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魔王の白は、魔族の常識を知らない  作者: のんびり歩く
魔界

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《50》女性の正体



丸太を組んで出来た小さなお家。

玄関扉を開けて目に入るのは、小さなキッチンと四人掛けのダイニングテーブル。そしてその横には、まだ主の居ないベビーベッド。

こじんまりとしているけれど、暖かく心地の良い小さな家。


「さあさあ、ヴィオレットちゃんココに座ってね。」


「はっ、はい。」


先程まで獣界に居たはずが、突然草原の小さな一軒家の前に居て、ガルシュダッドが地面に転がっていて、デルタも地面に転がって、知らない女性の家に招き入れられて・・・・

ヴィオレットは、女性に促されるまま席に着いたものの、いまだに何が起きているのか分からず。頭の中はかなり混乱していた。


「はい、ヴィオレットちゃんにはホットミルクね。どうぞ。」


そう言って、女性はヴィオレットの目の前に、湯気の出ているカップを置いてくれる。

そのカップに口を付ければ、ふわりとした温かさと、甘味に気持ちがゆっくりと解けていく。


「あの・・ここは魔界なんですよね?」


「そうよ、ここは魔界で魔王城の側なのよ。だから誰も住んでいない静かな場所なのよ。」


人族の世界では、城の側といえば人々が挙って住みたがる場所のはずだが、魔界では逆なのかもしれない。


「えっと・・・あの、今更なのですが、お名前をお伺いしてもいいですか?」


「え?ああぁ、ごめんなさい。まだ自己紹介していなかったわね、私はカロンよ、よろしくね。ダクトの妻と言った方が良いかしら。」


ダクトと言う名前に聞き覚えはあった。

魔王城で働いている()()の名前だ。深い皺がいくつも刻まれた肌に、ゴツゴツとした手、少し曲がった腰をした老魔が同じダクトという名前だったけれど、どう見ても歳が離れているどころではない。

だからきっと、ヴィオレットが知っているダクトとは別人なのだろう。


「・・・・よろしくお願いします、カロンさん。」


曖昧な返事を返すヴィオレットに、カロンはニッコリと笑うと。


「そうそう、レインさんのお土産届けてくれてありがとうね。お城のみんなの分は入り口に置いておくから、帰る時に忘れないようにね。」


いつの間に真っ黒な袋から取り出したのか、テーブルの上には小さな箱と、手紙・・・


「あのぉ・・・その手紙は、レインさんからデルタさんの番いさんにって渡された物なんですけど・・・」


「知っているわ。だから受け取ったのよ?」


カロンは、何でそんな事を聞かれているのか分からないと首を傾げている。一方でヴィオレットは、何故レインさんがデルタさんの番さんに渡してほしいと言った手紙を、カロンが堂々と受け取っているのか分からない。


「もしかしてカロンさんは、デルタさんの番いなのですか?」


夫婦のあり方は、夫婦の数だけあると、何かの本に書いてあった事を思い出して言ってみたが、その瞬間カロンの顔から血の気が引いていき


「ヒイイィィイィィィ。」


と小さな悲鳴まで漏れてきた。


「違うんですか?」


「違う違う違う違うちがぅう!!!番は私じゃなくて、この子よ。」


「この子?」


「そう、この子」


カロンは大きなお腹を軽くポンポンと叩き、まるでお腹の中の子供がそうだと言っている様に見える。

ヴィオレットは、デルタが獣王の前で言った言葉を思い出していた。


『私の番いは、可愛くて美しいのです。』


その言葉に獣王はたしか


『どこを見て言っておるのだ。』


と言っていた。


「えっと・・・まさかとは思うのですが・・・」


顔を引き攣らせているヴィオレットに、カロンはひどく真面目な顔をする。


「そのまさかよ。アイツ、私の産まれてもいない子を番だと言ったのよ。私すら自分が妊娠した事に気付いていない時期によ。しかも。妊娠に気付いていなかった私が『私には婚約者が居るから無理です。』って言ったら『何を言っているんですか()()、愛しい私の番は貴女の中に居る美しい女性の事ですよ。()()には、これっぽっちも興味はありません。』って言ったのよ。妊娠に気付いてなかったんだもの、私に言ったんだと思うじゃない!」


どうやら、カロンはデルタに対して、色々と溜まっていたらしい。

思いの丈を吐き出す様に、早口で、圧力を感じる声で、話続けている。


「しかも、その後も私が何処かに行く度に『私の番を何処に連れて行く気ですか。』って言って付いて来るのよ。魔族の妊娠なんて滅多に無いから、普通はパートナーとイチャイチャイチャイチャイチャイチャしながら、我が子が生まれるのを楽しみにするっていうのに、アイツ何時も居るのよ。側に居るのよ。私達を見ていない事は分かっているけど怖いのよ。じーっと私のお腹を見ていて怖いのよ。」


肩で息をしながら言い切るカロンに、ヴィオレットは首を傾げる。


「あのデルタさんがですか?」


ヴィオレットの知るデルタは、落ち着きがあり、穏やかで、丁寧で、偶に辛辣な言葉をガルシュダッドに投げつける獣族。決して、カロンの言う様な変態じみた獣族ではない。


「あのデルタよ。今外に転がっているデルタの事よ。」


カロンの言葉に嘘があるとも思えず、かといって本当にデルタがカロンの言っている様な獣族だとも思えず、ヴィオレットは曖昧な表情を浮かべるしかなかった。





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