《45》 孤独と絶望《ガルシュダッド》
何が起きたのか、分からない。
腕に感じる冷たい感触と共に、カシャンという金属音が響いたかと思うと、急に身体がズンと重たくなったのだ。
「デルタ・・・これは何だ?」
腕を見れば、派手で悪趣味な金色の腕輪がはめられている。
「腕輪です。」
「それは、見れば分かる。」
「封じの腕輪です。」
「ん?」
封じ?いったい何を封じると言うのだろうか?
あれか?人族の物語の中で度々出てくる、魔王封印というヤツか?俺は、封印されるのか?
「獣族は、自身の身体を変化させる事は出来ても、魔素を使い自然をを操る事は出来ません。それは、体内で魔素を作れないからです。」
何故、突然そんな話を始めたのか、分からない。
わざわざ説明される必要が無い。
「知っている。」
「魔族は、体内で作り出した魔素を元に、空気中から抽出した魔素を混ぜ、それを体外へと放出する事で、巨大な魔法を発動させています。それは、水の中に手を突っ込んでかき混ぜる行為に似ています。例えるなら、自分の手を体内で作った魔素として、水にの中に手を入れるという行為が、体内の魔素と空気中から抽出した魔素を混ぜるという事。そして水がこの世界大気で、手で動かして出来る波が、魔法が発動された状態といったところでしょう。」
「何故今そんな初歩的な事を説明する。それよりコレは何なんだ。」
話の先が見えず苛立つが、デルタはこの遠回しな言い方を止める気は無いらしい。
「幼い獣族の中には稀に、身体を変化させられない者がいるのです。しかも、そういう者に限って、何故か魔素を抽出するのが上手く、空気中からどんどんと体内に溜めていってしまうのです。」
その話も知ってる。知ってはいるが・・
「・・・すごく嫌な予感がするのだが・・。」
「そんな時に使われるのが、その腕輪です。つまり、空気中の魔素を抽出出来なくする腕輪です。」
これは・・・
「外せるんだよな?」
「自分で外すのは無理ですよ。幼い頃に、腕輪を付ける事を嫌がり、勝手に外してしまう私の為に、特注で作ってもらった物ですからね。これで、ガルシュダット様は、晴れて役立たずという事ですね。」
「まっ、まあ俺ほどの者ならば、自分の魔素だけで・・・」
理屈としては知っていたが、産まれてから一度もその事を意識した事は無い。
だからこそ実感が湧かず、確かめる様に右手に魔素を集中させ、魔法を発動しようとしたのだが・・・
何も起きなかった・・・
先程のデルタが話した水の例え話で言うのなら、自分の腕がいくら大きくても、それをいくら高速で回したとしても、水に触れられなければ何の意味も無い。単に腕を回しているだけで、水に対して何の影響も出せないという事。
そして、魔法の使えない俺は・・・
「ヤク・・・役立たず・・・。」
「という事で、ここから歩いて戻って下さい。」
・・・・・
「は?」
「2・3日会えなくても、平気なんですよね?」
「えっ・・・それは・・・。」
「安心して下さい、ヴィオレット様は私と獣王で預かりますから。」
「だっ・・だが、ヴィオレットは、俺が居ないと。」
「その辺も大丈夫ですよ。獣族は魔族とは違い、魔力が枯渇しても、多少筋力が落ち、見た目が人族に近くなるだけですし、ヴィオレット様も成長が止まるだけですから、数日であれば問題ないとミルビーさんが言っていましたから、魔王様が戻られるまでの短い時間なら問題無いでしょう。ちなみに、そこの爬虫類は、ここの土地に残り後片付けをするので、ガルシュダッド様を運ぶ事は出来ませんからね。」
「ちょっと待て、ここから歩いて戻れと言うのか?」
ここから歩く?
今まで殆ど歩いた事の無い俺が?筋力は、ある程度ならあると思う。しかし、何をするにも魔法を使っていた俺に、長時間歩くという動作は未知の行動だ。
「はい。では、ヴィオレット様。行きましょうか。」
「あの、でも・・・」
戸惑いながら、俺とデルタを交互に見ているヴィオレット。
俺と離れる事が不安なのだろう。やはり、俺と一緒が良いに決まっている。
「ヴィオレット様、これは、ガルシュダッド様への罰なのですよ。他の者達の家を勝手に燃やしたのだから、罰は必要でしょう?」
待て、ちょっと待て。
その言い方では、私怨など微塵も含まれていない様に聞こえるが、どうせデルタの事だ、実際の割合は、私怨9、面白そうだからが0.7.大型獣人の縄張りを荒らした事が0.3だろうう。
「で、でも・・・。」
俺と離れる事を躊躇うヴィオレット・・・可愛い。
俺も、ヴィオレットと離れたく無い。情けないかもしれないが、ここでヴィオレットがどうしても、俺と離れたくないと言えば、状況が変わる気がする。だからヴィオレット頑張ってくれ。
情けなくも、そんな事を願っていたのだが・・・・その願いは、デルタの一言で粉々に粉砕された。
「私もワイバーンになれるんですよ。」
「え?」
「しかも、ヴィオレット様の為に、人族がワイバーンに乗る時に使う鞍を用意しましたので、安心して乗っていただけるかと。」
・・・あ、終わった。
ヴィオレットの目がキラキラと輝きだしている。
「本当ですか?私、乗っても良いんですか??」
さっきモドゴロムの背に乗って、酷い目に遭ったばかりだろう。何故そんなに期待に満ちた表情をしている。
「勿論です。その為に用意したのですから。それと私の母がヴィオレット様に会いたいと言っておりますので、良かったら会ってやって下さい。」
「デルタさんのお母様ですか?」
「はい。殆どの時間、金色の獅子の姿をしてるのですが性格は温厚ですし、本物の獣ではないので・・・。」
ああ、デルタの母親・・・レインの事だよな。獣王の嫁だし、レインの事だと思うが・・性格が温厚??喧嘩っ早く、直ぐに噛み付く女性だったと思ったが、あれが温厚なのか??
「いや、温厚では・・・。」
無いと思うが。
と続けたかったのだが、その言葉は、ヴィオレットのはしゃいだ声にかき消された。
「触っても!触っても良いですか?」
「良いと思いますよ。母は父と私以外の男性は大っ嫌いですが、可愛らしい女性は大好きですから。とても喜ぶと思います。」
「行きます!!早く行きましょう!!」
その言葉に応える様に、デルタの身体が一瞬でワイバーンの姿へと変わる。
モドゴロムの時とは全く違い、呻く事も無いが、これはデルタだからだろう。他の獣人が身体を変化させる時は、だいたい呻いていからな。
などと思っているうちに、ヴィオレットは小さな身体で、デルタの背によじ登ると、キラキラと輝く笑顔を向け
「では、ガルシュダッド様。先に行ってますね!」
と言い、手を振っている。
「え?ちょっと待てヴィオレット??ヴィオレット!!!!!!」
俺の声は、デルタの凄まじい羽音に掻き消され、一瞬で高く舞い上がったデルタとヴィオレットの姿は、既に元の姿よりも小さくなっていく。
「ヴィオレットぉぉぉ・・・」
情けない声を漏らす俺の背後で、モドゴロムが、せっせと穴の空いた大地を平らに直していた。
・・・寂しい。




