《49》あっちも、こっちも
ドサッ
鈍い音と共に、ヴィオレットの頬から高速で動く頬が、離れていく。
ゴン
という音と共に目の前の丸太小屋の中が、静かになっている。
バン
という音と共に女性が叫びながら、丸太小屋の中から飛び出して来る。
「デルタがあああぁぁぁ・・・・・・・・・・・あ???」
金色の艶やかな髪に、紫色の瞳、透き通る様に白い肌をした美しい女性。
ただそのお腹は、張り裂けんばかりに膨らんでいる。
その美しい女性は、まずヴィオレットを見た。
「白!!!」
そして、その足元を見た。
「ごみ???」
そう言われてヴィオレットは、レインに持たされた大きな袋の事を思い出した。
黒い色をした大きな袋。確かにゴミと勘違いされても仕方がないかもしれない。けれど、それを初対面の相手に言われ、少し不機嫌な声が出てしまう。
「ゴミじゃありません。お土産です。」
「え?お土産??コレが??」
「はい、レインさんが皆んなにって、持たせてくれた大切なお土産です。」
「レインって、デルタのお母さんの?」
「はい、そうです!!」
「お土産に持たせたの???コレを??」
「はい。」
女性の視線がもう一度ゆっくりと、ヴィオレットの足下へと向く。
「いらない。」
初対面の女性の、容赦のない言葉にヴィオレットは唖然としてしまう。
「えっ。」
「いくら レインさんのお土産でも、ソレは誰も要らないと思うわよ。」
レインから袋は受け取ったが、中身が何なのか知らない。
けれど、目の前の女性が中身を見る前に要らないと言うと言う事は、もしかしたら獣族のお土産は、魔族には到底受け入れられない物なのかもしれない。
せっかく貰ったのに、どうすればいいのか分からず、ヴィオレットは小さな声を漏らす。
「そんなぁ・・・・」
「だって、魔王もらってもねぇ。」
そう言われ、ヴィオレットはようやく足元をじっくりと眺めた。
足元には、ヴィオレットが掴んでいる、黒い大きな袋がある。
そしてもう一つ、黒い大きな塊がある。
どうやらヴィオレットは、掴んでいた袋と、足元に転がっているガルシュダッドを見間違えたようだ。
「ガルシュダッド様あああぁぁぁ」
慌てて膝をつき、ガルシュダッドを抱き起こそうとするが、ヴィオレットの小さな身体ではビクともしない。
「どうしたんですか???ガルシュダッド様に何が??」
慌てているヴィオレットとは対照的に、女性はまるで世間話をする様にのんびりとしている。
「あぁ、単なる魔力の枯渇だから心配する必要は無いわよ。魔王だから2・3時間放っておけば、勝手に魔力が回復して動ける様になるわよ。」
「そんな・・・」
「さあ、ガルシュダッドが起きるまで暇だし、中でお茶でもしましょ。」
「え?」
「私は妊婦だし、ヴィオレットちゃんまだ小さいし、私達にこの巨体を動かすのは無理だもの。大丈夫空は晴れてるから。」
晴れていても、地面に転がしたままでいいはずがない。
「でも・・・」
「大丈夫、ガルシュダッドは一人じゃ無いから。」
そう言うと同時に家の中から金色の何かが飛び出して来て、ガルシュダッドの横に転がった。
それは、金色のフカフカとした耳と尾を持った・・・・
「デルタさあああぁぁぁん。」
「大丈夫、あっちも気を失っているだけだから。2・3時間で意識が戻るはずよ。」
「何やったんですか??」
驚き混乱するヴィオレットに、女性は真剣な顔をする。
「ヴィオレットちゃん。部屋で寛いでいる時に敵が攻め込んで来たらどうする?」
「え??敵ですか??」
「そう、普通逃げるか撃退するわよね?」
「それは・・・まあ、そうですね。」
ヴィオレットの返事に、女性は満足そうに笑うと
「つまりは、そういう事よ。」
どういう事なのだろう、デルタが彼女にとっての敵だと言う事だろうか?
しかし、敵なら気を失っているからと言って、自分の家の側に転がしておいて大丈夫なのだろうか??
それに・・・
「どういう事なのか、分かりませんが。あの・・・デルタさんを運べたのなら・・・その・・ガルシュダッド様を運べるのでは?」
「・・・・」
女性は一瞬固まり、チラリとガルシュダッドとデルタを見ると、ニッコリと笑い何事も無かったかの様に。
「さあさあ、中でお茶でもしましょ。もうすぐ夫も帰ってくるから。」
「え??でも・・・二人をこのままにしておくのは・・・」
オロオロとしているヴィオレットに、女性は苦笑いを浮かべながら小さく溜息を吐き出すと、右手をクルクルと動かした。
すると、何処からともなく、葉の付いた大きな枝がいくつも飛んできて、地面に転がっているデルタとガルシュダッドの周辺の地面にブスブスと鈍い音を立てながら、突き刺さっていく。
そうしてそこには、不自然な茂みが出来上がった。
草原の中にポツンと出来た、小さな木の茂み・・・・ガルシュダッドとデルタの姿が見えなくはなったけれど、どう見ても不自然だ。
「これで大丈夫。獣は、この木の葉っぱの匂いを嫌うから、食べられたりはしないわ。さっお茶にしましょ。」
そう言って女性は、唖然としているヴィオレットの手を握り、小さな家の中へと入って行った。




