット様に昔話をしてやろう。」
「ダクトさん昔話って・・・」
完全に子供扱いをされ、顔を引き攣らせるヴィオレットを無視して、ダクトは話しはじめた。
「それはのう、今から50年ほど前の話しじゃ。ある丘の上に突如金色の艶やかな髪に、紫色をした美しい瞳をした、それはそれは美しい娘さんが現れたのじゃ・・・・」
20年生きているとはいえ、まだ成魔族にもなっていない子供である事は間違いない。
けれど、物語を聞かされて喜ぶ歳でも無い・・・・
そう思っていたヴィオレットの耳に、カロンの軽やかな声が響いた。
「やだわぁ、美しいだなんて。」
「いやぁ、あの時のカロンは本当に美しかった。」
「貴方もとても素敵だったわ。」
どうやら、物語の昔話ではなく、本当にあった出来事の昔話を聞かされるらしい・・・
しかも、カロンとダクトの出会いの物語を・・・
数分後、ヴィオレットは目の前で繰り広げられる、昔話と言う名の惚気の洪水に溺れてながら、早く家の扉をガルシュダッドが開き、ヴィオレットを助け出してくれるのを切に願っていた。
ごめんなさい。
仕事が忙しくなったのと、話が纏まらず思い付くまま書いていたら、更に話が纏まらなくなったので、またしばらく更新止まります。
本当にごめんなさい。




